2016/11/16
イベントレポート
2016年11月12日(土)
+クリエイティブゼミvol.22「道路の未来を考える2実践編」を開講しました。
今年の2月に、1日限定のワークショップ「道路の未来を考える」を実施し、3つのテーマに分かれてアイデアを出し合いました。
今回は、その実践編として、現在歩道の拡幅工事が進んでいる実際の道路を対象として設定し、周辺環境や道路の特徴をリサーチして、既成概念にとらわれない新たなアクションプランを考えていきます。
初回のこの日は、課題発表と対象道路の現状についての報告を行い、周辺地域のまちづくり協議会の方からまちの歴史や現在の様子に関する講演、そしてゲストの西尾京介さんから道路活用についてのレクチャーをいただきました。
はじめに、本ゼミの講師である副センター長の永田より、KIITOのゼミの考え方、心構えについて、これまでにKIITOが実践してきたいくつかのプロジェクトの紹介を混じえながら説明を行いました。
ゼミを進める上で特に重要なこととして、
・地域豊醸化のための関わり方「風の人」「水の人」「土の人」の作法
・みんなが関わるための余白のつくり方「不完全プランニング」
・アイデアの種の質を上げる考え方「+クリエイティブ」
を挙げ、一つ一つ紹介していきました。
「風の人」としてのゼミ生が、いかに良い種を地域へと運ぶか、
・根元から考え直してみて
・既成概念にとらわれず
・広い視野で
・違う角度から
・情熱と愛情をもって
考える必要性について解説がありました。
今回のゼミの特徴として、ゼミ生が少人数であることがあげられます。
だれがどのように道路に関わるのか。そんな課題に対して、少数精鋭で取り組みます。
次に、神戸市建設局道路部の担当の方から、神戸市がこれまでに道路に対して行ってきた取り組みや、対象道路の現状についてのご紹介をいただきました。
道の役割を「交通機能」と「空間機能」に整理しつつ、道路の新しい使い方として、
1, オープンカフェ(三宮中央通り歩道上)
2, ベンチの設置
3, ライトアップ
4, マルシェ(地下通路)
5, パークレット
などの取り組みを展開されてきました。
特に1,オープンカフェは、地元のまちづくり協議会との連携のなかで、協定を結びながら進めた取り組みです。
また、三宮周辺地区の「再整備基本構想」を受けて、自動車だけでなく、歩行者や自転車の視点から見た道路を考えるため、「活かす・つなぐ・守る」を三本柱として「みちづくりの指針」を策定し、道路のリデザインを推進されてきました。
道路のリデザインでは、交通機能の最適化と空間機能の向上によって、市民生活の豊かさを獲得するための取り組みを行い、そのなかのひとつとして、今回のゼミの対象道路である「葺合南54号線」の歩道拡幅工事が行われています。
道路に愛着を持ってもらうためには、ベンチに座ってもらうためには、ウォーターフロントまで足を運んでもらうためには、何が必要か。そうした課題に対して、今回のゼミはアクションプランを提案していきます。
つづいて、対象道路を含む周辺地域のまちづくりを推進してきた三ノ宮南まちづくり協議会の山本俊貞さんより、周辺地域の歴史や現況についてご説明をいただきました。
戦後からの三宮の歴史として、駅舎の移動等により、現在の元町駅周辺から三宮駅周辺まで徐々に都心が東に移ってきており、三宮駅周辺のさらに東に位置する今回の三ノ宮南地区は、これからの都心として今後さらに発展が予想できる一方で、新しく流入する独り住まいの居住者が増加している地区でもあり、多様な都市機能をもった地域であることが伺えました。
そして、今回のゼミのゲストである西尾京介さんより、道路の活用事例やその運営ノウハウなどをレクチャーいただきました。
冒頭、西尾さんと永田の恩師である鳴海邦碩先生の著書『都市の自由空間―街路から広がるまちづくり』をご紹介いただき、道が交通機能に占められるようになったのは100年ほど前からであり、それまではコミュニケーションの場であったことが示されました。
そのうえで、いま、国をはじめ全国の自治体で道路の利活用についての議論が進められており、自動車のためだけでない道路の活用のしかたについては世界中で議論されていると説明されました。
