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2017/11/17

イベントレポート

「つながる食のデザイン展」レポート

2017年10月7日(土)~22日(日)まで、KIITOを会場に「つながる食のデザイン展」を開催しました。神戸の料理人、酪農家、販売者などの思いや描く夢を、神戸を拠点とするさまざまなクリエイターが、体験や映像、写真などで表現した展示物がKIITOホールに並びました。食をテーマとしているが、食べられない展覧会です。KIITOの建物にも告知チラシやポスターのデザインが装飾され、いつもとは少し雰囲気の違う様子を演出しました。会場に入ると、蛍光オレンジのラインが目に入ります。

 
味覚を体験するもの、牧場で取り組む循環の仕組みを学ぶもの、1つのパンができるまでを詳細に紹介したものなど11個のコンテンツがKIITOホール、ギャラリーAのスペースに展示しました。

 
【味覚の不思議、再発見】パティスリー モンプリュ・林周平さん(シェフ)×DESIGN HERO・和田武大さん(デザイナー)
普段あまり意識しない味覚の繊細さや違いを体感する展示となりました。3種のチョコレートを試食し、甘味、酸味、苦味を表すカラーボールを感じた比率で試験管に入れていくというものです。「最後に少し酸味を感じた」「どれも苦いぞ」など感じ方はそれぞれです。味覚を評価した試験管を持ち、展示の裏に回ると、他の体験者の試験管がたくさん並んでいます。その横に自分の試験管を並べ比べます。「えっ!こんなにみんな違うの?」という感想がほとんどでした。家族でも味覚の感じ方が異なり、たくさんの発見や気づきがありました。

 
【あえて聞きたい/答えたい、食の疑問】出展者:ケルン・壷井豪さん(シェフ)×神戸芸術工科大学・曽和具之さん(ドキュメンタリスト)
生産者、消費者、農家など、日常生活では接点の少ない様々な立場の人たちが、9月にKIITOに集まり、食について知りたいこと、疑問に思うこと、伝えたいことについて垣根を超えて話し合い、多く疑問をぶつけあいました。その様子を映像にまとめ、会場で上映しました。生産者が知ってほしいこと、消費者が知りたいことなど、普段なかなか伝わらずにもどかしく思っているそれぞれの本音をぶつける様子見られます。熱心に鑑賞される方も多くみられました。

 
【牧場からはじまる、もうひとつの未来】弓削牧場・弓削忠生さん(酪農家)×DML・久慈達也さん(デザインリサーチャー)
神戸市北区、住宅街に隣接した牧場が進める“無駄のない実践”から、エネルギー需給に留まらない「食の循環社会」について展示で紹介しました。牛1頭から取れるメタンガスや実物の消化液も展示され、消化液は実際に匂いを嗅ぐこともできました。恐る恐る鼻を近づける来場者も。匂いは牛糞のようではありません。消化液を使って育てられた、実際の農作物も展示しました。消化液を活用し、量産や流通を目的としない、学校や地域、家庭での菜園にて在来作物を育てる未来図も示しました。

 
【豚まん、100年の洗練】老祥記・曹英生さん(シェフ)×神戸芸術工科大学・曽和具之さん(ドキュメンタリスト)
創業100年を超える神戸南京町の豚まん屋「老祥記」の厨房の様子を撮影した映像を上映しました。メニューは豚まん1つです。普段あまり見ることのない、1日に1万3000個つくられる店内で熱気立ち込める中繰り出される洗練された職人技と無駄のない協働作業をまとめました。何度も映像を見られる方も多く、職人の動きや独特のリズムに興味を持たれたようです。

 
【ゴカンノキオク屋-飲食店が子どもたちを見守る寺子屋のようになれる未来-】玄斎・上野直哉さん(シェフ)×KUUMA inc.・濱部玲美さん(クリエイティブディレクター)×Apartment film・野田亮さん(映像作家)
まちのなかの飲食店は、食を提供する以外に、子どもたちを見守り、五感をくすぐる場所になれないだろうかという上野さんの思いに対し、実験として子どもたちが開店前の仕込みの時間に飲食店を訪ね、料理人の手さばきや仕草、店内のにおいや音、手触りなど観察を行い、その様子を映像やパネルで紹介しました。子どもたちが店内で感じたこと、発した言葉や動きなどを通して、大人も感じることが多かったようです。

