2019/10/30
イベントレポート
9/15
Designers19文化を育てるデザインのコンパス「土地に文化をどう芽吹かせるか」を開催しました。
DesignersとはKIITOで2013年より継続して開催している、デザインの関するトークイベントで、デザインに関わりながら幅広い活動を展開する方々をゲストにお招きしながら、その仕事の紹介や進め方、デザインに対する考えについてゲストと馴染みの深いインタビュアーさんとの対話を通して紐解いていく企画です。
今回、Designers19/20では京都を中心に課題の発見からコンセプトの開発までを行うコンサルティングファームNue inc.の松倉早星さんをインタビュアーにお迎えし、人の営みとそこから生まれる文化の可能性について探っていきます。
Designers19では「土地に文化をどう芽吹かせるか」をテーマに地域と大学の交流の拠点として京都・崇仁地区の遊休地を活用した屋台村<崇仁新町>をはじめ、京都、沖縄、東京など、その土地の歴史や関係・コミュニティを加味しながら実験的な場づくりを行う小久保さんと、ものづくりの街、福井県鯖江市に拠点を置き、古くから続く地域との結びつきの中でグラフィックデザイン、商品開発や販路開拓などの方法を通して様々な文化を醸成する新山さんとの対話から、新しいカルチャーの創造とその可能性について考えます。
文化の輪郭
まずインタビュアーを努める松倉さんが捉える「文化」の概念についてお話がありました。今回のフライヤーには植物の種のイラストを使用しています。松倉さんが文化のあり方について植物の根の形を例えにこう話します。
「植物の根の構造は2つあってひとつは<リゾーム>。竹とかがこの構造なんですけど、全部が同じ遺伝子。それがコピーされていっている姿。もう一個が<ツリー>。樹々たちは全部別々のDNA。いつもこの構造が僕の頭にあって、リゾームはどちらかというと都会的、強いモノを支えるための構造。逆にツリーはローカルの形。それぞれが生命力を持って地域に根を張っているカタチ。今回2回のトークは答えを出すトークイベントではなく、文化っていうものがどういうものかを探っていこうっていう目的です。」
それぞれのゲストの自己紹介にはいります。まず、福井・鯖江で活躍をするTSUGIの新山さんの紹介です。福井は眼鏡・漆器・和紙など7つの産業が独自に発達しているものづくりの街です。「創造的な産地をつくる」をコンセプトに産業構造づくりや販路開拓といったトータルしたデザイン・ディレクションを行ってます。漆器の工房と一緒になっているオフィスでは、福井のデザインを体感できるようなSHOPや漆器工場の見学を行うことができます。
次にnoun productionの小久保さんの紹介です。京都駅すぐの崇仁地区に地域の人たちとのコミュニティの拠点とした屋台村、崇仁新町のプロデュースや、使用していない駐車場を露店式のマルシェとして活用するるてん商店など地域の経済モデルやコミュニティに関する企画・制作を行っています。
最後に今回、インタビュアーを努める松倉さん。京都にアンテルームというアートホテルのプロデュースや京都文化博物館で開催されるアートを販売するイベントARTISTS’ FAIR KYOTOなど、制作に関するコンセプト制作・ディレクションやチームメイキングをしています。
拠点の決め手
福井県・鯖江で活動を行う新山さん。出身は大阪、大学は京都で過ごした彼がなぜ福井県を活動の拠点に選んだのか。その拠点を選んだきっかけについてこう話をします。
「たまたまだったんですよね。大学を卒業する手前2008年ってリーマンショックがあったり、経済的に不安定で建築を学んでいたんですけど、その当時に新築で家を建てる事に違和感を覚えたんです。十和田アートキャンプがきっかけで、その時はじめて福井に行きました。その時、職人さんの話を聞いたり、その土地のおじさんとお酒を飲んだり。その風景がすごく美しいな・イケてるなって思えたんです。その時は産業や伝統工業にはあんまり興味はなかったんですけどね。」
東京で活動をしていた小久保さん。沖縄や新潟など様々な土地を行き来する彼が今、拠点を京都に置いているその理由とは何なんでしょうか。
「仕事がきっかけなんですけど。京都っていうコミュニティをどうしようかと思ったらその土地に住むしか方法がないって松倉さんに言われたんです。東京や大阪に比べて京都の密度ってすごく面白いと思ったんです。当時はその土地に馴染むために月40万とつかって、地域の人やおもしろい飲み屋を巡りました。」
話を受けて、松倉さんから新山さんに「福井のもこういった、地域に溶け込むきっかけになった人や場所ってありました?」と質問が入ります。
「福井に若い人が全然いなかったです。最初は隣の82歳の郵便局長のおばあちゃんと話してました。青年団に入りたいと公民館に行ったもの、そんなものは無いって言われちゃって、30代後半~40代が集まる壮年団に入りました。ぼくの福井での生活はそこからでした。」地域で何かを起こすときはキーマンを探す「誰とやるかを見極めることが重要」と小久保さんも相槌をうちます。
「今の拠点以外でも仕事をするのか」と松倉さんから2人に質問をします。
新山さんん「TSUGIチームは95%福井の仕事、残り5%は知り合いからお話しをいただいてその他の地域で仕事をします。でも自分で気分が乗らないとやっぱりいい仕事はできないので。」小久保さん「その地域に行ってみて、面白いなというものに出会えたらその地域で仕事をします。それに出会えなかったら少し考えますね。」
今ある文化に寄り添って形をつくっていくか・荒野みたく何もない土地に文化をつくっていくか、その差について話を深堀していきます。TSUGIとして活動していくこと崇仁新町を作っていくこと、そのプロジェクトのプロセスについてお話を伺います。
