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2017/12/26

REPORT

Designers 15 デザインレポート02:海外でデザインを学ぶ レポート

2017年11月24日(金)

様々な分野で活躍されているデザイナーの方々にお越しいただき、仕事の紹介やその進め方、デザインの考え方や今後の活動について、お話をしていただく、デザイン・トークイベント「Designers」。

講師であるDESIGN MUSEUM LABの久慈達也さんに、お話していただいた内容をレポートにまとめていただきました。

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「海外でデザインを学ぶ」レポート 久慈達也さん(DESIGN MUSEUM LAB/デザインリサーチャー)
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11月24日(金)、デザイン・クリエイティブセンター神戸でトークイベント「Designers15 デザインレポート02:海外でデザインを学ぶ」が開催された。演題にいくつもの冠がついているのは、本イベントが例年5月末に開催されてきたミラノサローネ報告会の流れを組むものだからである。

5月26日の「デザインレポート01:ミラノサローネ」では、デザインスクールの展示に焦点を当て毎年4月に開催されるミラノデザインウィークの現状報告を行った。振り返りの中で一時的な展示会だけでなく、デザインスクールそのものについて取り上げてみるのもよいだろうということになり、今回は留学経験のある若手デザイナーに話を聴くことにした。

人選にあたっては後進への影響を鑑み、留学を終えて数年以内のフリーランスであることを基本に検討した。結果として、岩元さんにお願いしたのは、神戸にゆかりがあることに加え、自主企画のグループ展を開催するなどクライアントワーク以外の活動実績があったことが大きい。自らの生業だけでなく、視野広くデザインを社会に位置付けられるかどうか。デザイン都市・神戸に集うデザイナーはそうあってほしいと願ってのことである。

当日、岩元さんには自作の紹介を織り交ぜつつ、留学の動機に始まり、留学準備、留学中の生活サイクルや課題に対する取り組み方、さらには帰国後のフリーランスとしての活動、自主企画の展覧会「Re-Importation」の紹介まで、じっくりとお話いただいた。あわせて質問用紙を使っての質疑応答にも丁寧に答えていただいたので、留学を検討している方々には貴重な時間となったことだろう。

以下に続くレポートでは、岩元さんの発表順序に沿って彼のスイスでの留学体験を紹介するとともに、時間の都合で割愛した各国のデザインスクールの施設設備について筆者の知りうる範囲で補足する。

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●きっかけとしてのDESIGN SOIL
学部2年生のとき、DESIGN SOILというプロジェクトが始まることになった。ゼミの先生が講義で「ミラノサローネというお祭りのようなイベントがある」ということを熱く語っていたこともあって、参加することに決めた。

DESIGN SOILは教員と学生がフラットな関係性で議論しながら互いに作品を作り、ミラノサローネという場所で発表するというプロジェクト。1年目が「survenir(※お土産)」というテーマで、「梱包状態で飛行機内持ち込みが可能な大きさになる家具」の提案だった。サイズに制約があったことが、シンプルであることやミニマムさを重視する現在の自分のデザインの基本になった。

●海外への興味を育てたミラノサローネ
2011年に若手の登竜門と呼ばれるサローネサテリテに初めて出展した時、海外の学生作品を見て、自分とのレベル差を痛感させられた。一方で、プロも学生も関係なく、作品を多くの人に見てもらえる場所だったので、次回もまた出展したいと思った。英語の必要性もこの時に感じた。ブースに立っていると英語で話しかけられるし、自分の作品も説明しないといけない。

ローザンヌ州立美術大学(以下ECAL)を意識したのは、翌年のミラノサローネに出展した時だった。「今勢いがある大学」ということで展示を見に行ったところ、作品の面白さに加え、大学としてのプロモーション能力にも驚かされた。デザイン・アカデミー・アイントホーヘンやロイヤル・カレッジ・オブ・アートなど、今まで考えたこともないような視点で作品を展示していた他の大学にも魅かれたが、最終的に留学先としてECALを選んだのはトマス・アロンソの存在が大きい。彼のミニマムな造形表現に影響を受けたので、彼が講師を勤めているECALで勉強したかった。

