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2018/8/20

イベントレポート

未来のかけらラボ トークセッション vol.12「〈小さい交通〉は都市再生の鍵」レポート

2018年7月19日(水)

未来のかけらラボ トークセッション vol.12「〈小さい交通〉は都市再生の鍵」を開催しました。ゲストは建築家・都市構想家、博士(工学)東京大学名誉教授の大野秀敏さんです。

大野さんは「小さい交通が都市を変える」という著作(佐藤和貴子、齊藤せつなとの共著)があり、これからの高齢社会、縮小化社会における「小さい交通」の重要性について唱えてこられた方です。今回は、最近の社会で起きている現象とその背景にあるもの、そこから導き出される「小さい交通」の必要性について、「小さい交通」の実例と、それらが普及するための課題、などをスライドを交えてお話しいただきました。

現在起こっていること
現在起こっていることとその背景として、印象的だったのは、1960年代以降の都市計画において推進されてきた「歩けるまち」が、高齢者にとっては生活必需品を購入するのに長い距離を歩かねばならず、車の乗り入れができなくしてあるので、タクシーを使うこともできない、という苦痛を伴うまちになっているということ。若者が中心だった時代の都市計画を、これから、高齢者がマジョリティになる社会には、考え直す必要が出てきているようです。
また、地方都市では、自動車の過依存が続いて、日常生活が自動車頼みで、ちょっとしたものを買いに行くのも車、という状況。高齢化して、自動車を使いたくない人が増えたとき、地方都市はどんどん不利になってくると言えます。

そこで、「遠くに、速く、大量(の人間や荷物)を」運ぶ〈大きい交通〉に対して「近くに、ゆっくり、少量を」運ぶ〈小さい交通〉の有用性が注目されます。すでにあるものは、もっと活用できるように、新しい手段についても着目し、普及するようにできれば、目的や体調、気分によって移動の手段を選べる、楽しい社会の姿が見えてきます。大野さん曰く、「衣食住足りて礼節を知る、という言葉があるけれど、実は、衣食住だけなら刑務所でも足りる。刑務所は移動することができない。人間とは、動けなくして閉じ込められるのが最大の苦痛。年を重ねて足腰が弱くなり、どこに移動するにも人に頼まなければいけないというのはやはりすごい苦痛で、自分で自分の好きなように動けるということが、やはり人間の基本的な人権の問題。ただそれを介助するのではなくて、もっと自分自身が、楽しめるようにして、年を取って、動けなくなったら、また別の楽しみができた、というふうに、そういう社会を早く作りたい。」

 

小さい乗り物の活用
たとえば、小さい乗り物の代表である自転車は、日本では自転車レーンがあまり整備されていなくて、道路交通法上は車両だけれど、車道も歩道も通るケースがあり、あいまい。交通事故例を見ると自転車は被害者になることが多いが、加害者になるケースも増えています。

路面電車は国も復活的に積極的なようですが、まちがほとんど自動車向きに変わってしまっていて、簡単に導入はしづらい状況のようです。
バスはもっと改良の余地があると言えそうです。もっと乗り継ぎが楽になれば使い勝手がよくなるし、バス停に自転車置き場があれば組み合わせて使えて、停留所が少し遠くても利用しやすくなるでしょう。日本はハード志向に陥りがちだけれど、たとえば、料金徴収システムの見直しも一つの可能性です。日本は全員から100%徴収しようとするシステムで、ワンマンで運転手が徴収するから、乗降に時間がかかっていますが、ヨーロッパは9割徴収できればいいようなシステムで、毎回チェックしないところもあります。9割とって安くなるなら良いのでは?また、全部同じバスでなくて、オンデマンドで乗る人がいるところだけに行くバスと組み合わせるなど。

バス停や駅の回遊に使える無料公共自転車「ちょいのり黒部」という事例があります。1年ほど運用したなかでは一台もなくならなかったそうです。ただ、黒部の10倍ほどの人口規模の高崎では7割がなくなったとのこと。人口規模でモラルが変わるし、そこで料金徴収システムを導入しようとするとかなり大変になり、課題は多そうです。

人間の持てる力を拡大する・補助する器具も移動の自由をもたらしてくれます。
たとえば、リハビリ機能を持っている半身まひの人のための足漕ぎ車いす「コギー」。
また、電動車いすを買おうとしたけど、ちょうどいいのがなかったという理由で、60代半ばの女性が自身で開発した電動カート「パルパル」。日本では電動車いすが介護保険対象になっているので高額。さらにかさばるし、重い。要介護になってからでは全体的に気力が落ちているから、そんなにまちに出ようとは思わない。本当にこういう器具がほしいと考えている人は、要介護ほどではないけれど、サポートがあるといいな、と思っている人だ、と「年金で払える金額」と設定し、とことんユーザー目線で開発されたものです。

