2013/3/18
イベントレポート
未来のかけらラボvol.1 ~バックミンスター・フラー再考~ レポート
センター長・芹沢高志をモデレーターに、身近に散らばる多様な未来のかけら、つまり可能性の芽を拾い集め、草の根的に自分たちの未来を思い描こうとしていく試み「未来のかけらラボ」。今回は、バックミンスター・フラーをテーマに、全6回の講座を行いました。その一部をご紹介します。
第一回 イントロダクション 2013/1/12(土) 13:00-14:30
バックミンスター・フラーとはいかなる人物であったのかについて、その人生を追いながら見て行きました。アメリカ・マサチューセッツ州に生まれたフラーは、もともと極度の遠視であり、このことはある意味、マクロな視点の根底にあるともいえます。
フラーの初期の成果にはさまざまなものがあります。中心の一本の柱によって全体を支え、その他の屋根や床などはすべてその中心から吊る構造をもつ住宅「ダイマクション・ハウス」。流線形の、きわめて未来的なフォルムの三輪自動車「ダイマクション・カー」。資源、富の使われ方を地球上にマッピングし、再分配をするにはどうすればいいか考えるための「ダイマクション・マップ」。
うまく資源が分配されないのは、フラーにしてみればデザインが不完全であるからであり、改善の余地があるものでした。「少ないものでより多くのことを為せ。」このことがフラーの主張であり、世界に主要なかたちである「四角」ではなく、「三角」を重視したのも、その考えに基づいたことでした。
第二回 デザインサイエンス革命 2013/1/12(土) 15:00-16:30
フラーは1961年の国際建築家連合第5回世界会議で「デザインサイエンス革命」を提唱します。レイチェル・カーソンを筆頭に、地球規模の環境問題が認識されてくる時代、フラーが考えたのは、必要最低限の、持続可能なエネルギーの重要性でした。むだを省き、より少ないエネルギーの投入量で、今と同じ効果を出せる技術革新によって、より快適な世界が構築できる。デザインをよりよくしていけば、富の分配の偏りは解決し、よりよい未来に向かっていけるとフラーは考えたのです。
その具体的な提案が、「ダイマクション・ハウス」、「ダイマクション・カー」でした。そして「ジオデシック・ドーム」は、三角の構造のみで構成され、軽く、組立も簡単であるにもかかわらず強度をもつ、最高の効率をもつ構造原理であるという点で、彼の代表的な発明でした。
第三回 フラーの全思索――テトラスクロール・ツアー〈前編〉 2013/1/13(日) 13:00-14:30
フラーが最晩年に制作した、21葉の大型の石版画絵本《テトラスクロール》は、童話仕立てで語られたフラーの全思索で、彼に言わせれば「数学や哲学、その他何でもかんでも、自分が考え、感じたすべて」でした。第三回、第四回では、《テトラスクロール》を読み解き、フラーの考えの総体を紹介しました。
テトラスクロールとは、90センチ前後の正三角形21枚で成っており、たたむと一冊になる。1枚にそれぞれ絵とテキストが入っている。前半の部分は数学、物理学等の話で構成されている。後半は人類の古代史と、そこからフラーが導き出した考えである、われわれがどのように行動しなければならないかについて書かれています。
前半部分で重要な考えとして、「シナジー」があります。言葉自体はフラーの発明ではなく、相乗効果という意味です。フラーはこれを、宇宙の根源的な営みの重要な一つである、ととらえました。
分解してその性質を調べれば、すなわち世界が理解できる、という考え方が現在は強いです。この考えによって、世界に対する驚き、尊厳から離れていきます。水は酸素と水素で出来ているにすぎない、と言ってしまいがちです。ですが、本当にそうなのでしょうか。小さいもの同士がくっつくことで、単独の物質では思いもかけない水というものを作り上げた、そして次の次元に行った、というふうに捉えるべきなのではないでしょうか。システム全体というのは、その一部だけ見ていても想像がつかないような全体的な効果をもたらすことがあります。それがシナジーです。
第四回 フラーの全思索――テトラスクロール・ツアー〈後編〉 2013/1/13(日) 15:00-16:30
近代的な歴史以前の古代史について、フラーは独自の歴史観を持っています。その一つには、世界ではつねに「陸」の人と「海」の人の戦いが繰り広げられてきた、ということがあります。トロイの木馬の戦いは、まさに象徴的だと言えます。
われわれ人間は、「陸」的なマインドに縛られ、どうしてもたくさんのものを使い、必要以上に重々しく、四角形的にたくさんのものを使ってしまいました。けれど、海の上でたったひとりで生きて行く時には、必要最小限のエネルギーと物質を使い、強度のある、持続的な技術を知っていかなければいけないということを、フラーは繰り返し述べています。それはつまり、フラーにとっては三角形の構造なのです。四角形を使うと、構造的には弱いので、中に補強を渡さなければいけないがそういったこともなく、単純に三辺なので、使用する物質も少なくてすみます。
フラーはこの地球を「宇宙船地球号」と呼びます。人間は、往々にしてエネルギーや物質を我先にと取り合うが、全体で考えてみたら、この地球上にはエネルギーは十分にあるのです。必要なことは、それらを技術革新によって、うまく行き渡る仕組みを考えることなのです。兵器や金儲けに注いできたエネルギーとノウハウを、「living」の開発に振り向ければ、それは可能であり、そうできる時代がやってきたとフラーは主張しました。
第五回 ブラックマウンテンカレッジにおけるフラー 2013/2/2(土) 13:00-14:30
1933年にテッド・ドライヤーやジョセフ・アルバースたちによって始められたアメリカ、ノースカロライナ州のブラックマウンテンカレッジは、今でも伝説的に語られる創造性のメッカでした。サマーセミナーという、学校の名物であったセミナーには、ジョン・ケージやマース・カニングハムなどが教授陣として顔を揃えました。フラーは1947年、48年に教鞭をとり、47年における試行錯誤を経て、48年にはアルミニウムの管を素材として、はじめて大きなジオデシック・ドームを作りました。糸やストローや楊枝などを使い、「より少ないもので多くのことを成す」を実践していました。
第六回 フラーとの共鳴 2013/2/2(土) 15:00-16:30
『生き延びるためのデザイン』の著者で、適性技術の必要性を説いたヴィクター・パパネックやIT時代黎明期を切り開いた人々に多大な影響を与えつづけた『ホール・アース・カタログ』、さらにはフラーの死後発見され、現代のナノテクノロジーで脚光を浴びる球状分子「バックミンスターフラーレン」など、フラーに影響され共鳴した事例は多くあります。
パパネックは、『生き延びるためのデザイン』において、プロダクトデザインから一歩距離を置いています。それは、ニーズを「作り出し」て、そのニーズに対して「売る」、という営みであるという理解に基づいてのことでした。このように、世界の仕組みの外に出て、そこから考えていく、その姿勢はフラーに通底するものでした。
フラーは、「宇宙が求めることをやっていれば、誰かがその面倒を見てくれる」として、自分自身の考えを貫きました。フラーにとっては、われわれ人間のデザイン原理は宇宙の原理とまだかけ離れており、しかし宇宙に組み込まれる生き方をするならば、もっと自然な循環の中で生きていけると考えていました。
このようなフラーの考えと、そこから生まれる様々な発明は、今もわれわれの生活に根付いています。同時に、デザイナーの役割とは何かについて、深く考えさせられます。