2014/3/9
イベントレポート
2014年1月29日(水)
育児をされている方や食に興味のある方を対象に、料理研究家のさかもと萌美さんをお招きし、レクチャーを開催しました。さかもとさんが今までに行っている食育講座や料理教室、それらを行うきっかけについてスライドを見ながらお話を聞きました。その後、昆布、鰹、干し椎茸の出汁を飲み比べ、出汁を使った料理や、甘い、酸っぱい、苦いなどの味覚を確認しながら学びました。
きっかけ
幼稚園などを会場に食育講座などで味覚の授業を行っています。また離乳食講座やお箸講座なども行っています。今回は昆布、干し椎茸、鰹の出汁を単体で飲み比べ、次に昆布と鰹の合わせ出汁を飲み、うまみを舌で感じてもらいたいと思います。私が子どものころは、家族で外食する際にルールがありました。それは「大人と同じように食べられること」でした。好き嫌いやマナーを守れない場合は連れて行ってもらえませんでした。そこでお箸の使い方もみっちり指導されました。
母の影響でオペラ歌手を目指し、イタリアに住んでいたことがあります。オペラのトレーニングでは体中を使って行うので、とてもお腹が減り、レッスン後の食事がとても楽しみでした。お世話になったイタリアの家庭では、子どもがキッチンの近くで宿題をしており、必ずキッチンを周り、食卓の周りに家族がいつも集まっていました。日本ではそれぞれ食事以外は自分の部屋などに移ってしまうことが多いです。イタリアでこんな言葉を学びました。“食卓は学校である” 週末は家族みんなで集まって食事をします。テーブルを基本にして、楽しい事、悲しい事、さまざまなことを家族で共有します。もちろん躾も。
家庭の現状
現在、1人で食事をしている子どもが大変多いです。中学生の7割の子どもが1人で食べているとも言われています。食育講座をしていると、参加している子どもの食事をする姿勢が悪いことに気づきます。1人で食べていると、「いただきます」「ごちそうさま」もいう事がありません。子どもに食事をしている絵を描かせてみると、大きなテーブルに小さい自分を描き、近くにはペットの犬が描かれています。コンビニ弁当を1人で食べている現状に、これは考えなければいけないと思いました。現代のお母さんは多忙です。できる限り簡単で、家族が「おいしいね」と言い合えて、子どもにとってお母さんの味は、これだと言える、子どもが30歳になっても、「あれ(お母さんの味)を作ってよ」と言えるような味覚をつくってもらい、次の世代へつないでいければと思います。
食育とは
食育のイメージはどんなものでしょうか。食育という言葉は明治時代に石塚左舷という人が食育という話をしています。知育、徳育、体育を全人教育と言い、これを提唱しました。現在はこれらのバランスがあまりよくない子どもが多いように感じます。知育、徳育、体育は学校で学びます。さらに食育を足し、食育は家庭で学びます。また才育といい子どもの得意を見つけるのも家庭です。これらは明治時代から言われていました。
調理学校で学生に朝食を食べているかアンケートがあり、大多数が食べていないという結果でした。学校でも生徒に指導し、改善を試みましたが、2年後の再検査で朝食を食べていると答えた学生は、たった3%しか増加していませんでした。若い学生に何か教え込んでも、頭では分かっていても、生活を正すのはとても難しいです。幼稚園で行っている食育講座でも教育効果がでるまでには数年かかるようです。
調理学校ではフレンチのシェフになりたい学生が1番多く、続いてイタリアン、パテシエ、そして4番目に日本食になります。おせち料理をつくる授業があります。出汁を取ったりするので、そこで出汁を取ることがあまり面倒でないことに気付く学生もいます。中には取った出汁をペットボトルに保存して使用している学生もいます。このように気付いてもらうことも重要です。小さいうちに味を知ってもらうことが大切であると感じ、離乳食講座を行っています。出汁をベースに、季節の野菜を加え、野菜の良さを生かしています。離乳食を家族の食事と別につくるのはとても面倒です。そこでみんなで同じものメニューで、少し塩分などを調整できるレシピも紹介しています。子どももおいしい味を知っています。私は食育ではなく食卓育という言い方で行っています。
日本の出汁
出汁の飲み比べです。まずは昆布から飲んでいただきます。昆布のうまみ成分はグルタミン酸です。子どもに飲ませると、ごくごく飲みます。母乳の成分と同じなので、子どもは知っている味なので離乳食を始めるときはいいと思います。今回は真昆布を使用しています。京都で使われており、味は少し薄めです。関東では羅臼昆布がよく使われています。余談ですが、大阪城の大きな石垣を運ぶ際に、下に昆布を敷き、昆布のぬめりを利用して運んだとも言われています。子どもにはカルシウム、鉄分が必要なので、昆布がそれを補います。20代のご家庭にはほとんど昆布がありません。ぜひお家に置いてください。4,5年前からフランスのシェフは昆布水に注目しています。なんて簡単に出汁が取れるのかと驚いたそうです。ユネスコの無形文化財にも和食が登録されました。日本の出汁文化が良いと言われていますが、あまり家庭ではつくられていません。昆布は水溶性の食物繊維で、腸内の余分なコレステロールを取るので、ダイエット効果もあり、また膨らむので満腹効果も得られます。昆布の出汁は、2時間ぐらい水につけ、昆布が気持ちよく泳いでいたらいい感じです。80℃の温度を保ち、約20~30分炊くという方法もあります。出汁を取った昆布は、キッチンばさみなどでカットし、サラダと一緒に混ぜたりしています。
