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2018/10/1

イベントレポート

未来のかけらラボ vol.13 トークセッション「未来をつくる自然エネルギー ~小さな地域がすすめる持続可能な自然エネルギー×「X」とは?」レポート

2018年9月19日(水)

未来のかけらラボ vol.13 トークセッション「未来をつくる自然エネルギー ~小さな地域がすすめる持続可能な自然エネルギー×「X」とは?」を開催しました。ゲストは、国際環境NGOグリーンピース・ジャパン エネルギー担当の石川せりさんです。

石川さんは東日本大震災をきっかけに環境問題に関心を持ち、グリーンピースに参加。2年ほど前から自然エネルギーの担当者として、自然エネルギー100%の社会に向けて活動しているとのことです。今回は、自然エネルギーの基本から世界と日本の自然エネルギーへの取り組みの現状など、幅広くお話しいただきました。その一部を紹介します。

近年、台風や豪雨、猛暑といった異常気象が肌身に感じられるようになってきました。地球温暖化が進む限り、豪雨や猛暑といった異常気象は続くだろうと言われており、温暖化の原因となるエネルギー源でなく、自然エネルギーへの転換が世界的に求められていると言えます。「自然エネルギーが当たり前の社会」をイメージする動画を見つつ、自然エネルギーの具体的な種類(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱、波力、潮力など)とその普及の現状についてお聞きしました。
>「もし自然エネルギーが新しいあたりまえだとしたら?」 https://youtu.be/V2G6D8woTcM 

 

世界の状況 企業、自治体、宗教団体などによる推進

次に、世界での自然エネルギーの拡大の状況を、データを参照しつつ教えていただきました。
10年で2倍以上、太陽光や風力が伸びていて、化石燃料、石油、原発は増えていません。自然エネルギーは新しい産業なので、産業の拡大・普及に伴い雇用が増え、コストも低下傾向。これからも下がると言われています。
この変化には企業の力が大きく関わっています。事業に必要なエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄う「RE100(=Renewable Energy 100%)」という国際的なイニシアチブは2014年に発足され、BMWグループ、IKEA、NIKE、facebookなど世界規模の企業を含んだ現在140社以上が加盟し、実際に取り組みが進んでいます。日本企業もリコーを皮切りに、加盟が進んでいます。
>【エネルギー】RE100と現在の加盟企業 〜再生可能エネルギー100%を目指す企業経営〜 https://sustainablejapan.jp/2017/02/01/re100-2/25334

アップルは自社のみに限らず、アップルに部品を供給するサプライヤーに対してもRE100の要求をする、というとても先進的な取り組みをしているとのこと。
グリーンピースは2012年からIT企業を中心に、企業の自然エネルギー転換の取り組みを促すキャンペーンを行っており、facebookやサムスン電子に働きかけたそうです。
サムスン電子は製造拠点3か所でRE100を目指すことを宣言しました。スマートフォンの世界最大級のメーカーのこの変化は世界的な影響力があると言えるでしょう。

パリ、フランクフルト、カリフォルニアなど自治体も再生可能エネルギーの普及を目指しています。新築の戸建てに太陽光パネルの設置義務を課す法律を制定したり(カリフォルニア)、再生可能エネルギー利用率の達成目標期限を設定したり、義務化、制度化していくことで自治体で作る自然エネルギーの量を増やそうとしています。

宗教団体の変化も大きな影響を与えます。イギリスでは5500を超える教会が化石燃料由来のものではなく自然エネルギー由来の電力にスイッチ。気候変動の影響は大きな格差があり、貧しい人たちが最初に、しかももっとも深刻な影響を受ける、と、環境担当者がいるほど、宗教団体の中で重要な項目と捉えられているという話は印象的でした。先進国は屋根があることが当たり前だけれども、途上国においては環境の変動が深刻な問題になる。小さな一歩かもしれないけれど、一斉に切り替えていくことによって、エネルギーのこれまでの在り方を変えていくことができるのです。

日本の状況 世界と逆行、でも明るい兆しも

日本は一番温室効果ガスが出るといわれている石炭火力発電が中心で、新たに建設する計画も30基以上。神戸にもKIITOの近くに2基の建設計画が進んでいます。世界の流れに逆行していると言えますが、明るい兆しも見えてきています。

日本企業のRE100加盟は、最初の加盟(リコー)こそ昨年4月でしたが、短期間で続々と加盟し、現在は11社に。太陽光発電は2016年時点で中国に次ぐ世界第2位と、いっきに増加しています。自治体、企業、お寺などの宗教団体、学校法人といった国ではないプレーヤー(非国家アクター)のイニシアチブが大きいと言えます。

このように、日本でも世界でもさまざまな動きが起きていますが、まだまだ足りないと言われています。どこかだけがやっていればいいというものではなく、世界が同じ目標に向かって取り組む必要があるでしょう。

