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2018/12/3

イベントレポート

「PORTO」で観る、語り合う「ハッピーアワー」(濱口竜介監督『ハッピーアワー』上映会+トーク)レポート

2013-2014年度のKIITOアーティスト・イン・レジデンス招聘作家・映画監督の濱口竜介さんは、「即興演技ワークショップ in Kobe」を開催し、ほとんどが演技未経験であった受講者たちが出演する映画『ハッピーアワー』を制作しました。
本作は、スイス・ロカルノ国際映画祭をはじめ、国内外で非常に高い評価を受けました。5時間17分という長尺ながら、公開以来、現在に至るまで、さまざまな場所で上映会や関連トークが開催され、監督・スタッフ・出演者・鑑賞者の間で、映画を通した対話が続いている、稀有な作品です。
KIITOでは、2015年2月に、映画のタイトルがまだ『BRIDES(仮)』の段階で、完成前の「編集ラッシュ」状態を公開上映を行ったのが最後となっていましたので、完成版の上映をし、みなさんと語り合う機会を設けたいと考え、今回の上映会+トークの開催を企画しました。

2018年11月10日(土)
上映会

KIITOの建物は劇中、主人公の一人・芙美が働くアートセンター「PORTO」として登場し、多数の印象的なシーンの舞台となっています。今回は、劇中では、小説家・能勢こずえが新作小説「湯気」の朗読会を行った会場である3F301を会場としました。画面の中でストーリーが展開しているその場所で鑑賞する、というなかなか体験できない感覚を味わっていただけたかと思います。
上映終了後は濱口竜介さんと、『ハッピーアワー』では「はたのこうぼう」の一人として共同脚本およびプロデューサーを務めた野原位さんにも登場いただき、ティーチインを行いました。

 

KIITOでは白い壁にプロジェクターで映像を投影しながら編集作業を行っていた、大画面で観ながら編集できるのがよかった/5時間17分の映画になるなんて、最初は思ってもいなかった。やりながら改稿していって、最終的に、楽しんでもらうにはこの時間が必要だった、、、等、神戸やKIITOでの制作の日々を振り返って、さまざまにお話ししていただきました。

来場者からは、「映画では、日常にありそうなことが自然に出ている中で、現実離れしているところもある。日常の現実の感覚の違いをどう考えているか」「女性の心情をどういうふうに考えて描いているか」などの質問があがりました。

1つ目については、映画製作の予算も関係していて、お金がないということは現実を変えられないということ。社会の邪魔にならないくらいのところで、現実をほんの少しだけ変えながらフィクションを撮っていく。でも、個人的な感覚かもしれないが、単に現実を撮っているだけではない。現実の中にフィクションが起こる可能性があるんじゃないか。それをなんとか導き出すことを目指して3人で脚本を書いた。先鞭をつける人、演者に合わせて現実に引き付ける人、さらに直す人、というように3人の役割が自然とあった、などと語られました。なお、濱口さん曰く「野原くんがフィクションとしての飛躍力をけっこう持っている人なんです」とのこと。

2つ目については、基本的に「徹底的に取材をすること」とのこと。演者さんには、違和感があったら言ってくれ、と伝えていたそう。キャラクターがセリフを発するうえで、わたしはこんなセリフは言わない、と言われたら書き直して、これなら言えるかも、こうじゃないならこうかな、というコミュニケーションがある。リアルだと感じてもらえたならば、違和感を口にしてくれた演者のおかげ、とのこと。

なお、思い入れのあるキャラクターは?という話の流れで、「育ってしまったキャラクター」のお話が印象的でした。たとえば、能勢こずえは、最初は一言もセリフがなかったのに、小説家を演じるために演者が小説を書いているらしいといううわさが聞こえてきて、ならばそれに応えよう、と、気づいたら朗読会をするまでになったとのこと。「全員、良くも悪くも育ってしまって、どう終わらせたらいいの?本当に終わるの?とやっているときは不安だった」というほど。決まった脚本通りに撮られる映画ばかりではなくて、スタッフと演者が濃密なコミュニケーションを取りながら作り上げる手法もあるのだ、と気づかされるエピソードでした。

2018年11月11日(日)
トーク:『ハッピーアワー』/論の奇妙な打ち上げ

「『ハッピーアワー』/論の奇妙な打ち上げ」と題して、一冊まるごと『ハッピーアワー』について論じた「『ハッピーアワー』論」を出版した映画評論家の三浦哲哉さんと、『ハッピーアワー』出演者11名、さらに前日に続き濱口さんと野原さんに登壇いただきました。

三浦さんは「『ハッピーアワー』論」執筆の際は、監督や演者にインタビューしないで書くことを自分に課したそうで、演者に会うのは初めてとのこと。
濱口さん曰く「三浦さんが主役の4人はそれぞれの聡明さがあると言ってくださったが、重ねて言うなら、演者17人全員、それぞれの聡明さがある」映画です。悪者だったり、シーンの盛り上がりを作るための犠牲者だったり、に見えそうな人も、それぞれに主役に劣らない魅力があるのです。この日も、三浦さんが丁寧にピックアップしてくださる、今回登壇した11名のキャラクターの魅力や印象的なシーン、セリフなどを手掛かりにして、演者の方々にその時の思いやエピソードをお話しいただきました。

 

 

脚本以外に存在するサブテキスト、即興演技ワークショップや、映画のキャラクターがお互いにインタビューし合うというワーク、脚本の度重なる改稿などについてがたびたび話にあがり、その制作プロセスが演者と映画自体に大きな影響を与えたことが感じられました。

三浦さんも「映画の中にいるような、不思議な感覚」と冒頭におっしゃっていましたが、トークの最中の演者のみなさんの何気ないしぐさや言葉遣い、言うことを考える間などは、見事に映画のキャラクターを彷彿とさせられました。映画で自然な演技を撮っていたというのとはまた異なる、キャラクターが演者の中に身体化されていることを目撃したような感覚でした。映画を観てこの場に参加された方々も、この感覚を共有してもらえたのではないかと思います。

 

 

 

『ハッピーアワー』は、公開から3年を経た今でも、各地で上映会やイベントがまだまだ行われています。脚本やサブテキスト、「『ハッピーアワー』論」をはじめとした批評も合わせて触れていくと、その魅力の深さ、厚みに驚かされます。ぜひたくさん味わってみてください。

「PORTO」で観る、語り合う「ハッピーアワー」(濱口竜介監督『ハッピーアワー』上映会+トーク)
http://kiito.jp/schedule/event/articles/30501/