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2023/1/31

イベントレポート

〈イイダ傘店・飯田純久による神戸滞在日記〉展覧会 イイダ傘店「翳すーかざす」関連コラム

〇11月29日火曜日  ※展覧会3日前

「あいにくの雨だ、、、」とつぶやいたかどうかは覚えていないが、少なくとも心の中で呟きながら、新神戸の駅に着いた。
こういうシチュエーションでは何かと雨男呼ばわりされることが多い傘屋だが、当人からしたらみんなと同じように晴れの日も雨の日も毎日やってくるのだ。
昨日から神戸入りしているスクエアフォーの設営リーダーオダキ君を追いかけるように、KIITOへバスで直行した。1年くらいかけて企画と準備をしてきた展覧会「翳す」@KIITO。直前はみんなで数日滞在して設営するぞ!という日々がついに始まった。
KIITO目の前にバスが到着。傘を持ち合わせていない僕にとっては、どしゃ降りのなか目的地まで濡れずに来られるなんて幸運だと思いつつ、バス停から建物入り口までの5メートルほどでびしょ濡れになってしまった。
そんなことより遅刻気味の僕は急いで中に入ると、遅刻せずに先に到着していた企画担当heso(ヘソ)のストちゃんが「イイダさんが雨を連れてやってきた!笑」と迎えてくれた。僕は心の中で(あなたが到着した時も降っていたでしょう)と思いながら横に目をやると、オダキ君が脚立の上から「雨ですね、さすが傘屋さんですね。」僕は心の中で(やめてくれ、、)と思いながら2人に「ありがとうございます。」と挨拶をした。
今回の展覧会の設営には、募集して集まった有志のボランティアスタッフさんが数名来てくれることになっていて、すでにせっせと仕事をしてくれている。
そして、KIITOホールに目をやると、これから天井に吊るレールが「傘の鳥」のレイアウトに合わせて床に並べてあり、まだ空っぽのホールの空間にたくさんの傘の鳥が飛んでいるのが見えたような気がした。

 

〇11月30日水曜日  ※展覧会2日前

「一個ずつ進めていこう」と朝みんなで話す。
展覧会の内容は、250本ほどの傘を吊りさげるメインのインスタレーション「傘の鳥」と、歴代傘の紹介、職人、部品、工房再現、イイダ部屋、とセクションが分かれている。全部を同時に考えると匙を投げたくなるので¨一個ずつ¨ということだ。僕と、今回の展覧会リーダーであるタカヤマとイイダ傘店のスタッフ、hesoチーム、スクエアフォーチーム、それぞれがそれぞれの場所で少しずつ作業を進めていく。
あっという間に午前も過ぎて、昼は近所で噂の「ほうらく」へ。人気店のようで外に人が並んでいる。KIITOのまとめ役オオイズミさんからうっすら聞いた話を参考にしつつ、並びながら外看板を見てメニューを悩む。ランチセットは小オムライスと麺がセットになっている。セットいいねなどと話していると、企画段階から観察眼が鋭いhesoのショウコが店内を覗き、「あの人が食べているのがセットだとしたら、小オムライスはかなりでかい」と報告を上げてきた。午後の作業もあるし食べすぎはよくないねと、席につきそれぞれ単品を頼むと、観察眼ショウコは「小オムライスとワンタンのランチセット!」と頼んでいた。結果的にやはり小オムライスはでかく、かたや単品チームのオムカツはそれでそれは大きく、結局お腹いっぱいで午後の設営がスタートしたのであった。
午後になると床に並べたレールは全て天井から吊られ、そのレールを使って一本一本傘を慎重に吊り下げていく。「この調子で明日、全部吊りきれるようにしましょう。」そうみんなで確認し、その他のセクションも全体的に完成を目指して進められていった。
夜はまたまたまとめ役オオイズミさんから教えてもらった「蛸の壺」へ。明石焼き5人前30個を注文すると、傾斜のついた木製の専用台の上に整列して出されてきた。それを見るやいなや、ナナメの専用台や並べ方についての議論がはじまった。毎日設営の事ばかり考えてきたから仕方がないが、設営病にかかっていたことには誰も気がついていなかった。ただ一人、出来立てをいただくことに余念がないリーダータカヤマはすかさず一人分(30÷5=☆6個☆!)と暗算ではじき出し、自分の分と思われる明石焼きを次々と口に入れていった。

