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2018/11/30

REPORT

+クリエイティブレクチャー フィンランドで見つけた「学びのデザイン」 レポート

2018年7月29日(日)

『+クリエイティブレクチャー フィンランドで見つけた「学びのデザイン」ー子どもから大人までがつくる街の未来-』を開催しました。

ゲストは、2009年~2012年の3年間フィンランドに滞在し、「学び」の実践を探すフィールドワークを行った大橋香奈さんと裕太郎さんご夫妻(ユニット名:ユタカナ)です。今は、神奈川県藤沢市を拠点に、香奈さんは慶応義塾大学の院で研究をし、裕太郎さんは日本工業大学で教鞭を取っています。

おふたりがフィンランドで「学び」の実践を探しに行くきっかけとなったのは、「学校のためではなく、人生のために学ぶ」というフィンランド元教育大臣オッペリッカ・ヘイノネン氏が掲げたラテン語の格言でした。裕太郎さんが研究者養成のためのフィンランド派遣プログラムに参加し、大学で文化人類学を学びフィールドワークを得意とする香奈さんも一緒に行き、ユタカナというユニット名をつけて活動することになりました。

レクチャーでは、裕太郎さんからは、取り組みの背景にある考え方やフィンランドにおける教育の歴史などを、さらに香奈さんからは学校の外での具体的な実践や理念をお話しいただきました。ここでは、その一部を紹介いたします。

 

 

 

「まなび」と「あそび」の定義と研究

まずは、「あそび」と「まなび」をめぐる世界での歴史的な定義や研究についてのお話。「学び(まなび)」と言っても、最初から教科書にあるようなお勉強というものではなく、遊び心や興味のような動機から行ったり来たりしながら内側から充実していくことではないかという考えから、「あそび」と「まなび」の両方に注目しつつ、学習観の移り変わりについても教えていただきました。

ホイジンガ、カイヨワによる遊びの定義にはじまり、実物や模型、栽培や手仕事を取り入れた直観教授、有名な「パブロフの犬」に代表される行動主義的学習観、構成主義、社会構成主義、状況的学習観など、研究の歴史をたどりました。

「あそび」と「まなび」には、原初的なところでは区別がありませんでしたが、だんだんと別れてしまいました。そこで、それらをつなげる役割として「デザイン」があり、ルールや服装、サインも含めて、学習環境を考え、整える必要があります。

フィンランド発祥!学校教育での図画工作

図画工作は、フィンランドが世界で初めて取り入れた教科で、フィンランドでの学校教育が始まった当初から教えられていました。

1866年に発布された小学校法で決められた教科は、
低学年では、宗教・母語・算数・図形(幾何)・絵画・体育。
高学年では、それに加えて、地理・歴史・理科・手工・育児・園芸・農業。

産業革命後の工業製品によって伝統的な製造技術が打撃を受けたことで、手仕事の普及をめざす運動があったこと、また土壌や気候により農作物も貧しく厳しい環境で暮らしてきたことによって、生きることに直結するような教科が学校教育の歴史の最初の最初からありました。

手工といえば…フィンランドにはセルフビルドの文化が根付いており、
おふたりのお友達も自分達の手で家を建て、さらに子どもたちはその端材を使って子ども用の小屋を作ったそうです!これは珍しい話ではなく、フィンランドではよくあることなのだとか。

 

現代フィンランドでの教育の実践

フィンランドでは2016年から「学習する喜び(Joy of learning)」という新たな考え方に基づいた基礎教育のカリキュラムが従来の教科教育と並行で実施されています。
そのポイントは、「横断的な能力(transversal competence)」「現象に基づいた(phenomenon-based)プロジェクト型(project-based)の学習」とされていて、大橋さんは小学校の見学に行った際、それを体現する場面に遭遇しました。ある少年が、レゴのマインドストーム*でギターをつくっていて、さらに英語でプレゼンしてくれたそうです!電子工作と英語、さらに音楽まで、いろんな分野の知識とスキルを使いこなしています。

他には、主に幼児教育において「学びの創造的教育学(creative pedagogy of play)」という、演劇やストーリーテリングの手法で虚構世界をつくり共有することで、子どもの対話による意思疎通の発達を助ける教育も近年広まっています。

*レゴのマインドストーム…プログラミングなどを学びながらロボットなどの設計や組み立てができる教育用のレゴ社の製品


これより、裕太郎さんから香奈さんに代わり、フィンランドで実際に取り組まれている事例の紹介です。

DESIGN MUSEUM

ヘルシンキのDESIGN MUSEUMでは、子どもの頃からデザインについて考え、理解するためのプログラムが行われています。

はじめに、フィンランドのプロダクトを使った、デザインの「なぜ?」を考えるワークショップについて。
フィンランドでとても人気がある国内メーカー「フィスカルス」の、いろんな用途別、大きさ別のはさみを対象に、そのデザインの成り立ちを学びます。なぜこういう形なのか、なぜこういう切れ味なのかなど、自分達で観察し、検証していきます。さらにワークショップをできるだけ多くの子どもに提供するため、アアルト大学とDESIGN MUSEUMが協働してオンライン教材を作りました。

ESA JA ESINEET
保育施設向けに開発されたWEBサイト(フィンランド語・スウェーデン語のみ)。フィンランドを代表する5つのプロダクトデザインを題材にしたワークショップの手順やデザイナーのインタビュービデオが閲覧できます。

もうひとつ紹介されたのは、「Fantasy design in community」というプロジェクトで、子どもたちが自らデザイナーとなり、空想からうまれたアイデアをプロと一緒になって実現するというもの。

