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2021/4/1

イベントレポート

未来のかけらラボ vol.16 『宇宙船地球号 操縦マニュアル』を“今”読み返す レポート

センター長・芹沢高志をモデレーターに、身近に散らばる多様な未来のかけら、つまり可能性の芽を拾い集め、草の根的に自分たちの未来を思い描こうとしていく試みとして実施してきたシリーズプログラム、未来のかけらラボ。2021年3月28日(日)に、「『宇宙船地球号 操縦マニュアル』を“今”読み返す」を開催しました。

第16回目となる開催では、2013年の第1回で取り上げたバックミンスター・フラーを再度取りあげ、コロナ禍の今、変わりゆく今の社会においてフラーの代表的著作『宇宙船地球号操縦マニュアル』を読むことで、フラーの語ったことの再解釈を試みました。
始めに講師の芹沢より、何故再度フラーを取り上げるのかについて経緯や趣旨を説明いただき、フラーのエッセンスを抽出したレクチャーをいただきました。

 

 

以下、今回の開催に向けての芹沢のが寄せたメッセージです。

現在、地球温暖化や熱帯雨林の大規模伐採、マイクロプラスティックスによる海洋汚染など、私たちの文明が地球の営みに破滅的なまでの影響を与え始めています。また、極端な地球規模での経済格差や政治的分断など、人類社会も数々の困難に喘いでいます。
しかしこうした問題はすべてが絡み合っており、バラバラに対処しようとしても、問題を深刻化させていくだけです。フラーはずっと、行き過ぎた専門分化をやめて総合的に考えよと言い続けてきました。そしてこれからの地球社会の行く末について、何が大切なのかということを、半世紀も前から的確に指摘してきました。当時からその忠告に耳を傾けていれば、状況もここまで酷くはならなかったでしょう。しかしここまで来てしまった以上、フラーが語った変革だけでは、状況を変えることはできなくなっているようにも思えます。
我々の文明のどこがおかしいのか、もう一度フラーの指摘に戻って耳を傾け、50年後の現在にその考えをバージョンアップしていく必要があると思うのです。
人類社会が新型コロナウイルス感染症パンデミックに直撃されている今こそ、バックミンスター・フラーを見直す好機と言えるのではないでしょうか?

 

 

フロンガスによるオゾン層破壊の研究でノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェンと、藻類生態学者のユージーン・ストーマーが、2000年に刊行された「地球圏?生物圏国際協同研究計画(IGBP)」ニュースレターに発表した論考「The Anthropocene」で、「二酸化炭素やメタンの大気中濃度」「成層圏のオゾン濃度」「地球の表面温度」「海洋の酸性化」「熱帯林の減少」など、近年の地球の生態系や気候に及ぼす人類の多大な影響について指摘しました。
この提案に対し、国際地質科学連合は検討を進め、人類による地球環境への影響が顕著になった近年だけを切り離そうと提案されている新区分名が「人新世(Anthropocene)」を承認する機運が高まりました。しかし、その前に地球における人間活動がもたらす問題について警笛を鳴らし、発信し続けた人物こそが、バックミンスター・フラーでした。

リチャード・バックミンスター・フラー(1895-1983)は、数学者にして詩人、デザイナー・建築家にして哲学者の一面を持つなどあらゆる方面で才能を発揮した人でした。近代ドーム建築のパイオニアとして知られるフラーですが、建築や工業デザインという領域を越えたグローバルな思想を追究し、様々な活動の中には、常に地球全体の環境と人類のゆくえに対する考え方を持っていました。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、これまでの価値観や基準、組織、メカニズムを見直す機会となった今、地球温暖化や海洋汚染などの環境問題を自分ごとととらえ、​新たな世界を描く必要が問われてます。前述の環境問題を地球社会全体で見てみると、それらの問題を入口に社会的分断や経済的格差の広がりなどの問題も紐づいて見えてきます。芹沢は、私たちが何をしなくてはいけないのかを提唱し続けたフラーの言葉や考えを知り、どのようにして現在の状況にいたったのかを考えるにはいい機会であると言います。レクチャーでは、フラーの考えがこれからの社会を考える上でひとつの端緒となりえることを参加者とともに共有しました。
アートやデザインのクリエイティブな力を社会に開き、新たな価値を生み出す場となるために何をすべきなのか。芹沢センター長としての最後のレクチャーは、これまで、そしてこれからの施設のあるべき姿についてを改めて考える機会となりました。

未来のかけらラボ vol.16 『宇宙船地球号 操縦マニュアル』を“今”読み返す 開催概要