2015/11/28
イベントレポート
2016年10月28日(水)
神戸料理学会のトークイベント「スタートラインepisode:1」を開催しました。神戸料理学会は神戸に店を構え、日本を代表する料理人、パティシエ、パン職人、ハム職人であるメンバーたちが食について考えていこう、神戸の未来の食を豊かにしていこうという意思のもと結成されました。将来的には神戸で食学会の開催を目指しています。今回は最初の一歩として講演、トークセッションという形で行われました。
知る事の大切さ|福本伸也|カ・セント
料理の世界には15 歳の時に入りました。中学卒業の際に、高校への進学ではなく、大好きだった料理の道を選びました。20歳の時に海外へ修行に出ました。イタリアで修行しているうちに、他の国も見てみたいと思い、あちこちへ手紙を出し、返事のあったスペインへ行くことになりました。そこで26歳から「カ・セント」のシェフを任されることになり、料理の楽しさ、修行の大切さが分かり、料理の世界で頑張っていこうと決心しました。28歳の頃、「カ・セント」の改修工事の時期に、母が難病にかかり、急遽日本に帰ることになりました。その後1年間は母の看病もあり、料理をしていませんでした。いつかは料理ができると思っていたので、あまり不安はありませんでした。母のことがきっかけで、日本に帰り、いろいろなことを目にして、気持ちの部分で料理への姿勢も変わっていきました。なぜ修行が大切なのか、なぜシェフになるのか、なぜ、こういう料理を作っていくのか、そういったことを毎日探していると、だんだんと知る事ができると思います。知る事でアイデアや新しい自分が見つかります。日々、お店のスタッフには自分自身とどう向き合っていくか、恵まれている生活のなかで、全力で生きていくこと、自分で見つけることができるものを大切にしてほしいと思っています。現在も私は学び続けています。
なぜ老舗のお菓子は美味しいのか?|平井茂雄|ラヴニュー
1.作った個数によって技術やセンスは磨かれる。
作り手の技術の上達は経験と比例していくと思っています。私自身も元々持っている技術やセンスというのは他の人とあまり大差がないと思っています。キャリアをスタートさせてからの考え方や取り組む姿勢に左右されると思います。同じものをどれだけ真剣に作ったかが重要で、それを行っている職人は上達していきます。
2.失敗の理由を考えること、タイミングを常に計る事。
シュー生地を焼いたとします。膨らんだり膨らまなかったり、原因としてはいろいろ考えられます。器具のサイズ、火入れ、工程、ミキサー、空気の入れ方…常に失敗の理由を自分の中で見つけていけるかが大切です。食べる人は、どのように持って帰って、どのように保存して、どのような温度帯で、どのような環境で食べるのか、口に入るときに、自分が思っている状態になっているのか、そのようなところまでイメージして作っています。
3.シンプルな物ほど難しい。
お店に来るお客さんは多くはチョコレートを目当てに来られます。ボンボンショコラは、直径27㎜、7g程度のものです。中身は3層で作られています。フルーツのフレーバーは、糖度の高いものをフルーツのピューレと煮詰め、鍋の底を焦がさないギリギリの強火で手を休めることなく掻きながら炊き上げます。固まったゼリーにチョコレートを加え、口当たりの滑らかな食感にしたガナッシュ(口どけのよいチョコレート)を仕込みます。型を付け替えまた違う風味のガナッシュを仕込み、流して3層にします。その後、チョコレートでコーティングし、均一なサイズにカットします。小さなボンボンショコラ1粒にもたくさんの作業工程があるのです。自分がおいしいと思うものを表現したときは、上記のような構成をとることが多いです。シンプルでおいしいものを作る方がより難しいと思います。
4.真剣に向き合ってきた職人は、自身の引き出しが増えていく。
何回も繰り返し、何が悪かったのか、その都度最善の対応をしていく、常に答えを出していけば、その中でいろいろなことを学び、引き出しが増えていきます。おいしいものを提供できるお店は、そういったことを長く続けているから、老舗のお店は美味しいのだと思います。
