2013/11/9
イベントレポート
2013年9月21日(土)
秋田県庁発行のフリーマガジン『のんびり』は、KIITOクリエイティブラボ入居者でもある編集者・藤本 智士さんが率いる、秋田クリエイターと県外クリエイターからなる編集チームにより作られています。KIITOのライブラリでも入荷次第すぐに無くなってしまうほど大人気。今回は、『のんびり』が生まれた背景やその作り方について、のんびりチームのみなさんにお話いただきました。
○県外チーム
藤本 智士 『のんびり』編集長。
堀口 努 アートディレクター、デザイナー。『のんびり』アートディレクター。
福田 利之 イラストレーター。『のんびり』では取材と連載も担当している。
○秋田チーム
矢吹 史子 デザイナー。『のんびり』では主に誌面の編集を担当。
笹尾 千草 ギャラリー「ココラボラトリー」運営。『のんびり』では秋田県との調整や展覧会などの企画担当。
田宮 慎 デザイナー。『のんびり』では、主にWeb・SNS管理を担当。
澁谷 和之 デザイナー。『のんびり』では、主に誌面のデザイン担当。
『のんびり』を作っている人たち
全国的に活躍していて経験値のあるクリエイターが県外から関わり、秋田を拠点に活動するクリエイターが県内での調整や、地元にいなければ難しい作業などを担い制作しています。外からの目線と内からの目線は違うので、秋田でみんなが当たり前に思っていることを県外クリエイターが発見し、地元の人たちが動くという、お互いのよさを活かした関係が作れています。
また秋田県庁との信頼関係があることも非常に大きなポイントです。記事の最終形を決めすぎずに「いきあたりばったり」で出会ったことを記事にしていくのが藤本さんの取材スタイルです。計画するということは自分の経験や想像の範疇に収めてしまうということなので、自分の想像を超える出会い、知らない情報を求めるためにそうしています。ただ、このことを行政との協働でできることは稀有なことです。やってみないとわからない、ということに対して信頼し任せてくれていることが、良いクリエイションにつながっています。
秋田チームの自己紹介
秋田チームのそれぞれのバックグラウンドをご紹介いただきました。
○矢吹 史子
もともと秋田市にずっと暮らし、フリーでグラフィックデザインの仕事をしながらイベントの企画などをしてきました。魅力的な人たちとのたくさんの出会いがあり、チラシ、ポスターなどを作ってあげられること以外に自分にできることがあるのではないか?ともやもやしていました。『のんびり』では取材の調整、テキスト執筆などの編集を担当し、1号の取材が終わった時に、これだ!と思える感覚がありました。秋田の魅力的な人たちとの人脈をフルに使える場がやっとできたと思いました。
○笹尾 千草
デザイン事務所、イベントの企画運営の他に、印刷所跡地でココラボラトリーというギャラリーを、秋田県内の作家の発表の場として運営中です。その他、トークショーや、お酒を媒介とする交流イベントを開いたりしてきました。また行政関係の業務委託を受けてアートプロジェクトもしています。文化の発信地としてのギャラリー運営、また行政との仕事をしてきた背景を『のんびり』制作に活かしています。
○田宮 慎
大学入学時に秋田から東京に出ました。就職後は商業施設や店舗の内装、企画の仕事をしていました。店舗の入れ替わりのサイクルが非常に早く、いつまでこの仕事が続くのだろうと思いました。リーマン・ショックをきっかけに、地に足をつけた息の長い仕事をしようと思って3年半前に秋田に帰りました。ゼロから新しい仕事を作ろうと思い個人事業でやっています。醤油や佃煮など、秋田にもともとある魅力的なものを再発見し、新しい形や価値を与えて発信しています。
○澁谷 和之
大学卒業後、東京の広告代理店に就職しましたが、父親が亡くなったのをきっかけに4年前に秋田に帰り、実家で農業を行いながらデザインや企画に携わっています。
