2013/8/16
イベントレポート
2013年8月2日(金)
KIITOは神戸商工会議所と協働し、幅広い層から支持を受ける無印良品にものづくりの仕組みを学ぶレクチャーシリーズを開催します。第一弾は生活雑貨部企画デザイン室長の矢島岐さんを迎え、無印良品のはじまりから、ものづくりに対する考え、仕組み、これからの取り組みについてお話しいただきました。
●無印良品のはじまり
無印良品は、消費社会に対するアンチテーゼから、1980年に西友のプライベートブランドとして誕生しました。当時のコンセプトである“5つのワケ”「わけあって安い」「組換え自由」「信頼の裏付け」「先人の知恵」「環境への配慮」には、本当に正しいものを見極める目を持つこと、消費者の視点に立ったモノづくりの姿勢が込められています。
1983年には路面店の1号店を青山にオープンさせ、1989年には4つの章「自然と」「シンプルに」「無名で」「地球大」からなる『無印の本』を出版し、無印良品の原点にある考え方を伝えました。
●ものづくりの考え方
無印良品の日用品は、ムダを削ぎ落とすことを意識して作られています。例えば、ロングセラー商品の脚付マットレス。これはホテルで使われているマットレスに脚を付けてベッドとして使えるようにしたもの。機能とカタチを最短で結びつけた合理的なデザインです。この合理性に加えて、2000年頃からは、無印良品が大事にしてきた「実感できる」「共感できる」という視点をデザインにも取り入れています。壁掛式CDプレーヤーは、ひもがあると思わず引っ張りたくなるという人間の行動原理を利用した商品。行為に溶け込むデザインです。
この壁掛式CDプレーヤーをはじめ、他にも著名なデザイナーが手掛けたものがたくさんありますが、「無名で」というキーワードにあるように、「誰がデザインした」とは言わないことも特徴のひとつ。デザインとは付加価値ではなく、見えないリアリティをカタチにすることなのです。
●ものづくりの仕組み
企画開発をするときに一番大事にしているのがマーケティング。情報を得ることです。まず、自分へのマーケティング―自分の生活をよくしていくにはどうすればよいか、という視点で考えること―が重要だと言います。次に、他の人がどのように暮らし、どんな考え、不満を持っているのかを知ること。そのために、無印良品では少し変わった手法を用います。それは、一般家庭を訪問し家中を観察するというもの。撮影した写真をもとに社内で意見を出し合い、商品化のヒントを得る。ときには、カテゴリーもテーマも決めずに行き、アイデアを膨らませることもあるそうです。その他、競合や取引先メーカーなど現場を見ること、展示会や展覧会で反応を得ること、世の中をしっかりと見つめることも大事なマーケティングの一つです。
さらに、一歩進んだマーケティングとして、顧客と一緒に商品開発を行っています。ヒット商品の「持ち運びできるあかり」や「体にフィットするソファ」は、顧客の、こんな商品があったらいい、というアイデアを基に開発されたもの。あったらいいな、こんなところを改善して欲しい、といった声を集めて実現させていくWEB上のものづくりコミュニティーを運営するほか、お客様室や店舗に寄せられた声を積極的に活用しています。このように、徹底したマーケティングにより、企画開発を行っています。
●Found MUJI
2003年からはじまった「Found MUJI」は、世界中からよいものを見つけ出すプロジェクトです。これは「つくるより探す」という無印良品の姿勢を具現化したものです。そして2010年に、青山の1号店が「Found MUJI」の旗艦店として生まれ変わりました。「Found MUJI」には、活動の基本としている10か条があり、一部店舗やKIITO内のMUJI+クリエイティブスタジオでも掲示していますが、そこに書かれているのは創業当時と変わらない理念。5つのワケを時代に合わせてブラッシュアップさせたものと言えます。このように、繰り返し企業理念を伝えてきました。
●あたらしい取り組み
材料の価格高騰や、省エネルギーが叫ばれる中、無印良品は「もの八分目」という新しい取り組みを始めています。例えば今まで使ってきた材料の8割ですべての製品が作れないか見直すこと。それは決してネガティブなことではなく、不必要に大きく肥えすぎた生活を、もとの適正なサイズ、適正な量に戻そうというメッセージです。この取り組みで無印良品が伝えたいことは、「簡素であることが豪華に引け目を感じない」ということ。こういった価値観を発信することで、少ない資源で豊かな暮らしを実現することができます。生活の質を高めることで社会を豊かにしたい。そこに無印良品の美意識があります。
無印良品は、創業以来変わらない思想を、ときに見直し、進化させてきました。顧客の声を聞くこと、時代を読み取り、よいものを探す目を磨くこと。このバランス感覚こそ、企業にとっても個人にとっても、今の時代を生き抜くヒントとなるのではないでしょうか。
Found MUJI 神戸
世界中の地域から人々の知恵と工夫に磨かれた伝統と文化を見つけ出す「Found MUJI」の活動を神戸で行う試みです。もの、文化、歴史にまで視野を広げてリサーチすることで、神戸の新たな魅力を発見していきます。→開催概要はこちら