パラリンピックなどで補助器具を活用する人を見ることがありますが、たとえば、身障者が使わざるをえない器具を、運動のためのものと考えればイメージが変わり、苦じゃなく、自分の体力に合わせた楽しみ方ができると言えるかもしれません。

電気自動車は普通の自動車の10分の1のパーツで出来ると言われています。〈小さい交通〉は自分で作れる、供給する側になれる可能性があるのがおもしろいところです。中国や台湾では電気化が圧倒的に進んでおり、組み立て式で電動自転車や電動アシスト自転車が作れるものが開発されているそうです。

〈小さい交通〉はハードだけのことではありません。公共サービスに関しては、サービスのあるところに人を移動させるのではなく、移動サービスをもう少し組織化してみてはどうでしょうか。コンパクトシティ政策では、いま遠くに住んでいる人を集めないといけませんが、いま遠くに住んでいる人に移動できるものを配るべき。急性の患者がいるような移動が難しいサービス以外の定期的なものなど、移動できるサービスはもっと考えられる。図書館、美容院、歯医者、人工透析など。過疎化が進むとサービスが維持できる人口がないまちが出てくるので、複数のまちでコストをシェアし、フルサービスをうけることができます。仮設住宅に近い考え方で、災害時には派遣ができるでしょう。

高齢社会は多様な社会と言えます。60くらいになると、顔つきや身体能力にものすごい差が出る。多様性の拡大に応えなければいけません。さまざまレベルの体調に応じた種類の〈小さい交通〉を自治体がリースするのが合理的でしょう。レベルに応じた器具を個人で賄っていくのは大変。多様な社会を支えるインフラストラクチャーになります。

 

みんなで公共サービスをまちに装備する
〈小さい交通〉の必然性を非常に強く感じたのは、公共サービスの捉え方のお話しでした。
・日本の財政はひっ迫しており、高齢化で納税者が減少することははっきりしている。それはすなわち、公共サービスが、今までのような水準で維持できなくなるが、それを必要とする人は増えるということ。今までは、住民側からすると、道路舗装や街路樹の剪定など、なるべく多く行政に要求を出して、なるべく予算を確保してもらうようなことだったのが、もうこれだけしかありませんよ、と言われ始めている。
・そうすると、自分たちのまちを住みごこちよくするためには、自分たちでやらざるをえなくなる。バスにしても、みんな必要だとは訴えても、だれも乗らないのであれば採算が取れなくて撤退する。撤退を避けるには、月に○人乗るから運賃は○円で、ただし乗車人数が半分になったら運賃が倍でも受け入れ、みんなが乗るように努める、といったように、コミュニティで乗車保証をするしかない。
・「湯水のごとく誰かが提供してくれる公共サービスの1ユーザー」という状態が、もう許されなくなる時代が確実にやってくる。地震は、来るかもしれないし来ないかもしれないが、日本の人口は、現在の出生率と人口から、数十年間は減少することが確実なので、今のような水準が、行政=自分たちの税金では賄いきれない時代がやってくる。そこでのことを考えなければいけない。
・いま、キーボード入力は誰も疑わないけど、90年代の登場前は日本語をキーボード入力するなんて誰も信じてなかった。今は親指ですいすい。30年経つとけっこう時代は変わるんです。それが、これからの方向なんだから、これから着々と準備をしていけば長者になれる、まちづくりでいえば、早めにやったまちが生き残る。小さい乗り物(ハード)と、運用するサービスのシステムの組み合わせ、まちに装備することによって、高齢社会を楽しく、力を合わせて、生き抜けるのではないか。

都市計画、交通、公共サービス、などという言葉が並ぶと、自分でどうにかする・どうにかできるようなイメージを持ちづらいですが、今回のお話をお聞きすると、自分で作った乗り物をまちの中で乗りこなし、自由に移動しているような未来を想像してワクワクしてきます。それが実現する未来に向けて、考え方やシステムの転換には何が必要か、自分なりに考え、実行していきたいですね。

大野さんの著作には、楽しそう、使ってみたい!と思わせるさまざまな小さい乗り物、それを活用するサービス(小さい流れ)が紹介されていました。また、未来のライフスタイルを紹介する「bouncy」というサイトには「Transportation」というカテゴリがあり、新しい乗り物に関するニュースが多数更新されています。ぜひ合わせてご覧ください。

未来のかけらラボ トークセッション vol.12「〈小さい交通〉は都市再生の鍵」
http://kiito.jp/schedule/lecture/articles/25777/