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2014/7/23

イベントレポート

未来のかけらラボvol.4 トークセッション 土と農から考える未来のデザイン レポート

2014年6月5日(木)

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センター長・芹沢高志をモデレーターに、身近に散らばる多様な未来のかけら、つまり可能性の芽を拾い集め、草の根的に自分たちの未来を思い描こうとしていく試み「未来のかけらラボ」。vol.4では「土と農」をテーマとし、兵庫県播磨地方の農家仲間のグループ「土種(ツチタネ)」を結成している西山さん、池島さんをお招きしました。

「土種」は、その名の通り「土づくり」と「種」の保存、自家採種をテーマに活動をしています。子どもたちに森、山の土に近い土について紹介したり、大阪、神戸方面に播磨の野菜を紹介する活動などを行っています。お二人だけではなく、自家採種農家の仲間たちと一緒に活動しています。
人の手で耕し、その土地で育った植物を肥料にしていた昔とは違い、現代の農業は石油、機械に頼っています。1960年台から、化学肥料や品種改良、除草剤の使用がはじまり、大規模に食料を生産できるようになり、豊かさをもたらしました。その一方で「土は痩せてきている」と西山さん。かつては落ち葉を活かし堆肥としていました。すぐさま植物の栄養にはなりませんが、土の栄養が増すとのこと。化学肥料は、植物の栄養になりますが土には寄与せず、土が痩せていくことについて顧みられていません。このような背景のなかで、次の世代に対して、現状を変えられないかという思いで活動を開始しました。

 

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まず、ソイルスペシャリストの西山さんより「土」の話をうかがいました。

西山さん:公園や農地などの身近な土は日本においては適切な管理がされていないのが現状です。
落ち葉などが落ちていない、草が一本も生えていないむき出しの土というのは、実は土にとって良くない環境で、どんどん状態が悪くなります。身近でその状態が見られるのが公園です。土の上に何もない状態になるよう、綺麗に掃除することによって、表面の土が雨で削れ、根が切れ、水が浸透しない土になります。ふわふわとしておらず、学校の運動場のように固まっているのが、そのような状態です。ぜひ公園を歩いて見て欲しい。公園用、農地用の土の管理の仕方、という区別はありません。野菜にとっても、公園の木にとっても「良い土」は一緒なのです。

では、「良い土の管理」とはどういうことでしょうか。たとえば、オーストラリアで見た良い管理方法は、木のチップや落ち葉を掃除せずにそのまま置いておくことで、土や木の根をむき出しにしないことです。
農作物についても同じ考え方で行うことができます。前作を粉砕したものを取り除かず、土に被せておけば化学肥料は必要ありません。また作物がよく伸び、地面への日光を遮って雑草が発芽しにくいので、除草剤が必要ありません。加えて、土の表面の温度が低くなり、雨水を保ちやすい。薬や肥料を使うためのコストや手間がかからず、しかも収穫量が上がり、環境への影響も減ります。土の環境に注目することでこのように変えられるのです。

また、土は公共のインフラとしての機能も持っており、土の状態が良くなると次の三つの効果があります。
1:水の保全…山や森が保水力を持つと思われがちだが、良い状態の土であってはじめて、水は地下に浸透する。
2:捨てていたものが資源になる…雑草や落ち葉をごみ収集に出すと焼却されてしまうが、2年間土の上に積んで置くことで、土に返し、再資源化することができる。もともと草木に付いている微生物が分解するので手間がかからないうえ、焼却コストが削減できる。
3:景観との両立…昔は、水田の休眠時に蓮華畑にすることで、土を回復させていた農家が多かったが、今はそうせずに化学肥料を撒くようになった。蓮華畑を作れば、人が集まり、遊び場になることで町の魅力にもなり、化学肥料を使う必要もない。

 

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次に、グラフィックデザイナーであると同時に、兵庫在来種の保存にも力を入れる池島さんに「種」のお話をうかがいました。

池島さん:伝統野菜の種を次世代に残す「ひょうごの在来種保存会」の事務局を務めています。同会では、世代を跨いで種を作り続けた作物のことを在来種と定義付けしており、例えば「ハリマ王にんにく」や「姫路えび芋」などが代表格として挙げられます。在来種作物は一つひとつの色や形、大きさにばらつきがあるのが特徴で、単一の品質を求める生産・流通システムには乗りにくいため、意識的に種を残していかなければなりません。また、種と一緒に、調理法などの食文化も伝えるべきと考えています。
「土種」では農家の方との交流を密に行っています。70歳~90歳代の方が中心で、世代をこえた協働となっています。地域で一年に数度集まり、自分で作っている食材を持ち寄って食卓を囲んだり、単なる仕事の範疇を超え、農業が生活の一部となっていることを垣間見たり。また、在来種の株主を広く募集して、市民参加型で育てることで、次世代に伝えようとしています。
もう一つの活動として、兵庫県立大学で自家採種の実践を行っています。敷地の一部を菜園化し、学生たちと一緒に育て、先輩の学生が後輩に引き継いでいくことで継続しています。最近は、ごぼうが人の身長くらいまで大きく育ったんですよ。また、自家採種をすることで「自分達に何ができるか」を学生が自主的に考えるようになり、収穫した野菜を地元で販売し、売上を東日本大震災の義援金に充てる、といった活動に展開しています。

会場からは、街路の公園や木の管理方法について、近隣住民の希望と管理業者の考え方の違いがあり、どのように歩み寄れるのかといった悩みの声や、身近なところから何を始めたらいいのかといった質問が寄せられました。
池島さんからは、顔の見える、好きな農家を一人一件くらいの気持ちで作って、季節の野菜を意識して食べてほしい、と話がありました。また西山さんからは、公園など身近な土の状態に目を向けてほしい、とのこと。また家庭菜園など、小規模でも土の状態を良くして育ててみてほしい、という話がありました。良い土を使って植物を育てれば、経験のある人も無い人も、ほとんど変わらずに良いものが作れるので、土を使い捨てと考えず、ごみとされている落ち葉を持って帰って加えるなどして、ケアしていくことで土は変わっていく、とのアドバイスがありました。

以上のように、西山さんと池島さんは、効率を追い求めるために生産や流通、管理が画一化され、システム化されている現状を当たり前のこととして捉えずに、そうではないよりよいあり方を、地に足の着いた形で実践していることが浮き彫りになりました。参加者のみなさまからも、「身の回りの土を意識して見ることから始めよう」「まずは、ベランダにプランターを置いてみよう」などの声をいただき、一人ひとりが実践できるヒントを持ち帰っていただけたように思います。

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