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2019/4/26

イベントレポート

3/12開催 +クリエイティブ公開リサーチゼミ Vol.2「人口減少時代の豊かな暮らしを神戸でデザインする」
第3回「暮らしのたのしみかたをつくるには? 人口減少期の建築とまちのデザイン」レポート

去る3月12日(火)に、「+クリエイティブ公開リサーチゼミ Vol.2「人口減少時代の豊かな暮らしを神戸でデザインする」」の第3回目を開催いたしました。今回は、神奈川大学工学部建築学科教授の曽我部昌史さんを招いて、「暮らしのたのしみかたをつくるには? 人口減少期の建築とまちのデザイン」というテーマでお話しいただきました。

曽我部さんのお話では、具体的な建築やプロジェクトの前に、人口減少についての話題に触れられることが多々あります。今回は、第1回目のゲストだった秋田大介さんが、様々な領域から「人口減少」の実態について詳細に紹介をされたので、「人口減少」それ自体が詳細に解説されるというわけではありませんでしたが、そのぶん、曽我部さんが建築やプロジェクトに関与する前提として、「自分が人口減少期に生きている」というスタンスを持っていることが際立ったのではないでしょうか。

曽我部さんにとっての「人口減少」とは、「人類史」、あるいは「文明史」と呼べるような、長く広汎な歴史への観点を持つことで、見出されるものでした。長い人類の歴史をひもとけば、随所に人口が減少した時期を見つけることができます。日本の場合だと、縄文晩期、平安末期、江戸時代中期から後期がそれに当たります。曽我部さんは、その時期に表されたもの、作られたものを取り上げながら、その時代に重要視されていたこと、人々のモチベーションになっていたものは何か、と問いかけます。人口が増えた時期とは異なるモチベーションで、人々の営みが繰り広げられていたというわけです。

人口が減っていた時代は、表されるもの、作り出されるもの「質」や、同じ物を大量に作って人口増加に追いつくよりも、文化的なもの、創造的なことに意識が向かっていたのだと。その時代の精神に光を当てて、自身もそのスタンスで建築や様々なプロジェクトに関与していく。曽我部さんにとって「人口減少」とは、「時代精神」であり、自身の「理念」でもあるわけです。「建築が人々の暮らしの受け皿であるならば、そこで豊かな暮らしを構想しよう」と。では、そのような「時代精神」と「理念」のもとで、実際に曽我部さんはどのように「活動」と「創造」を繰り広げていくのでしょうか。

実際の活動の事例としては、横浜での芸術不動産の活動、徳島県美波町、瀬戸内の大三島でのプロジェクトなどが紹介されました。その際に、いずれのケースでも共通して、曽我部さんが実際に現場に向き合うときに重要視する姿勢として挙げられたのが、「ネガティブさの反転」、「やさしさ」、「居心地の良さ」といったものでした。

四国八十八ヶ所札所の薬王寺の門前町であったものの、国道が通ったために人通りが途絶えてしまった桜町商店街、あるいは、大山祇神社を擁し、海上交通の要衝であったものの、しまなみ海道の開通で、多くの船便が廃止されてしまった大三島、いずれの場合も、取り残されてしまった状況から、新たにそれを反転できる特徴を見出し、優しさをその地域に加えて、単発に終わらず、継続的に何らかの試みを続け、そこに新たな価値観を作り出す、という点が共通しているように思われます。周囲の支配的なもの、メインストリームの強大な潮流の傍らにできた、「一時的自律領域」──曽我部さん自身は中世史の名著『無縁・公界・楽』から「アジール」という言葉を引いていましたが、そうした、なにか別のこと、新たな試みを可能にする機会と領域は、現在でも可能であり、それを成り立たせるカギが、曽我部さんにおいては「ネガティブさの反転」、「やさしさ」、「居心地の良さ」であったわけです。

むろん、地域の人びとや行政と密接に関わりながら、試みを進めることは難しいことです。前回の山崎さんのお話でも紹介されたように、様々なアクターや利害関係の中で、それを調整しながら、試みを継続することは困難が伴います。「一時的」であるのか「恒久的」であるのか、あるいは、「一部」や「外から」のものであっても、地域に根付いた「公共圏」となりうるのか、重要な「課題」が見えてきたように思います。

曽我部さんからも紹介されましたが、韓国のソウル近郊のソンミサン・マウルという地区では、ダム建設反対運動をきっかけにして、住民主導の活動が盛んになり、みんなで集まって合意を形成しつつ、新しい試みをして、地域を良くしようと活動しているそうです。この点は、住民主導の活動がどういったきっかけで起こるか、地域といかに関わるかについてのヒントになりそうです。日本の国内ではどうでしょうか?思い起こせば、国際空港の側で始まり、今もなお盛んに続く有機農業の営み、その空港まつわる運動や活動をきっかけにして、遠方へ移住し、自給自足を続けつつ、映画の上映活動を続ける試み、あるいは、現在は青帯の電車が走っている近隣での「反対」に始まり、住民の生活を大切にする視点を持ち、地域循環型の生活スタイルを築こうとした活動……etc、「これは違う」から、あらたな社会的なチャレンジを試みた動きは、こうして思いおこしてみると、日本国内でも、けっして縁遠いものではないということなのでしょう。住民が自分たちの手で、暮らしや地域のありかたをより良くかえていく、そのきっかけはどこに見いだせるのか……、そんな問いが浮かび上がりつつ、次回、第4回目へと、リサーチゼミがつながっていくように感じます。

次回は、東京理科大学理工学部教授の伊藤香織さん(都市空間デザイン、空間情報科学)を招いて、「まちの未来を創造するのは誰か?」というテーマでお話しいただきます。

+クリエイティブ公開リサーチゼミ Vol.2 「人口減少時代の豊かな暮らしを神戸でデザインする」の概要はこちら