2025/11/11
イベントレポート
「LIFE IS CREATIVE FESTIVAL ラ・フェス2025」の3日目には、「みんなで着がえる 装いとコミュニケーションから生まれるもの」と題して、美術家・ファッションデザイナーの西尾美也さんによるトークが行われました。「みんなで着がえる」というのもなかなか不思議な言葉ですが、トークを通して語られた西尾さんの活動を知れば、納得できるところもありました。

西尾美也(美術家/ファッションデザイナー)
そもそも西尾さんとKIITOの関わりは2014年。KIITOを代表する体験型プログラム『ちびっこうべ』に西尾さんが参加して、子どもたちによる服の仕立て屋「ちびっこテーラー」を養成するとともに、『ちびっこうべ』に参加して様々な職業を体験する子どもたちのユニフォームを古着で制作。イベント当日は、ちびっこテーラー達が即興的に服をつくるオーダーメイドの仕立て屋もオープンしました。いずれも子どもたちが正しい服のつくり方を習得するということよりも、「工作」的に服作りをすることを目指したもので、この日、登壇した西尾さんが着ていた服も、そのときにちびっこテーラーにオーダーしてつくってもらったものだと明かされました。11年前に子どもが仕立てた服の色褪せなさ、それを今も着続けている西尾さんの姿。トークイベントのツカミはばっちりです。

西尾さんが当日来ていたポロシャツは、ちびっこテーラーの際に作られたもの。シンプルなボーダー柄に可愛らしいアップリケがちりばめられていた。

ちびっこうべ2014《ちびっこテーラー》Photo by Jotaro Sakashita
衣服やファッションを扱いながらも、いわゆるファッション業界に背を向けるような形で美術寄りのフィールドで活動してきた西尾さんですが、数年前からは意識的にファッションデザイナーの肩書きを名乗るようにもなったと言います。衣服というモノをデザインして世に広めるのが一般的なファッションデザイナーの仕事ですが、服づくりの環境や装いを通したコミュニケーションのあり方といった、衣服をとりまくコトのデザインを行うという意味でのファッションデザイナー。そうやって衣服を取り巻く環境を数々のプロジェクトや作品を通して少しずつ変えてきた西尾さん、この日は現在進行系のものも含めて、それらの活動をひとつずつ紹介しながら話を進めました。

2007年から始まった西尾さんの代表的な作品ともなっている〈Self-Select〉は、西尾さんがまちで出会った見ず知らずの人とその場で服を交換して、互いの服を着てみせるというもの。発端となったパリをはじめとする世界各地で行われ、今年も台北で実施するなどして、これまでに136人との服の交換を実現したそう。言葉がうまく通じないなかで、現地の言葉を暗記して声をかけるのだそうですが、この交渉の過程と、いろんな人に「服を交換しませんか?」と投げかけること自体がプロジェクト。つまり、断られることが失敗でもないというのもポイントです。

Self-Select #55 (Nairobi), 2009
千葉国際芸術祭の一環で今年行った〈まちばのまちばり〉は、KIITOでの「ちびっこテーラー」の取り組みをさらに発展させたもの。参加者には全13回のワークショップが用意され、「まちまちテーラー」としての認定や、市民からオーダーを受けての服づくりも進められました。10歳から70代までの幅広い世代がまちまちテーラーとして認定を受けて、工作的な服づくりで生み出した服を千葉のまちに広めました。この工作的な服づくりを理解してもらうために、「よごれた人」と題して意図的に汚した服をの汚れをそのまま服の装飾として活かすなど、「色の人」「ファスナーの人」といった各ワークショップのテーマもかなりの工夫を凝らしたもの。衣服ってこういうもの、という先入観をどう取り除いていけるか。そのための仕掛けがまずは大事なことなんですね。加えて、千葉の地名を採り込んだプロジェクト名をはじめ、言葉あそびから物事が動き出すこともあると教えてくれました。

《まちばのまちばり》 Photo by Tada(YUKAI)提供:千葉国際芸術祭2025
2018年から続く〈NISHINARI YOSHIO〉は大阪の西成エリアにある元タンス店を拠点として、まちのおばちゃんたちと服づくりを進めてきたもので、すでに〈NISHINARI YOSHIO〉というブランドとしてポップアップショップでの商品展開や、ファッションショーを行うなどの活動を継続しつつ、少しずつ展開を深めています。初年度におばちゃんたちに他のプロジェクトと同じようにワークショップを実施したところ、うまく理解されなかったり、我流の解釈で返されたりしたというエピソードが興味深くて、その結果として、圧倒的にユニークな衣服が生まれ、商品化までプロジェクトを進めることができたとのこと。それが地域性なのか、集まったおばちゃんたちの偶然の個性なのかわかりませんが、すでに洋裁の技術があって手を動かすことが好きだというおばちゃんたちとのプロジェクトは、さらに次の段階へ。集まる面々の平均年齢が80歳を超えることからこの活動をどう次につないでいくのかという後継者問題があったり、ブランド化、商品化することで価格をつけて販売するものの、おばちゃんたちの作業時間まで価格に反映できず、ビジネスにまではいたっていないことなど、継続するプロジェクトゆえの課題も語られました。

《NISHINARI YOSHIO》 Photo by Toshie Kusamoto


〈拡張するファッション演習〉は、2023年から千葉の浦安市で始まったプロジェクトで、『拡張するファッション』の著者・林央子さんと進めているもの。浦安にはなぜか美容室がとても多いそうで、美容室や理髪店をマッピングしてその各店をプロジェクトの成果発表の場としてみたり、認知症予防に良いとされる「アクティビティ・ブランケット(Activity Blanket)」の制作方法に遊びを応用して、トートバックをつくってみたり。集まった人たちに綿花の種を配って、それぞれの家庭や軒先で育て、収穫した綿花で地元産の布をつくるという試みも行ったのだそう。ここでは様々なアーティストやプロフェッショナルも巻き込みながら、まちとの接点のつくり方、多くの人を巻き込むやり方が様々に試みられています。

《拡張するファッション演習》 Photo by Itsuka Yonezu
西尾さんの活動のベースにあるのは衣服やファッションですが、それが多くの人との協働につながったり、社会課題をときほぐしたり、異なる価値観に気付かされたり、様々な創作物を生み出したり、ということを通して、新たなコミュニケーションを生み出しています。場合によっては、コミュニケーションを阻害するものにもなりうるというファションですが、世界中どんな場でも共通言語として使える可能性があるという点では、食にも通じるところがあります。
人と接するのが苦手だった少年時代から、服に助けられるようにして人との関わりが持てるようになったという西尾さん、その手がけてきた多くのプロジェクトや試みを通じて、ラ・フェスが掲げる「何かを始めたくなる」気持ちが観覧者のあいだにも芽生えたのでは。そう感じさせる90分のトークでした。

「LIFE IS CREATIVE FESTIVAL ラ・フェス2025」トークイベント「みんなで着がえる ―装いとコミュニケーションから生まれるもの―」の詳細はこちら
文:竹内厚