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2021/11/1

イベントレポート

+クリエイティブゼミvol36 リサーチ・まちづくり編「フラワーロードを軸にSDGs共創イベントを考える。」第3回レポート

第3回目は、新型コロナウィルスの感染防止策の影響でオンラインでの開催となりました。
前半はゲストトークで企業の取組について学び、後半はグループディスカッションの時間となります。

本日のゲストは、阪急阪神ホールディングス株式会社 人事総務室 サステナビリティ推進部(社会貢献担当)平野里美さんに同社のSDGsに関する活動をお話いただきます。

 

SDGs推進の取組について

 

当社は、お客様の生活に密着した様々な事業を行っているグループです。
持続可能な社会の実現は民間の企業にも強く求められており、当社でも昨年、経営理念に基づいたサステナビリティ宣言を発表して、サステナブルな経営をこれまで以上に推進していく所存です。その際、優先的に進める重要テーマを6つ掲げて、そのテーマと関連するSDGsを推進していくことで、世界的な社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。
 

1.当社グループならびに「阪急阪神 未来のゆめ・まちプロジェクト」について

 

このサステナビリティ宣言にも基づき、現在、私が担当している「阪急阪神 未来のゆめ・まちプロジェクト」を紹介します。2009年4月から開始したグループ横断型の社会貢献活動であるこのプロジェクトは、阪急阪神沿線を中心に私たち一人ひとりが関わる地域において「未来にわたり住みたいまち」をつくることを目指すという基本方針の下、地域コミュニティが安全・安心かつ文化的で、環境に配慮しながら発展する持続可能なまちづくりである「地域環境づくり」と、未来の地域社会を担うこども達が夢を持って健やかに成長する機会を創出する「次世代の育成」の2つを重点領域としています。

「ゆめ・まちプロジェクト」では、多様な人々がより良い未来を思って心を重ねていけるようなパートナーシップが大切だと考えており、ループ各社・地域・グループ従業員を協働の柱として、下記3点を中心に活動を推進しています。
➀グループ各社が事業やノウハウや人材を活用・連携しながら年間約100件の社会貢献活動を実施。
②当社の重点領域と同じ社会課題に取組む市民団体を資金面と広報面から支援。
③従業員への啓発やボランティア活動の推進。

課題解決をするには世界に視野を広げながら、地域から行動を起こしていくことが大切である観点から、SDGsと趣旨を同じくする活動として、「ゆめ・まちプロジェクト」を今後もグループを挙げて取り組んでいきたいと思っています。本日はその取組から、いくつかご紹介します。

2.ゆめ・まちプロジェクトにおける地域社会との連携施策について
地域との連携では、市民団体との関わりを大切にしており、プロジェクトスタートより継続している取組を紹介します。

○阪急阪神沿線で活動している市民団体を資金面から支援する「阪急阪神 未来のゆめ・まち基金」
グループ従業員から集めた募金を積立て、同額を当社が上乗せして助成する制度で、毎年秋に公募を行い選出した団体を応援する取組です。団体を応援することにより、地域を応援する仕組みであり、市民団体と地域の協働を推進する入口としています。

○「阪急阪神 ゆめ・まちソーシャルラボ」
助成先には助成金を渡して終わりというのではなく、市民団体や地域との協働を推進しています。阪急西宮ガーデンズ本館内の「スタジモにしのみや」を拠点として、イベント広場や大阪梅田駅・西宮北口駅構内も活用しながら「住みたいまちづくり」に関する展示やセミナー、ワークショップをグループ会社、市民団体等と協働で定期的に無料開催。身近な場所を使って、大人向けには社会課題を自分事として捉えてもらう機会にし、こども向けには多彩な学びや体験の場を提供しています。2020年は新型コロナウィルス感染拡大の影響により、集客プログラムはすべてオンラインでの実施に切り替えたことで海外も含めて関西地域以外の方にも広く参加していただける新たな展開にも繋がりました。
次にソーシャルラボとして行っている取組を一部、ご紹介します。

➀「ゆめ・まち×スタジオ こども学びウィーク」
オンラインを活用し春休みの小学生向けに全14種類の多彩な体験学習プログラム(無料)を今年春に初開催。
・SDGsや防災について学ぶ
・動画を用いて従業員が車両工場案内
・実験やプログラミング体験など
関西圏を中心に1,000件を超える応募があり、学びの機会を求められていることを改めて感じています。

②被災地支援プログラム「ゆめ・まち GLASS to HAPPY」
2018年度から継続して行っている被災地支援プログラムは、熊本県人吉・球摩地方の酒造を紹介するオンラインイベントを開催。グループの阪急交通社と協力し、地域紹介にも力を入れながら地域を応援できる取り組みとして、取材した内容をもとにしたYouTube配信や参加者限定の飲み比べセット(期間限定)WEB販売をしました。被災地支援のプログラムから、一過性で終わるのではなく継続して行うことが大切であると学ばせてもらっています。