たとえば、地域のユースセンターと連携し、センターの一部屋のインテリアをデザインしたり、裏の公園の柵を作り替えたりといったことをしています。デザイナーや建築家だけでなく、都市設計を担当する市の職員も、プロとして子どもたちに関わります。まちのデザインを変えたらどんなことが起こるのかというところまで、実際に体験できるのです。このプロジェクトは、フィンランド、スペイン、デンマーク、ベルギーの4か国で協働し、取り組まれています。

 

子どもや若者のための建築学校―Arkki

Arkki(アルッキ)は、4歳から19歳の子ども達を対象とした、放課後の習い事のような形の建築学校です。建築家を養成するためではなく、自分達が住む環境について主体的に考え変えていく力をつけることを目的に開かれています。
4~6歳のクラスでは、造形作業と遊びを通して建築を学び、7~14歳のクラスではエコロジーや持続可能性の視点からも検討・議論するようになり、さらに14~19歳のクラスでは、ドアノブから都市計画にいたるまで、異なるスケールから建築にまつわる課題を検討します。

とても実践的な取り組みとして、ヘルシンキの新しい住宅地エリアの開発コンペに、Arkkiの子どもたちが応募したこともあるそうです!そのコンペは、プロの建築家だけでなく、市民グループや子どもたちからも応募を募り、さらに全ての参加者の提案を展示とWEBで公開し、それを見た市民が自由にディスカッションできるという形で行われました。Arkkiの子ども100人と5人の建築家が参加し、10人1グループで計500時間という力の入りよう!結果として最終案に取り入れられたのは部分的な要素ですが、さいごには都市計画室の職員が、子ども達の案がどういう形で取り入れられたのか、あるいは取り入れられなかったのかを彼らにきちんと説明しました。街のデザインが重層的な意思決定によって出来上がっていく過程を子どもたちが主体となって経験した、とても興味深い取り組みです。

ユタカナのおふたりは、Arkkiと協働で「C my city!」というプロジェクトを行いました。
デジタルストーリーテリングの手法を使い、子どもたちが街に出て観察したことから気になるテーマを決めて映像で表現し、オンラインの地図上でシェアするというものです。2012年にヘルシンキが世界デザイン首都に選ばれた際の公認プログラムとなり、子どもたちの視点で街の誇りや大切に思っていることが表現され、世界へと発信されました。

 

自然学校のNature tripプログラム

フィンランドに数多くある自然学校では、小学校の課外授業などとしてNature tripが行われています。森に入って食べられる草を探したり、火を起こしたりと、なかなかに本気です。持続可能な生活、環境に対する責任について啓発することが自然学校の目的です。一度森に入ると「あの森」と思い浮かべられるようになり、自然や環境といったテーマが自分事へと近づいていくのです。

フィンランドでは、他の様々な分野においてもそうであるように、自然学校においてもそれに関心を持つ人々が集まり議論を重ねる勉強会が活発に行われています。
2020年には、自然学校に実践家として関わる人々の国際会議がフィンランドで行われる予定です。(詳細:LYKE-network

 

 

“Multicultural living rooms”という図書館の捉え方

フィンランドでは図書館の利用率が非常に高く、また先進的なアイデアを展開してどんどん発展させています。

最近では、“Multicultural living rooms”という言葉をフィンランドの図書館運営のキャッチコピーとして掲げ、図書館がただ読書の機会を提供する場所ではなく、多文化的な背景を持った人々にとって、リビングルームのように過ごしやすい場所となることを目指しています。

ヘルシンキ中央駅ほど近くに、Library10という図書館があります。音楽やインターネット、またファブラボのようなのサービスを提供する先進的な図書館なのですが、実はこの図書館は、今年2018年12月ヘルシンキに完成予定の新しい中央図書館をつくるにあたって、市民の声を取り入れたアイデアを実験的に試行することを目的の一つとして、運営されてきたそうです。“Design input from the users”という考えのもと、どんなサービスをデザインしていけばいいのか、また市民にとってどういう意味を持つのかということを、実際にテストしながら探っています。

写真:機材が並ぶLibrary10の編集室

香奈さんは、図書館職員の印象的な言葉を紹介してくれました。
―――永遠に未完成だ。
中央図書館が出来上がってオープンしても、それで終わりではなく、常に市民に開かれ、いろんなディスカッションを経て変わっていく必要があると考えられているのです。

 

最後に…

フィンランドにおける「学び」の実践の数々を見てきた中で、ユタカナのおふたりが一貫して感じたことは、“Learning by doing”=実践しながら考え、学ぶことということでした。また、前述の図書館のように、“Open-ended”=一旦完成したようでも永遠に終わらず、更新していく余地がある、というような姿勢を、フィンランドの人々は大切にしているそうです。

写真:ふせんを使って参加者のみなさんから質問をあつめました


大橋香奈さん、大橋裕太郎さんの著書
『フィンランドで見つけた「学びのデザイン」 ―豊かな人生を形にする19の実践』(2011年/フィルムアート社)


KIITOでは、2012年のオープン年から2年に一度、「ちびっこうべ」という子どもたちが自分で考え、自分たちの手で子どものまちをつくるワークショップを開催しています。4回目となる今年のちびっこうべ2018にむけて、「学び」とは何だろうといったことや、各地で実践されているワークショップのもとにある考え方や背景を知ることを目的に、このレクチャーは企画されました。

ちびっこうべ特設ウェブサイトにて開催レポートを随時アップしています。


+クリエイティブレクチャー フィンランドで見つけた「学びのデザイン」ー子どもから大人までがつくる街の未来-
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