2022/5/11
イベントレポート
3/15(火)に+クリエイティブ公開リサーチゼミvol.3 地域社会編「大学生と社会のつながりについて考える」第1回を実施し、神戸市企画調整局つなぐラボ担当部長の藤岡健さんに行政の取組についてお話しいただきました。
7万人という学生を抱える大学都市神戸。大学は一極集中ではなく多分散しているのが特徴です。2020年度の神戸市各部局と大学の連携件数は500件程度にものぼっているとのことで、主だった事業についてご紹介いただきました。
■大学等との連携推進
・市長と学長の懇談会、大学連携実務担当者会議、そのメンバーを対象とした特別セミナーの開催
・大学都市KOBE!発信プロジェクト
ナレッジキャピタルにて研究成果常設展示・参加大学による合同イベントの開催
・市長、副市長、職員による講義
■外国人留学生の獲得、定着、活躍
市内の留学生数は現在4,000名程度
定着し活躍してもらうための取り組みを実施
・産学官検討会議
・多言語webサイト「KOBE STUDY ABROAD」開設
・居住問題等についての実証実験
■若手研究者の研究活動経費助成
・大学発アーバンイノベーション神戸
2021年度採択件数13件、採択金額45,594千円
■ふるさと納税の仕組みを活用した市内大学等応援助成
・KOBE学生サポート
市内22の大学等を選択し寄付が可能
次年度はより広く、産官学共創と人材育成の推進を目的に寄付金を活かしていく
■コロナ禍における学生の経済的支援×高齢化・人口減少による地域課題の解決支援
KOBE学生地域貢献スクラム
・神戸こども宅食プロジェクト
・高齢者向けスマホ教室
・休耕田、放置竹林を再利用した有機農業の推進
・外国人留学生の進学を応援する奨学金プロジェクト
■困窮学生の食料支援
・BE KOBE 神戸の学生フードエイドプロジェクト
次年度の構想
■地域連携プラットフォームの構築
人口減少の深刻化を見据え、大学・産業界・行政がタッグをくんで地域で人材育成をし、将来的に地元地域の活性化につなげていく取り組み
学生主体であるということを念頭に置きつつ5つの事業展開を検討中
➀大学等を超えた学生の新しい共創コミュニティネットワークの構築
➁地域の将来像の実現のために育成すべき人材育成プログラムの構築及び実施
➂大学等の研究シーズの産官学共創による社会実装化
➃優れた外国人留学生の獲得と定着支援
➄大学都市神戸の発信と共創拠点の整備
●「神戸市と大学等との連携の取り組み」神戸市企画調整局webページはこちら
様々な取り組みのお話を受けて、永田から質問です。
永田:外国人留学生の定着と活躍についてお伺いしたいです。神戸にはたくさんの外国人留学生がいらっしゃいますが、県外に流出せず神戸で勤務されるための課題はありますか。
藤岡:神戸市に限ったことではないですが、一つ目に、日本語の壁が大きいです。日本企業に就職される場合は、一般的に日本語ができることが前提となるので、どうしてもギャップが発生してしまいます。日本の社会、そして企業が留学生に対して何を期待し、どのように育成していくかを考える必要があります。
二つ目は居住の点です。就職すると居住のための場所、費用は自分で賄わなければならなくなります。また居住文化の違いについても地域社会で考えていくことが重要です。
三つ目は多様な就職口不足。現在外国人留学生の就職先はサービス業が中心ですが、年々留学生のスキル・能力は高まっているので、やりがいをもって活躍できる仕事を提供できないと、定着は難しいと思っています。または外国人のためのスタートアップ支援という方法もありますが、現在は様々な規制があるので、緩和していくことが大事だと思います。
永田:KOBE学生地域貢献スクラムは価値あるプロジェクトである一方、報酬額によって参加人数が左右されたともお伺いしています。多少そういうことが起こっても、学生が地域活動をするという面で意義のある取り組みだと考えていますか。
藤岡:コロナ禍で学生の経済活動が絶たれたことを受けて生まれた制度なので、はじめは学生支援の色が強い状態でした。昨年度の反省点を受けて、受け入れ側の団体の精査や、単発ではなく複数回参加等スキームを変更し、報酬も減額しました。連続で同じ活動に参加することで大学の枠を超えたつながりが生まれました。その中で学生自身が新たな活動を展開する流れができたり、また団体の活動に新たな息吹を与えたりすることに期待しています。折角神戸で学ばれているので、大学近辺だけでなく様々な区域に行き気づきを得てもらえれば、たとえ将来的に神戸を離れたとしてもその経験がずっと活きると思っています。
続いて視聴参加者からの質問です。
・フィードバック・効果検証はどのように実施されていますか。
藤岡:KPIを設定し、また市民還元という点では発表の機会も設けています。ただ大学は究極的に表現すると研究と教育の場なので、教育のパフォーマンスをどのように捉えるかは非常に難しい点です。地方創生においては、このような取り組みを実施することで、学生の県外流出を一人でも多く止められたという人材定着の点がアウトカムになると思います。ただ、長期的な視点でこの取り組みがどこまで影響しているのかをはかるロジックはまだなく、大学連携全体としての成果をどのように定量化できるか検証中です。
・外国人留学生を含む学生が神戸市で就職、定着するための取り組みにおける成果について教えてください。
藤岡:県外流出は加速していて、いわゆる東京一極集中になっています。いくら神戸で働きたいと思っても、希望する就職する先が無ければどうしても流出してしまいます。その点を受けて今は起業支援に注力していますが、まだ大きなうねりにはなっていないので、長期的に取り組んでいく予定です。学生のうちに神戸で様々な方々に会っていただくことが大事だと思っていて、これによってUターン、Jターン人口を増やしていけるのではないかと考えています。
