昨年末の11月24日、KITANOMAD(キタノマド)で開催された「ちびっこうべAFTER TALK」。ちびっこうべの開催地であるKIITOを飛び出し、いつもとは違ったアットホームな雰囲気の中、緩やかにトークセッションが行われました。参加クリエイターの方々が正面からぶつかり合い議論された濃い内容をお伝えさせていただきます。当日会場にお越しに来られなかった方もぜひご覧ください。
<トークゲスト>
・中野 優/デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)/企画事業部門 チーフスタッフ
・近藤 聡/明後日デザイン制作所/グラフィックデザイナー
・和田 武大/DESIGN HERO/デザイナー
・サタケシュンスケ / イラストレーター
・今津 修平/株式会社MuFF/代表取締役/建築家
・北川 浩明 /KUAV/建築家
・白須 寛規/design SU/建築家・コミュニティデザイナー
開催地:KITANOMAD(キタノマド)
主催:ちびっこうべ おでかけチーム (前田・濱部)
協力:デザイン・クリエイティブセンター神戸
http://chibiaftertalk.peatix.com/
<KITANOMAD(キタノマド)について>
KITANOMADは神戸市北野エリアに位置するシェアオフィス。編集者、建築家、グラフィックデザイナー、映像作家など、様々なジャンルのクリエイターが集まっている。今回は特別に1階のスペースをお借りしトークイベントを開催させていただきました。
>こちらの記事でKITANOMADが紹介されています
http://kobeliveandwork.org/nomads/1155/
ちびっこうべ参加の意義、制作のプロセス
前田:では「ちびっこうべAFTER TALK @KITANOMAD」を始めさせていただきます。2012年から3回目の開催が終わったちびっこうべですが、今回は普段KIITOで行われているお話から、より深度を深めた内容をお話いただければと思っています。
中野:よろしくお願いします。私が事務局として携わっているKIITOのメイン事業がこの「ちびっこうべ」ですが、単にデザイナー向けのイベントというわけではなく、神戸のまちをクリエイティブにしようと取り組んでいます。
近藤:クリエイターにもいろいろ関わり方がありますが、私は初回から参加しています。今回は「次世代のそぼろ屋」を担当しています。
和田:私も初回から関わらさせていただいています。担当は「みなともちピッツア」。これまでは「ちびっこうべ」全体と関わることが多かったのですが、今回は最後まで子ども達と一緒にユメミセを作るところまでを関わりました。結果最終日号泣しました(笑)。サポーターさんとの関わりも深くなり、事務局とは違ったかたちで関係性を作れました。
サタケシュンスケ:「パリフワアイスZOO」を担当しましたサタケです。私のチームはデザイン部門で優勝をいただいたのですが、今回ロゴや作り方においてデザイナーの中でも物議をかもしだしていたのですが、自分の中でも悩みながらだったので後ほどお話させていただければと思います。
前田:北川さんと今津さんは共同での参加となります。
北川:私たちの担当は「ハッピーブレッド」です。プラスチックのコップでパン屋さんを建てました。「ちびっこうべ」に参加するスタンスとして、答えを教えるのではなく、子どもたちが問題を発見しスタディして、それにアドバイスするというプロセスで制作を進めました。スタディの時点では素材のことは考えていませんでした。リアライズする段階で私たちが決定することに違和感があったので、サポーターさんに協力していただいて、追加でワークショップを開催したりもしました。
全員で議論する中、コンビニでもらってためていたプラカップをもとに、これならイケるかなとなり、決定に至りました。子どもたちだけで素材を決めたわけではなく、模型を3つ作り、スタディモデルとして過程をつくりました。それぞれのアイデアを組み合わせて最終形に落とし込みました。
今津:形に必然性があると思いました。サマーシュで話を聞くと、パンの形は気泡で決まると伺ったので、それをヒントに進めました。
白須:私のチームは「しカクま」を担当しました。入口にもっとも近い立地だったので、まちに入った人がはじめて見る風景をどう引き締めるかを検討しました。すごく美味しいケーキだったので、商品もすぐ売り切れ、そうなると子どもたちの接客やオペレーションが雑になるので、どう管理していくかなどを子どもたちが主体となって会議していたのがライブ感がありました。
濱部:今回参加のきっかけと参加意義、どんなミッションを自分に課した?もしくはどんな学びがあったでしょうか?
近藤:きっかけは和田さんに誘われたからですね。私にも子どもが二人いて、上の子がまだ小2なので年齢的に「ちびっこうべ」には参加できませんし、休日を潰して自分の子どもをほったらかしてというジレンマもあるのですが、大きくなった時に参加させたいと思えるものとして「ちびっこうべ」があってほしいというのが続けて参加している理由です。
前田:デザイナーとして学びはありましたか?
