2016/3/17
イベントレポート
2016年3月10日(金)
UDCK、アーバンデザインセンター柏の葉(UDCK)のセンター長であり、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の出口敦さんをお招きし、レクチャーを開催しました。「アーバンデザインセンターって何?」と題しお話しいただきました。UDCKとKIITOそれぞれの立場として、今後の可能性や役割についてのトークセッションも行いました。
私の仕事|
専門は都市デザイン、都市計画です。あまり関西の方ではお話しさせていただく機会がありません。東京出身で東京大学の都市工学科で勉強しました。1993年から九州大学で8年教鞭をとり、2011年から東京大学にいます。UDCKに勤めて5年になります。今でも九州に行きよく仕事をしています。
東京大学で丹下健三先生がはじめてアーバンデザインについてお話しされたと思います。この言葉が使われ始めて約50年になります。都市はデザインするものであるということですが、一般的なインダストリアルデザインやファッションデザインとは少し異なります。1つ明確なことは、クライアントがいないということです。様々なものが対象になり、ゼロからデザインするということはなく、何かしらの条件があります。都市には文脈が存在するため、解読をしなければいけません。都市は常に連続しているので、あくまで部分のデザインになります。そして重要なこのは都市は永遠に未完成だということです。マスタープランをつくる際、我々は、10年後、20年後の姿を考えます。そういう意味では変化をデザインしているといえます。機能や意味、景観などの知覚がデザインの対象になります。単に空間をつくるのではなく、そこに意味を持たせ、さらに人が利用し、社会的な意味を持った場になります。重要なことですが、大勢の人が関わり、長い年月をかけて組み立てていきますので、意思決定のプロセスを見据えていくこともデザインの要素です。
東京も神戸もそうですが、立地がとても良いです。大きな港があり、ものが集まるので、都市が成長してきたのではないでしょうか。これからは人口減少の時代で、新しい競争が始まります。立地の良さが地域の資源が都市の魅力を決めていくのではないかと思います。地域の資源を掘り起こしてデザインしていくことが大切だと私は考えています。
みなさんは空間、環境、場という言葉を使い分けていますか。寸法を操作し空間をデザインし、その空間に色を付けたり、光で演出したり、木を植えたり、それによって人間が五感で感じる環境になります。次に人間のアクティビティが生じてきます。例えばビルとビルの隙間のような空間に主婦が集まり、井戸端会議をする。あるいは子どもが遊び始めると遊び場になります。都市デザインは空間から環境、場をつくっていく一連のプロセスを言います。今一番問われているのが、場のデザインです。
まちという言葉も難しく、まちをデザインすると言いますが、これもまさに場をデザインすることといえます。まちには特有の歴史や文化に根差した精神的な奥深さがあります。福岡や博多は2000年ぐらいの歴史があって、文化を育ててきました。そのようなまちが集まって圏域をつくっています。そのことも都市デザインの領域だと思います。多様な地域で構成され、いろいろな特色のあるまちが集まる圏域をつくることも非常に重要です。
私の都市デザインの原点|
私の都市デザインの1つの原点は、オーストリアのウィーンという都市です。人口が150万人で神戸市と同じぐらいです。音楽の都として有名です。250年前にモーツァルトがここで活躍しました。今から150年前にすばらしい都市デザインがありました。元々は城壁で囲まれていましたが、城壁が不用になり、取り外しリングシュトラーセという道路がつくられました。その周辺には市民公園、オペラ座、博物館、美術館、国会議事堂…をつくり、城壁の中はほとんど凍結保存していました。ウィーンはとても優れた都市だと思います。近代化に必要な施設をリングシュトラーセに埋め込んでいき、それらは当時新進気鋭な建築家を起用し、すべて異なる建築様式で建てられ、オペラ座はルネッサンス様式、国会議事堂はギリシャ式でつくられています。リングシュトラーセの内と外回りに路面電車を走らせており、ぐるっと一周することで公共サービスを受けることができます。これまでの公園というと、貴族のレクリエーションの場でしたが、市民のために環境パークに変わりました。公園をつくって、木を植えて、環境をつくり、そこに音楽というアクティビティを入れ、空間の骨格をつくりました。
日本では現在、富山市がコンパクトシティ政策を実現し注目されています。LRT(次世代型路面電車システム)で都市の骨格をつくりました。これは公共の仕事で、行政が中心となって骨格をつくり、そこへ民間の施設を埋め込んでいくという開発事業です。ウィーンに似た発想だと思います。
エリアマネージメント|
