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2019/3/28

イベントレポート

「セルフビルド」にまつわる連続トーク2:作る人に必要な「支持体としての空間」とは? レポート

2019年2月20日(水)
セルフビルドにまつわる連続トーク・第2回「作る人に必要な「支持体としての空間」とは?」を開催しました。

第2回の講師は、Basement Kyotoプロジェクトチームの福元成武さん、矢津吉隆さん、榊原充大さん、髙才ゆきさん。
「Basement Kyoto」は、アーティストが自らの制作スタイルに合わせて自由に改修することのできる「支持体としての空間」を提供するための、住宅兼制作スタジオの賃貸プロジェクト。ものづくりをする人≒アーティストがどのような制作と生活の場を整えているかを知ると、セルフビルドの面白さや良い実践の仕方に通じる発見があるのではないかと考え、その試みと事例についてお聞きしました。

株式会社TANK代表の福元さん、髙才さんはプロデュースと施工で、TANKの拠点は東京ですが、髙才さんのみ京都を拠点に、Basement Kyotoを担当/アーティストで、Basement Kyotoが手がけた物件の利用者でもある矢津さんはプロジェクトデザイン/建築家・リサーチャーの榊原さんはアドバイザー・物件管理、という役割分担がそれぞれなされています。当日は榊原さんが進行を務めるかたちでみなさんにお話しいただきました。

Basement Kyotoとは?
芸術大学が多いこともあり、アーティストが多く暮らす京都。改修不可・原状回復必須な日本の住宅事情は、アーティストにとって良いものとは言えず、自分のやりたいことができる制作場所探しはいつも困難を極めています。そこで、アーティストの視点に立ち、アーティストが思いのままに自らの制作スタイルに合わせて改修することのできる、仕組みと空間を提供するプロジェクトとして立ち上がったのが、Basement Kyotoです。

仕組みは全国空き家流通化サービス「カリアゲJAPAN」の仕組みを活用。物件をBasement Kyotoがオーナーからそのまま借り、「支持体」として成立する程度の改装を施す。その後、アーティストが入居し、制作に合わせた環境に自ら改装しながら利用、6年の契約後はオーナーとアーティストの直接契約に移行します。
改装費用は、6年間の家賃収入の中から逆算してまかない、オーナーにも固定資産税を払える程度の額はオーナーに支払われます。京都市の助成金も活用しています。
オーナーにとっては初期投資ほぼゼロで、さまざまな手間をBasement Kyotoが代行してくれるかたちに。アーティストにとっては、自由度が飛躍的に高まった物件を利用することができ、自分なりの改装をするにあたってもアドバイスを受けられる、かなりWin-Winな仕組みになっています。
これまで5件の物件が手がけられ、実際に入居されています。アーティストのシェアアトリエになっていたり、フードディレクションを手掛けるデザイナーが入っていたり、多様なジャンルのアーティストが借りているようです。

スタートは2016年、福元さんが、京都でカリアゲJAPANの仕組みを使って何かやりたい、と矢津さんに相談し、それではアーティストが住みながら制作できる物件を作っていけないか、アーティストはお金はないけどものをつくる力は持っているし、カリアゲJAPANのビジネスモデルと腕前のある入居者は相性がよいのでは、とのイメージからはじまっていったようです。
オーナー側は、きれいにしないと借りてもらえないんじゃないか、という意識を持ちがちで、町家は残したいけど維持費がたいへんだから壊してしまおう、となるケースも多いようです。また、アーティスト側は、普通の物件を借りて改装すると初期費用がかかるし、退去時の原状回復で費やした投資が無駄になってしまう。6年の間に借り手がやめてしまうリスクはありますが、オーナー・アーティスト双方にある問題を改善する取り組みです。

「支持体」としての改装って?
このトークは「セルフビルド」をテーマに掲げていますが、このチームがセルフで改装しているわけではなく、アーティストが手を入れる前段階の「支持体」を仕組みも含めて作っているのが特徴ですが、改装のフォーマットがあるわけではありません。個別解として1件1件の物件の向き合い方はセルフビルドと親和性が高いかもしれません。
改装しすぎず「支持体」にとどめるバランスは、矢津さんが、アーティストがどこに魅力を感じるのかをおさえたうえで、入居予定者と毎回慎重なやりとりを経て決められているようです。トーク時点では5件目が完成する目前の段階。具体例のbefore/afterをスライドで紹介いただきました。

1件目は2016年。状態が悪いわけではないが、古いな、という印象の、もともと酒屋だった町家。間口が広いし、町家は職住一体の生活を体現している間取りで、アーティストにとって活用しやすい。
改装作業には京都造形芸術大学の学生がプロジェクトとして多く関わっている。少ない予算をやりくりしてやっているので、学生の存在は重要。現場は殺伐としやすいが、学生が喜んでやってくれるので、いい雰囲気になっている。

