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2015/6/8

イベントレポート

Designers 09 ミラノサローネ2015報告会「世界のデザインスクールの今とミラノサローネ出展の舞台裏」 レポート

2015年5月28日(木)

KIITOのデザイン・トークイベント「Designers」。様々な分野で活躍されているデザイナーの方々にお越しいただき、仕事の紹介やその進め方、デザインの考え方や今後の活動について、お話をして頂くレクチャー企画です。
第9回目となる今回は、デザインリサーチャーの久慈達也さん(DESIGN MUSEUM LAB)と田頭章徳さん(DESIGN SOILディレクター/神戸芸術工科大学助教)のお二人をお招きし、毎年4月に開催される世界最大規模の家具見本市ミラノサローネでの、世界各国のデザインスクールの展示についてと、神戸芸術工科大学「DESIGN SOIL」の出展の舞台裏についてお話をして頂きました。

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はじめに、久慈さんより、ミラノサローネとはどういうものなのかということと、今年の傾向についてお話いただきました。そして、今回の主題である、ミラノサローネに出展している世界各国のデザインスクールのお話へと移ります。

デザインスクールが出展するエリアは大きく分けて4つあり、中でも本会場に付随しているサローネサテリテ、新興地区であるランブラーテに出展校が集中しています。本会場内にあるサローネサテリテでは、大学の出展枠が用意され、各国の代表を選抜するという形での展示がされており、田頭さんがディレクターを務めるDESIGN SOILも、こちらの会場で3年間出展されたのだそうです。

比較的新しいエリアであるランブラーテには、26校ほどのデザインスクールが出展し、期間中最も多くの学生作品を見ることができます。ここでは、社会課題にアプローチし、主題がはっきりとした作品が多いのが特徴です。全体を通して見ると、卒業制作優秀展として出展している大学が最も多いのですが、社会性のあるテーマを設定し、学生の作品を再編集して出展している大学も見られます。また、マテリアルへのリサーチに取り組む大学が多いのも、近年の特徴なのだそうです。

社会との接続は、デザインを学ぶ学生にとって大きな課題であり、日本国内のデザインスクールも、重要視して取り組まなければならないと言われていました。

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そして次にお話して頂いたのが、2010年より神戸芸術工科大学のデザインプロジェクト「DESIGN SOIL」のディレクターとして、学生たちと一緒に毎年ミラノサローネに出展されている田頭さん。出展者ならではの、いかに荷物を軽量化し、飛行機に詰め込めるサイズと重さにするか、といった舞台裏の苦労話や、学生がミラノサローネに出展することの意義など、普段なかなか聞くことのできない貴重なお話をしてくださいました。

英語が話せない学生も、身振り手振りで自分の作品についてプレゼンします。ミラノサローネの会場を訪れる人々は、不慣れな英語にもしっかりと耳を傾け、理解を示してくれるのだそう。ミラノでは、小学生の社会科見学の授業にミラノサローネが組み込まれているほど、デザインが教育に必要なプログラムであると位置づけられています。出展者だけでなく、大人も子供も、街の人全体が連なってミラノサローネに関心を持っていることが、最大の魅力であり価値であり、日本の学生は、必ず多くの刺激を受けることになると言われていました。

今回は、実際の出展者の言葉とあわせ、各国のデザインスクールの状況を俯瞰することで、企業の新作発表の場に留まらない、ミラノサローネのもうひとつの魅力を感じていただけるトークイベントとなりました。

また、久慈さんに、今回お話して頂いた内容についてのレポートをまとめて頂きました。会場に足を運んで頂けなかったという方も、是非こちらをご覧頂き、世界各国の優れたデザイナーの卵たちの可能性と、デザイン教育の今後の展望について、再考して頂くきっかけになればと思います。

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ミラノサローネ2015レポート 久慈達也さん(DESIGN MUSEUM LAB/デザインリサーチャー)
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多くの企業が新作家具を発表する世界最大級の国際家具見本市ミラノサローネにあわせて、ミラノの市内でも様々な展示やイベントが開催される。その中には、世界各地のデザインスクールの展示も含まれており、この時期のミラノは、世界中の学生の新鮮なアイデアに触れられる貴重な機会にもなっている。

デザインスクールが主に展示している場所は、本会場フィエラに設けられたサローネサテリテ、および新興のランブラーテ地区の二カ所に集中している。若手デザイナーの登竜門として日本からも多くの出展者がいるサローネサテリテには、大学の出展枠が設けられており、日本から毎年一校が参加している。本年は、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科が出展した。芸術系大学の国際連合組織CUMULUSがミラノ工科大学(Politecnico di Milano)と合同で、ミラノ万博用の展示のプレビューを行っていたのが今年らしい話題だった。

サローネサテリテ会場風景 サローネサテリテ会場風景 アアルト大学「still leben」 アアルト大学「still leben」

作品では、ドイツのバウハウス大学ヴァイマール(Bauhaus-Universität Weimar)やパリのエコール・ブルー(L’Ecole Bleue)などが目立ったが、フィンランドのアアルト大学(Aalto University)が他校に対し頭一つ抜けていた。1.5mmの航空機用合板から作られた5脚の椅子は、同素材を用いながらもデザイナーとしてのそれぞれの個性がはっきりと感じられる形状に仕上がっていた。北欧勢お得意のガラスや陶磁器も流石の出来映え。国内ではデザインの文脈で制作されたガラス器を眼にする機会は依然として少ない。アアルト大学の展示を見ると、工芸とデザインの間を取り持つようなプロジェクトの必要性を感じさせられる。

