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2019/11/2

イベントレポート

「LIFE IS CREATIVE展 2019」神戸から新しい風 ~ともに創る新しい大人社会~ レポート

LIFE IS CREATIVE展2019のスタート日である10月19日(土)、これからの連続トークを前に、<人生100年時代 未来ビジョン研究所>所長の阪本節郎さんのレクチャーを開催しました。阪本さんには、2015年にKIITOで開催した「LIFE IS CREATIVE展」においても示唆に富んだ話をお聞かせいただきました。

阪本さんは、20年間近く高齢社会についての研究をしており、「高齢者」に含まれる年齢。若い頃には67歳でこのように人前で講演している姿を想像していなかったと言います。レクチャーでは大きく4つのパラグラフに分けて、多くの調査を基にした考察をお話いただきました。

Ⅰ.人口構造が劇的に変わる
Ⅱ.50代以上の生活者が変わる
Ⅲ.ニューセブンティの登場 ~団塊世代とそれ以降世代が変える~
Ⅳ.神戸から台湾から新しい風 LIFE IS CREATIVE

  

「人生100年時代」という言葉が良く聞かれます。100歳以上の「センテナリアン(centenarian)」は、統計が初めてとられた1963年には153人でしたが、2019年9月に厚生労働省が発表した数値は何と71,238人。100歳まで生きることが特別ではなくなり、高齢者や老人のイメージも大きく変化しました。高齢社会を考える時に大切なのは「若者の未来をつくる」という意識をもつこと、というお話で、「LIFE IS CREATIVE展2019」の展示を見ることは、「若者の未来を見ること」につながるのかもしれません。

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Ⅰ.人口構造が劇的に変わる
高齢化は全世界的に進行しており、特に高齢化が進行する日本は、世界が注目していると言います。これからの日本での取り組みは、先行事例として世界のお手本になる可能性も指摘されています。今回の展示やトークを通して紹介する神戸や台湾での活動はその先陣であり、「大人文化」として世界をリードしていく可能性があるかもしれません。港町としての開放的な気風から、新しい習慣や文化を生活に取り入れてきた神戸は、「新しい大人文化」の伝統があると言い、文化を発信する素地が既に備わっているとという点でも、神戸には可能性があると言えそうです。

Ⅱ.50代以上の生活者が変わる
「シニア」「高齢者」、そして人生に対する捉え方も変化していることを、「サザエさん」を例にお話いただきました。
フネさんは52歳の設定ですが、同世代の芸能人では薬師丸ひろ子(55歳)、YOU(55歳)、小泉今日子(53歳)といったように、同年代に対するイメージの差異は明らかです。さらに、黒木瞳(59歳)、浅田美代子(63歳)、阿木耀子(73歳)、吉永小百合(74歳)といったように、フネさんを超えた年齢でも現役として活躍する芸能人も多くみられます。
浪平さんは54歳の設定で、当時では定年(55歳)を迎える手前、盆栽を趣味としていますが、今の同年代では多くの芸人(内村光良、ダウンタウン、出川哲朗、上島竜兵)が活躍しており若者にも大人気です。さらに秋元康(60歳)、桑田佳祐(63歳)、明石家さんま(64歳)、72歳である北野武は既に古希を過ぎています。
更にその上の世代でも、オノ・ヨーコ(86歳)、川久保玲(77歳)、コシノジュンコ(80歳)、黒柳徹子(86歳)、草間彌生(89歳)桂文枝(76歳)、加山雄三(81歳)、田原総一朗(84歳)など今までの「シニア」「高齢者」とは違う「新しい大人」と呼べる人たちの活躍は顕著です。超高齢社会を「人生100年社会」と呼んだ方が実感に近い理由にもあたります。
一般的にも、下り坂といった印象がある「余生」から、退職後は私生活を充実させて、人生の花を開かせたいという思いがあるように感じられます。そのような人たちも「新しい大人」であり、アメリカでは「50+(プラス)世代」ともいわれます。世界的に見ても、ミック・ジャガー(76歳)、ポール・マッカートニー(77歳)の活躍も顕著であり、彼らは若者とともに「新しい大人文化」をつくっている存在でもあります。