地方を見てみると、京都駅が1997年に駅ビルが開業、名古屋駅にはツインタワーが建ちました。2003年に札幌が再開発され、2011年に博多駅、現在は大阪駅が開発されています。駅周辺の地価を上がり、コンパクトシティをつくるうえでは良いかもしれませんが、相対的に他の地域を衰退させる可能性があります。駅を巨大化することは良いことだけではありません。地方に目を向けると悲惨な状況です。21世紀には空き家空き地が増加しています。面白い点は、商店が無くなって空き地になった前のスペースに農家の人などがお店を出して営業し、お客さんも来ています。人がいなくなったのではなく、まだ需要はあると思います。店主の人はおそらく土地代を払っていないのではないでしょうか。つまり土地代を払わなければ商売が成り立ちます。ここに知恵や工夫をして、この地域に新たな変化を生み出すことを考えるのがエリアマネージメントです。この部分にデザインセンターが関わることはありえると思います。東京は交際競争が背景にあります。地域に行くと国際競争はありません。博多や神戸は国際競争もある程度考えなければいけませんが、地域の歴史や自然をどう残すか、どのように戦略を練っていくのかも考えていかなければいけません。国際競争を睨みながら、地域の歴史を保全していく、この戦略の1つが都市デザインの重要なポイントだと思います。都市の規模や立地に応じて、背景や考えも変わっていきます。デザインの対象にも関わってきます。デザインセンターとして密接に関わっていくことが課題だと思います。
アーバンデザインセンター柏の葉|
場所は、東京都心から約30km離れています。秋葉原と茨城県のつくば市を結ぶ、つくばエキスプレスという鉄道が2005年に開通しました。東京の一極集中を解消するために国の研究機関が移転し、ニュータウンをつくりましたが、鉄道がつながっていなかったため、陸の孤島になってしました。ようやく第三セクター方式で、沿線の県や市がお金を出し合って、この鉄道ができました。これをつくるための拓鉄法という法律をつくり、鉄道一体型区画整理として沿線の区画整理をしました。すでに市街化しているところに鉄道を通すことはできないので、市街地から少し離れた、市街地調整区域に走らせていますので、まだまちになっていません。そこでつくられた1つが、柏の葉キャンパス駅です。ここから2km離れたところに、東京大学3番目のキャンパスがあります。私はそこの大学んで指導をしています。そこには現在新しいまち、都市を開発しています。270haと非常に広大な土地で、もともとはゴルフ場でした。2005年のつくばエキスプレス開通当時は駅の周辺に何もありませんでしたので、キャンパスが移転してきたが、学生の居場所がありませんでした。そこから4年が経過し、巨大なショッピングモールができ、1,000世帯の超高層マンションが建ち、人が住み始めました。UDCKは東京大学の建物の1Fに事務所があります。現在、柏の葉スマートシティということで、エネルギーのマネージメントシステム、健康長寿都市、新しいベンチャービジネスを目指し、モデルが出来上がってきています。こうしたまちづくりの中心的な考え方が公民学というもので、私の前任の教授である、故北沢猛先生が公民学連携の言葉を打ち出しました。産官学は良く聞く言葉であるが、これには市民が入っていません。公民学の場合は、民は市民、住民の民であり、民間の民でもあります。官は行政のみですが、公はNPOなども含みます。学は学識者だけでなく、学生も含み、うちの学生も良く参加しています。産官学よりも幅広く使っています。公民学連携でまちをつくっていく活動の中心になっていくのがUDCKです。2006年に設立し、北沢先生が初代センター長です。そして今年が10周年でした。この10年で活動も益々活発になりました。現在、国内外の視察者も増え、年間300件を超えています。
年に1回マルシェを行っています。周辺の農家さんに出店していただき、交流の場として駅前広場を利用しています。このプロジェクトはピノキオプロジェクトとしてこどもが参加し、大人のビジネスを学ぶ場としてアーティスト、デザイナーが協力し行っています。また駅前広場で民間が講習を行い、公設化も進め、ケヤキを植えたりしています。公だけでは木の管理が非常に難しいです。普通は道路や駅前広場は行政が管理するのが当たり前ですが、柏の葉の場合は民間組織が管理しています。これは指定管理とは異なります。
UDCKの機能の1つはプラットフォームをつくり活動が集まる場所であること、2つ目はシンクタンク、専門家が常駐しているので、ディレクターも7,8名常駐し、地域に入ってコーディネートします。3つ目はプロモーション機能です。チラシやニュースを発行しています。センターの意味は、そこに人が集まってくる、活動を集めてくる、そうすることでおのずと情報が集まります。人や活動が集まってくると、課題も集まり、様々な問題が見えてきます。その課題をみんなで解決します。
センターの機能を支えるリソースとしては、専門家が常駐している、集まる拠点施設がある、公民学が支援する仕組みがある、メディアがある、このことで支えられています。
UDCKは行政から独立した組織で、公民学がそれぞれお金や人、施設を出し合って運営しています。毎年自転車操業で大変ですが、頑張っています。現在全国にUDCKと名前の付くセンターが10カ所あります。それぞれ違った役割を持っています。置かれている背景も中身も違います。
貨幣換算できない価値|
直接利益を生むことも大切であるが、公園のようなまったく利益にならないが、良い公園のある都市は住みたくなる。貨幣換算できない価値がある。一見無駄に見えるが、とても貴重な価値を生み出している。今の技術だと貨幣換算できない。そのようなものをつくり出していくことができるのは、福岡や神戸などの都市ではないかと思います。福岡にある大濠公園は、そこではほとんど収益はないが、その周辺は高級マンション街になっています。公園でジョギングをして、健康管理を行います。それらは貨幣換算できません。そのようなものをつくって行きことがアーバンデザインの役割だと思います。そしてアーバニストは都市をより都市らしくしていきます。
+クリエイティブレクチャー「アーバンデザインセンターって何?」デザインセンターの地域社会における役割を考える
開催概要はこちら