小久保さん「崇仁新町は、4か月くらいの制作期間しかなかったんです。まちづくりって言葉に縛られて動きが鈍くなることが多いんですよね。まちづくりは結果で、僕みたいなよそ者が何も知らないような顔して強引にカタチをつくっていきました。<土地に文化をどう芽吹かせるか>という今日のテーマに沿って考えたときに文化ってものをつくるのは自分達というより、その地域の人達が文化についてどう考えるか後からついてくるものだと思うんです。」
新山さん「TSUGIを会社にしたのが7年前、街に馴染むための下積みに3年、住みながら感じたのは地域が元気になりたかったら産業が元気にならないといけないといけないと思ったんです。地域で何をするか考えたときにデザイン(見せ方)が大切だと改めて感じたんです。でも、好き勝手モノをつくってどこかに行ってしまう外部デザイナーと会うことが多くて地域の人はデザイナーにあまりいい目は持っていなかったんです。僕が行脚して流通まで行う理由はそこにあります。デザイナーの修業を積もうと東京に行こうとしてたんですけど、地域の人に止められて鯖江市役所で働いたこともあります(笑)。若い人が職人とふれあって移住してくることがその時増えてきて、飲み会ができるようになったりして、若い人たちの声を聞けるようになったことからTSUGIのスタートでした。」
経済と文化の二輪
「経済が成り立たないと、どれだけかっこいいことを言っても意味がない。経済が回っていない文化は衰退していく。」と小久保さんは話をし、「東京の代理店さんとか地域で大規模なことをするけど、地域のことを分かっていなくて閑散とした人が集まらないものを作ってしまうことも少なくない。」と松倉さんは答えます。新山さんも「鯖江は<ゆるい移住>っていうことをスタートして元々部屋は空いているので、そこに住んでもらう、そこで集まった若い人がそのまま住むみたいな。お金を掛けずに人を呼び込むようにプロデュースできているのはいい所だと思います。」とそれに答えます。
地域をどう盛り上げていくかということは、ストレスなく人間関係を気づけるか。おもしろい建物を見るより、その土地のおもしろい人と会うことの方が何倍も大切と話をまとめます。
ゼロベースから地域のプロデュースを始めるお2人、最初の一歩をどう始めたんでしょうか。
新山さん「RE NEWも最初は1,000人しか人が来なくて、最初は小さくはじめたんです。自分達でできることからどんどんと始めていく。あと地域の人たちと距離を使づけるためにカタカナは使わないようにしました。それだけで距離が出来てしまうので。」
松倉さん「わかる。瀬戸芸にだしたことあるんですけど、その時小豆島の地域のおじちゃんに「君は何できるん?」と言われて、自分の仕事にカタカナが多すぎるし、その人たちに何にも影響がないことをしていることに気づいて「なんにもできないです」と答えたことがあって、まず伝えるために言葉を選ぶことは大事だと思いましたね。」
「コミュニケーションや関係性はじわじわと作っていくものだと思いましたね。地域と文化を繋ぐ拠点や人を見つけて馴染んでいくことが大切だと思いました。人と人との距離感・密度の設計が大切だと思いますね。」と小久保さんが話ます。松倉さんはその土地のことを知るとき街の空気や実際に歩いてみた感覚・古くからの喫茶店のおじいさんやおばあさんと話すといいます。新しい土地で何かを起こす時、実際に土地の人や関係性から読み解くそうです。シュッとしたもののデザインだが、その土地にあった愛されるためのカタチもデザインであると思うんです。と話をまとめます。
文化が生まれるきっかけは?
崇仁新町の経験を通して小久保さんはこう話します
「文化が生まれるきっかけは、人が集まった時に足りなかったか要素が必然的に集まってきたところというのもあると思うんですよね。だからこそ、土地で何かをする場合、そのキーワードを探すことも大切。」
「それは文化っていうものに対して、暴力的に強引に変わろうとしているのではなくて、緩やかに変化をしていっているということ。僕の場合は職人さんの意識が変わるとかそういう要素」と新山さんが答えます。
「コトとして起きるけど継続はしないことが多い。地方が活気づかないと日本が面白くなくなっていく」
今の都市開発について松倉さんはこう話します。
松倉さん「どこにいっても同じ風景なことは面白くない。文化を殺してしまうのは経済なのかもしれない。海沿いに高い所から景色を見たいって大きい建物を立てて景観をつぶすとか。そういうことなんて日常茶飯事にありますもんね。」
それを受け手実際にローカルで活動を行う新山さんはこう答えます。
新山さん「移住1.0は面白さに気づくような変なことを考えている人、移住2.0で来るのは参謀みたいな、3.0で面白いことをサポートできる人、4.0で普通の家族。その順番で地方に人が流れてくるから、まずそういった変な人を受け入れる先住者のリテラシーも必要。福井はまだまだ届いていない層がたくさんある。届いていない層がいるから文化までは、まだ行き切っていないのかもしれない。」「RE NEWを通して若い人たちも福井に来てくれていることで職人さんたちの意識も変わってきています。」
「魅力は幅。コンテンツの幅。京都は古い街だけど学生がいて強制的にコトが起こりやすいのが面白いところ。面白いことが起きるためには面白い人が集まることが大切、地域の仕事って数値では見えないけど、どれだけ好奇心をもっているような人が増えているかの方が大切。」と小久保さんも答えます。
ローカルに根を張り、文化を芽吹かせるお2人の話から文化とローカルの関係性について考える機会になりました。
次回は10/4「デザインと文化は、どのように紐づくか」をテーマに原田 祐馬さんと山㟢 廣和さんをお招きしてお話を伺います。
イベントページはこちら:http://kiito.jp/schedule/lecture/articles/36934/