3件目の物件はシェアアトリエで、矢津さんも入居。活躍中のアーティストが複数入居していてスタジオビジットも多く、人の出入りが多い物件。
陶芸作家がいるので窯場を作ったり、作家の制作スタイルに合わせて自由に改装している。アーティスト側が引き受けて、職人のアドバイスを受けつつ自分たちで改装する部分も多かった物件。「支持体」の状態にされているので、その上での改装は、下準備が省けるし、改装のイメージもしやすいので、かなりやりやすかったとのこと。Basement Kyotoとしても、この物件は、良いバランスで作れて、目指したいところの完成形だったと言えるとのこと。
施工の段階で入居者が決まっていることが多いので、ヒアリングをして改修計画を作っていく。この物件では重量物を運ぶトロッコを走らせるレールを設置。ここはBasement Kyotoだからできた部分と言える。

4件目は、セルフリノベーションが途中で頓挫したかのような状態だった。フードディレクションをするデザイナーが入居。暗い、寒い、しけっている町家だったので、なるべく光を取り入れる工夫をしたが、寒いのはかえって保存食作りには有効だったとか。

5件目はペインター3名が入居。1階手前のスペースをギャラリーにするらしく、場が開かれていくのはすごくいいことなので楽しみな物件。

オーナーの反応
オーナーは知り合いのつてで出会うことが多いが、ウェブから問合せをくれる人も出てきているとのこと。すでに手掛けた物件のオーナーが仕上がりを気に入って、別の物件を提供してくれることもあるそう。スタートは、アーティストというと未だに岡本太郎的なイメージを持たれ、持ち家がどうにかなってしまうのではないかという不安を持つ人が多く、ちょっとマイナスからになる。そこからBasement Kyotoのスキームを丁寧に説明して、6年間の間、家賃収入が入るわけではないことを納得してもらうのが課題だが、お披露目の際はみんな喜んで、満足してくれている。
オーナーのほか、ご近所への挨拶も必ず行っている。アーティストに住んで使い続けてもらう計画を説明すると、京都という土地柄か、ものづくりには理解を示してくれる。受け入れられやすい土壌がある。アーティストは近隣に理解を得られない場合が一番のストレスになる。Basement Kyotoが、そこにアーティストがいても許される状況を、つくっていけるといいのではないか。

現状維持的運用+文化への貢献というトリガー
実際、投資や投機としてはわりの合わない話。Basement Kyotoは、積極的な運用でも売却でもなく、現状維持がよくて、アーティストのためになるなら協力する、という感覚の人にハマることがある。固定資産税がまかなえて、長い目で見ればきれいに使ってもらえて、文化への貢献がある。そのことがトリガーになる。京都っぽいといえば京都っぽいのかもしれない。

まちにアーティストが住み、ものづくりをしている生態系を
後半の質疑応答ではさまざまな質問が投げかけられました。
採算性については、ずっと悩んでいるが、低予算の中、どのレベルで引き渡せるか、施工会社としてとても挑戦をしているところで、やっと5件目でとれるようになってきた、とのこと。京都市の若手アーティストの育成を目的とした助成金がかなり助けになっていて、他の現場で出た廃材を活用することもあるそう。

対象は「アーティスト」のみなのか、という質問には、美術作品を制作するアーティストに限定しているわけではなく、ものづくりに対する理念、素養、スキルがある方にと考えていて、そこはぶらさずにいたいとのこと。
京都市立芸術大学が移転する周辺エリアには、アーティストのための場所がより必要になってくる。それも通り一遍の流通している物件ではなく、ちゃんとアーティストと連携して空間を作っていくという意識の元でなされていく必要がある。Basement Kyotoの意義は不動産の部分のみでなく、文化芸術にまつわる新しいアート/アーティストの支援の形を広く開き、新しい生態系を新しく作っていくところだと思っている。そこが突き抜けることができると、ビジネス的にも違うチャンネルが出てくるかもしれない。

入居者審査の有無や家賃については、いまは公募するような状況にはなっていないが、施工段階でアーティストと話をして、その人のスキルを探りながら進めているので、その話し合いの中で自然と選ばれていくと思う、とのこと。家賃は相場の値段だが、改装可、6年間の定借なので、更新料がないというメリットはある。
街中の物件が多いのは重要。まちのなかで、アーティストが自然に何かを作っている場があり、開かれていて、まちの人がアクセスできる、という状況がまちとしての価値になっていくのではないか、とのこと。

これから物件が増えていき、どんな風景が見えてくるのか。楽しみです!

「セルフビルド」にまつわる連続トーク2:作る人に必要な「支持体としての空間」とは?
http://kiito.jp/schedule/lecture/articles/32381/