・大学の授業として取り組みを実施しているところはありますか。実施している場合、産官学連携や単位認定の方法が知りたいです。
藤岡:まさに今地域連携プラットフォームで実施しようとしているところです。もちろんゼミなどでは既に単位認定しているところもあります。うまく事業と連携し、神戸市として共通単位が取得でき、それによって企業就職に有利にはたらくなど、きちんとキャリアにつなげられるスキームができれば、定着にもつながってくると考えています。是非皆さんから色々ご意見をいただきたいです。
・地域連携プラットフォームの「学生コミュニティネットワークの構築」について具体的に教えてほしいです。
藤岡:試行錯誤中で、大きなプロジェクトとして進めていく予定です。学生地域貢献スクラムもそうですが、ポストコロナ社会においてもうまくつなげていきたいと思っています。例えば学生の活動参加募集を現在各部局でかけているのを一括にまとめたり、神戸市の良い情報を発信したりできるようなデジタルプラットフォームを官民連携で開設し、神戸市で学ぶ学生のコミュニティを構築できないかと考えています。学生に市政に参加してもらい意見をいただだく意味でも必要だと思います。
・受け入れ団体側の課題や問題はありますか。
藤岡:先日地域貢献スクラムの報告会があり、高齢者のスタッフと学生、それぞれシナジーが生まれ非常に良いプロジェクトだったというお話がありました。一方で、学生を単に労働力としてみなしているケースも一部あります。そのような取り組みはなかなか継続せず、課題を抱えていると思います。団体の活動を持続させたい、学生と一緒に取り組んで育てていきたいというスタンスが重要だと感じています。
・地域貢献の学生満足度調査、大学教員側からのフィードバックはありましたか。
藤岡:学生のアンケートはとっていて、非常に高い評価を得ています。コロナ禍で課外活動の制限がかかっており、全面的な協力が難しい大学もあったため個人として参加している学生が多く、教員にはアンケートはとってはいませんが、大学と連携していくことは非常に大事だと考えています。
・人材育成において大事なことは何だと思いますか。
藤岡:単に労働者扱いをせず、学生が主体的にチャレンジできる状況を市民がサポートするという意識を一人一人が持てば、定着にも人材育成にもつながっていくと思います。そういう視点で、神戸市職員も大学で講師となり講義を行っています。教えこむことだけが人材育成ではないので、皆で学生のためにタッチポイントをつくりその土壌が市政を構築していく、場作りが大切です。
・単位や資金的な支援によるきっかけ作りは大学や行政の動きでたくさん生まれつつありますが、「深める」部分に寄り添う仕組みが多くないと感じています。
藤岡:持続性を踏まえ、行政もどこまで交付金という形で支援できるかという点もあり、ふるさと納税というスキームやSDGsなど、様々な手法を使いながら深めていくことを検討しています。また深めることも重要ですが、行政として大事にしたいことは、学生が様々な地域課題を知るきっかけを創出すること。学生が自分の興味のある地域課題について学び、社会に出て自ら体現していく。学んだことを発揮する地がもしかしたら神戸市ではないかもしれませんが、私たちがそういった循環を構築していかなければならないと考えています。地方創生の考え方が「わが町のために」という発想だけだとしんどくなると思います。学生にはいろんな将来に向かって羽ばたいていってほしい、その中で神戸市と接点を持っていただけたら、というように考えています。
ゼミ全体で地域貢献スクラムに参加し、各ゼミ生が持ち帰った課題について考え、大学で取り組んでいくことを提案してくれた先生もいらっしゃり、そういうことが広がっていけば大学教育も本当に身になっていくと思います。
次にKIITOと連携協定を締結している秋田市文化創造館の館長かつ秋田公立美術大学教授である藤浩志さんが視聴参加されていたので、特別にお話いただきました。
藤:つなぐラボの位置づけ、また事業をどんどん実施展開できる仕組みの作り方に驚きました。神戸市ならではの何かがあるのですか。
藤岡:実験都市という概念があり、とにかくトライアンドエラーで色々チャレンジしていこうという考え方をもっています。ただ打ち上げて終わってしまってはいけませんが、あまりに気にしすぎるとチャレンジができません。コロナ禍のときも、目の前に困っている学生がいるのでなんとかしたい、ただ単に資金を支援するのではなく何か一工夫したい、ということで地域貢献スクラムなどの事業が生まれました。
藤:今回は大学連携がテーマですが、つなぐラボのwebページには様々なテーマの取り組みが掲載されていて、色々な形でつなぎ、次々と新しい事業ができていくのがすごいことだと思いました。地域が魅力的に面白くなるにはいい人材が育っていく必要があり、そのためには大学が肝となって良い研究を進めていかなければなりません。今神戸市で実施されている取り組みはまちづくり、地域づくりにおいて要になってくると思います。経済面から進める方法もありますが、若い方が育っていかない限りは何もはじまらず、地域の魅力化が薄れていってしまいます。
藤岡:まさにその通りで、地方創生が大学に着目したのはその点からです。他の地域で活躍することになったとしても、神戸市は非常に面白い地域だったと言ってもらえるようになれたらと思います。
大学都市神戸における様々な取り組み内容だけでなく、その背景や想いを伺うことができ、あらためて大学、地域との連携について考えるきっかけになりました。
次回は大学関係組織のゲストをお招きし、また異なる視点からのお話をお伺いします。
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