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2021/4/13

イベントレポート

グッドデザイン神戸2020 GOOD DESIGN TALK 「株式会社イトーキ×神戸芸術工科大学」レポート

3/11(木)


登壇者
橋本 実(第3開発設計部 第2設計室 第2チーム チームリーダー)
竹谷 友希(第3開発設計部 第2設計室 第2チーム)
田中 啓介(プロダクトマネジメント部 商品企画室 第2チーム チームリーダー)
宮田 亜由子(プロダクトマネジメント部第1チーム)
山中 彬弘(プロダクトデザイン室第1チーム)
加藤 幸佳(プロダクトデザイン室第2チーム)
進行
秋元 淳(日本デザイン振興会)
田頭 章徳(神戸芸術工科大学 プロダクト・インテリアデザイン学科助教)


「グッドデザイン神戸」は、「デザイン都市・神戸」の皆さんにもっとデザインを身近に感じていただくための取り組みとして2018年から始まり、日本デザイン振興会のご協力のもと、毎年最新のグッドデザインを展示やトークイベントを通じて伝えてきました。

3月11日(木)には、神戸芸術工科大学の学生を対象に、2020年度グッドデザイン・ベスト100受賞者であるオフィス家具メーカーの株式会社イトーキの皆さんをゲストに迎えたオンライントークイベントを開催し、プロダクト・インテリアデザイン学科の約50名の学生が視聴しました。

イトーキとXORK Style
まず最初に、イトーキの田中さんより、イトーキとオフィス市場についてお話いただきました。イトーキは“明日の「働く」を、デザインする”をミッションに“XORK Style”を打ち出しています。これは、ABW(Activity Based Working)をフォーマットに、働く人の内容や行動によって場所を変え、自らの働き方をデザインするというものです。XORK Styleの実践により、生産性の高い仕事ができたり、同僚とアイデアの共有がしやすいといった効果があります。

vertebra03の開発
vertebra03のデザインは、外部デザイナーの柴田文江さんと、イトーキのインハウスデザイナーが協働して行い、働く場所の変化(オフィス共有型、コワーキングオフィス、テレワークなど)に対応する商品として “Live Work Chair 生きるように働く”をテーマに開発を開始しました。
次に竹谷さんより、設計過程についてご説明いただきました。構想設計では、機能、強度、心地の3つの各基準に特化したモデルを作成し、柴田さんとともに何度も検証を行い、形状修正を行ったそうです。そこから椅子の具体的な要素を定めていく基本設計に移ります。フィールドワークの結果、人の働く姿勢は大きく「前傾」「直立」「後傾」「ストレッチ」の4種に大別されるとわかり、以前のvertebraになかった「後傾」姿勢をサポートする椅子づくりを進めました。詳細設計の段階では、品質検査や、コスト内での量産のための業者選定、特許関係のチェックを行います。ここでも柴田さんと何度も話し合い、例えばvertebra03の肘部分は1mm単位で太さを調整したのだそうです。

「素材色」のデザイン
ここからは、宮田さんよりCMFデザインについてお話いただきました。CMFというのは、「Color,Material,Finish」の頭文字をとったもので、デザインにおいて色・素材・仕上げが相互に関係していることを表しています。イトーキでは単品の家具だけでなく、オフィスという「空間」を重視しているので、統一感あるCMFがより重要になっています。
柴田さんとの話し合いの上、カラーの部分は、「素材色」を大切にし、また”働く”と”暮らす”を越境するチェアとして「ライフスタイル」の要素を濃く取り入れることになりました。何百種類もの色見本を見ながら、生地のサンプルを作ったり、パイプの塗装色、そして縫製の糸の色や座面下のファスナーにまでこだわって色を決めたそうです。また、供給が安定せず、均一化しにくい木材の使用に踏み切ったのも、大きな挑戦でした。

vertebra03のプロモーション
最後に田中さんより、プロモーションについてお話いただきました。vertebra03は、従来のBtoBだけではなく、個人客や設計事務所のオフィス等にも向けた商品だったので、ビジュアルの撮影の重視、プレスプレビューの開催、PR会社の活用、そしてオンラインで働き方についての連続セミナー、POP UP SHOP等を行いました。結果、SNSで個人のお客さまが自身のvertebra03を紹介するといった現象も起こったのだそうです。