東京では大きいクライアントと仕事をしていたので、自分のデザインが世に出た時どれだけ役に立っているのか実感がありませんでした。秋田に帰って初めての仕事で、乾麺のパッケージのデザインをした時に、クライアントの農家のお母さんがすごく喜んでくれたんです。地元の仲間たちとは、秋田に帰りたいが、秋田でデザインでは食べていけないと話し合っていた。けれども、この時の嬉しかった気持ちを忘れなければ秋田でもデザインできるな、と思いました。
『のんびり』の由来
秋田県の良さを伝えるフリーペーパーを作りたいという趣旨で秋田県より制作者が公募され、たくさんの団体が手を上げました。これまで、地域の価値というのは経済指標で計られてきましたが、そうではない価値観を提示するというコンセプトです。
これまで、「秋田の人はのんびりしているからだめなんだ」と地元ではネガティブにとらえられていましたが、それを魅力として発信するという意味をこめて、「のんびりしている」「秋田県はびりではない=のんびり」のダブルミーニングにしました。
このタイトルを提案することはチーム内でも議論になり、大きな賭けでした。コンペで選ばれた時に、秋田県庁に「どの提案もクオリティが高かったです。ですが『のんびり』の提案は、そもそも他とやりかたが違うものでした。県庁としてもみなさんを選ぶことはチャレンジです」と言われました。この時「心血をそそいで秋田に熱中しないといけない」と思いました。秋田固有の、というよりは“ニッポン”の未来を作っていくことを、秋田を舞台に先立ってやっていこうと思っています。
表紙メイキング
「合成でしょ」といつも言われるのですが合成でなく撮影しています。撮影は写真家の浅田 政志さんにお願いをしています。
まず、藤本・浅田で「こんな撮影をしたい」とイメージをふくらませます。最新号では東北新幹線こまちの前で宴会をしているですが、最初は誰もが「そんなアイデアは実現できるわけがない!」と思いました。ですが実際に行動を起こせば、実現できるのです。この「できた!」という瞬間に、一気にスタッフたちの視野が広がります。
「いきあたりばったり」の取材
「いきあたりばったり」の取材をするためには、突然会った人に頼ることになります。その場で電話をしてもらい、調べてもらうなどをお願いします。そんな取材スタイルなので、あと2時間のうちに会場を準備しなければならないとか、3日のうちに取材を完了させなければならないとか、急遽対応することが多々あり、全然「のんびり」していません。みんなくたくたになります。でもその熱が誌面に伝わり、読者からはたくさんの反響をいただきます。
秋田の特産品を取り寄せてもらうなどではなく、読者に秋田に足を運んでもらいたい。そのためには相当のインパクトがなければいけません。魅力的で思わず手にとったフリーペーパーに、結果的に秋田のことが載っていて、ある一人の秋田のお母さんの人生に触れる。そのようにして初めて「この人に会ってみたい」「これを食べてみたい」と思ってもらえ、時間とお金をかけて秋田に来てもらえるのです。
誌面外の展開
誌面で取り上げたテーマを、さらに多くの人に伝えるため、イベントや展覧会という形で展開することもあります。例えば「寒展」という展覧会を開催しました。秋田のお母さんたちが競って作っている寒天の文化を、編集の力によって再提示することで、自分の作ったものはこんなに素敵に見せることができるのだ、ということを作り手に認識してもらえればと思い開催しました。
また、木版画作家の池田修三さんの展覧会を現在(※2013年9月20日~10月7日)大阪にて開催しています。秋田では誰もが知っている作家で、新築祝い、結婚祝いなどの時に贈り合う様子が多く見られます。一般の方が気軽な気持ちで贈り合えるようにと、通常よりもかなり安く作品の価格を設定する池田さんの意思が今も生きています。
以上、チーム一人ひとりの強みや、個人で仕事をする上で疑問や課題に感じていたことを、それぞれが『のんびり』の制作に活かすことで、誌面が作り上げられていくプロセスが紐解かれました。参加者からは各号の具体的な内容についてや、独創的なコピーライティングが出てきた経緯についてなど、愛読者ならではの質問も飛び出し、大いに盛り上がりました。
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