市内に移れば、昨年の「Delirious Home」の成功も記憶に新しいフランスのECAL (Ecole cantonale d’art de Lausanne)
の展示にまず目がいく。本年のテーマは「#Photo Booth」。スマートフォンでの「自分撮り」という時代感のある主題に挑んでいた。昨年に引き続き、ECALの展示は決められた主題に沿って作品を作り込む内容であり、いわゆる優秀作品展とは一線を画している。また、同校に関して特筆すべき点は、企業とのコラボレーションの多さである。EuceplanやAxor、Vacheron Constantin等と取り組んだプロジェクトが市内の各所で展示され、ECALのブランド力を押し上げている。それぞれのプロジェクトを率いているのが、ミシェル・シャーロットやフォルマファンタスマなど現在第一線で活躍する1980年代生まれの若いデザイナーたちであることも指摘しておきたい。

ECAL「#Photo Booth」: Kévin Gouriou and Calypso Mahieu,The Selfie Project ECAL「#Photo Booth」: Kévin Gouriou and Calypso Mahieu,The Selfie Project ECAL×Euceplan 会場風景:Michel Charlotとのワークショップ ECAL×Euceplan 会場風景:Michel Charlotとのワークショップ

今年、日本の大学生にとっては明るい話題が一つあった。トルトーナ地区で行われたTOKYO DESIGNERS WEEKの中に、卒業制作作品を紹介するコーナー「TDW卒展」が新設されたのである。これまで国内の学生がミラノサローネに参加するためのチャンネルは、神戸芸術工科大学DESIGN SOILのような特殊なプロジェクトを除けば、さほど多くなかった。本企画によって、海外のデザイン関係者に直接作品をみてもらえる機会が広がったことは歓迎すべきことである。輸送や渡航に関する補助を受けられるメリットもあるので、学生にはぜひ挑戦してもらいたい。

TDW卒展会場風景 TDW卒展会場風景 Ventura Lambrate会場風景 Ventura Lambrate会場風景

さて、今年で6回目の開催となる「Ventura Lambrate」は、ミラノデザインウィークの中で最もデザインスクールが集まっているエリアである。「素材」や「構造」のスタディに取り組むドイツのオッフェンバッハ・アム・マイン造形大学(Hochschule für Gestaltung Offenbach am Main)やデンマークのオーフス大学(Aarhus University)など基礎研究的な部分を掘り下げるところもあれば、ファッションやジュエリーコースの学生も参加し、動物がいる暮らしを再考するプロダクトを並べたスイスのジュネーブ造形芸術大学(Haute école d’art et de design)のようにテーマ性の強い展示を見せるところもあった。

ジュネーブ造形芸術大学「The Animal Party」 ジュネーブ造形芸術大学「The Animal Party」 ブルグ美術学校 Carolin Schulze, Bugs Bunny ブルグ美術学校 Carolin Schulze, Bugs Bunny

今年は、万博のテーマでもあり、近年の傾向の一つといえる「食」に関するプロジェクトがやはり目立つ結果となった。スウェーデンのルンド大学(Lund University)は、「Tomorrow Collective」と題して、自家製のチーズ製造機や化粧道具など、サステナブルな生活のための雑貨を多数提案したし、ドイツのブルグ・ギービヒェンシュタイン美術大学(Burg Giebichenstein University of Art and Design)は、今後の食料供給の問題から昆虫食の可能性に言及してみせた。オランダのピート・ズワルト・インスティテュート(Piet Zwart Institute)は「Next Habitat」をテーマに、残薬やエネルギーなどの社会課題にアプローチしていた点が印象的であった。これらの大学に共通しているのは、現状の課題を踏まえてこれからの生活や社会の在り方にオルタナティブな解答を打ち出していく、スペキュラティブな姿勢である。未来の生活にどんな貢献ができるのかを真摯に掘り下げている点が、前述の「TDW卒展」に選出されていた作品たちとの根本的な違いとして表れていた。

ピート・ズワルト・インスティテュート「Next Habitat」 ピート・ズワルト・インスティテュート「Next Habitat」 デザイン・アカデミー・アイントホーヘン「Eat Shit」 デザイン・アカデミー・アイントホーヘン「Eat Shit」

今回、ランブラーテで話題をさらったオランダのデザイン・アカデミー・アイントホーヘン(Design Academy Eindhoven)もこの延長線上に位置している。「地球に食を」がテーマのミラノ万博の開催年に、彼らが投じてきたテーマは「Eat Shit」という挑発的なもの。今回の展示は、昨年設立されたFOOD NON FOODコースのお披露目という意味もあり、会場の壁面には1976年から2014年までに同校で制作された食に関するプロジェクトが時系列で張り出されていた。その年度の優秀作品を並べる展示を続けてきた同校にしては珍しいスタイルであったが、展示におけるこの変化は、裏を返せば、食との関わりを持たぬために居場所を見つけられなかった作品たちが一定数存在したということでもある。実際、昨年のデザイン・アカデミー・アイントホーヘンの卒業制作展でみかけた幾つかの作品が、オランダの若手が集ったクレリチ宮殿にてひっそりと展示されている様子が印象的だった。

デザインスクールの展示は、大学をPRするための「Show Case」としての性格が強いことは否めない。それでも企業が主役の巨大なビジネスシーンの裏側で、若い才能たちによってこれからの生活の在り方が同時に点検されているという状況は心強いことであり、他のデザインフェアとは異なる深みをミラノサローネに与えてくれていることをぜひ記憶に留めておいてもらいたい。(文責:久慈達也)