●留学に向けての準備
受験に先立ち、まずはフィリピンで3ヶ月の語学留学をした。朝8時から夜8時までの授業。さらに2時間の自習というスパルタなコース。ECALの1次試験は書類選考で、2次試験が面接だった。日本と違って試験にスケッチはなく、受験者がそれまでどういう経験を積んできたのかが重視される。入学希望者にはプロのデザイナーも多く、BMWやHAYなど現場で経験を積んだ上で入学してくる。Master in Productコースにはその年、15名の合格者がいた。

●実践的なプロジェクトベースの授業
CADや工房にある機材の使い方を学ぶ基礎的な授業以外は、自分の作りたいものを作るフリープロジェクトと、企業と一緒に行う産学連携のブリーフプロジェクトを同時進行でこなす。ブリーフプロジェクトはその年々によって変わり、自分たちの年次はジャスパー・モリソンがディレクションするスイスのテクノロジー・メーカーpunktだった。

●リサーチから始まる
チューターとしてデザインスタジオBIG-GAMEのオーギュスティン・スコット・ドゥ・マルタンヴィルがつき、週2回のミーティングが行われた。中間発表のような大きなプレゼンには外部講師がそこに加わる。先生は課題に対しては辛口で、自分が考えていることと提示しているアイデアの辻褄があっているかどうかをチェックされる。「まだ遠いよ」と何度も言われた。まずはきちんとリサーチすることを求められる。「その会社らしさ」も重要な判断基準の一つだった。

プロジェクトが佳境を迎える一番忙しい時期は、朝6時に起きて学校に向かい、工房で時間の許す限り試作をする。出来上がったプロトタイプを前に、先生と30分程度のミーティングを行い、22時頃まで工房での作業が続く。帰宅してからはプレゼンの用意などをして、1時過ぎに寝るという生活だった。

●デザイナーとして必要なことを教えられる
企業とのプロジェクトでは、自分の提案が商品化されるとロイヤリティが入ってくる。だから、みんな一生懸命頑張った。ただし、ロイヤリティの半分は大学の取り分になる契約になっている。ブリーフプロジェクトのような実践的な形式が、日本と海外のレベルの差につながっていると感じる。また、制作スキル以外にも写真の撮り方の授業があるなど、自分の作品をどのように見せるかということも教わった。プロモーションの技術はフリーランスとしてやっていく上でも役に立っている。

大学の制作環境は充実していたと思う。工房にはレーザーカッターのほか、CNC加工機などが揃っており、機材の使い方も教えてもらえる。様々な素材を集めたマテリアル・ライブラリーもあった。広めの廊下では、バカラとのコラボレーションなど、他コースのプロジェクト成果がいつも展示されていて、そこからも刺激を受けた。

●帰国に向けた終了制作
修了制作は、ヨーロッパではほとんど見かけない遠赤外線ヒーターを題材に選んだ。日本に戻ると決めていたので、日本での仕事につながるような作品にしたかった。ヒーターを分解してリサーチを重ねた結果、プラスチックのパーツが熱をこもらせ、故障の原因になることがわかった。既存のモノの問題点をしっかり理解しながら、自分の作りたいフォルムに落とし込んでいく方法はECALでの学びの一つだ。最終的にはアイコニックな日本の形である「提灯」をベースに造形を整えていった。

●帰国後、やるべきこと
2016年の6月に帰国してすぐ、Re-importationという展覧会の準備を進めた。一時帰国した際に参加したトークイベントで「日本の若手デザイナーはどこにいるのか?」と問いかけられたのがきっかけだった。11月に外苑前のギャラリーでECALの卒業生4名に、イギリスから2名とオランダから1名が参加した。展覧会で伝えたかったのは、国内の大学を出てそのまま企業に入るのではなく、海外という選択肢もあるということ。昨年の展覧会を見に来てくれた人が、今年ECALに留学しているので成果は感じている。

(Re-importation01)(Re-importation02)

個人の活動としても、ありがたいことにいくつかの作品が商品化されている。スツールはECAL留学中に制作したスツールが国内メーカーから、DESIGN SOILで最初に作ったコートハンガーはスペインの会社から。見本市に出展してクライアントを見つけるのが自分の活動スタイルである。

今後の予定としては、来年のミラノサローネ出展はもちろん、Re-importationの第3回目も企画している。次回は海外留学経験者ばかりでなく、日本の若手デザイナーのハブとして様々な人が関われる展示会にしたいと思っている。

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スライドトークに引き続き、フロアからの質問に答えていただいた。多かったのは語学と資金についてだが、それらは当日場を共有した皆さんの胸の内にしまっておくことにしたい。その他の質問から気になったものをいくつか紹介しよう。

