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2015/7/18

イベントレポート

+クリエイティブゼミvol.13 「食」編「神戸発:自分で食べる“食”の勉強をしよう!」第7回 レポート

2015年4月24日(金)

+クリエイティブゼミvol.13 「食」編 「神戸発:自分で食べる“食”の勉強をしよう!」第7回となる「野菜工場について」を開催しました。
吉田宏樹氏に来ていただき、野菜工場の現場からお話をしていただきました。元は金融マンだったという吉田さんですが、現在は兵庫県養父市でレタス工場長を務めていらっしゃいます。

まず工場内のシステムや栽培方法等についての説明、また、野菜工場が生まれた歴史やビジネスへの参入背景についてレクチャーいただいた後、講師がゼミ生から質問を受けつつ、それに答えていただきながら進行するという形となりました。ゼミ生の関心も高いようで、質問は途切れずに続きました。ビジネスの観点のみならず、地域の雇用創出や食糧難の時代を見据えた幅広い視点からのお話となりました。

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野菜工場の参入背景
植物工場は照明方式により「完全人工光型」と「太陽光併用型」に分かれ、養父の工場では完全人工光型で野菜を栽培されています。完全人工光型の特徴として、
〇完全無農薬
〇害虫・異物の混入リスクが極端に低い
〇大気汚染の影響が少ない
〇安定供給ができる
〇旬の野菜を一年中栽培できる
など、多くのメリットがあり、露地栽培よりもコストはかかりますが、それ以外で優れた面が多いといいます。

野菜工場の歴史は意外に古く、元は野菜を宇宙で食べられないか?という考えから始まり、30年以上の歴史があるとのこと。1980年代半ばから何度もブームになるも、試みはその度失敗。現在は第4次ブームの只中。
技術革新が進んだことと、多少高価でも食べ切れる量のきれいな野菜を購入したいという消費者が増えたことでマーケットが成熟し、今後も市場の大幅な拡大が見込まれます。

今、農業には新たな取り組みが求められており、様々な大手企業が市場に参入しています。背景に農業の担い手の不足や環境汚染への不安、温暖化(もしくは寒冷化)などの気象の変化により葉物野菜が作れなくなるなど、食糧への危機感があるといいます。

ゼミ生とのQ&A
Q.全て同じ味になるのか?
工場内部での温度ムラや光のムラによって栽培環境に差が生まれ、その変化に応じて野菜の生育状況・味覚・食感は変わります。現状、完全な均一空間が形成できる技術確立はなされていないので若干のバラつきはあり、システムの仕組み上、完全な均一空間を作り出すことは難しいと思われます。
現在はそれを逆手に取り、意図的に野菜を作り分けることにチャレンジしています。例えば、高温栽培にすると野菜の新陳代謝が促進され、養液をたくさん吸収し、野菜の重量が増す。結果、含水率が高くみずみずしい野菜ができます。対して低温だと野菜は縮こまり、甘みをため込むため、水分が少なく甘い野菜になる。
栽培方法においては、播種機で300粒種を蒔き、植物の成長に合わせ、植替え生育させます。葉と根が干渉し合うとストレスを感じ、成長を止めてしまう特性があるため、ストレスを感じさせないよう、最適環境で栽培しています。ただ、ストレスがなければ美味しい、というわけでもない。ストレスをなくすと、味は薄いが瑞々しく、マイルドな野菜になる。露地物は甘さもあるが、肥料の消化不良で苦味も出る。工場の野菜はその苦味がない。それぞれにニーズがあるので、今後、その差を利用して生産・販売をしていきます。

Q.何時間光を当てているのか?
約10時間。何時間照明を当てると効果的か研究した結果。夜間電力を使い、夜に昼の環境を作るとコストが減らせる。CO2濃度を調整して光合成を助け、波長域が近い蛍光灯の光で太陽光を再現。人がいなくても育つよう、野菜にとって必要なものだけを与えています。

Q.全部出荷できるのか?
生育のバラつきや、手作業ミスが出るが90%以上、品種によっては100%近く出荷しています。

Q.栄養価は露地物と比べて高い?低い?
やはり露地物の、旬の一番いい時の野菜には劣る部分はあるが、一般的な野菜を加工する際の殺菌消毒や洗浄の工程が省かれる部分もあり、一般消費者の口に入る時点では遜色ないものと思います。

Q.遺伝子組み換え野菜は栽培しているのか?
現在、工場で栽培する程のマーケットがないので、栽培していません。

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Q.農家経験のある従業員は?
現状はいません。これまで勘・経験が必要とされていた農業技術をマニュアル化し、パートタイムの従業員でもできるようにしたものが植物工場です。養父市の工場では大半がパート主導であり、作業をマニュアル化し、一株何分かかるか、作業効率を完全にデータ化しています。

Q.地元にネガティブな反応は?
地元にも応援していただいています。養父市は合併して10年だが、人口は減少し、地域に危機感がある。18歳で8割以上が市外に出てしまうという状況の中、働き口があることが重要であり、大きな雇用の場となっています。

Q.水はどこから?自家発電の装置はある?
通常の水道水を使用しています。安いので井戸水を使われる業者もありますが、水の環境に左右されてしまう。水道水でもこの付近の水はPHが高いので、栽培に適するよう少し違うブレンドをして使っています。
自家発電については、太陽光パネルを敷く計画をしていましたが、面積の割にコストがかかるため、現在していません。

Q.肥料は?
化学肥料をブレンドし、濃度を調整して使用しています。

Q.今後、根菜類を作る予定は?
背丈の大きい野菜を作るには光源(蛍光灯)までの棚の高さを変える、また、巾の大きな野菜は株間を大きくとる必要があるなど、生産効率が悪くなるため、今後も同じ大きさの葉物野菜を栽培していきます。


砂漠や環境汚染がひどい土地でも作れるので、今後、PM2.5や温暖化、天候不順等により、野菜が作りにくい状況下において貢献できると考えています。
今後、農業はさらに高齢化が進み、耕作放棄地が増加、それ以上に、その予備軍となる土地が山ほどある。そして、野菜の作り手もいなくなる、それをどうするか。
地域においても、仕事がなければ若者は地域に留まらず、流出していく。人が減り、コミュニティが疲弊し、存続できなくなっていく。野菜作りで雇用を創出し、地域で儲かる仕組みを作り、事業を継続することが自分たちの仕事だと思っています。これからもチャレンジしていきます。


環境や地域の空洞化、雇用の問題など問題が山積みの中、これからの農のあり方の一つの試みとして、可能性を感じさせるお話でした。

次回は第7回「屠殺について」です。兵庫県健康福祉部より都倉敏明さんをお招きします。

+クリエイティブゼミvol.13 「食」編 「神戸発:自分で食べる“食”の勉強をしよう!」
http://kiito.jp/schedule/seminar/article/10640/