近藤:
オリンピックのエンブレム問題の時にもデザインが誤解されていると感じたのですが、タクシーに乗ってデザイン・クリエイティブセンターまでと言ってもうまく伝わらないことも多いし、もっと「デザイン」という言葉を普遍的にしたいという思いがあります。
そのために、子どもたちにもデザインを身近に感じてもらいたいし、それが回を重ねることで少しずつできているのかなという気はします。
前田:子どもたちからするとクリエイターの方々は先生とは違うと思いますが、どのような立場で関わるかは大事だと思われますか?
近藤:それは子どもたちが決めることでしたね。先生と呼ぶ子もいました。否定はしませんが、先生と呼ばれないようには気をつけています。
北川:先生として接してくる子どもたちは多かったです。「教育プログラム」ではなく「学習プログラム」なんだと思います。教えるのではなくアドバイス。
教育は先生が答えを持っていて、私はそれが嫌でした。
ちなみにそれが参加のきっかけです。教えるより学習したい。普段の学校教育とは違う体験ができればと思っていました。これまで「ちびっこうべ」は、ある種メルヘンチックなイメージがあったのですが、実際は違いましたね。
ちびっこうべのリアル、それぞれにとってのクリエイティブ
前田:クリエイターの皆さんは基本的にボランティアでの参加ですが、開催前の数ヶ月は実質ほぼ毎週土日が埋まるようなスケジュールです。関わるにあたり障壁などはありますか?
白須:私は前回参加している島田さんから声をかけていただきました。それと同時に教え子の春口(KIITOスタッフ)からも声がかかってたので、首を横に振れなかったですね(笑)。
実際は思っていたより3倍はしんどかったです・・・(笑)しかし、ワークショップの時間外などに、建築家同士でお互いを励ましあったり、相談し合えたのは貴重な経験でした。
前田:段取りとしてデザイナーチームよりも建築家チームの方が大変そうな印象がありましたね。
北川:大変ではありましたが、自分たちの実験やスタディとして行っていたので、やってあげるというような感覚もなく苦しくはなかったです。
濱部:自分なりのモチベーションがないとできないと思いますが、何か面白いなと思ったことはありましたか?
白須:大人が子どもに接するときに何を示せるか、職業(職能)をもっている人に憧れてほしい、なにか響いてほしい。そこには時間やお金とは関係性がないものがあるので、自分はそこに意義をもっていました。
サタケ:1回目の立ち上がるところから関わっていたので、状況はよく理解できていたので、そういった点でしんどいと思うことはなかったですね。毎回どんな子どもたちと一緒にやるかは、その時の組み合わせ次第。もちろん自分の思い通りにはいかないこともあるので、そのコントロールの大変さはあると思います。
前田:「ちびっこうべ憲章」上では、主軸には子どもたちを置きましょう、大人はあくまでサポートですというものがありますが、今回のサタケさんのチームのロゴは完成度が高すぎるという意見が上がっていたかと思いますが、いかがですか?
サタケ:今回クマがいいという意見は子どもたちが考えました。実際かたちにする際に、作業量や時間を踏まえ間に合わないという判断から、サポートすることにしました。建築で言うと下地を作る部分は大人がしてもいいのではないかという判断です。前回より踏み込みました。
前田:建築家チームは技術的な介入をしてプロセスを踏まないと完成しない部分もありますが、どこまでクリエイターがコントロールするのかはよく議題に挙がります。憲章的には大人が口出し(意思決定やコントロールなど)をするべきではないというのは、逆を言えばクリエイターが必要ないのではという解釈にもなりうると思います。
サタケ:デザイナーに関しては、シェフと建築家に比べてクリエイターの色が出にくいところがありました。関わったことでどこまで意味があったのかを検証したかったです。
今津:自分は子どものクリエイティビティをあまり信じていません。一種のエラーだと思っています。教えるという立場で関わろうと当初は思っていましたが、気をつけたのは、ただ店の飾り付けだけに関わってもらうのは建築とは言えないので、構造を含めアイデア出しから子どもたちと考えると決めていました。大人も子どもも同等の作業をするよう心がけていました。
北川:結局吊りましたけどね(笑)。
今津:制作で子どもたちと試行錯誤はしましたが、私たち的には完成できなくてもいいかなと思っていたので、そのプロセスが大事でした。
中野:できないという結果でも大丈夫です。自由度と達成感のバランスの問題だと思います。ゴールをつくることで得られる達成感だけがクリエイティブというわけではないので、それはそれでいいと思います。
今津:私は達成感を味わってほしかったので、途中から鬼になるスタンスに切り替わりましたが、北川さんは違いましたよね。
北川:私は答えを持っていないので聞かれても知らない、放置というような感じでしたね。なので子どもたちも最後の方は聞いてもムダだと感じ自分たちで解決しようとしていたので良かったと思っています。「ちびっこうべ」はキッザニアとは違うという認識があります。「ちびっこうべ」=ミニミュンヘンはプロセスを体験できるという点が合致しています。先ほど憧れの話がありましたが、私たちに憧れを持ってもらってというより、せっかくこれから先のことを考えるのだから、ああはなりたくないというような反面教師でありたいと私は考えています。
中野:「ちびっこうべ憲章」は5つありますが、3つ目にある「知る」「考える」「つくる」「伝える」の中でも「知る」ということがとても大事ですよね。クリエイターから子どもたちへ「知る」を提供することで、子どもの考えの幅が変わります。選択肢を増やせるという場の提供をクリエイターにしてもらいたいと思っています。
今津:知る選択肢が増えることは大事ですが、現状主要な職業が建築家・デザイナー・シェフの3つであることはなぜですか?