ニューヨークでは、もともと自動車のために整備された大きな道路を歩行者のための道路として再整備が進められるなど、時代によって変化するニーズに対応して、いまに合わせた方法をとる必要があると解説いただきました。
道路の活用には「イベント(非日常)的」な使われ方と「継続(日常)的」な使われ方にわかれ、どちらも重要ではありますが、今回は「継続(日常)的」な事例を、活用の分類ごとにいくつかご紹介いただきました。
○幅員の大きな歩道の活用
札幌駅前通り「すわろうテラス」
池袋「グリーン大通り」
○道路空間の再配分
京都「四条通」
神戸「KOBEパークレット」
○歩行者専用空間
豊田「あそべるとよたプロジェクト」
○商店街のにぎわい創出
小倉「魚町サンロード」
○生活道路のコミュニティ利用
ベルギー「Leefstraten[リーフストラテン]」
などです。場所やスケールに応じた利活用の方法を取り入れる必要性が示されました。
さらに、西尾さんが実際に関わられたプロジェクトの事例として、松山の「大街道商店街」を取り上げ、展開された実証実験「PubL[パブル]」について解説をいただきました。「PubL」は、可動のイスやテーブル、ベンチ、プランターの植栽、スタンド型の照明器具など、移動しやすいツールを使用して自由に使える座り場を期間限定で設置し、定点観測と利用者への意向調査を実施したプロジェクトです。
市民のリビングをつくることを目指し、ものを売る前に人に集まってもらうことを考えてはじめられた「PubL」は、コストをかけずに簡単に再現ができるよう設計されています。
実証実験としてはじめられた「PubL」は、やってみることで思わぬ利用法が出てきたそうです。赤ちゃんを連れたお母さんが実は飲食店などにも入りにくく、ただ座れるところがあるだけでそこを利用して持ってきた食べ物を食べさせたり、小さな子どもや学生も自由に場所を使われていたそうです。
ふだん無機質なところも、簡単な操作で居心地がよくなって、そこに滞在することがきっかけで街を観察することが増え、魅力の発見につながります。
また、こうした道路の利活用の課題として、次の3つをあげられました。
①担い手
②コスト負担
③デザイン
①担い手は、エリアマネジメントによって調整するだけでなく、個々人のちょっとした負担の積み重ねによって仕組みをつくる必要性を説かれました。
②コストの負担は、広告や出展料だけでは無理が出てしまう可能性があるので、①と同様、負担を支え合う仕組みが必要であるとご説明されました。
③デザインは、人間にとって居心地のい空間を提供するために、その環境を評価する必要性を訴えられました。
レクチャーの途中、サンフランシスコで行われているパークレットでは、停車帯を公共空間として管理している主体は歩道を挟んだ向かいの店舗であることが多く、個々の小さな貢献が集積することで、街全体の公共空間の創出に役立っていることが紹介されました。
日本ではあまり見られない、小さな貢献の集まりによる公共的な道路の利活用や仕組みを、今回のゼミで提案できればと、ゼミ生一同奮起しました。
最後に、永田より次回実施するフィールドワークに向けて、街を観察する際のポイントなどの簡単な解説のあと、ゼミ参加者の自己紹介を行って、初回のゼミは終了となりました。
次回は実際に街に飛び出して、対象道路や神戸市が行っている道路の活用事例などを対象にフィールドワークを行います。
+クリエイティブゼミvol.22「道路の未来を考える2実践編」
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2016年2月に開催した+クリエイティブワークショップ「道路の未来を考える」
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ワークショップの成果冊子はこちら(PDF)
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ゼミ初回当日、対象道路である葺合南54号線では、拡幅した歩道の一部が完成し、先行して開放されたほか、三ノ宮南まちづくり協議会によるジャズイベントおよび三宮フラワーイーストプロジェクト会によるバルイベントが開催されました(詳細はこちら)。
ゼミの開講に先立って、イベントの視察を行いました。その際の様子の写真を以下に掲載いたします。