③「阪急阪神 ゆめ・まちオンライントーク」
助成先からコロナ関連の困りごとを寄せられる機会が増えたことをきっかけに、アンケート調査を実施。そこから生まれた施策の一つとして、、オンラインで定期的に集まってお互いの悩み相談をできるような機会を創出。「阪急阪神 未来のゆめ・まち基金」の助成金先の横のつながりを深めてもらい、当社グループと市民団体の協働の深化を目的に継続中です。当社グループ従業員を講師に招き、地域連携の事例を紹介し新たな協働を生み出すきっかけづくりを目指しています。

3.SDGsトレイン「未来のゆめ・まち号」運行について

沿線で暮らすお客様にSDGsを知ってもらうために、「ゆめ・まちプロジェクト」の10周年を記念して、阪急電鉄・阪神電気鉄道で、SDGsの達成に向けたメッセージを発信する特別企画列車を2019年5月から運行しています。

国連や外務省・環境省・自治体・企業・市民団体等と協働し、列車のラッピングと車内ポスター・ステッカー等をSDGsの情報発信に統一しました。親子で学べるようにイラストを使って子供さんが親しんでもらえるようにしています。もともと1年の予定で始めた企画でしたが、社内外から継続を望む声が高まったことにより、運行の継続を決定。更に2020年9月からは、東急グループも参画し、東西共通のヘッドマークや車内ポスターを掲出し協働運行を行っています。こういった取組を評価され、昨年12月日本政府が主催する第4回「ジャパンSDGsアワード」で特別賞「SDGsパートナーシップ賞」を受賞しました。今後も、鉄道会社らしいSDGs推進の取組として大阪・関西万博開催時期まで継続運行を予定しています。

このSDGsトレインに関連する取組として、列車をご利用されるお客様に限らず、広く子供達にSDGsについて学ぶ機会を提供するために、SDGsトレインの車内用のポスターを活用して「ゆめ・まち SDGsドリル」という名でコンテンツを制作し、当社HP上で無償公開をしています。これは、SDGsトレインの運行を続ける中で、教育関係の方や教員から「電車で見かけたポスターを授業で使わせてもらえないか。」等の問い合わせをいただいたことがきっかけで始まった取組です。昨年の4月にダウンロードできるドリルを制作して公開した所、コロナでおうち時間が増えたこともありご家庭のお母さんからも「ダウンロードしました。」とお声をいただき、多くの方にご利用いただいています。現在は動画も制作してドリルと合わせて子供達にSDGsについて知ってもらえるきっかけの1つにしています。全国からダウンロードしてもらえているので、時代に合ったコンテンツになっているように感じています。

最後に、今後の取組をご紹介します。
1点目は、現在の取組を継続・深化させることです。社会貢献や地域貢献はすぐに結果が出るものではないかもしれません。これまでの活動を息長く確実に継続した取り組みにしていき、深化させていくことを大切にしたいと考えています。新型コロナウイルスでこれまで同様の活動ができない中で、こんな時代だからこそ社会課題について考えることを止めずに、新たな方々との協働を模索することを進めていきたいと思っています。

2点目に、未来を支える子供達の育成について社会の変化に合わせながら、更に内容を充実させていきたいと考えます。
オンラインという手法が定着していく中、対面型と用途に合わせて使い分けるチャレンジを続けていきたいです。

3点目に、SDGsを共通言語とすることで、新しい方々との協働や思いもしないコラボレーションを生み出し、このプロジェクトを通じて地域や社会への貢献というところを引き続き努めると共に、SDGsの発展に向けて当社ならではのやり方で貢献できればと思います。

<発表後の質疑応答>

(ゼミ講師)山崎さん:活動の範囲が広くビックリしました。助成基金が従業員の募金で動いている仕組みも興味がわきました。従業員の活動に対する意識、募金をする時の思いや、募金をした後に自ら活動に関わったりするのか、従業員さんの意識の変化について気づきがあれば教えていただきたいです。
後半のお話の中で、教育について企業として幅広く取り組みをされていますが、企業同士や自治体、大学との繋がりがどんな可能性としてあるのか伺ってみたいです。

