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2022/6/11

イベントレポート

+クリエイティブ公開リサーチゼミvol.3 地域社会編「大学生と社会のつながりについて考える」②3/23レポート

+クリエイティブ公開リサーチゼミvol.3地域社会編「大学生と社会のつながりについて考える」第2回をオンラインで開催しました。大学生同士や地域社会との豊かなつながりを生み出すためにはどうしたらいいのかを探ることを目的に、第2回は、大学関係組織・各分野で活躍する3名のゲスト、石川路子さん(甲南大学 地域連携センター所長 経済学部 教授)、山崎吾郎さん(大阪大学COデザインセンター 教授)、西本聡子さん(特定非営利活動法人 大学コンソーシアム大阪 事務局長)をお招きし、公開勉強会として実施しました。モデレーターはKIITOセンター長の永田宏和が務めました。


石川路子さん|甲南大学 地域連携センター所長 経済学部 教授
甲南大学地域連携センターは、2011年から活動をスタートしました。大学は地域とつながっていなければ意味がないというところからセンターが設置されました。人物教育をもっと豊かにするため、ただ地域とつながるのではなく、教育としてつながっていくことを目指しています。

 

関西湾岸SDGsチャレンジ
甲南大学と市、高校、朝日新聞が連携したプログラムです。甲南大学の学生と各地域にある高校の生徒が一緒になって、それぞれの地域が抱える課題の解決を目指すものです。アウトプットとしては、各地域の課題を解決するアイデアの提案。最終的には、それらを朝日新聞社さんが記事としてまとめていただいています。大学生は学内公募で選ばれた4名がチームを組み、そこに高校生が加わり、議論やフィールドワークを重ね、成果報告までつなげていきます。その間、朝日新聞社さんからはSDGs入門講座、取材の仕方などのレクチャーを受ける時間もあります。コロナ禍の影響で、現地に行くことができないという現状でしたが、オンラインで現地や高校生ともつながりながら、ヒアリングも進めていきました。

現状の課題と今後の方向性
高等教育の担い手育成に対し、大学だけでは担いきれないと限界を感じています。高等教育の役割としては、人格形成、能力開発、知識伝授、知的生産活動、文明継承などがありますが、大学だけではなく、地域で学び、さまざまな知見を得るという機会が非常に重要で、学生の視野を広げる意味でも、地域社会は重要であると感じています。地域の一人ひとりが講師であることを認識していただきたいと思っています。地域から大学生に関わってほしいという要望をたくさんいただく一方で、残念ながら地域の方々と本音で話す機会があまりありません。地域の方は、大学生は4年間という限定された期間での人材となることに抵抗があるかもしれませんが、うまく活用すればとても面白い人材になると思います。それを理解いただくには、やはり信頼関係が大切です。信頼関係を構築するには大学や地域といった大きなくくりで話をするのではなく、人と人のレベルでつながっていくフィクサーとなる人物が必要だと考えています。お互いのWinを知って、その中で適切なつながりを考えていくことが大切だと思います。

モデレーター永田からの質問
永田:SDGsチャレンジの取り組みがとても人気だとお話されていましたが、大学生のモチベーションはどういったところにあるのでしょうか?
石川さん:1つはコロナ禍の影響があります。課外活動や部活動がストップしてしまい、活動をしたいけれども、選択肢がなくなってしまっていたので、このプロジェクトへの参加希望が増えました。さらに、現在の大学生は、高校生の頃からSDGsを学んでいたこともあり、非常に関心が高く、特に環境分野に注目していることが多いです。


山崎吾郎|大阪大学COデザインセンター 教授
COデザインセンター設立の趣旨は、「多様な専門家や市民からなるアクター達が、境界を超えて協働するコミュニケーションをデザインする」というものです。新しい社会像や新しい価値、ライフスタイルを作り出していくこともひとつのデザインですが、それは一人の専門家やプロフェッションが行うものではありません。だからこそ、「一緒に」「協力して」デザインする仕組みが求められているわけです。大学という場においても、専門家を育てるだけでなく教育の幅をどんどん広げていくことが必要だと考えています。

 