シャルキュティエの仕事|楠田裕彦|メツゲライクスダ
芦屋で食肉加工の専門店をしています。シャルキュティエはフランス語で食肉加工人を指します。ドイツ語では、メツガーと言い、店頭の裏で商品を作っているお店をメツゲライと言います。昔から肉は、人間に必要なタンパクとして、冬の寒い時期にお肉を乾燥させたり、燻製させたり、塩漬けしているものを少しずつ切り出したり、スープに入れたり、焼いてみたり、いろいろな手法で食べられてきました。現在は冷蔵庫などの普及、流通の拡大により、保存食から美食として一般的になりました。私のお店は毎週水曜日が定休日で、木曜の朝一に豚肉の塊からソーセージを作ります。筋や必要のない部分を細かく取り除いていきます。約70㎏の塊を2時間ぐらいかけて、すべて手作業でさばいていきます。さばいたお肉を専用のミキサーで塩とスパイスで混ぜていきます。その後すぐにミンチにしていきます。ミンチ後は肉と油を均等に混ぜ、作る内容に合わせて、仕分けします。お肉の鮮度が高ければそれほど混ぜなくても結着します。ソーセージ用の機械はコンピューターで真空状態、速度、肉量などすべてコントロールできるようになっています。その機会を使い豚の小腸に肉を詰めていきます。小腸はとても破けやすいので、難しくコツがいります。破れるないギリギリの圧力で詰めていきます。お店では切り分けて販売しているので、サークル状にしています。木曜の11時過ぎにはお店に並びます。ソーセージだけで80種類ぐらいあります。他の商品を合わせるとトータルで1000種類を超えます。常時お店には50、60種類並んでいます。食肉と言われるものはほとんど作っています。イノシシやシカもありますし、豚がメインですが牛もあります。ほとんど国産ですが、鴨など一部はヨーロッパのものを使っています。食肉加工の職人は文化的にもまだ日本は少ないです。これからの職業と言われています。各地域でも食肉加工のお店が増えていけたらいいと思っています。
夢は本気で願えば現実に|パティスリー モンプリュ林周平
普段自分が言うことで、願いはかなうと思っています。将来こんなことをしたいとか、こんな風になってみたいなど、口に出したり、メモに書いたりする行為が大切だと思っています。私は思っていたことが叶っています。昔からものを作ることが好きで、高校を卒業して料理の道に進みました。なぜお菓子になったのか覚えていません…。母がよくお菓子を作っていたので、その影響ではないかと思っています。当時は卒業後フランスに行って修行したらいいやと単純な発想で、洋菓子、フランス菓子というのがなぜか頭にありました。ホテルで仕事を初めて3,4年のころにフランスに行かないかと話があり、二つ返事で行きますと答えました。ホテルで働いているときのシェフの持っている本で、ジャン・ミエさんのお菓子が載っているページがとてもかっこよくて、単純にここに行きたいと思いました。フランスへ行き、ホテルニッコー・ド・パリで研修に入りました。調べるとジャン・ミエのお店が近いことが分かり、働きたいと何回も行って、12回断られ、13回目にやっと、知人の紹介で入ることができました。お菓子屋さんでもお惣菜を売っているお店でした。地下にある厨房は半分がお菓子、半分が惣菜で、当日は6人で調理をしていたので、お菓子と惣菜の境目がありませんでした。朝は6時くらいにトラックいっぱいの食材を1時間かけて運ぶところから始まり、夜の8、9時まで働いていました。現在のフランスは労働時間も細かく規制されています。修行として考えると働く時間が規制されることで、少しもったいない部分も感じています。16、17時間働いていた時代と比べると同じものはできないので、メニューや精度が変わってきています。私は、自分が一番影響を受けておいしいと思うフランス菓子を伝える使命があると思っています。日本的な要素を入れるということはありません。フランスでがむしゃらに頑張って、日本に帰ってきましたが勉強は続きます。身近にすぐお菓子があるというところがパリでした。今後の大きな夢は、標高5,600mぐらいのとこにオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)を作って、自分はオーナーでいて、庭掃除で芝などを刈りながら、パティスリーやブーランジェリー、レストランがあり、ホテル業務があるようなことをやってみたいと思っています。
