2023/7/6
イベントレポート
はじめに
2023年6月20日から全6回+フィールドワーク1回による、空き家問題を考える+クリエイティブゼミが始まりました。2022年度より神戸市長田区を対象エリアに、「空き家」をテーマとして実施したリサーチゼミの第2弾です。大阪大学COデザインセンターの山崎吾郎さんと協働し、フィールドワークに重点を置く「文化人類学」の観点から「リサーチ」にフォーカスした「+クリエイティブゼミ リサーチャー養成編」を行います。
■ ゼミのテーマは、前回に引き続き「空き家」
全国的に増え続ける空き家は、神戸のまちにおいても大きな課題となっています。今回は、一時的な対処療法ではなく地域への理解やその地域に合った提案が必要なのではないかと問いを掲げ、これからの商店街のあり方や地域のつなぎ方など、商店街の空き家問題についてゼミ参加者と共に考えていきます。
本ゼミの開始前に、参加者へ「空き家から連想するキーワード5つ」をアンケート調査しました。人口減少、寂しい、ゴミ屋敷、防犯などの課題となる言葉が多くあげられる一方、リノベーション、有効活用などの前向きなキーワードも見られました。本ゼミでは実際に現場に足を運ぶフィールドワークも実施するので、空き家に対する印象の変化にも注目です。
KIITOセンター長/永田によるレクチャー
参加者全員名前と所属の自己紹介を行ったのち、永田よりKIITOの活動やフィロソフィー、デザイン都市・神戸などについて話しました。
まずは本ゼミでも重要な考え方でありKIITOのフィロソフィーでもある「風、水、土、種」の考え方、「不完全プランニング」と「+クリエイティブ」について、KIITOの事例紹介を受けます。
■ KIITOのフィロソフィー
まずは「風、水、土、種」の考え方について。地域の人たちがお互いに仲良く生き生きと暮らし、元気なまちになることを私たちは「地域豊穣化」と呼んでいます。「地域豊穣化」には、「風の人」「水の人」「土の人」の存在が欠かせません。それぞれの役割は下記の通りです。
風の人:その土地に種を運ぶ、刺激を与える存在。(KIITO)
水の人:その土地に寄り添い、種に水をやり続ける存在。中間支援的存在。(市役所、地域団体、NPO法人、大学、企業など)
土の人:そこに居続ける存在。しっかり根を張り、活動し続ける存在。(地域住民)
種とは、地域で行われている祭りや行事などのイベントのことを指します。昔はコミュニティ(土)が豊かでしたが時代の流れに伴い現在は土が枯れた状態になっています。そこで、乾いた土からでも芽が出る新種の強い種の品種改良が必要です。
「不完全プランニング」とは、強い種に必要不可欠な要素の一つで、パッケージ化されていない隙や穴のある関わりしろを必要とする考え方です。「不完全」だからこそ、みんなが関わることができ、みんなで一緒につくることができ、「みんなのもの」になり定着します。
「+クリエイティブ」とは、こちらも強い種に必要不可欠な要素の一つで、既存のプログラムやイベントに「楽しい、ワクワクする、かっこいい」などの要素を注入して魅力化し、今ある何かを作り直す、焼き直すことを意味します。
これらの話は下記のレポートでもご覧いただけます。
・+クリエイティブゼミ Vol.32まちづくり編「人口減少時代の豊かな暮らしを神戸でデザインする」第1回レポート
・【第5回】地域活動に役立てるためのクリエイティブ講座 「KIITO:300ファームスクール/イベント企画編」
新しい取り組みが生まれることを期待しているが、KIITOの考え方を通して可能性がまだまだあることを知ってほしいとのこと。基礎知識として理解を深めます。
その他、「繋ぎのデザイン」について、「お皿を用意すること」についても話を伺いました。
■ 地域との繋ぎのデザイン
世の中や地域には繋がっていない人や場所がまだまだたくさんあります。「パンじぃ」プロジェクトでは「パン屋」と「おじいちゃん」を繋ぐことで、高齢男性の居場所における社会問題を解決し、楽しく心まで元気になる繋がりをデザインしています。繋がっていないところを見つけて繋ぎ、広げていくことが大切です。