鰹節は世界一固い食べ物と言われています。生の鰹を3枚に下ろし、茹でて、何度も燻して水分を抜きます。その後カビをつけては天日干し、カビをつけては天日干しを繰り返して熟成させていき、どんどん水分を抜いていくことで、あのような固い鰹節ができあがります。昔は縁起の良い食べ物として、お祝い時にも食べられていました。鰹は回遊魚なので、筋肉が強く、アンセリンやカルノシンというアミノ酸の仲間が含まれており、人の疲労を和らげる効果があると言われております。沖縄では鰹の出汁を体調の悪い時に飲みます。鰹と昆布の出汁を合わせると、うまみは何倍にもなります。
次は干し椎茸の出汁です。まずは香りを嗅いでから飲んでみましょう。個性的な味です。これだけではなかなか使いにくいものです。スープなどに入れることでコクが出るので、おすすめです。昔は天日干しされていましたが、現在はほぼ機械による乾燥になっています。
試食|もちもち炊き込みご飯
準備した炊き込みご飯は、昆布と鰹の出汁でつくっています。出汁を取った昆布や干し椎茸を細かく刻んだものも入れています。そうすることで、捨てるものがなくなります。もち米を入れているので、もちもちした食感になっています。具材の金時人参は一般的な洋人参よりもトマトにも含まれるリコピンを多く含んでおり、とても赤い色をしています。この時期はまだ多く販売されているので、ぜひ使用してみてください。リコピンは抗酸化作用が強いのでサビない身体になります。
試食|ミートローフ
このミートローフは干し椎茸をたっぷり入れています。とても簡単にできるメニューです。牛ミンチ、豚ミンチ、鶏ミンチを6:3:1の比率で混ぜることでやわらかく仕上がります。固めにつくりたい場合は鶏の割合を多くします。ピーマンや茄子など子どもが苦手な食材を、細かく刻んで入れることで、知らずに子どもは食べます。子どもは知らずに食べながらも、味覚をどこかで覚えています。小さい頃は嫌いな食べ物が、大人になると好きな食べ物になった経験もある方もいるでしょう。小さい時にいろいろな味覚を経験することが大切です。
試食|甘い、酸っぱい、苦い
おまめ、なます、ごまめを準備しました。おまめは甘い、なますは酸っぱい、ごまめは苦いものです。おまめには八角が入っています。日本では黒豆を炊きます。なますには柚子の果汁も入れています。甘いもの→酸っぱいもの→苦いものの順番に食べてもらいましたが、口に違和感が残りません。そこが日本料理のすばらしい所です。
味覚スイッチ
口中調味という言葉をご存知でしょうか。口の中で味をつくることです。これは日本だけで、海外ではありません。日本は三点食べを行い、自分の中で好きな味覚をつくります。お箸を使うことで、中指と薬指を上手に動かすことができます。この2本の指の筋肉は二頭筋というつながった筋肉です。上手に分けて動かすことはとても難しいことで、脳にも良い刺激を与えています。可能であれば利き手とは逆の手でも試してください。子どもがお箸を握り箸でもってしまう原因の一つに、お箸が長すぎることがあります。菜箸で食事をしているような感じです。子どもの手の大きさに合ったお箸を持たせるようにしてください。
料理をするお母さんが嫌いなものは食卓になかなか出ません。つまり、子どもがそれを口にする機会がありません。子どもの味覚を築きあげるためにも、お母さんは食べなくてもかまいませんので、ご自身が嫌いなものでも食卓に出してあげてください。甘いもの、塩辛いもは口にする機会が多いので、子どもの味覚のスイッチが押されますが、それだけの子どもがとても多いです。子どもは嫌がるかもしれませんが、少しでも口に入れ、苦いや酸っぱいの味覚スイッチも小さいうちに押すようにしてください。
気持ちのいい生活
食の質が悪くなると、人間の質が下がると言われています。また国力が劣化するとも言われています。早寝、早起き、朝ご飯、これは学校でもよく言われていることですが、これは本当に意味があります。朝ご飯を食べた後の排便する時間が必要になります。早く寝て、早く起きて、ちゃんと食べ、その後時間をとって、しっかり排便してから学校に行くことが大切です。また、家族で食卓を囲んでください。お父さんもお母さんも子どももとても忙しいですが、少しでも家族で食事をする時間をつくってください。外食ではなく、できればお家で食べてください。家族は一番小さな社会です。この小さな社会でうまくいかなければ、外の社会でもうまくいきません。味覚形成は前頭葉ができあがる8歳頃と言われていますが、私の経験では2歳ぐらいまでの間で子どもの味覚の基本ができます。自分の体に気持ちいがいいものを感じながら、気持ちのいいものを食べる、気持ちいいものを着る、気持ちのいいものを聞く、のように五感をもっと使いながら暮らしていただきたいと思います。
神戸料理フォーラム「幸福な口福な食卓から」
http://kiito.jp/schedule/lecture/article/6820/