お店づくりの考え方|サ・マーシュ西川功晃
店名の「サ・マーシュ」という言葉はフランス語で、お世話になっていた「コム・シノワ」で厨房内で自然によく聞こえていた言葉です。号令のような感じで、行けよ!というものです。独立する際に、一歩前進したい、何かを進めていきたいという思いから「サ・マーシュ」と付けました。今でもとても気に入っています。
お店作りは大きく分けて、商品の力と販売の力があると思います。商品の力は素材、技術、人の心です。素材は小麦や野菜を作る生産者が重要です。この人たちの力がなければ良い素材に出会えません。良い素材が手に入ることで良い商品を作ることができます。技術には経験が必要です。経験はいろいろなことを自分で体験すること、本物の技術をいかに得るかによって商品の力になっていくと思います。人、心は大切なところで、素材と正直に向き合うことが重要です。努力し続ける心も必要で、簡単に諦めてしまったり、気持ちが抜けてしまっては良い商品が生まれません。体力も重要です。体が元気で続けていけなければ心が折れてしまいます。またそれぞれが持っている感性も大切で、商品につながっていきます。最後に性格です。それぞれの個性が商品に反映されていきます。販売の力は、サービス、内装になります。サービスは明るい笑顔、スタッフの知識です。知識と同時に食が好きでなければ学びを広げることもできません。販売の人も体力が重要です。体力がなければ笑顔も作れません。内装はデザインなどですが、仕事のしやすい、お客さんが利用しやすい機能性が大事です。心地よさも大切で、なんかこのお店いいな、感じがいいな、気持ちいいな、と思えるように考えます。お店はセルフサービスではありません。商品とお客さんの間にバーがあり、バー越しにお客さんと会話をしながら提供するようになっています。スタッフがこのパンはこのように食べてください、こういう思いをこめて作った商品です、こういった素材を使っています、といったようにパンにまつわるいろいろな話をお客さんに合わせて提供します。昔の八百屋さんや魚屋さんのように、新しい商品を紹介し、お客さんとお話をしながら販売する手法がパン屋さんにも生かせるのではないかと思いました。セルフサービスの販売方法の方がパンがたくさん売れると思っていましたが、結果として売り上げも上がっています。お客さんも購入後に食べる際にお店で聞いたアドバイスを思い出されるそうで、喜ばれています。この時代は情報が先行してしまい、雑誌やテレビ、ネットなどで情報を見て、そこで判断し選択してしまうことは非常にもったいないことだと思います。もっと生の声を聞いて買い物をしていただきたいと思います。もっとこのようにしたらおいしいのでは、といろいろ考えていただきたいという思いでお店があります。お客さんにも、もっと質の高い食を目指していってほしいと思っています。
トークセッション
神戸のお客さんに感じていることは?
西川:パン屋冥利につきる環境です。昔からパンというものが根付いている街で、しっかりと発酵させ、焼き上げるパンの本質をちゃんと楽しんでいただけている、というお客様が他の地域よりも多いと感じています。我々の作りたいパンを理解していただける地域だと思います。
楠田:幼少期に神戸で育ちましたが、パンやハム、ソーセージが常に身近にありました。パンがあるなら、食肉加工のお店も成り立つと思ってお店を出しました。オープンしてからものそのような食べ方をする人が多かったので、うれしかったです。
福本:神戸って街は洋の文化があり、なんでも取り入れていく雰囲気を持っているが、すごく保守的だと思います。レストランを初めて7年になりますが、その中で感じるのは、食の文化はまだまだといった印象が強いです。
三好:福本さん、神戸の食文化がまだまだ、と思う理由は何ですか?
