2023/7/15
イベントレポート
はじめに
2023年6月20日から全6回+フィールドワーク1回による、空き家問題を考える+クリエイティブゼミが始まりました。2022年度より神戸市長田区を対象エリアに、「空き家」をテーマとして実施したリサーチゼミの第2弾です。大阪大学COデザインセンターの山崎吾郎さんと協働し、フィールドワークに重点を置く「文化人類学」の観点から「リサーチ」にフォーカスした「+クリエイティブゼミ リサーチャー養成編」を行います。
今回は、KIITOセンター長の永田よりグループワークの進め方や議論をする際のルールについて、山﨑さんよりリサーチやフィールドワークでの情報整理や共有、意見交換についてレクチャーを受けます。
グループワークの進め方や議論についてのルールなど(永田)
リサーチをする前に課題の立て間違いに気をつける必要があります。「現状から課題を見出し、現状を分析したうえで解決の仮説を立て、検証し、実行すること」である「クリティカルシンキング」について話を聞きます。また徹底的かつ画期的なリサーチに同ジャンルでの先進的な事例をリストアップし、そのメカニズムを徹底的に調査する「先進事例調査」というものがあり事例の紹介を受けます。
■ 先進事例調査:事例 GEヘルスケアのMRIスキャナー
子ども病院にて、子どもがMRIの大きな音を怖がり泣き叫ぶ課題がありました。その原因はMRIの爆音にあると仮定し、MRIの製造会社に話を聞きどうにか音を抑えなければ…と変えることが難しい部分を変えようとするのではなく、「子どもが歓喜の声を上げているのはどこだろう?」と発想を転換し子どもをリサーチすることで、MRIに「明日も乗りたい」という声を引き出すまでに至った事例があります。どこに目を向けて何を調べるかで解決策は変わることを学びます。
■ 「風、水、土、種」のそれぞれにおいてリサーチとチェック
限られた時間とリソースのなかで効率よく分担し、アイデアを出しあって的確で有効なリサーチをデザインします。リサーチと+クリエイティブな企画を合わせることにより、本質的で実現性の高い強度をもったアクションプランが生まれます。第1回のゼミで紹介があった「風、水、土、種」のそれぞれにおいてリサーチとチェックが欠かせません。自分たちが全員風だとすると、水、土は誰なのか、またニーズは何で現状はどうなのか、水、土の人が育てやすく編集しやすく、展開しやすいものになるようリサーチが必要です。また企画した後は、風、水、土のそれぞれの視点からチェックを何度も行い、種をブラッシュアップします。企画は時に酔ってしまう瞬間があるので、地域の人々が本当に求めていることを企画できているのか、実現が可能であるのか、入念なチェックが必要です。
■ 「シナジー」と+クリエイティブゼミで心掛けてほしいこと5つ
+クリエイティブゼミでは、「正しい答えより楽しい答えがより正解です」というキャッチコピーを掲げています。模範解答を求めているのではなく、盛り上がっているチームからイノベーティブな案が生まれます。楽しい答えをどうすれば出せるのか、それを考えるときに「シナジー」が欠かせません。「シナジー」とは、相乗効果という意味で、ある要素が他の要素と合わさる事によって単体で得られる以上の結果を上げることを指します。スティーブン・R・コヴィーの著書『7つの習慣』の第6の習慣に「シナジーを創り出す」があります。作中で「シナジー」は「1プラス1が3にも、それ以上にもなる」、「お互いの違いを認め、尊重し、自分の強みを伸ばし、弱いところを補うこと」などと紹介されています。「シナジー」を生み出し、楽しい答えを導き出すために心掛けておくべきことが5つあります。
①謙虚な姿勢で、他人の声に耳を傾けてください。
②自分の我を通すことだけを考えないでください。
③企画ミーティングに参加している人すべての意見やアイデアを尊重してください。
④極端に遠慮しすぐることなく、自分の意見もどんどん言って積極的に参加してください。
⑤信頼関係を築きつついいチームを作りましょう!
