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2020/12/14

イベントレポート

オンラインフォーラム「これからの共創・公民連携のカタチを考える~withコロナ時代の新たな取り組み事例も交えながら~」レポート

10月10日(土)
企業、大学、NPO、地域団体など多様な民間セクターと行政が連携を深め、新たな価値や解決策を共に見出し、創りあげていく「共創・公民連携」。昨今非常に注目が集まっている本テーマについて、横浜市政策局共創推進室共創推進課の河村昌美さん、大阪府公民戦略連携デスクの元木一典さん、主催団体である神戸市企画調整局つなぐラボの藤岡健さんをスピーカーに、オンライン形式のフォーラムを開催しました。

神戸市の共創


まずは神戸市企画調整局つなぐラボ 担当部長の藤岡健さんより、神戸市についての講演です。はじめに神戸市の概要と魅力紹介の後、公民連携の取り組みについて事例を基にお話頂きました。
  

窓口開設の背景
主に3つの課題解消が目的
① 民間事業者のアイデア等の活用の受け皿が不十分だったため、提案自体が少ない
② 民間事業者との連携における非効率性
③ 提案実現までに時間がかかる

神戸市が注目している公民連携事項
・神戸ブランディングの強化、情報発信の推進
・AIやIoTなどの最先端技術を活用した社会実装の実施
・複雑化、多様化する地域課題を解決できる人材の育成

神戸市公民連携の3つのスタイル
①ワンストップ窓口による迅速・柔軟な連携
②市と事業者、対等なパートナーとしての互いの強みを活かした連携
③積極的な意見交換による事業者アイデアの実現促進

「神戸の未来を協創していく CO+CREATION KOBE」webサイトはこちら
事例を含めた公民連携事業に関するパンフレット「CO+CREATION KOBE」はこちら

共創の定義と横浜市の取組


次に横浜市政策局共創推進課 課長補佐、事業構想大学院大学事業構想研究所 客員教授の河村昌美さんより、共創(公民連携)の定義から横浜市の取り組み、共創を進める上で大切なことや今後の課題までお話頂きました。
  


「共創」と「対話」
「共創」とは、企業・NPO・大学などの多様な民間の方々と行政とが「対話」を通じて連携を進め、それぞれが持つアイデアやノウハウ、資源などを活用することで、社会や地域の抱える課題 に対して、新たな価値や解決策を共に創り上げていくこと。不明瞭で先の予測が困難な時代=VUCA(ブーカ)時代は従来のやり方は通用せず、課題解決には様々な組織・人々の共創によるイノベーションが不可欠である。またイノベーションは自分の頭の中だけで創り出すのは難しく、他者との予定調和を超えた丁々発止のやりとりのプロセス、つまり「対話」が必須となる。

横浜市共創推進室が取り組む様々な公民連携の手法
プライベート・ファイナンス・イニシアティブ(PFI)などのハード系公民連携手法
成果連動型民間委託契約方式(PFS)、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)などのソフト系公民連携手法
・公有資産等有効活用(サウンディング調査) 
・指定管理者制度
・広告、ネーミングライツ
・共創フォーラム、共創ラボ、リビングラボ(公民が対話する場の形成・実施)
・共創フロント(民間提案・コーディネート窓口)
「やるべき」「やれる」「やりたい」という三本の「や」の中で、新規事業成功につなげるために一番重要なのは、「やりたい」である。
共創フロントでは24時間365日提案受付可能なフリー型と各所管課が設定したテーマで民間提案を募るテーマ型の2種類があるが、そのうちフリー型では「やりたい」を最優先し、共創推進課内部の案件担当者を手上げ方式で決定している。

共創手法を活用するフェーズ
1.VISIONの設定
2.FUNCTIONの検討
FUNCTION(機能)の検討だけに意識が向けられがちだが、共創によるオープンイノベーションを起こすようなFUNCTIONを創造するためには、まずはVISION(目指すべき未来)を設定するフェーズから対話や連携をし、関係者同士で共感していくことが必要。

公民の共創事業を成功させるために
・公民の立場の違いを十分に理解する
・共創するパートナー間と共創のステークホルダーの間、双方に「共感」が必要
・「共感」(エンパシー)をうむには、「課題」と「価値」の調和が不可欠
 課題が状況によって大きくかわることに付随し価値も変動するので、常時対話が欠かせない

共創のこれからの課題
現状はわかりやすく見えやすい「知の深化」しか評価せず、「知の探索=冒険者」は既存の方法では評価できず、敬遠される傾向がある。結果、探索をおろそかにしてしまい、環境が変化した際に適応できず、イノベーションが起こらなくなってしまう。これからの時代は「知の深化」だけでなく、「知の探索」も大事にする「両利きの経営」をする必要がある。※1
※1 出展:『両利きの経営』(2019、東洋経済新報社)