ユメミセも15店もいらないから、まちの要素を一からつくることがあってもいいのかなと思います。クリエイティブはもっと多様ですし、そのシステムの部分から関わることもあってもいいのではと思います。縛りすぎると学校と変わりません。
北川:そうゆう意味では宮大工を経て、建築家をされている菅野さん(ニコまんチーム)のような方が関わられている意味があると思います。そのような技術を残してもらいたいという思いはあります。
菅野:私は初回の「ちびっこうべ」の参加は手伝いだけだったのですが、2回目からしっかりと関わるようになりました。
近藤:クリエイターには頭と手の要素があると思いますが、菅野さんはそれを両方やられている方だと思います。
菅野:私からすると両方するのが自然なように感じます。建築家チームとして参加してくれた子どもたちは自然と両方を楽しんでいたように思います。
※菅野さんは、神戸市立竹の台小学校で「たけのわらやプロジェクト」を行なわれています。今回の「ちびっこうべ」がきっかけで、参加していただいたシェフチームのケルン壷井さんや和田さんたちを小学校に招き、ワークショップを開催するなど、KIITOを飛び出した活動へとつなげていらっしゃいます。近藤さんも冊子のデザインなどで関わられています。
LINK : たけのわらやプロジェクト
濱部:建築家・デザイナー・シェフの3職種に決定された経緯はありますか?
中野:私たちのイメージでは、「建物チーム」「仕組みチーム」「食べ物チーム」という感じです。ひとつの大きなまちをつくることが目標なので多様性は出てくるかと思いますが、その中でも比較的多い職種を選択した結果この3つの職種になりました。
イベントとして成立させるために当初はそうなりましたが、事務局内でも次回はチームが増えたり、建物の面積をもっと多様にして変化を加えたり、食以外のお店あってもよいのかなと議論をしています。
しかしそれも、3回目を終えたこらこそ初めてできる議論であって、クリエイターの皆さんからこのような話をしていただけるのは大変嬉しく思います。
白須:多様性があり、さまざまな職業があることに子どもたちも巻き込まれ、学びが加速すると思います。
中野:どこまで崩すのかというところはありますが、成り立たないと意味がないのでバランスが重要だと考え、今後検討していきたいと思っています。
今津:子どもたちにとって、すべてが受けにまわることばかりにならないようにしてもらいたいですね。
北川:そうですね。「これをやりたい」という明確な設定だけをリアライズするだけの場になるのは違うと思っています。
これからの「ちびっこうべ」
濱部:神戸のまちで教材として提案したものや、子どもたちのプログラムを通して、どのような教材があればいいと思いますか?
