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2015/10/29

イベントレポート

LIFE IS CREATIVE展 クロエ・マイネック アーティストトークレポート(KIITOアーティスト・イン・レジデンス)

2015年10月22日(木)

LIFE IS CREATIVE展に合わせてKIITOアーティスト・イン・レジデンス作家として招聘したデザイナー・インベンター、クロエ・マイネックさんのアーティストトークを開催しました。

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クロエ・マイネックさんは、「Music Memory Box」(以下MMB)という認知症の方とその家族向けのプロダクトを開発しており、英国でも高い評価を受けているデザイナー・インベンターです。今回は、LIFE IS CREATIVE展の会期中約1ヶ月、神戸に滞在し、神戸版MMB制作のためのリサーチを行いました。神戸の人たちとコミュニケーションを取りながら、双方の経験と今後の発展に活かそうという試みです。

アーティスト・トークでは、前半は、どうしてMMBを作るに至ったか、どのようにブラッシュアップしてきたか、神戸での滞在制作の内容、所感などスライドショーを使いながら話しました。

クロエさんは、英国南西の都市・ブリストルのメディアアーツセンター・WATERSHED内にあるPervasive Media Studioを拠点に活動しています。Pervasive Media Studioはアーティスト、研究者、振付家、リサーチャーなどさまざまな専門を持ったクリエイターが協力し合って新しいものを作っているスタジオです。

認知症の方向けのプロダクト開発に取り組むきっかけとして大きいのは、2012年ごろに、高齢化がこれからの英国の社会課題の中で最も大きなものとなるだろうという報道を目にしたことと、自身の祖母が認知症になったこと。祖母はピアノが得意で、親族を思い出せないくらいになっても、音楽は50曲ほども覚えていたり、口ずさんだりしていたことから、音楽の力を認識するようになったそう。

MMBは、基本的には特定の個人のために作られます。靴箱程度の大きさの箱に、フタの内側に、本人の思い出の写真がいくつか挟むところがあります。
箱の中には、小さなオブジェがいくつか入っておりICチップがついています。箱の真ん中のセンサーにかざすと、オブジェと関連がある音楽が流れだします。好きな音楽がかかると、不安な気持ちがなごんだり、写真と合わせてみると、音楽と関連のある写真を指差したり、音楽が人の感情や記憶にダイレクトに働きかけていることが実感されます。オブジェは鳥、猫、オペラハウス、刺繍糸などさまざま。どんなオブジェや音楽をおさめるかは、本人や家族への丁寧なインタビューを通して、本人が憶えておきたい思い出や、家族に関する記憶と結びつくようなものを選びます。オブジェは思い出の品そのものではなく、レプリカやミニチュアをクロエさんが作っておさめます。オブジェを手に取った感覚も思い出の引き金になるので、素材の違いも重要です。
2012年以降、個人向けや施設向け、レジデンスプログラムの中でなど、さまざまなシチュエーションで制作されてきました。

今回の滞在では、デイセンター、グループホーム、特別養護老人介護施設、個人宅、など、さまざまな介護状況にある方の話を聞き、リサーチを行い、MMBが日本でも役に立つのかどうかの検証を試みました。
リサーチでは、懐かしい音楽を聴いてもらったり、好きな音楽やそれにまつわる思い出を聞いたりしました。また、展覧会の会場内でも、思い出の音楽とエピソードのリサーチシートを設置し、来場者に書いてもらえるようにしました。
印象的だったのは、大工仕事が得意だった90代の男性が、自身が認知症になる前に、テレビで見て知った、ぼけ防止のためのボードゲームのようなものを、ネジと木の板で「ボケボーシ」と名前をつけて自作し、周囲の仲間にもプレゼントしていた、というエピソード。実物を出して、その思い出を話してくれるご家族も楽しそうに話してくださり、家族がとても協力的で助けあっていることが感じられたとのこと。

須磨在宅福祉センター(須磨区) グループホーム「希望の家」(兵庫区)

また、北名古屋の「昭和日常博物館」では、昭和30年代のまち並みを再現し、所蔵品を利用した回想法のワークショップを積極的に行っているということで、視察に行きました。対象は認知症の方に限らないようですが、竹トンボやお手玉で、60~80代の方がすごくいきいきと楽しそうにされていたとのこと。

MMBはまだプロトタイプの段階ですが、帰国後、製品化へ向けて具体的に工場とのやりとりなどを進める予定とのことです。

後半は、実際にMMBをデモンストレーションしてみせた後、来場者との質疑応答を行いました。といっても、質問者のなかには、親が認知症である、介護の現場で働いている、という方もおられ、MMBの利用の可能性について具体的な質問、感想や提案が出て、つっこんだ意見交換のような状況になりました。

介護職の方からは、ケアホームなどに入所されるとどうしても分断されてしまうので、本人のためもあるが介護者のためにも、MMBのようなものがあれば、個別的なケアがしやすく、ツールとして有効だと思う、とのコメントが。クロエさんは、ケアホームでの取材の際、個人の部屋にあまり荷物が持ち込まれていなくて、ものが少ないことに気がつき、思い出の品があるなら1つ2つでも持ち込んでおけば、記憶をよみがえらせる引き金になって有効だと思う、と言っていました。

日本では終活が盛んになってきているから、認知症になる前の備えとして、自分のために作っておく、というのも考えられるのでは、というコメントも。クロエさんは、それは、その人自身が好きなものを入れることができるから、理想的な使い方かもしれない、たとえば70歳の誕生日プレゼントとしてプロモーションするとか。できるだけいろいろな人に使ってもらって、使い道を見つけてほしい。「Music Memory Box」を「Dementia(認知症) Box」としなかったのも、使い方を限定したくなかったのが理由だ、とのこと。

終了後は来場者からアンケートをもらいましたが、丁寧に感想を書いてくださる方が多数でした。クロエさんはアンケート集計に対して丁寧にメモを取っていました。これからの製品開発に活かしてくれることと思います。

滞在期間が約1ヶ月と短かったので、今回は滞在期間内での完成を目標とせず、リサーチに重点を置いて活動しました。帰国後に、滞在制作でのリサーチをもとに、神戸版のMMB制作を進めてもらいます。
2016年2月頃に、完成した神戸版MMBをKIITOの中で展示する機会を設けたいと考えています。またみなさんにも進捗をご報告いたしますので、楽しみにしていてください。

開催概要
KIITOアーティスト・イン・レジデンス2015 クロエ・メイネック
LIFE IS CREATIVE展 クロエ・メイネック アーティストトーク
「LIFE IS CREATIVE展 高齢社会における、人生のつくり方。」