<黄昏中高年・成熟中高年>から<若々しくセンスのある大人>へ
<余生をおくる>から<人生の花を開かせたい>へ
<枯れて行く老後観>から<人生最高のとき>へ

こうした変化が起こっており、現在は「シニア」「高齢者」そのものあり方、そして従来型高齢者イメージの大転換期にあたると言えます。

Ⅲ.ニューセブンティの登場 ~団塊世代とそれ以降世代が変える~
では、変化を起こしていくのはどのような人でしょうか。阪本さんは「70代に入る団塊の世代」に注目しています。広義での「団塊の世代(1947~1951年生まれ)」は人口のボリュームも大きく、今まで日本の社会を変え、日本の「若者文化」を創って来た世代です。団塊の世代が70代に突入することが大きな契機になると言います。「若者文化」としてロック、ポップス、ミニスカートやジーンズ、男性の長髪などが当たり前である光景をつくって来た世代、そして「ポスト団塊の世代(1952~1960年生まれ)」は大学を「楽しむところ」に変化させ、第一次女子大生ブームを創り出した世代。日本のニュートラ(ニュートラディショナル)、ハマトラ(横浜トラディショナル)なども創った世代です。「ニュートラ」は初めての日本発のオリジナルファッションであり、その発信地のひとつが神戸女学院大学のブレザーでした。当時、阪神間はファッションの先端地でした。
70代に入る団塊の世代を、阪本さんは「ニューセブンティ」と定義し、消費を牽引し、活気ある世の中をつくる世代であると提唱しています。
「人生の最後」についての調査結果からも、70代では「元気で健康でありたい」「若々しさを失わずにありたい」「人生を全うできるような何かを見つけたい/続けたい」との回答が8割を超え、50代以上でみると割合が一番高い結果となっています。「最後まで社会に何かできることがあればしたい」という「誰かのために」という思いを持つ割合も高く、このような人たちが「LIFE IS CREATIVE展」でも紹介している取り組みに参加している、と言えます。

Ⅳ.神戸から台湾から新しい風 LIFE IS CREATIVE
阪本さんのお話からは、「余生を静かに過ごす高齢者からライフスタイルを創る新しい大人へ」という流れと変化が既に起こっていることが分かりました。人生においては「家族」がゴールとされる時代がありましたが、子どもが独立した後で新しいライフスタイルがはじまる「新しい大人」としてのライフスタイルも見られます。
「老後の住まい」「終の棲家」といったワクワクするとは言いにくい住宅のリフォームも、グランフロント梅田のパナソニックセンターでは「新しい大人のライフスタイル」として提案が行われており、大人気だそうです。ライフスタイルの提案・提示で、自分たちのこれからをイメージしやすくなります。KIITOが行う「LIFE IS CREATIVE」としての提案も大きな意味があるように感じました。
50代からの変化は「子どもの独立」「定年退職」「親の他界」。その後に「夫婦2人」と「仲間」での人生が50年続きます。韓流ドラマブームを日本に起こしたのは50-60代の女性、70歳以上の女性がL70と呼ばれ、美術館や博物館に行くことで消費が生まれていると言います。恋愛婚世代である「団塊の世代」は夫婦やパートナーとの時間を大切にする傾向があります。時間にも余裕がある彼らは、高級特急列車での旅行や、急に思い立って東京から神戸に向かい、レストランで外食、週末には台湾グルメ旅行…なども考えられるかもしれません。阪本さんからは「date.KOBE」が50-60代にも大きく広がる可能性を示唆されました。
KIITOが行う男性高齢者向けの料理プログラムは、パン、洋菓子、カレーといった神戸らしさと歴史が感じられる「大人文化」そのものであるとのご感想をいただきました。また、「仲間」との取り組みにも発展の期待が見えるとのことです。高齢者女性対象の「大人の洋裁教室」にも、ファッションという「神戸の大人文化」が感じられる取り組みてあるとコメントいただきました。
「LIFE IS CREATIVE展2019」での台湾の取り組みは「グローバル&クロスジェネレーション」が素晴らしく、日本と台湾が相互に学びあうことで、グローバルにインパクトを出していける可能性があることをご指摘いただきました。

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質疑では、モデレーターである永田から、「高齢者に向けたプログラムは、関心は持たれるが実践までは遠く感じる。実践されにくい理由は何か?」という質問がありました。阪本さんからは「ひとつの理由は高齢者に対しての固定概念が強くあること。背景にはマスコミの責任もある。固定概念の払拭には、話題になることを仕掛けるなど突破口、話題性が必要だろう」とのこと。話題性のある企画として「女子3世代ファッションショー」を提案いただきました。高齢者のためのではなく、3世代が一緒に考えて新しいファッションを創り出していく。KIITOの大空間との親和性もよさそうな企画提案です。
次に、台湾からのゲストである好好園館の紀金山さんから「高齢者に対してLIFE IS CREATIVEである、というという考えを普遍的にしていくには、どのようなことが必要か?」という質問がありました。
阪本さんからは、「従来型の常識として考えている高齢者」と「本当はこうしたいという気持ち(インサイト)」の二重構造があり、高齢者は従来型の常識にとらわれがち。しかし、本心では「自分のライフスタイルを創りたい」思っており、それを掘り起こして、かたちとして、活動として見えるようにしていくことで、LIFE IS CREATIVEであるということを理解し、実践するきっかけとなるだろう、という回答がありました。
紀さんの質問に対して永田からは、高齢者向けのプログラムを提供する立場にある人を変えて(教育して)いくことが必要であると指摘しました。

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阪本さんのレクチャーでは、「高齢者」「ニューセブンティ」は社会を変える可能性があること、人生100年時代の大切な要素としての「パートナー/仲間」「クリエイティブ」、そして若者との共創(クロスジェネレーション)による大人文化の醸成と世界に向けた発信の必要性・可能性を最後に総括いただきました。
「パートナー/仲間」「クリエイティブ」「クロスジェネレーション」による「新しい大人文化」…世界をリードしていく可能性のある活動は、「LIFE IS CREATIVE展2019」で展示されている神戸や台湾にもあるようにも思えました。

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photo:片山俊樹