台湾にある静宜大学で教鞭をとる、紀金山教授。社会工作学科とは、ソーシャルワークについての研究を行う学科です。「理想的な老後生活」をテーマに、紀教授が友人グループへ呼びかけたことがきっかけで、好好園館プロジェクトは開始されました。
好好園館とは、日本語でいえば、みんなが楽しめるコミュニティハウスのようなもの。「好好」には、「とてもいい」という意味があります。このプロジェクトの出発点には、世の中に流布する老人ホームへのイメージを変えたいという、紀金山教授の強い想いがありました。現在でもなお、台湾での老人ホームへのイメージは、決していいものとは言えません。家族に見捨てられた人。余生に不安を抱えて生きている人。入居高齢者は、そんな視線を向けられてしまっている現実があります。
そんな印象を一掃するべく、紀教授が考えたのは、理想的で新しい、未来の高齢者住宅と、それをベースとしたコミュニティをつくることでした。医療と介護のサービスを併設し、高齢者が敷地から出ることなく、十分なケアを受けることが可能になります。適切な美しく植樹された敷地があり、コミュニティの拠点となるカラフルなコンテナハウスでは様々なワークショップ。カフェでは、介護について知ることもできます。そして、最大のポイントは、若者と高齢者が同じ場所に住める住宅だということです。世代を越えた交流が生まれることで、互いの刺激となり、活気あふれる場所となることを目指すものでした。
point1
最初に紀教授が行ったのは、いきなり住宅設備をつくることではありませんでした。まずつくったのは、コミュニティとしての拠点と、そこでの魅力的なコンテンツサービスです。若者は学びとなり、高齢者は知識や経験を若者にシェアすることで、互いにメリットのあるものを。たとえばバーテンダー講座や編み物講座といったワークショップや、店舗などを、試験的に運営し始めました。サービスのモデルを先につくることで、のちに住宅を建設した際にも、同じサービスをそのまま移植できるようにと考えたのです。
point2
好好園館の根幹にあったのは、0歳から100歳までが暮らせるユニバーサルデザインが採用されていて、公共のスペースでは世代を越えた活動が行われる住宅に紐付いたコミュニティをつくることでした。ここでは高齢者がケアサービスを受けたり、雇用機会を得たり。一方で、高齢者の開催するワークショップに、若者が参加したり。様々な人が便利に過ごしながらも交流することで、より活気のあるコミュニティに育っていきます。
紀金山教授
好好園館創設者 静宜大学社会工作・児童少年福利学科
好好園館では、高齢者が孤独感や虚しさを感じることなく、周りから必要とされ、幸せな生活をすることができるような、住宅とコミュニティにしようと考えていました。高齢者の生活は、消極的な保障から、積極的に自ら可能性を広げられるものへ。期待で満ち溢れた未来をつくっていきます。
紀鈞惟さん
ワークショップ講師
このコミュニティでは、住民が来店して各種イベントやワークショップなどに参加する機会を創出しています。スキルただ教えるだけにとどまらず、人生の先輩としての教えもお伝えしているつもりです。
陳怡如さん
ワークショップ参加者
家族の介護をするようになって、10年が経ちました。以前は介護に対して無力感を感じていたし、何の成果も得られていない気持ちが大きかった。しかし、ここへ来てからは、ときどき本を読んだり、コーヒーを飲んだりして、ホッとする時間が得られる。気分転換の大切さを感じています。
黄さん
ケアサービス利用者
脳卒中を患っており、長い間お風呂掃除も自分でできない生活を送っていた私。ここの活動に参加した際、在宅介護サービスの支援があることを知り、利用を始めました。行政への申請手続き等も全て手伝ってもらい、本当に感謝しています。
コミュニティの活力は、世代間交流が源です。プロジェクトは現在、ワークショップなどのコンテンツが充実してきた段階であり、これから本格的に、高齢者と若者の居住が開始します。共創、共有、共生を通じて、クロスジェネレーションでの活力を今後もさらに発揮させます。
好好園館は、多元的で開放的な学習の理念を提唱しており、退職後も活発に活動するというライフスタイルを応援します。人生を刺激的に。人間関係を良好にする、ヒントを得られることが期待されています。
ここでは、住民一人ひとりの特性を重視します。単一化・標準化された一般的な介護サービスとは異なり、その人ごとにカスタマイズされた居住空間や学習活動を得られるよう、さらにコンテンツやサービスの充実をはかります。
社会的企業の価値観と理念を堅持し、地域に根差したコミュニティの発展を目指しています。住民それぞれの意見を尊重し、進歩の原動力とします。
たとえば「かわいい孫プラン」などの制度を通じて、若者と高齢者が相互に支え、助け合うライフケアシステムなどが提案されています。助け合いによるリソースの最大化が期待できるはずです。