ここからは、日本デザイン振興会の秋元さん・神戸芸術工科大学の田頭先生とともに、イトーキの皆さんにいろいろとお話をお聞きしました。

外部デザイナーとの協業について
田中:イトーキにおいて外部デザイナーの方と協業して商品開発を行うことは良くあることですが、柴田さんとともに1mm単位までこだわって作ったという経験はとても貴重なものでした。
橋本:柴田さんはまずオフィス全体のデザインから考え「オフィスの中で椅子が目立ちすぎている」ということをお話されました。椅子一筋で考えていた私にとってはとても勉強になりました。

デザイナーの説得力
田中:柴田さんとの度重なる調整の上完成したvertebra03ですが、開発の中で驚いたのは、柴田さんの説得力でした。3Dプリンターを使って1/5モデルを作り説明することがあったり、柴田さん自ら社長にプレゼンを行ってCMFデザインの重要性を分かってもらう場面もありました。デザイナーにはデザイン力はもちろんのこと、たとえデザインに興味のない人がいたとしてもそのデザインの必要性を伝えることができるくらいの説得力も必要なのだと改めて気づかされました。

カラーが選べる椅子
宮田:色の組み合わせは1700通りあり、選べない!といわれてしまうこともありました(笑)
柴田さんともお話していましたが、最後に色が選べるということで、vertebra03に愛着を持ってほしいという思いがありました。従来のオフィスでは、椅子は与えられたものであり自分で選ぶものではないと思いますが、vertebra03は愛着を持ってもらえたからこそ、SNSでの投稿にもつながったのだと思います。

開発にあたって、「働く」ことをどのように考えていたか
田中:コロナ前からオフィス以外で働くことが進んでいたので、このままではいけないという危機感は覚えており、新しいものを作ろうという考えはありました。
宮田さん:例えば、お風呂に入っているときにもアイデアを思いついたりする事があるように、”働く”と”生活する”が地続きであるという考えもチーム内で共有されていたように思います。
竹谷:アイデアに行き詰ったときはどうするかという質問もありましたが、新幹線の移動中や寮に戻ってから、世代の近い同僚とともに仕事の話をネタに飲むという中で、新しいアイデアが産まれたりもしました(笑)
田中:イトーキでは2018年からXORK styleを掲げ、自己裁量で働いている人もいるので、今回のコロナ渦でのテレワークの流れにも、スムーズに対応できたように思います。

イトーキにおける価値創出とは
田中:やはり機能性をどうデザインに内包させるかというところをこだわっていきたいと思います。
加藤:今後オフィスは、ただ働く機能のある場所ではなく、働く人の気持ちをあげられるような場所になっていくと思います。なので、これまで培ってきた機能を極めるのはもちろんですが、デザインの力で働く人が楽しくなるような世界を作りたいと思っています。
山中:主観的でひとりよがりな付加価値をつけてしまわないように気を付けないといけないですね。
橋本:今までは機能をどんどんつける傾向がありましたが、今はそれを省くこと、あるいは機能を盛り込みつつもデザインの力で隠すことが大事になっています。このvertebra03ではそこが前進したといえます。

イトーキの皆さんは終始和やかな雰囲気でお話されており、vertebra03制作チームのチームワークの良さが良く分かりました。外部のデザイナーさんと協業することにより、新たな視点を取り入れているという点も興味深かったです。
今回はイトーキさんのご厚意により、事前にvertebra03の現物を教室に届けていただきました。学生からも、実物のvertebra03を見ながら詳しい開発過程を知ることができ、ためになったという意見や、CMFデザインを初めて知ったという感想もあり、沢山の学びがある時間となりました。