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2021/3/19

REPORT

【GOOD DESIGN TALK】皆でつくるゆるやかなつながり -神戸市役所市民ロビーの空間デザイン- レポート

1/29(金)

神戸市役所市民ロビーは「デザイン都市・神戸」施策の一環として、2017 年度にリニューアルされ、その改装のデザインが2020年の「グッドデザイン賞・ベスト100」を受賞しました。今回のトークセッションでは、建築家の中村竜治さん、木材をコーディネートしたシェアウッズの山崎正夫さん、東京理科大学教授でグッドデザイン賞審査委員の伊藤香織さんをゲストにお迎えし、訪れる人が能動的に居場所や使い方を考えられる空間デザインに込めた思いや、六甲山の間伐材を利用した多様性のあるデザインについてお話をお聞きし、人と人、人と空間がゆるやかにつながる市民ロビーの空間デザインについて考えました。

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「デザイン都市・神戸」と公共デザイン
まずは神戸市企画調整局つなぐラボ職員の小林より、「デザイン都市・神戸」の概要と、神戸市内で行われている公共的なまちのデザインについて説明を行いました。神戸市では「デザイン都市」として、「市民ひとりひとりがまちづくりに参加し、創造性を発揮して豊かに暮らす」まちを目指しています。2018年から開催されている「グッドデザイン神戸」は、最新のグッドデザインを神戸で紹介し、市民のみなさんにデザインを身近に感じていただくためにスタートしました。

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神戸市役所市民ロビーのデザイン
次に中村建築設計事務所 中村竜治さんより、神戸市役所市民ロビーのデザインの工夫について説明いただきました。
デザインにあたっては、「これからの公共空間はどうあるべきか」というテーマのもと、使い方が決められている「受動的」な場所から、自ら使い方を考える「能動的」な場所へ改装しようと考えたそうです。
具体的方法としては、以下の操作を行いました。
・高さをそろえる→机と椅子の区別をなくす
・角のない形→方向性をあいまいに
・サイズやプロポーションが多様
・六甲山に生えているままに、バラバラな樹種を許容
・樹種名の焼き印→木の名前と質感を結び付けて感じられる

その結果、六甲山の雑木林にいるような心地よい空間となりました。配置もまとまりも方向性も自由な家具が生まれ、使い方を規定しない、ある意味不完全な形が、使い方の誤読や逸脱を生み出します。使う人が自ら使い方を考えるような、創造性あふれるロビーが出来上がりました。

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◆ここからは神戸市クリエイティブディレクターの西山正樹と神戸市つなぐラボ職員の小林睦実をモデレーターに、トークセッション形式で理解を深めていきました。

コンペの実施についてはどのように感じましたか。
中村:審査委員に空間やデザインの専門家が入っており、また要綱からも参加条件や必要書類が厳しく決められているわけではなく、オープンなコンペであることを感じ、参加を決めました。
山崎:もともと神戸市とともに「kobeもりの木プロジェクト」にて六甲山の間伐材の活用に取り組んでおり、コンペの時には開始から2年ほど経ってちょうど木材がたまってきていたころでした。中村さんの六甲山材を使用する案がコンペを通ったと聞き、すぐに中村さんの東京の事務所に行って、どの木材を使うかの相談をしました。
中村:山崎さんなしでは実際に六甲山材を使用できなかったので、感謝しています。
伊藤:積極的にコンペを行うことは凄く良いと思います。フィンランドの建築政策では、コンペは建築の品質をあげる中心的な手段と位置付けられていて、コンペの応募作品がウェブで公開され、市民が「いいね」ができたりします。興味を持てるプロセスがあると、まちづくりを自分ごととして考えられます。またバルセロナでは行政が広告やグラフィックに関して大小さまざまなコンペを行い、若いデザイナーの才能の引き上げに繋がっています。

今年のグッドデザイン賞ユニット17(公共建築・土木・景観)の受賞作の特徴・傾向はありますか。
伊藤:大きく以下2つの特徴がありました。これまでにまちに馴染んで使われてきたものを活用していこうという方向性が感じられました。
①リノベーションや保存修復など、既存のものに新たな価値を与える作品が多い
②地方都市のデザインが多い

なぜ、家具だけを変えるという発想に至ったのですか。
中村:庁舎が老朽化していなかったことが一つと、もう一つは、ロビーをとじたものではなく、エントランスホールなどとつながるような空間にしたかったというのがあります。作りこむとそこだけ浮いてしまうので、形が曖昧な場所を作りたいと考えました。

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多様な樹種、多様な大きさのベンチテーブルを用いた理由は何ですか。
中村:要綱の中に「神戸の魅力を感じるように」という文言があったので、神戸の象徴である六甲山を取り入れたいと思い、様々な樹種がある六甲山を写し取った「雑木林」のようなイメージのデザインとしました。

六甲山の木材は実際にどのように調達されるのですか。
山崎:表六甲(六甲山の海に面している側)は市有林で、広葉樹が多く、そこから出た間伐材は神戸市と協働し、WSなどを通して公共の物件に活用しています。裏六甲(表六甲の反対側)は私有林でありそこには後継者不足や荒廃といった、日本の林業がかかえる問題があります。シェアウッズの活動として、村の人から木材を買い、そこに付加価値を与えて商品を作り、販売しています。
西山:森とまちをつなげる活動をしているということですね。