■ “お皿”を用意することの重要性
例えばKIITOの代名詞プロジェクトである、こどもの創造性を育むワークショップイベント「ちびっこうべ」を例にあげると、「街」という”お皿”を用意することで活動が生まれていきます。一緒につくってくれるパートナーを探すとそこで人との関わりも生まれます。”お皿”を用意することで自然発生的にいろんな人が”お皿”に乗ってくるということもあるそうです。この時「全てをつくる」という考え方も重要で、なんでも発注できてしまう時代にあえてサービスを拒みつくる覚悟をしてみるほうが豊かであり、そのことが必要とされています。
また、「今回は絶対にアクションすることをミッションにリサーチゼミをする、実践を意識してみてほしい」とのメッセージがありました。”土”が希薄化していて”種”を作り変えるしかない今、よい”種”を作るためには「リサーチ」が欠かせません。リサーチをもってアクションプランを考えることができます。
大阪大学COデザインセンター/山崎さんによるレクチャー
「文化人類学は特徴的な調査をする学問である」ことを踏まえて、フィールドワーク、大学、リサーチ、ノートをキーワードにレクチャーを受けました。
■ フィールドワークとは
文化人類学では、リサーチの対象となる人々と共に生活し「インフォーマント」と呼ばれる被調査者との対話やインタビューをしながら情報収集を行う方法があります。素朴な調査ですが現場を歩くことは五感を駆使して知覚することで、インターネットなどで調べる情報とは質が異なります。対象となる人々が今何を考えて生きているのかといった聞いてみなければわからないような事実に近づくことができます。一方で、文献やデータなどの先人の教えから理解を深めることも重要で、現場と文献の行き来が大切です。
■ 大学が抱えるおおきな問題
教育の視野が狭まっていることが大学のおおきな問題だと考えています。ずっと専門的な勉強をしていると社会で何が起こっているのかわからなくなってしまいます。経済のことは経済学者、法律のことは法学者というように同じ大学内でも隣の研究室の中身がわからないなど、自分の研究分野から一歩外に出ると何もわからない、話もできないということが起こっています。このことは問題でありオーバーラップさせたいと思っています。
■ リサーチ入門
リサーチは一般的に一人で行うことが多いですが、見る人によって同じ物事も違って見えてきます。だからこそ、研究者が一人でリサーチするよりもいろんな人が混ざることで面白い研究結果や課題が出てくるそうです。リサーチ入門として重要なポイントが3点あります。
①まずは調べるテーマ、問いを設定する
②ステークホルダー、アフターを見出し、その関係性を考える
③情報を収集する、つなぎ合わせる、試す
空き家がどうして問題なのか、何が知りたいのか課題をはっきりさせることが重要です。解決しない難しい問題の多くは、ちゃんと問題化されていない場合が多くあります。自分がよくわかっていないことに敏感であること、わからないことをきっかけにスタートしその輪郭をはっきりさせる必要があります。また、その場所にしかない情報を掴んでほしいです。
■ ノートをとる
記録は必ず行い、メモした情報は整理します。メモ書きと清書となるフィールドノートは分ける必要があります。ここでいうフィードノートとは10年後に見ても内容が分かるようなものでデータとして使えること、意味の読み取りが可能ですぐに元データに辿り着ける必要があります。今回のゼミではフィールドノートのフォーマットをつくり、オンライン上で共有し他の参加者のノートを参考にすることができるようにしています。
おわりに
初回ゼミの最後は、これから共にリサーチを進めるグループ内でフィールドワークに向けて話し合ったりする時間を取りました。
次回は6/24(土)にフィールドワークを実施いたします。