最後に、グリーンピースの目指す世界―循環型経済とはどんなものかを紹介する動画や、環境問題(混獲、プラスチックなど)を創造的な表現を通して提起した動画を見せていただきながら、グリーンピースの活動について紹介していただきました。
>グリーンピースが目指す世界-循環型経済 https://www.youtube.com/watch?v=Sc88ZerkgZM
>混獲 https://www.youtube.com/watch?v=7i0N-WaWOvc
>バレエ団とプラスチック問題 https://www.youtube.com/watch?v=slRmLHmCqxQ
>パームオイルと森林問題 https://www.youtube.com/watch?v=eQCKD_wTK3Y

モデレーターの芹沢は、最近友人から、ヨーロッパの投資家たちは、一部の人たちが再生可能エネルギー関連の企業を投資先に選び始めているらしいと聞いた、とのこと。倫理観からも少しはあるかもしれないが、冷静に、投資家がそこに次の収入減があるという理由で投資し始めているなら、これはかなり早い段階で変わっていく可能性もあるのではないか、と考察します。

 

石川さんも、ノルウェーの機関投資家を招いてセミナーを行ったとき、自分が石炭等に投資するのは顧客にリスクがあり、顧客を守れないので投資しない、再生可能エネルギーに投資する、と明言していた、日本でも同様の動きはあり、変わり始めている、という実感はある、とのこと。また、非国家アクターを集めたイベントでは、いくつかの企業の人から、COP23で世界の動きに直に接して衝撃を受け、「このままでは本当にグローバルにビジネスができなくなってしまう、日本はこのままじゃだめだ!」と痛感し、危機感を持ち帰って社内に伝えて、やっと動き始めたという話も聞いたそうです。

自然エネルギー×「X」の広がり

こういった動きも、同じ領域の中で議論しているだけでは広がりにくい部分がありますが、違う領域とクロスした興味深い事例が多くあり、石川さんからいくつかご紹介いただきました。

「×まちづくり」の例:
・宝塚市のソーラーシェアリング エネルギーや気候変動のためだけではなく、地域で自立できるように、輸入に頼らないエネルギー、食物づくりなど、複数の利点がまざった取り組み。
>宝塚すみれ発電 http://takarazuka-sumire.com/
・映画「おだやかな革命」 街づくりの中にエネルギーの自立 西粟倉、八王子などの取り組みが紹介されている。バイオマス、てんぷら油発電、間伐材を使った木工製品作りなどの事例。
>おだやかな革命 http://odayaka-kakumei.com/
「×テクノロジー」「×ソーシャルグッド」の例:
・アメリカの高校生が、ホームレスの人のためにソーラーテントを開発。
>詳細 http://uk.businessinsider.com/students-solar-powered-tent-mit-grant-2017-6
・オーストラリアのソーラートレイン:曇りの日は電力会社からの供給を受けるが、1年のうち200日は天気がいい地域。
>詳細 http://byronbaytrain.com.au/
・レバノンで女性たちが働くジャムの工場に、クラウドファンディングでソーラーパネルを設置。光熱費でお金がほとんどなくなっていたのを、地域でお金が残るようになった。
>詳細 https://cleantechnica.com/2017/03/20/womens-cooperative-lebanon-empowered-new-crowdfunded-solar-array/

 

石川さん自身も、中古のソーラーパネルを購入・バッテリーは組み立てるイベントに参加して、自宅に太陽光発電を導入したそうです。ノートPCや携帯電話、タブレット程度は充電できるようになり、天気とともに暮らす感覚が身についたとのこと。
芹沢も、家を建てるときに発電設備をつけており、インバーターだけは変えているけど、経年変化で効率が落ちていくことはそれほどなくて、家で使う電気の全部は賄えないけれど、元は取れている状態とのこと。

自然エネルギーは、あてにならないと言われるけれど、すべてを蓄電池で補うのは環境負荷が高いので、いろいろな組み合わせが大事。太陽光発電とともに暮らすことは経験としてはおもしろいし、発電したものをいかに有効活用するかを考えるようになる、と実践者の2人は言います。

質疑応答では、再生可能エネルギーを作るときのネガティブな部分、普及の難しさなど、自然エネルギーの抱える課題についての質問がありました。手放しに推進するのではなく、比較とバランス、しっかりとした対策や規制、影響を受ける人や地域との合意形成、価値基準を社会全体で形成していくことの重要性が再認識されました。

日本と世界の現状とさまざまな事例、個人として生活の中で実践できることと、小さなところから社会を変えるためのアクションまで、短い時間の中でたくさんの示唆に富むお話をお聞きすることができました。
石川さんもグリーンピースのブログでレポートを書いてくださいました。ぜひこちらもご覧ください。
>http://greenpeace.jp/blog/energy/4020/
これからも国内外の自然エネルギーの取り込みをリサーチし、発信してくださるとのこと、今後も注目です。

未来のかけらラボ vol.13 トークセッション「未来をつくる自然エネルギー ~小さな地域がすすめる持続可能な自然エネルギー×「X」とは?」
http://kiito.jp/schedule/lecture/articles/29150/