著書『公民共創の教科書』(2020、事業構想大学院大学出版部)はこちら
「横浜市共創の取組」はこちら
事例を含めた公民連携事業に関するパンフレット「横浜と共に創る」はこちら

大阪府の公民連携


講演最後は大阪府公民戦略連携デスク チーフプロデューサー元木一典さんより、大阪府の公民連携の取り組みについて開設背景から直近のwithコロナにおける状況まで、実際の取り組み事例を交えながらご説明いただきました。

  

公民戦略連携デスク開設の背景
・CSR、CSVの機運が高まり、連携担当窓口の明確化を求める民間の声が上がっていた
・よりスピーディーで柔軟な、公・民双方win-winとなる連携のための旗振り役として設置

公民戦略連携デスクのミッション
・企業、大学のワンストップ窓口
・企業、大学と府のコーディネート機能
重要視していること:対話を通じたイノベーション

大阪府における公民連携の定義
府民・企業・行政のwin-win-win=「三方よし」の関係のもと、社会課題の解決に向けて対等な対話を通じて構築する連携のかたち

大阪府の目指す公民連携
行政と企業双方の強みを活かした連携を行い、新しい価値を生み出す
・行政 信頼性・信用性、公共性、安定性・継続性
・企業 スピード感、社会変化への対応力、多様な資源、CSRのみならずCSVの観点重視

企業における公民連携のwinとは
・地域貢献活動の充実、公益性の向上
・信頼感、安心感の向上
・連携のスピードアップ
・PRやネームバリューの向上
・ネットワークの拡大

Withコロナ
日頃からホスピタリティをもちスピーディーに対応できるよう工夫し続け、信頼関係とネットワークを構築してきたことで、コロナ禍も様々な企業・団体から支援や連携の声があがった。

大阪府公民戦略連携デスク webサイトはこちら
事例を含めた公民連携事業に関する「大阪府公民戦略デスクPRパンフレット」はこちら

トークセッション

ここからはKIITO副センター長永田をモデレーターに、参加者からチャットで頂いた質問も交えながらトークセッション形式で理解を深めていきました。

連携事業を進めるにあたってディレクションやプロデュースが必要になると思いますが、部署内で担っているのでしょうか。そうだとすればディレクション力をつけるための人材育成方法について、または外部委託されているのであればその仕組みについて教えてください。
河村氏:横浜市の場合、開設当初はまだ全国に事例がなかったので、まず民間の専門家を特別職の形で雇用し一緒に取り組むところから始めました。異動等で組織の人員構成は変わっていきますが、案件担当を挙手性で決定し、自分がやりたいと思える案件に取り組めていることがポイントです。また案件ごとに対話をベースとしたカルテを作成し、総括が集約・確認して適宜アドバイスを行っています。
元木氏:行政もしくは民間どちらか一方のみがディレクションを担っているというわけではなく、双方で提案し合いながら連携を進めています。

共創・公民連携の取り組みが他企業や都市で横展開されることはありますか。また、取り組み内容を行政同士で共有する場はありますか。
河村氏:全国に広まってほしいと思っていますが、事業が横展開されるには2つのポイントがあります。一つ目は全国どこでも展開できる取り組みであること、二つ目はファーストペンギンになる(=先陣を切ってチャレンジする)こと。行政同士で取り組みをシェアする場も一応ありますが、民間を1回通して他都市に展開されるケースが殆どです。
元木氏:少し別の角度から話しますが、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける大阪の農業生産者を助けるため、コンビニエンスストア3社合同で商品開発を行うという大変面白く意義のある取り組みを行いました。通常は競合3社が連携するのは非常に難しいですが、大阪府が間に入ることで実施に至りました。このような取組が全国広がり、次に繋がっていけば良いと考えています。

企業が求める共感、また市民・地域が求める共感をどのようにすり合わせていくのが良いでしょうか。また抽象的な表現で示されているSDGsの項目をどうすれば公民連携の取り組みの中で活用できるでしょうか。
河村氏:「今はどの段階で、まず誰の共感を得るのが重要か」を考えるべきです。共創ビジネスモデルを構想していく場合、まずはじめにパートナー同士の共感、次に地域のステイクホルダーの共感、最後に市民の共感という段階があります。また共感の中にも一般的・感情的な共感(≒シンパシー)と、より具体的・理論的な共感(≒エンパシー)があり、SDGsは最初にパートナーと共感するための広く総論的な入り口に該当します。対話を進めていく上で、誰の困りごとをどのような方法で解決するのかという具体的な共感を得るための検討をする段階に移っていきます。
元木氏:直接府民と連携するというケースはあまりないですが、府民に一番近い市町村に連携を働きかけることで共感を得ていきたいと考えています。また大阪府では様々な包括連携協定の項目をすべてSDGsに紐づけることにより、互いの目指す方向性を一致させることで連携をより推進できていると考えています。