白須:建築家は家を建てる時にはなにもできません。誰かになにかを頼まないといけない。世間では大体は自分ではできないことを人にお願いをしてやってもらい、自分はできることをやるのが職業というものだと思っています。他の人がやっていることにリスペクトしてもらいたいです。
まちはひとりでは作れません、多くの人が関わり、多様な職業があり、それを理解した上で自分は何をできるのかを考えてもらう機会になればと思っています。
今津:私が大事にしているのは「人」と「まち」ともうひとつは「法人」だと思っています。人は子ども、まちは暮らしているから理解できているかと思いますが、我々の周りにどのような会社があるのか、法人としてどのような機能をしているのかを理解することは大事だと思います。人口を増やすという点においても、魅力的な人に魅力的なまち、魅力的な職業が必要かと。
北川:だからこそKIITOにはプラットフォームとして、寺子屋のような機能や動きをしてもらいたいですね。
近藤:「ちびっこうべ」というネーミングは素晴らしいですが、このプログラムは神戸以外にも広げていきたいですよね。
中野:実は「ちびっこうべ」は子どもの教材ではなく、大人の教材でもあります。子どもが学ぶだけではなく大人も真剣です。
スタッフの夢としては、他のまちからユメミセが「ちびっこうべ」に来ればいいなと思っています。そしてそのユメミセが自分のまちに戻った際にも、さらなる発展を生み出すキッカケになったりと。
和田:広島のデザイナーさんで、広島でやりたいと言われている方もいます。
その際も同じパッケージではなく、広島特有のことを行えばいいと思っています。ユメミセとは違ったラインでまちづくりプログラムがあり、その場でも今日の議題のような道筋をたどり学びにつながる。
前田:子どもには学校という学び場もありますが、KIITOはどのような立ち位置になりますか?
中野:「ちびっこうべ」はあくまでイベントというところがまだ大きいですが、日常と日常の間に「ちびっこうべ」という非日常があることで、日常に変化を生み出していくことがKIITOの役割だと認識しています。KIITOだけがプラットフォームとして機能してしまうと歪みが出てしまうので、別の場所でも違うことが起こってほしいです。全てが「ちびっこうべ」である必要はないと思っています。
ちなみに今回のAFTER TALKはKIITO主催ではない運営・開催ですが、なぜ「ちびっこうべ」の冠を残したのでしょうか?
前田:「ちびっこうべ」、本来は神戸のまち全体の「お祭り」のようなイメージをしていたのですが、俯瞰してみていると、起こっていることがほぼKIITOの中でしかなく、その点に違和感がありました。
神戸の方々にもっと自分ごと化してほしい、それが普通だと思い、まずは一度「ちびっこうべ」の冠を残したままKIITOを離れてみるのはどうかと思い開催を決めました。
北川:KIITOにここまでやってもらったあと、私たちがなにをするかですよね。
今津:さまざまな価値観の人がいるので、来る人もいれば来ない人もいていい。収益があるものではないので、ただ広めるだけというものでもないとは思います。
中野:有料化の話もありますが、来場者に線引きすることはしたくない。「お金」が学びのためのハードルになってはいけないと思います。神戸市の施設であるKIITOだからこそできることだと認識しています。多様性は残しておきたいところです。
北川:資本主義を「ちびっこうべ」に持ち込むことは議論しないといけないことだと思います。お金ベースで発想する子どもが多くて、そこを含めてクリエイティブに考えてもらいたいです。
既存の社会の縮図を教えたいわけではないので、これから作ることを共に考えてもらいたい。
近藤:グラフィックデザイナーは、おそらくこれから縮小されていく職種です。でもそこに制約はありません。このマークやロゴを作るから売り上げがあがるというような単純なものでもありませんし。思いもよらないことが起こり、そこに価値があるからこそ人やまちに魅力が生まれる。さらに面白いと思うことを試すことですよね。
———時間切れ———
終了時間を押してのトークとなりましたが、ここで時間切れとなります。まだまだ話し足りない雰囲気が満載でしたが今回は一旦ここまで。
実際話し合ってみるとさまざまな視点や立ち位置での論点がいくつも浮かび上がり、それがいくつか可視化できたように思いますがいかがでしたでしょうか。
すべての意見をピックアップし改善するのも難しく議論の余地もいくつか見受けられると思います。
個人的には、参加者の皆さんがある程度共通の答えを持っていて、それが浮かび上がるのかと思っていたのですが、そうも簡単なものでもなく、それこそ多様性でありクリエイティブみたいなものなのかもしれません。
そしてこのような議論をしていると実は大人の方が考えさせられているんじゃないのか!?とまた思考を巡らせられますが、このように大人が常に可能性を模索し成長へと積み重ねることが、自然と子どもたちに伝わり学びに還元されていくのだと思います。
そして「ちびっこうべ」も3回目を終え、“受け継ぐ”ということが次のまちづくりのキーワードとして加わった時に私たちになにができるのか、子どもたちや大人たちにどのような状況をバトンタッチしていくのか。関わる人も状況も変化したところで見えてきたように思います。
「おでかけちびっこうべ」について
「おでかけちびっこうべ」はKIITOを飛び出し、神戸のまちで様々な発見したり、観察したり、考えてみたり、そしておかえししたり。身近な場所や人からだけでなく、知らないまちや沢山の人と一緒に学び合う、「ちびっこうべ」のスピンオフプロジェクトです。今後子ども・親子向けを中心としたワークショップやイベントなどを開催予定です。