「プロジェクト型学習」と「市民参加型ワークショップ」
社会と大学(院)生が関わる取り組みについて2つ紹介します。1つ目は「学際共創(Trans-disciplinary)」です。Transは「超えていく」、disciplinaryは「学問におけるそれぞれの分野」の意味です。個別の学問分野を超えて問題に取り組む仕組みのことで、大学の内外で新しい関わりをどうつくっていけるかというものです。2つ目は「市民参加(Public-engagement)」で、市民や社会に開かれた活動の場を、どのようにつくっていけるかというものです。
大学生は年次が上がるにつれ、より専門的な教育・研究に触れることになり、ある意味で視野やフォーカスはどんどん鋭くなり、狭い領域に入り込んでいきます。そこでどのように他の分野、あるいは他の領域と協働できるかが問題になります。個別の学問を越えて、学術と社会の関わり意識していくことで、新しい発見が生まれることもあります。

超域イノベーション総合
大学院生が1年ぐらいかけて取り組む「超域イノベーション総合」というプロジェクトを行っています。企業や自治体、NPOなどから課題を提供していただき、協働のプロジェクト立ち上げていく授業です。博士後期課程の1年生を対象とした、8-10ヶ月の比較的長いプロジェクトです。このプロジェクト型科目では、初めの半年くらいは、とりくむべき問いが何なのかを全員で探索することになります。その後、中間報告でさまざまなフィードバックをうけ、最終報告を経て、報告書を作成します。活動の成果は、現地報告会や、オープンジャーナルでの出版などを通じて、社会に還元していく仕組みとなっています。
社会課題に取り組む授業を10年ぐらい進める中で思うのは、いきなり何かいいアイデアを出せるわけではなく、どうしたら自分の立場や専門性を活かせるのか、それを考えること自体が、社会へのコミットメントであり、また教育のまたとない機会になるということです。はじめは身近なプロジェクトを経験して、課題を解くとはどういうことか、複雑な問題と向き合うにはどうすればよいかを考え、経験を重ねて、徐々にリアルな課題へ取り組んでいけるようになると思います。

モデレーター永田からの質問
永田:外部から課題を持ち込まれたとき、その課題の立て間違いがないかの判断は、山崎さんがされていますか、また実際に課題の立て間違いがあった案件はありますか。
山崎さん:どのように課題を的確に捉えるかが一番難しいと認識しています。それは社会課題だけでなく、研究活動でも同じことです。インパクトのある研究は、着眼点や課題の見つけ方が面白いのです。分析や調査のスキルはかなり一般化してきていますが、本当に解くべき問題が何なのかを説得的に示せる人というのは、どこにでもいるわけではありません。本当に必要とされているプロジェクトとは何なのかを見極められるような人を育てる教育が必要なのだと思っています。私たちの活動では、あえてあいまいな課題設定をおこない、学生が自分自身で具体的な形に問題を落とし込んでいくようなプロジェクトの設計をしています。実は、持ち込まれた課題への答えをそのまま学生が提案するということはほとんどなく、むしろ課題をとらえなおす局面を重視しています。どう問いなおせるかによって、そのプロジェクトの方針が80%ぐらい決まるという感覚をもっています。


西本聡子|特定非営利活動法人 大学コンソーシアム大阪 事務局長
大学コンソーシアム大阪は、1999年、31大学により設置されました。2007年にはNPO法人の認可を受け、大阪市との包括連携協定を締結し、大阪・梅田エリアを拠点に活動しています。現在39の会員校を擁しており、大阪府内の約70%の大学が加盟する全国的に見ても規模の大きい大学コンソーシアムです。大学コンソーシアム大阪の活動は、高大連携、大学間連携、キャリア支援、国際交流、地域連携、研修の6つが柱となっており、近年は特にキャリア支援が活発になっています。現中期計画では、会員大学や学生間の絆づくりを目標に掲げており、連携・交流の場を積極的に創出しながら、活力ある大阪の再生に寄与しています。

 

インターンシップ
大学コンソーシアム大阪のインターンシップは、複数大学と企業・自治体との連携を基に進めている事業で、学生に魅力ある在阪企業を知ってもらう機会を創出しています。また「地域活性」をテーマとするプロジェクト型インターンシップでは、地域特有のさまざまな課題解決のために学生のアイデアが地域に還元されています。これによって「住みたい、働きたいまち」を体感し、地元(大阪)への定着を目指しています。

プロジェクト型インターンシップ(舞洲スポーツビジネスコンテスト)
本インターンシップは、大阪市から「スポーツ拠点である舞洲を若者の力で盛り上げたい」との相談をいただいたことをきっかけに企画し、舞洲スポーツビジネスコンテストにチャレンジする内容として実施しました。大学コンソーシアムが編成するチームは会員大学の学生から成り、学年や学ぶ分野も異なるメンバーでした。今回のコンテストのテーマは「大阪エヴェッサ」というプロバスケットボールチームの集客策と舞洲の活性化でした。ホームゲームの視察や舞洲エリアの散策、大阪市や大阪エヴェッサの方々と意見交換を重ね、企画を作り上げていきました。