平野さん:1つ目の基金に関してですが、1口89円で最大84口申し込めます。カンの良い方はお気づきかもしれませんが、、、関西の企業らしく(89=ハンキュウ、84=ハンシン)ともじって、従業員には呼びかけています。89円は従業員にとってもそれほど大きな負担にならない額であり、少額でも始められることを大切にしています。当初から、「管理職になったら必ずやらないといけない!」などのような強制をしない仕組みをとっています。つまり、この取組に共感する社員が基金に加わっているところが大きな特色の一つだと思っています。
そして、関わってみてどう意識が変わったかを何人かにヒアリングしてみたところ、「地域の一員である」という感覚が強まるという声がありました。最近では、クラウドファンディングなど募金の形も色々ありますが、どこの団体を応援すべきか分からなかったり、分かりづらかったりします。会社として「この団体をこういう理由で応援したい」と明確な理由を示すことで応援しやすくなったり、取組に興味を持ちやすくなっているようです。そのあたりが会社として取り組む意義なのかなと思います。
教育の取り組みで大学や自治体との関わりがあるかについてですが、現在の状況でいうとあまりやっていないというのが実状です。プロジェクト自体が2009年から始まり、グループの中でも新しい取組ですので、まずは協働の3本柱(グループ各社・地域・グループ従業員)の協働に重きを置いて基盤を作ってきた10年でした。これからは、様々なステークホルダーと協働できる部分がないか、模索していきたいと思っています。

<ゼミ生からの質問>
質問:取り組まれている社会貢献活動がSDGsといわれ始めたころより前からやっていたことなのか、後からなのか?それがきっかけになっているのか教えてください。
平野さん:2009年からのプロジェクトで、SDGsの言葉が出てくる前から手掛けています。SDGsが言われ出した時、「世界規模でみたらこういうことなんだ!」と感じ入ると共に、「未来にわたり住みたいまち」と持続可能な社会の実現というところに親和性を感じました。我々としては取組の方向性が、社会的にも重要なことと捉えられているのだなと鮮明に感じたことを覚えています。

質問:SDGsが提唱されることで、活動が加速したり他に何か影響はありましたか?
平野さん:社会での活動の認知の高まりや、「ゆめ・まち」に似ていますよね!と従業員からの声もありました。SDGsという言葉が一般化するにつれ、周囲の認知度や共感度合、関心が高まってきているように感じます。

質問:従業員の方の意識の変化について教えて下さい。
平野さん:継続して活動を行ってきたことで「ゆめ・まち」への関心が高まってきています。もう1つ感じることは、より若手になればなるほどSDGsや社会課題に子供のころから触れる機会が多いためか、若い世代の方が、そういったことへの感度が高いなと日々感じています。

質問:活動の原資はどうされていますか?
平野さん:すべて会社の予算です。会社としてプロジェクトができた時から、年間1億円の予算を持っています。基金で従業員から寄せられる募金は全て助成金の原資にしています。

質問:効果測定についてどのようにしていますか。平野さんの実感部分も教えてください。
平野さん:プロジェクトの効果測定はこれまでは2年に1回、WEB調査をしてきました。SDGsトレインを走らせてからは毎年調査をとるようにし、トレインの認知やSDGsそのものの認知についても調査しています。2019年の秋と2021年3月の結果を比べると、SDGsの認知の高まりが顕著に表れていました。一市民としても、メディア等でSDGsを取り上げられることがこの1年くらいで増えて一般化してきているという実感を持っています。

質問:企業と参加者がwinwinになれる取り組みのポイントを教えてください。
平野さん:個人的な感覚ですが、企業も参加者・生活者の方々もその地域を支える人の集合体であることに間違いありません。私自身、企業として取り組むこともありますが、生活者としてあまり区別せずに業務をやることにしています。「その地域のため、子供たちのため、未来にためにできることって何だろう。」と考えることは、○○に所属しているではなく、今現在生きている人々の共通課題ではないかと思っています。(もちろん会社員としての立場はありますが)所属を考えすぎず、いろんな方との連携を大切にしていきたいと思います。

山崎さん:共通する問題意識として、個別の活動とSDGsがどのように繋がっているのだろうか、無理に繋げなくてもいいのですが、SDGsのイベントとなると個別の活動との違いは何だろうというところまで埋まってくると、すごくコンセプトが立ってくるんじゃないかなと思います。「横の繋がりが大切だ」とか、フラワーロード周辺でも「ブロックごとに特色が分かれていて、そこをつなぐコンセプトって何だろう」または、世代間を埋める時も同じことが言えます。そういうところの仕掛けがうまく絡んでくると、全部はカバーしないにせよ「誰一人取り残さない」に少し近づく、しかも小さな組織が単独でやっている物とは違うイベントになっていくのかなと思いました。

阪急阪神ホールディングスグループの取り組みを知ることにより、まだまだ認知されていない活動が自分たちの周りにもたくさんあるのではないかと感じてきたゼミ生たち。
SDGsという言葉で見えにくくなりそうな人や企業との繋がり方や、身近に思えるテーマをフラワーロードという舞台に落とし込んでいく作業の入り口に立ったような時間でした。

次回、4回目のゼミは8月17日(火)日本イーライリリー株式会社の細井さん、ReCura.Incの坪田さんをゲストに SDGsの取り組みについてご講演いただきます。

ゼミ概要|https://kiito.jp/schedule/seminar/articles/49439/