LIFE IS CREATIVE ライフイズクリエイティブ リタイアのない人生のカタログ

誰かのために。
スキルを活かして。
高齢者が活躍する未来に、
ともに向かいたい。

地元のショッピングセンターに行くと、ベンチに腰掛けたまま、長時間ぼーっとしている高齢者の方をよく見かけます。デイケアセンターで行われているお楽しみプログラムは、マンネリ化したものです。
超高齢社会だといわれる現代。高齢者人口は増えているのにもかかわらず、高齢者がいる環境は明るく充実した環境だとは、決して言えないのではないでしょうか。

彼らがワクワクしながら参加できるものが、必要です。
職場や家庭で培ってきたスキルを活かせる場も、必要です。高齢者を対象に実施、そして他の地域へも展開可能なプログラムを、何かつくれないかと、我々の取り組みはスタートしました。

「男・本気パン教室」や「大人の洋裁教室」。いくつかのチャレンジを通して気付いた、高齢者対象のプログラムにおけるポイントは大きくふたつあります。
ひとつは、高齢者が自分自身よりも「誰かのために頑張れる活動」であること。周りの人から、地域から、期待され必要とされることが、彼らの大きな原動力であると感じました。
もうひとつは、「そこで身につけたスキルと、地域や社会とをつなぐ場」が不可欠だということです。プログラムを通じて学んだことが、プログラム終了とともに役に立たなくなってしまってはもったいない。プログラムを終えた人が、また別の場所で活躍できるようにしたいと思います。誰かのために、高齢者が楽しみながら、未来へ向かう機会をつくりたい。
そこに、わたしたちもともに参加し続けたいと思います。

2018年3月

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
副センター長 永田宏和

はじめに

高齢化の進む今、
社会をつくっているのは
若者より高齢者
なのかもしれない。

現在の日本において、「高齢者」と呼ばれる人は、どれくらいいるか知っていますか?答えは、約3,588万人*。人口の3割近くが、65歳以上となっています。

日本の高齢化は2000年をターニングポイントにぐっと進み、さらに2015年には 「団塊世代」が高齢者世代となりました。2026年には「団塊ジュニア」、つまり団塊の子ども世代が50代に。このときにはもう、人口のじつに半分以上が50歳を超えている状態です。

このまま高齢化が進んでいけば、日本はどうなるのでしょうか?高齢者人口が増えていくばかりで、労働人口は減っていく。年金制度の破綻。介護不安。高齢社会と聞いて出てくる話題に、明るいものは見当たりません。

** 2019年9月15日総務省統計局推計現在

年を取るのが
こわい社会は
未来へ向かうのが
こわい社会です。

かつて、長生きすることは、もっと嬉しいことだったのではないでしょうか。還暦から古希、喜寿、傘寿と数えて長寿を祝う。世界的に長寿の多い日本を誇りに思う。長生きできること、長生きする人がいることをもっと喜ぶ社会であったように思います。しかし今の高齢社会で長生きすることには、リスクや不安ばかりが目立っているようにも感じられるのです。

高齢者にとって、もっと続けたい人生があるように。現在高齢者でない人にとっても、自分たちが向かっていく未来をもっと楽しみなものとできるように。これまでとは異なる、新しい高齢社会が必要なのだと私たちは考えます。

高齢化の事実は
変えられないが、
高齢社会のあり方は
変えることができる。

新しい高齢社会、新しい高齢者のあり方をつくっていかなければなりません。高齢者は自分と、身の回りにいる人のために。今はまだ高齢者でない人は、高齢者と自分が向かう未来のために。高齢者としての生き方そのものを、みんなで考えたいのです。

たとえば何か、これまでとは違う生きる楽しみをつくること。家族のなかに閉じてしまわない、人とのつながりをもつこと。地域や周りの人も一緒にサポートしながら仕組みをつくりたいと思います。ひとつの成功モデルができれば、同じ課題を抱える他の地域や国にも広めていくことが可能になる。長寿先進国である日本の動きには、世界も注目していると言われています。

100年生きることが
当たり前になった、
現代の新しい高齢者。

昔に比べると、少しずつですが、高齢者のあり方は変わってきていることがわかります。

たとえば1963年時に100歳以上の人口はたったの150人ほどでしたが、2019年には71,238人。半世紀の間に、人は100年生きるのが当たり前の時代となり、多くの人が、高齢者として生きることを強く意識するようになりました。

あるいは、最近高齢者の仲間入りをした団塊の世代は、お見合い結婚の数を恋愛結婚が上回り始めた世代です。横のつながりがフラットで、友人関係を大切にする傾向がある世代で、人とのつながりを築く力を強く持っているかもしれない。ポジティブな期待のできる変化がたくさんあります。

かつて弱者と
言われた人こそ、
社会をつくりかえる
力をもっている。

ポジティブな変化は、生活習慣や趣味に関する調査データにも現れています。

代表的なのは、健康や介護に関する考え方の変化です。かつて高齢者は弱者であり、介護をしてもらうことが普通でした。しかし現代では、介護を予防するという考え方が増加。60代以上で何かしらの介護予防を実践している人は、8割を上回ります。また、人生を積極的に楽しむ傾向も強い。9割以上の人が食を楽しむことに前向きで、退職金の使い道でもっとも多いのは国内旅行と、とてもアクティブです。

これからの高齢者はただ守られるのではなく、むしろ介護をする側にもなれるし、自由に消費活動を楽しんで経済を回す主体者にもなれるのではないでしょうか。

自分の人生を
つくる活動が
新しい高齢社会を
つくっていく。

高齢者のことがわからない。私たちはまずその認識から出発し、『LIFE IS CREATIVE展』という活動を始めました。2015年には神戸で。2017年には東京で。そして2019年の今回は、より先進的な姿勢や技術を学ぶため、台湾での視察や活動もスタートさせています。

これまでは高齢者自身が悩む問題、あるいは家族の中で閉じられていた問題でした。それをもっと地域で、趣味のつながりで、日本全体で、新しい高齢社会について考えていきましょう。何かをつくったり、その活動の中でつながりを得たりすることが、これからの高齢社会をつくることにつながっているはずです。そうすれば誰にとっても、年をとることは怖いことでなくなる。そのときどきの自分の人生を愛し、その先の未来を主体的に生き延びていくことができるのだと、私たちは信じています。