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「能動性」「あり方を規定しない空間」について
中村:建築においては、できるだけ「つくりこみすぎない」ことを意識しています。疑問が生まれ、自分だったらこう使おうと考える方が良いと思っています。
伊藤:公共空間はみんなの場所のはずなのに、つい他人事、ひと任せで受動的になりがちです。市民ロビーの様に、自分で動かしカスタマイズできることで、一人一人が自分の場所であると感じることが大事です。パリのリュクサンブール公園では、椅子を自由に動かせるので、それぞれがお気に入りの場所でお気に入りの過ごし方をしています。その形跡が残っているのも面白いです。市民ロビーもベンチテーブルも一つ一つ異なる素材・形なので、「お気に入り」ができそうですね。

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ワクワクするまちになるために、できることとはありますか。
伊藤:「未来はひらかれていて、自分が動くことで未来が変えられる」という感覚が大事です。神戸でも、三宮等開発がどんどん進んでいますが、その意義や生活がどう変わるかがうまく伝わっていないところがあります。ドイツを中心に、開発情報センターというのがあり、これからまちが変わっていく様子の分かる模型や資料があったり、工事現場を見るための展望台があったりします。「まちが変わっていくことをエンターテイメント化」するように、楽しみながら一緒に未来を創っていくことが大事です。
山崎:伝えることが大事ですよね。市民ロビーについても、自由に使って良いんだよというのをもっと伝えていき、みんながコミュニケーションできる場になればよいと思います。私も活動の中で、山の木がどのように使われているのか、まちにどうつながっているのかをもっと見えるようにしたいと思います。
西山:プロセスを聞くことで自分事にできることがありますね。市民ロビーも今回のトークを通じて、みなさんにとっての自分事になってくれたらと思います。

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ここからは、チャットに集まっていた視聴者の皆さんからの質問に答えていただきました。

市民ロビーは実際どのような使い方をされていますか。想定以上の使われ方もありますか。
中村:最初私が想定していた形は一瞬でなくなり、それは良いことだと思いました。関係ないひとが背中合わせで使う、二つのベンチを3人組で占有する、車いすの方も隣り合って座る、など、市民ロビーにいる人が垣根なくつながっていると思います。(写真参照)
小林:新聞を読んだり、ランチを食べてりする人は窓際で日向ぼっこをし、待ち合わせの人は手前の方に座るなど、自分で場所を決められているようです。また座る方向性もバラバラなので、目が合うこともなく居心地よく感じました。

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使用するのに苦労した木はありますか。
山崎:11種類の木材を使用しましたが、その中でもアベマキという木は暴れん坊で、毎年手直しが必要です。エノキもあまり建築には使われにくい木で、それぞれの木にストーリーがあります。

コンペにおける公平性・透明性について。今後について。
伊藤:今の日本は、実績重視でリスクをとらない傾向にあり、新しいクリエーターが育ちづらい現状があります。小さいところからでもオープンにコンペを開いていくこと、またその要綱づくりが大切と思います。また、多少の失敗には寛容になり、0か100かではなく何かあっても協力して改善していけると良いと思います。
山崎さんもおっしゃっていたように「伝える」ことは重要で、作っている最中にも発信し、一緒に考え、仲間を増やしてくことが大切と思います。

◆最後に、お三方に今後の展望をお聞きしました。

中村:今回のコロナ禍においても「自分で考え判断する」ことが大事になり、その意味で市民ロビーのデザインも生きていたのではと思います。これからも普遍的なテーマである公共空間について問い、考えていきたいと思っています。
山崎:地域資源とデザインをつなげていくことをこれからも続けていきたいです。昔のように里山とまちが近くなくなり、里山が荒廃しています。六甲山に関わらず、地域地域で、山とまちをつなげる活動が増えていけば良いなと思っています。
伊藤:「あなたが動けばまちが変わる。未来は開かれている」と伝えることでわくわくするまちになると思います。WS等ではある程度しっかり関われますが参加者が限られてしまうので、もっとゆるく興味をもってもらうことも含めて、幅広い接点・コミュニケーションのきっかけをつくっていけると良いと思います。

◆トークを終えて
西山:神戸のまちにはいろいろなプレイヤーがおり、まちがどんどん変わっていくことを知る良い機会になりました。知ることで「自分ごと」になります。デザインの観点から言うと、こうして見えていない思いやチャレンジといった部分を見える化しながら、まちづくりの仲間を沢山増やし、わくわくするまちにしていきたいと思いました。
小林:市民ロビーの「関わる余地のあるデザイン」「あり方を規定しないデザイン」が人々の創造性を引き出すということが分かりました。また山崎さんの活動のように、ストーリーを「伝える」ことでゆるやかに「自分ごと」にしていくことが大事と分かりました。再開発が進む神戸のまちでも、プロセスを発信しながら、多くのひとが参加するまちづくりを目指したいと思います。

今回はオンライントークセッションという「グッドデザイン神戸」初の試みでしたが、2日間にかけて延べ170名もの方にご覧いただき、zoomのチャット欄には沢山のコメントや質問が寄せられ、神戸の方々のデザインへの関心度の高さが良く分かりました。市役所の取り組みも身近に感じていただけたのではないでしょうか。今回のトークを通じて、視聴者の皆さんが少しでもデザインを身近に感じ、デザインの力を感じていただけていれば良いなと思います。これからも「デザイン都市・神戸」では神戸のまち・もの・くらしにおけるデザインのプロセスをどんどん発信していきたいと思います。

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