Q.留学する前にやっておくと良いことは?
A.コミュニケーション能力。英語に限らず、人との壁を作らずに気兼ねなく話せるのが大事。

Q.日本で取り入れるべき授業はありますか?
A.スイス全土のアートスクールが一堂に会して議論するプログラムがあった。卒業制作のヒントを得られるなど、同世代の関心を把握できる良い機会であった。

Q.デザインで大切にしていることはなんですか?
A.わかりやすさ。作品を通してエネルギーをかたちにすること。

Q.海外でそのまま働こうとは思わなかったのか?
A.デザイナーの多くは自分の文脈をよく理解している。どんなところで生まれ、どんな生活をしてきたのか。それがデザイナーの個性となって表れる。自分も一度日本に戻り、立ち位置を見据える必要があると考えた。

Q.テクノロジーがデザインに与える影響は大きいと思うが、フリーランスだと制作環境に制約が多いのではないか?
A.確かにECALでは工房が充実していたからできることがあった。何人かでシェアをして工房を作ることも考えている。

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補足:デザインスクールの施設設備

制作の場となる工房の充実や他者の展示に受ける刺激。これらの重要性は岩元さんの発表の中でも指摘されていたことだが、奇遇にも海外のデザインスクールを特徴付ける要素として筆者もスライドを用意していた内容だった。

ECALに限らず海外のデザインスクールは、工場をリノベーションして校舎にしている事例が多い。ECALは縫製工場、カールスルーエ造形大学は砲弾工場、スウェーデン国立美術工芸大学はエリクソン、デザイン・アカデミー・アイントホーヘンはフィリップスという具合にそれぞれの「お膝元」の工場を転用している。神戸であれば、神戸製鋼か川崎重工業の旧工場に芸術大学が入居していると考えればわかりやすいだろう。

 

(カールスルーエ造形大学)(スウェーデン国立美術工芸大学)

これまで見学した学校は、元工場という空間を生かしていずれも展示に使える空間を多く確保していた。同じ学校に通う学生がどんな考えでモノを生み出しているのか、どんなクオリティで制作をしているのかを知ることは、モチベーションの維持だけでなく、視覚的な知識の獲得という面でも無視できない。デザインスクールには展示場所として使える大小様々な空間が望まれる。

発想が実現できるかどうかに関わる制作環境は、さらに大きな意味を持つ。近年、シンガポールのデザインは活況だが、約10年前にシンガポール国立大学のデザイン・インキュベーション・センターに見学に行った際、その制作設備の充実ぶりに驚かされたことを思い出す。作るために必要な設備はその種類と制作可能サイズの双方において重要だ。同時に、学生の安全確保に努めていたスウェーデン国立美術工芸大学には見習うべき点が多い。

 

(シンガポール国立大学)(スウェーデン国立美術工芸大学)

一方で、デザイナーにとっての制作環境は、学校のみの問題ではない。アイントホーヘンを例に挙げれば、Sectie Cはじめ若手フリーランス・デザイナーが入居できるスタジオの規模は日本とは比較にならない。制作環境は制作物のスケール感に直結する。街としてクリエイティビティやイノベーションを求めるなら、若手デザイナーが存分に活動できるような支援体制が必要だ。神戸市でもKIITOやデザイン都市の諸活動を通して、スタジオ支援の体制や各種機材の使用ができる場を検討してほしい。

(sectie C)

●まとめにかえて
岩元さんとのトークを振り返ってみると、2つの「姿勢」が印象的だったことに気づく。1つは、彼が目の前の課題に対してきちんと回答を出してきたということ。DESIGN SOILやECALでの課題については当たり前かもしれない。が、Re-importationのきっかけとなった問いかけはどうか。問いがはっきりと自分に向けられていない場合、誰もが答えを用意するわけではない。

もう1つは、次の一歩を踏むための歩幅のちょうど良さ。いきなりスイスに向かわないこともそうだし、帰国を見越してテーマを設定することもそうだ。振り返ってみれば、進むべき道とそこに向けて必要なことを見極めた上での「適切な」選択だったと思わせる「現在」がある。「キャリアデザイン」という言葉は嫌いだが、進路決定においても、彼はデザイナー的であったということだろう。これからのより一層の活躍に期待したい。