2016/5/23
イベントレポート
2016年5月17日(火)
2016年5月24日(火)から始まる+クリエイティブゼミ vol.19 まちづくり編「神戸まちラボ CASE02 つなぐデザイン ~市街地西部地区(兵庫区南部・長田区南部)の豊醸化をめざして~」の開講に先駆けて、対象地域の現状や課題を知るためのキックオフトークセッション 「下町を住みたい町にするために」を開催しました。
人口減少・高齢化が課題となっている市街地西部地区(兵庫区南部・長田区南部)。この下町情緒のある町で、個性あふれる豊かな地域資源を生かしながら、魅力的な「住みたい・働きたい・学びたい・訪れたい町」をつくるために、さまざまな仕掛けを生み出している3名のプレーヤーをお招きして、町のいまについてお話をいただき、また、各地で地域豊醸化のための活動を行われている美術家の藤 浩志さんとともに、市街地西部地区のいまとこれからを考えていきました。
はじめに、講師の永田より、今回のキックオフトークセッションとゼミを開催するにあたっての目的や、目指すことについての説明があり、トークセッションが始まりました。
今回のゼミのパートナーである、神戸市企画調整局の方よりご挨拶をいただき、神戸市として今回のゼミに期待することについてお話をいただきました。続いて担当の方から、対象地区である市街地西部地区(兵庫区南部・長田区南部)エリアの特徴や課題、市の取り組みについて、ご紹介をいただきました。
これまで神戸市では、高齢化・人口減少が進む市街地西部地区エリアの活性化のため、地下鉄海岸線の整備や新長田駅前の再開発など、まちの整備を進めてきたと言います。この取り組みをふまえ、人口増加を主要な目的として進めるプロジェクトとして、平成26年に「地下鉄海岸線・市街地西部活性化プロジェクト」チームが結成され、活性化策の事業者公募等を行ったそうです。さらにこれからは、「Rプロジェクト」として、地域に新たなものを創りだすのではなく、既存の魅力ある資源を再発見し(「r」ediscover)、磨きをかけ(「r」efine)、市街地西部地区を再生すること(「r」eborn)を目的として、地域外・内へのエリアの魅力の発信を進めていきたいと、活動についてお話をいただきました。
次に、講師の藤 浩志さんより、ゼミを進めるにあたっての基調レクチャーとなるお話をいただきました。
人が集まる場をつくることに重要な事として、足りない部分・中途半端な部分という余剰を残す手法についてお話をいただきました。完成された場には、想定した通りの人だけが集まることが多いそうですが、足りない部分のある場では、関わる人々に何かを生み出そうとする創造性が生まれ、色々な展開が広がっていくのだそうです。
また、地域の中で活動をするにあたり、「感性」を磨くことを大切にして欲しいとアドバイスをいただきました。地域の中で自分が何を魅力に感じ、何に違和感を覚えるかということと対峙して、自分自身が地域に対してどういった立場で、何をしたいのかという価値観を客観的に見て、表現することを積極的に行って欲しいとのことでした。
次に、今回のゼミの対象地区である市街地西部地区で、個性あふれる豊かな地域資源を生かしながら、さまざまな仕掛けを生み出している3名のプレーヤーをお招きして、町のいまについてお話をいただきました。
NPO法人DANCE BOXの大谷 燠さんは、新長田でArt TheaterdB Kobeの劇場を運営、コンテンポラリーダンスの公演などを行いながら、ダンスを媒介として地域の人々と町を繋げる、さまざまな活動に取り組まれています。学生や子どもたちの創造力や、コミュニケーション能力の育成を目的にした地域の商店街を舞台にしたダンス公演「コンテンポラリーダンスin新長田」や、アーティスト・イン・レジデンスで地元小学校での多分化共生事業を行う「新長田ダンス事情」などの事例をご紹介いただき、地域住民と創造性を共有する価値について、お話をいただきました。
また、継続して地域に根ざしたさまざまなイベントを開催することにより、町外からも人が集まり、町と関わりを持つ「関係人口」が増え、それがいずれ「定住人口」にもつながりうるのではないかと、移住促進につながるお話もしていただきました。
スタヂオ・カタリストの松原 永季さんは、今回の対象エリアの中でも特に課題が大きいとされる駒ケ林地区で活動をされています。人口減少・高齢化が進む中、古くからの漁村集落の路地の構成を残し、高齢化の進んだ木造建築が密集するこの地域では、防災面が特に危惧され、その改善のための取り組みを進められています。地域の自治会の人々と相談し会議を重ね、町の魅力である特有の構造は生かしながら、空き地の防災広場化や路地の整備を行ない、改善を進めています。火災などの非常時に、路地に向けて設置されている蛇口の水を自由に使用してもよいとする「路地のじゃぐち協定」など、この地域ならではの防災対策も、地域住民から生まれたのだそうです。
松原さんは、歴史文化的拠点(記憶の空間拠点)といえる空き地・空き家を生かして活用を図ることで、地域の持つ社会構造を改善し、まちの再生につなげる活動を今後も継続して進めたいとお話をいただきました。
下町レトロに首ったけの会隊長の山下 香さんは、下町の文化や人のつながりを生かしながら、魅力を発掘・発信する活動に取り組まれています。その活動の起点である下町のレトロな魅力を紹介する「下町遠足ツアー」は、回を重ねるごとに、次々に町の宝と言える魅力が発掘され、人から人へと繋がり、今ではその魅力の張本人であった町の人々自身が担い手となって、ツアーのプログラムを企画する「くもの会」という会が結成されているのだそうです。多様な趣味嗜好を持つ人が集まり、幅広い分野のツアーがどんどん展開され、新たな視点での町の魅力発掘にも繋がっていると言います。
その繋がりから、新たなプロジェクトがたくさん生まれました。地域の主婦たちが趣味で制作する手芸作品を取り上げた「おかんアート」や、空き地のスペースを生かして、月替りで地域住民が地元の食材を使ったモーニングを提供する「空き地カフェ」など、趣味や特技を生かして、自分のライフスタイルをベースにしながら、町との関わり方をそれぞれに考え、提案する地域住民が増えており、個性的で活発な町になっているとお話をいただきました。
後半のトークセッションでは、市街地西部地区で行われているさまざまな活動紹介を受け、藤さんから、今回のゼミの対象エリアである(兵庫区南部・長田区南部)が、人々の感性を育てるための、土壌が豊かな町なのではないかとお話がありました。既にさまざまな魅力のあるこの町に対するアプローチとしては、ここで何かを「つくる」ではなく「つなげる」「ふれる」などの手法が効果的なのではないかとのことでした。また、永田から、3名の町のプレーヤーとしてお越しいただいた講師のみなさんに、ご自身が感じられる町の課題についての質問がありました。
大谷さんからは、ご自身の活動及び地域資源の継続性について懸念されているとお話をいただきました。松原さんは、地域の実情を知らず空き地のままにされている、権利者のわからない土地の活用について言及されました。山下さんは、地域内での活動がサークル化し、新しい人が入らない、新陳代謝が生まれない活動が増えてしまうのではないかとお話をいただきました。
最後に、会場からの質問を受け、トークセッションは終了しました。
2016年5月24(火)より、実際にアクションプランへと繋げるための、3ヶ月間のゼミが始まります。
詳細はこちらです。