この5点に気をつけて「そんなバカな」を言える盛り上がる環境を作ってくださいとメッセージを受けます。
リサーチやフィールドワークの整理や共有、意見交換について(山崎さん)
「フィールドワーク」という言葉について、言葉が独り歩きをしている傾向にあることや言葉に含まれるいろいろな用語の説明を受けました。例えば参与観察は、そこにあるもの、目に映るものが観察の対象となるので知りたいことがわからない状態に適切なリサーチ方法です。極めて自由度が高く、対象となる人がどんどん変わる点に難しさがあります。一方、観察やインタビューは対象が明確なリサーチ方法で、インタビューにおいては役割が明確化しているため出てくる答えもはっきりしています。どれくらい広い範囲で調査がしたいのか、どんな情報を引き出したいのか。またリサーチの対象によってフィールドワークの方法を選択する必要があります。前回実施したフィールドワークでの自分のふるまいを内省してみると気づきがあるかもしれません。
■ 情報の特徴に注目する
情報には質的データと量的データの2種類があります。質的データは分類したり、解釈したり、関連付けたりすることができる考え方や感触、価値観などのみえない(またはみえにくい)情報を指します。特徴として、安定的で再現可能性があります。量的データは数えたり、並べたり、比較したりすることができる人やモノ、色や動きなどのみえる情報を指します。特徴として、不安定であり一度しか起こらないなどの偶然性があります。自分がどんなデータを記録しているのか、認識することで自覚的になることができます。
■ 情報の種類に注目する
情報には種類があり、一次資料、二次資料、三次資料…と次数が増えるほど人の手が加わっています。一次資料は最も生に近い資料を指し、例えばインタビューを録音し、音そのものを書き起こした資料は一次資料に当たります。その一次資料を編集して出来上がった新聞記事は二次資料に当たります。さらに新聞記事を使ってレポートを書く場合、このレポートは三次資料に当たります。このように次数が増えれば増えるほど、生のデータより遠くなって行きます。遠くなればなるほど、俯瞰的に物事を見て整理することができるのでそこに意味はありますが、データから遠ざかっている実感を持つ必要があります。二次資料ばかり見ているとリアリティにはなかなか届かないということがよく言われており、だからこそ現場を見る必要があります。自分の手にした資料は何次資料なのか、資料の種類に注目することでどういった態度で読めばいいかがわかるようになります。
アクセスしづらいイメージを持たれることの多い論文や学術書には審判員が何人かいて、内容が本当に間違ってないかチェックをされ、チェックを通ったものだけが世に出ています。専門家の目が通っているからこそ確実性がかなり高い特徴があります。一方で、エッセイやブログなどは自由度が高く、その分事実ではない事柄が紛れている可能性があることを知ってから読む必要があります。
■ 資料との付き合い方
情報が溢れすぎている時代だからこそ、資料を全て読むことはあきらめるべきです。そしてなるべく最初にやるべきことは、重要そうな文献を探し、レビューが既にあればそれを参考にして集めるべきデータの当てをつくることです。例えば本屋で関係のありそうな本を10冊集め、テーマの見取り図を自分で作るという方法もあります。ここまでのことをする必要はありませんが、いろんなものを通した上で徐々に絞っていくイメージを持ってほしいです。まずは1つの情報に対して視野を狭めるのではなく、広く情報を取りに行く必要があります。
■ いい調査ってどんなもの?
信用できる内容であることがいい調査結果の基準になります。また、自分だけが読んでわかるのではなく他の人が読んで参考にできるもの、いろんな角度から検討がなされているもの、見た人が新しい視点が得られるものはいい調査結果の特徴です。一方で、自分の思いばかりが綴られている、聞きたいことだけを聞いている、キーワードを決め打ちしそのことしか調べない、というものはあまり良い調査とは言えません。
グループワークと進捗共有
60分間、チームごとにフィールドワークなどのリサーチの共有や意見交換を行い、チームの方向性を探っていきます。フィールドワークに参加した人としなかった人で認識を合わせるため、商店街の写真を見せたり図や絵を描いたりと、現地に行っていない人にわかりやすくどう伝えるかの工夫が見られます。現地に行ったからこその感想、行ってないからこそ知りたいことなどを共有します。
チーム内で話した内容やチームの方向性について共有します。フィールドワークではどんな人と出会ったか、どこに可能性がありそうか、どの空間が活用できそうかなどの情報を共有します。既に、「日替わりでママが変わるスナック」や「空き家ライブラリー」といった具体的な案も出てきます。
共有を受けて、永田と山崎さんよりコメントを受けます。永田より、「リサーチとアイデアの行き来をしている印象。フィールドワークでは出会わなかった地域に暮らす人たちにも目を向けられるといい」というメッセージを、山﨑さんより「絞るのは後でいいから今のうちにいろんなチャンネルを持っていてほしい。同じことを聞いてきても人によって感じ取ることが違う、それを感じ取ってほしい」とのメッセージをいただきました。
おわりに
第3回は7/4(火)に実施いたします。引き続き永田と山崎さんよりレクチャーを受け、次回はゲストに神戸市長田区地域協働課の渡辺さんをお招きし、長田区の空き家の現状や取り組みについてお話を伺います。