 
【ひとつのパンができるまで】PAINDUCE・米山雅彦さん(シェフ)×NO ARCHITECTS・西山広志さん(建築家)
お店に並ぶパンを見ただけでは、想像することの難しい、原料からパンができるまで、生産者から購入者の手に渡るまでを、原料そのものや細かな工程をイラストで描き紹介しました。関わる人や時間、コストなども詳細に描かれています。1つのパンに必要な小麦の本数は120本。実際に小麦が並び、来場者も大変驚いていました。また砂糖、塩などもイラストで工程が描かれており、じっくりと鑑賞される方が多く見られました。

 
【不便から生まれるコミュニケーション】サ・マーシュ・西川功晃さん(シェフ)×MuFF・今津修平さん/KUAV・北川浩明さん(建築家)×Apartment film・野田亮さん(映像作家)
神戸北野にあるパン屋さん、サ・マーシュの店内を舞台に、Inconvenience(不便)=Communication(コミュニケーション)をキーワードに、売り場でのコミュニケーションのあり方を実験する様子を巨大な写真で展示しました。便利さを求めるあまりにそぎ落とされてしまっているコミュニケーションの重要性や、そこに生まれる付加価値について、来場者が改めて考える機会を生みました。

 
【知っているようで知らない野菜のはなし】はっぱや神戸・加古憲元さん/加古祐樹さん(農産物販売)×坂下丈太郎さん(カメラマン)
野菜を育てる人の手や道具、田畑の美しい様子や野菜が咲かせる可愛らしい花など、普段目にしている野菜の「知っているようで知らない」一面を、フィルムカメラに収めた大小さまざまなサイズの写真とちょっとしたエピソードともに展示しました。来場者はスーパーなどに並ぶ前の野菜の姿を見て、「こんな環境で育っているのか」「オクラって上を向いて育つの?」など気づきがたくさんあったようです。

 
【Experimental Tables 食べる「かたち」の実験室】anonyme・加古拓央さん(シェフ)×DESIGN SOIL(デザインコレクティブ)
食べる行為の舞台となるテーブルのまだ見ぬ可能性を探るためのアイデアテーブルを展示しました。加古さんが普段感じている様々な疑問や思いに対し、DESIGN SOILの学生たちがアイデアを検討した4つのテーブルと高さをスタディするもの、計5点が並びました。各テーブルを体験することもできるため、来場者も実際にテーブルを体験しながら食事をする際のマナーや意識を考えるきっかけが生まれていました。

 
【シニアから始めたパンづくり】
2015年KIITOで開催された「LIFE IS CREATIVE展」で生まれた、シニア男性チーム「パンじぃ」を紹介する展示です。神戸のパン職人から本気でパンづくりを学び、地域などで活躍している様子の写真や実際に使用している道具を並べました。会期中2日間は、実際に会場でパンじぃがパンを焼き、来場者に振舞いながら、パンじぃとしての思いや今後の夢について語りました。「うちの夫もパンじぃになってほしい」など彼らの活動に興味を持った方が多かったです。

 
【KIITOでつながる食のプロジェクト】
これまでKIITOで行った食にまつわるさまざまな企画をチラシや映像で紹介しました。食について共同で学ぶ食ゼミ、シェフや生産者によるトークイベント、シェフとクリエイターのコラボレーションによるパーティ企画「Meets+Design」など、「つながる食のデザイン展」につながった事業が分かります。「このチラシ見たことある」「これ、以前参加した」などの声もありました。

来場者の方は、食べることだけではない視点や考えに触れ、普段の生活の中から様々な気づきが生まれたようです。会期中に開催した「つながる食の連続トーク」も好評で、展示に至るまでの過程やエピソードなど、より深く食を知り、学ぶ機会をつくることができました。食を通してより豊かな神戸のまちにつながっていくことを願っています。

写真:片山俊樹


「つながる食のデザイン展 食べることから、はじまる」
会期:2017年10月7日(土)-22日(日)※休館10月10日(火)、16日(月)
会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)1FKIITOホール、ギャラリーA
主催:デザイン・クリエイティブセンター神戸
特別協力:AnyTokyo
企画協力:田中みゆき
後援:NHK神戸放送局、Kiss FM KOBE、神戸市教育委員会、神戸新聞社、サンテレビジョン、ラジオ関西