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2016/6/23

イベントレポート

未来のかけらラボvol.8 トークセッション「二地域居住から見えてくるもの」 レポート

2016年5月25日(水)

未来のかけらラボvol.8 トークセッション「二地域居住から見えてくるもの」を開催しました。

今回お招きしたのは、ライター/NPO法人南房総リパブリック理事長の馬場未織さんです。子供三人、共働きで、平日は東京、週末は南房総、という「二地域居住」生活を続けて10年近く、2014年に「週末は田舎暮らし」という著作を発表され、NPO法人を発足し、二地域居住を自ら実践するだけでなく、南房総の魅力を伝える活動も精力的に行われている方です。

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ご自身の体験、そこからの気づき・起こしたアクションを生き生きと話してくださるので、楽しさが伝わります。お話は、そもそも何をやっているか、の自己紹介から、二地域居住のきっかけ、やってみて気づいたことまでをお話しいただきました。一部を抜粋します。

やっていること
いま、執筆、NPO理事長、3児の母、妻、嫁、PTAをやっている。稼ぎのある仕事~稼ぎのない仕事・シャドウワークまであるが、稼ぎのない部分に暮らしの豊かさ、生きるモチベーションを見出していて、このバランスはわりと気に入っている。

二地域居住のきっかけ、実際
二地域居住のきっかけは12年前。息子が生き物にとにかく夢中で、○○が見たい!どこにいるの??と毎日聞く。馬場さん自身は都会っ子、文化的な生活一色だったが、息子につきあううちに、目覚めた。最初は冗談みたいな感覚で、田舎の物件を探していたが、だんだん、行けるんじゃないか!と思い始め、都心から1時間半の南房総に、東京ドームの約半分の土地を持つことに。

始めた当初は、週末はここでのんびりできる!と思っていたが、、、。草刈り機、トラクター運転、土いじりもしたことがなかったのに、野菜を育てる。やってみたら夢中になった。じゃがいもに母性を感じた。作るまでのストーリーがあるから、自分で作った採れたてを食べるのは格別で、食生活が豊かになった。

田舎暮らしは草刈りはじめ、いろいろとメンテナンスが必要。それをやりはじめると、めいっぱい時間を自分のために使える、メンテナンスがない都会の生活とはどういうことなのか、を考えさせられた。

生き物の命を食べる。近所にいる蟹を生きたまま茹でて、吹いている泡を食べた!飼って、食べること。子どもの泣き笑いを目の当たりにする。
キジを拾って放鳥するまで育てたり。そんな体験を重ねている。

なんでこんな暮らしを続けられているのかというと、美しいからかも。
アート、デザイン、的な美しさだけが美しさなのか、と懐疑的になっていたところに、この生活をやりはじめて、けっきょく美しいところにいたいんじゃん、これが大きなモチベーションになっていることに気付いた。

NPO法人の立ち上げ
田舎暮らしをしていて、地域の人にお世話になっていて、何もお返しできていない、なにかできないか、里山をみんなに開いてはどうか?と考え、NPO法人南房総リパブリックを立ち上げた。

南房総に「住む」~「出かける」の間のいろいろなグラデーションをデザインする。
・東京で知ってもらう「千足カフェ」…南房総の新鮮な野菜を使うカフェ。儲け重視ではなく、子どもがいて、外食しづらい人に利用してもらうことを目的とした。カフェをやりたい人の就労支援も兼ねた。
・わざわざ来てもらう「里山学校」…例えば、植物の名前を知り、認識することで愛が始まり、世界が広がる。
・居場所をつくってもらう「三芳つくるハウス」…坪単価1万円で作るビニールハウス。
・空き家のマッチング…南房総市は3割が空き家という状態だが、人は、ぼろぼろで入ると危ない、くらいにならないと手放す気にならない。いろいろな理由で貸し渋る。アンケートを取ると、空き家の管理は大変/大変ではない、の相反した意見が見える。その正直な気持ちに丁寧に寄り添って、心の扉を開いてもらうのが大事。
空き家を借りる方にしても、田園回帰といわれるが、上から言われても誰も行かない。主体として自分が欲しい暮らしをすることでしか、人の原動力にはならないと思う。ただ、楽しいことはする。クリエイティブな解決の仕方だと途端に乗ってくるのが、わずかに見える未来への光かなと思う。田園回帰は良いことかもしれないが、実現するための手段を伝えるのは、違うやり方を考えた方がいいのではないか。
・古民家エコリノベ…うちでもやれるかも、という方法と費用で改修し、住みやすくするエコリノベを建築家の協力のもと実施。床下と障子の断熱処理を行った。一緒に作って感動すると、部外者が当事者に変わる。20万ちょっと(=頑張ったら出せる範囲)でやれて、しかもちゃんと成果が出たので、ノウハウを公開した。

「素敵な場所」って
なぜ、あくまでここに照準を合わせるのか。
建築家、建築の社会的意義について疑問を持っていたとき、息子から「ママ、ホームレスの人におうち作ってあげたら?」と言われた。お金が出るところにしか作っていない、ということに気付いてショックを受けた。
田舎暮らしで、感度やモチベーションが高くなくても、不自由なことがあってもみんなで協力しあって暮らしている状況に触れた。ここは追い出されない場所なんだ、と安心感を覚えた。
「素敵なまちづくり」って、自分たちさえよければいい、にならないか?まちってそれをしてもいいのか?素敵じゃないものも一緒に抱えて行ける場所、が素敵な場所なのでは。努力したくないけど死にたくもない、という人も、しょうがないな、と一緒に引き上げて、一緒に生きていけて、お互い認め合って笑いあえることは、すごく健やかなこと。どこまで遠く、どこまで想像できるか、挑戦してみたい。

都市を否定するわけではないけれど、全然違うタイプの人間が、どっちも大事、という状態。ひとつに絞りたくない、という気持ちになる。
まちづくり系の人と話していると、自己責任論の話になるが、どうしても責任がとれない人もいっぱいいる。包括できればいいと思う。良い部分をどうやったら都市の中に引き入れていけるかが、最大の課題だと思っている。

二地域居住は、いまの社会の状況からみると、すごくやりにくい生活の仕方で、ボーダーレスな暮らしをしたくても、どうしてもどちらかを選ばなければいけない。もう少し制度が追いついてくれたらいいと思う。

モデレーターの芹沢の発言からは、二地域居住というライフスタイルを通して育まれる精神の健やかさ、についてを抜粋します:
いま、安全、安心ばかり言っていて、切り捨てや隔離が進んでいるような気がする。二地域居住のように、二つの世界を行き来してみていると、精神をまともに留める、ものすごくいい生活をしているのではないか。
もう現実は、特に若い世代は「男たるもの一国一城の主」といった一つの成功モデルとは違うライフスタイルにシフトしている。馬場さんの例も、これだけが成功モデルとしてイメージを固定するのではない方がよくて、思いこんでしまうと重荷になる。馬場さんは、欲望のままにやっていて、本当に楽しんでおられて、聞いていてうれしかった。好きなことをやればいい、と、背中を押されたような気がした。

田舎万歳!でも、スーパーウーマンのスペシャルな生活術、でもなく、きちんと地に足着けて、世界を見つめ、楽しみながら未来を考え、活動しておられる馬場さんのお話は、自分の生活や考え方を足元から考え直してみる、良い契機となりました。

未来のかけらラボvol.8 トークセッション「二地域居住から見えてくるもの」
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