学生ボランティア
大阪・関西万博を見据えて、さまざまな学生が大阪・関西の活性化の立役者になってほしいと思っています。コロナ禍で学生はさまざまな苦労を強いられましたが、我々大学コンソーシアム大阪はこの状況下で学生に対して何ができるかを考え、まずは、学生がみんなでコロナ禍を乗り越えるための企画として「インカレ座談会」を開催しました。そこで「人と人のつながりがない」「学校に行くのが面倒くさい」「授業料が高い」など、これまであまり聞くことがなかった意見が寄せられました。そこで参加者には学生ボランティア活動のコアメンバーとなってもらい、「パンフレットだけじゃわからへん大阪の大学フェスタ」という、高校生にコロナ禍で現役の大学生がどんな大学生活を送っているのかを知ってもらいながら、大阪の大学の魅力に触れるオンラインオープンキャンパス企画を考えてもらいました。

モデレーター永田からの質問
永田:活動が連鎖しているところがとても豊かに感じました。このような場作りの仕掛けはどのようにされているのでしょうか?
西本さん:学生ボランティア活動の場合、コロナで学生生活が制限されている中、まずは学生に元気になってほしいという思いから、大学コンソーシアムが主導して座談会を設定しました。そこに参加した学生は、いろいろと活動をしたくてウズウズおり、とても前向きだったこともあって、自発的に仲間をつくり活動が展開されました。私たちが手を差し伸べなくてもどんどん進んでいった事例の1つでした。


質疑応答
参加者:学内公募はどのような手段で行われています?
石川さん:学生へ一斉メールをしています。また学内のデジタルサイネージなどへも掲出しています。実は口コミで応募される学生が多いです。オープンキャンパスでも説明をしていたので、入学後に興味があり参加しましたという声もあります。あらゆる方向から情報をキャッチできるようにしています。
山崎さん:私たちも同じで、できることは全方位的に行います。掲示板への掲示や、オリエンテーションで説明をしています。学生のアンケートを見ると、口コミが強く、先輩や卒業生が近くにいると影響が大きいです。

永田:大学生が地域の活動に参加する際に、お客様状態になる、習慣風速的な関わりに終結する問題について、改めてどういった対処をされているか教えてください。
石川さん:地域で活動されている方には、大学生との関わりは一過性で終わってしまう懸念があるので、いかにそのイメージを払拭できるかが重要だと思います。大学生は入学や卒業で入れ替わりますが、教員は基本的にその大学に変わらずにいるので、信頼のおける存在になれると思います。組織体制として、大学は地域とつながっている必要はある一方で、重要なのはやはり大学生・教員など顔の見える個人と地域との属人的なつながりです。先程フィクサーの話をしましたが、本気でつながるには個人の力が重要だと思います。
山崎さん:取り組みの背景や意義を理解してもらうことが非常に重要なのですが、地域という広い単位の中だと、実際には全員に対して説明することはできません。どうしても学生のやっていることが目立ってしまうというケースもあります。そこで、先程石川先生がお話されたフィクサーの役割が非常に重要になると思います。私たちの場合も、教員が属人的に課題との接点をもっていたり、あるいは課題を提供してくださった方が、大学が行っていることに対し理解や関心があるというケースが多いと思います。外部から入り込むことでよけいに問題がややこしくなるといったことがないように気をつけています。
西本さん:活動が一過性になってしまう要因の一つに地域側の予算獲得が難しいといった点があげられます。地域の方からは、学生に活動に参加してほしいが、予算がないという声が多いなか、我々としては学生にとって地域活動に参加することは学びとしてとても重要と考えているので、そういった中でも実現可能な形を模索し、先ほどご紹介した事例のように「インターンシップ活動として展開してはどうか」といった提案をすることがあります。きっかけはともあれ、活動を継続することで、学生が地域に入る良さが分かれば、いずれ地域側の予算獲得に繋がり、活動が定着できるのではないかと思っています。

まとめ|モデレーター永田宏和
大学生は入れ替わり、地域は続いていくというギャップはどうしても埋めることができませんが、誰かがそこを上手く埋めてつないでいくかことが大切だと思います。そのつなぎを教員や大学コンソーシアムだけでなく、KIITOも担っていきたいと思います。

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