福本:神戸というのは外から見るといい街かもしれないが、食文化はあまりしっかりしていない印象があります。日本料理も違う、中華でもない、洋の文化があるかもしれないが、ちゃんと根付いていないと思います。神戸らしさって一体なんなのかというところです。
西川:少し過激な言葉に聞こえますが、師匠である荘司シェフも神戸料理というものを作りたいんだ、というのが口癖でした。神戸料理というのはどういうものか、なかなか生まれてこないです。たぶん福本さんが言っているのは、根付いた質の高い、よその土地にないクオリティーの高いものがないのではないかと思います。神戸はもてはやされているかもしれません。もっと努力すべきだと思います。飲食業界すべてがもっと質の高いものを求めていくことが必要だと思います。
参加者からの質問:何をどのように世界に発信するのか、何が発信できるのか?
西川:メツゲライクスダを発信すべきではないですか(笑)。技術的には料理もお菓子もパンもいいと思います。全日本食学会では日本から輸出できるものに「食」があり、食は国益になると思っています。前に出る機会が少なく、表現力が足りない。まだまだこれから、食の都神戸を表現していくべきではないか。
参加者からの質問:WHOが発表した、加工肉が大腸がんを引き起こす原因になるという調査報告が発表されたことをどう思いますか?
楠田:世界保健機関は体に関することを常に注意喚起する機関ですが、実際、欧米のどこで調査したことなのか発表されていません。何が原因かも発表されていません。全世界で食肉業界は一斉に声をあげて、WHOに抗議をしています。1日50g食べて、18%の確率で癌になると言われています。日本人はそれほどの量を食べているという話もないです。加工肉しか言っていませんが、実際は、赤身の肉に関する報告もあり、食肉全体にかかわる事です。今後細かい説明もあると思いますので、注視したいなと思います。なんでもそうですが、食べすぎは病気のもとになると思います。
参加者からの質問:低糖質パンを食べて、健康と食について学びました。菓子パンと食事パンのこれからの可能性について教えてください。
西川:スーパーでウロウロしていると、大手メーカーで低糖質ハムというのが売られていました。そんなものあるのかと驚きました。大量生産するための保存料や化学的なものを取り入れていることが一つの原因となっているのではと思います。低糖質は、あくまでも糖尿病で食事制限されている方のための低糖質パンと思っています。決してダイエットのためではありません。現在は有効だということで、ダイエットのために選ばれている方もいます。うれしかったのは糖尿病の方が低糖質パンを選ばれて、涙流して喜ばれたことです。低糖質パンをお店で少しでも用意することが重要だと思っています。北里大学の山田悟先生から依頼を受けて、パンを作り始めた。作ることによって、喜ばれる人に出会ったことは大切なことだと思っています。
神戸で取り組みたいこと
西川:世界に向けて神戸の食を発信していきたい、神戸ビーフだけではないぞと言いたいです。海外から来たお客さんが神戸のパン屋さんで日本的なパン、世界にはないみんなが喜ぶパンを作りたいと思っています。今はお米を使ったパンもいろいろと考えています。世界中の人に喜ばれるような商品にし、世界へ発信したいと思っています。
楠田:もっと密接に兵庫県の生産者とお付き合いをしていき、第一次産業から進めていって、今後いろいろなことが確立していって、その先に世界があるのではないか。第一次産業と一緒に取り組んでいきたいと思っています。
福本:神戸料理学会は5人から始まりましたが、次回はもっと人数を増やしていきたいと思います。神戸の料理人と手を組んで、努力していきます。
弓削:第一次産業の生産者として、生産者が作ったものをいろいろな形でデコレーションしてくれている方がたくさんいる中で、神戸を代表する5人のシェフたちも、さらに楽しい食文化をつくっていくと思います。神戸は海があって山があって温泉があります。それに加えて食。生産者のところにいつでも来ることができます。TPPの問題でいろいろな食材が入ってくると思いますが、その中で神戸の食というのをそんなに考えていない人も多いかもしれませんが、この5人のシェフたちは第一次生産者から第六次産業まで、生産者の思いをいろいろな形にデコレーションしてくれる方々ではないかと思います。神戸から発信する新しい食文化の団体として、良いものに人が集まり、みんなに知らせてくれるのではと思います。それが神戸の新しい食文化だと思います。
神戸料理学会「episode:1 スタートライン」
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