公民連携の事業評価や効果検証は実施されていますか。また、民間側から連携する行政を選定をするというケースもありますか。
河村氏:評価・検証にはコストがかかるので、まずは何を評価基準にするかを考えることが大切です。企業によって指標がかわってくるので、対話によって何が企業のメリットになるのかを聞き出し、ビジネスモデスの中に取り込んでいくことが重要になってきます。今後は企業が行政を選ぶケースがより増えていくと思うので、行政は企業に選ばれるためにどういった実績を積み重ねていくべきかをしっかり考えていく必要があります。
元木氏:毎年公民連携による効果額として、金額に換算可能なものについては算出していますが、換算できない内容も多く、全連携項目に対しての試算は非常に難しいです。実際は、算出した効果額を上回る価値が出ていると想定しています。

大都市と比べ、地方都市の行政は色々不利な面も多いかと思いますが、どのように共創・公民連携を進めていけば良いでしょうか。
河村氏:無いことを嘆くのではなく、埋もれているものを掘り出すという意識が大切です。例えば「はっぱビジネス」のように、山村地域だからこそできること等があります。民間から選ばれる地域になるためにはどうすれば良いかを深く考えていくのが重要です。
元木氏:各自治体で、自分の地域がもつ魅力は何で、それをどのように発信していけば良いのかをしっかりと考えるのが良いと思います。

現場感を交えながら他にも沢山の質問にお答えいただき、ネクストアクションに繋がる数々のヒントを得ることができました。

総括


講演とトークセッションを終え、永田の「共感、それを満たすための対話に尽きると思いました。3都市にお集まりいただいて事例のみならず知見を共有でき、非常に豊かな時間になったと感じています。神戸市と相談しながら今後もこのような場を継続して創出していきたいと考えています。本日の内容を参考にしつつ、共創に注目されている沢山の方々の期待に応え、豊かな共創をつくりあげていきたいと思っています。」という総括をもってフォーラム終了となりました。

また終了後アンケートで頂いた「民間からの提案に対して如何にスピーディーに取り組むかが公民連携を継続する上で大きな課題となりますが、スピーディーな意思決定について心掛けていることは何か、またワンストップ窓口を設けていない自治体が同等窓口を設ける際の留意点について教えてください。」という質問について、フォーラム中にお話のあった「対話、共感、日頃からのコミュニケーションによる信頼性構築、提案の型及び論点の整理」以外の点でお答え頂きました。

河村氏:イノベーションは『個人やチーム』の創造性やテクニックの話に終始してしまう傾向がありますが、それは車の片輪であり、もう片方として大事なのはそれをビジネス・事業として受け入れる『組織・機関』(社内新規事業ならばその会社内部、役所ならばその役所内部)の中の受け入れ・意思決定・推進体制であるイノベーションのエコシステムが構築されているか否かです。このエコシステムには、
①イノベーションの投資方針(組織としてのイノベーションについてのビジョン・戦略)
②イノベーションポートフォリオ(自社の製品・サービス等の組合わせの中でのイノベーションの位置づけ・管理)
③イノベーションフレームワーク(社内でイノベーションを事業(収益)に構築するための基礎フレーム)
④イノベーションKPI(従来型の会計基準等とは異なるイノベーション用のKPI(指標))
上記の要素が必要となります。※2
これを自治体用に読みかえると、①を首長や議会も理解の上での制定、②のイノベーションの明確なポジショニング、③の庁内での受け入れ・調整・意思決定方法やその仕組み・内容・フレーム構築、④上手くいかないことも許容する、従来の役所の視点だけで事業を評価しない等、になります。
横浜市の共創における初期段階ではこれらが揃っていたので上手くいきましたが、単なるベンチャー立ち上げではなく、組織内でのイノベーションはこのような意識や体制がある程度無いと厳しいと思います。
※2 タンディ・ヴィキ、ダン・トマ、エスター・ゴンス著、渡邊哲、田中陽介、荻谷澄人訳『イノベーションの攻略書』(2019、翔泳社)

元木氏:トップの意識をどのように持っていただくか、それをどう事業課と共有できるかということも重要になります。大阪府においても立ち上げ当初は組織のトップである知事の積極的な発信もあり、事業課との認識の共有についての後押しがありました。
民間企業との価値観の共有は勿論、自治体内部における公民連携の理念の共有を同時で進めることが重要だと感じています。


各自治体の「生の声」を沢山きくことができ、共創・公民連携とは何か知りたいという方から実際に取り組みを行っている方まで大きな学びや気づきを得るフォーラムとなりました。KIITO・神戸市でも今回の学びを共創・公民連携のさらなる推進に活かし、新たな価値を生み出していきます。


オンラインフォーラム「これからの共創・公民連携のカタチを考える~withコロナ時代の新たな取り組み事例も交えながら~」