 

〇12月1日木曜日  ※展覧会前日

神戸といえばパンが美味しいはず。朝から人気店に足を運び、またまた並んでみる。人気の焼きたてクリームコロネとその他のパンを仕入れ、ひとまずKIITO方面に歩き出す。どこで食べようかね?とリーダータカヤマに聞くと「今ですよ!今!」と、三ノ宮通勤サラリーマンの人波の中で、焼きたてのクリームコロネを歩きながら頬張っている。たしかにパンは焼きたてを食べたい、、、が、周りを見ると急ぎ足の三ノ宮サラリーマンから「お前らは全国旅行支援系の旅行者だな」と横目でみられている気がする。食べるか否か迷いながら反対を見ると「サックファクでオイシイでふよ。」とタカヤマがクロームコロネを咥えている。二人並んでクリームコロネを食べながら歩く覚悟が持てず、結局僕は到着後にいただくことにした。
さて、設営最終日。今日はスクエアフォーチームが傘の鳥のインスタレーションを仕上げていく。そして僕たちはその他のセクションを仕上げていく。まだまだ仕上げまで色々やることがたくさんありそうので一個ずつ書き出してみる。

・原画水平
・彩傘開店
・みどり傘右へ
・照明下から
・豆ボタンひっぱる
・ペンギン背中まわる
・ポピー原画反対に
・引き出しの中身固定
・原画虫ピン固定
・押花つるす
・手帳確認と固定
・花タイル原画なおす
・絵具の確認
・原画微調整
・キャプション貼る
・受付仕上げ
・POPUPSHOP仕上げ
・カフェオムライス
・あいさつ文はる
・神戸家具のキャプション
・指紋拭く
・手元固定
・荷物片づける
・引き出しスムーズに
・撮影
・アイス扉確認
・ポピー折り紙
・プロジェクターサイズ確認
・suimok原画について
・パーツ壁塗る …

今夜は懇親会。そのためにと笑いながら、みんなで役割分担し、ギアを上げてスタート。
途中でオオイズミさんの先輩のコンドウさんが「手伝いますよ」と挨拶しに来てくれる。KIITOの他のスタッフの方々も途中段階を見に来てくれている。皆さまが温かく見守ってくれる中、傘の鳥がどんどん吊られていく。
夜になり無事に完成形が見えてきた。明日から公開、ホール内を歩いてお客さんの目線で色々な角度から眺めてみる。照明も色々試して悩む。ちょうど陽が落ちたので、暗い空間に傘の鳥が浮かび上がっていた。傘のバランスも一本一本微調整。スパイラルも吊ってくれていたスクエアフォーの傘吊り師タキイ君(注:本業は傘吊りではない)が最後まで高所作業台を上がったり下がったりしてくれていた。
オオイズミさんも傘の鳥を見上げて「KIITOホールならではの傘の鳥ですね」とつぶやくと、hesoのストちゃんが「すぐそこの神戸港の海に向けて、海の向こうに傘の鳥が羽ばたいていくようなイメージです」と、今まで誰も聞いたことが無かったコンセプトが不意打ちで表明された。
その後、空間に配置予定だった寝ころび台も最後まで置くか悩んでいたが、無しで完成とした。照明も悩むところだけど、明日また明るい時間に見て、最終決定しましょうとなった。
そして、無事に懇親会へと大人数で駅の方に歩く。コロナになってしばらくなかったこの感じ。世間はまだまだな状況の中、懇親会の場を作ってくれたオオイズミさんの気持ちが嬉しかった。
お店につくと、「ここはいつも美味しいんですよ」という言い方で「ここはいつも空いているんですよ」と、今までたくさんの大人数懇親会の幹事をされてきたことを感じさせるコンドウセンパイならではの紹介で乾杯をした。
前菜盛り合わせは盛り付けに時間がかかるらしく宴の中盤にでてきたが、普段は口数が多くはないスクエアフォーのオダキ君が酢豚を2回頼んでしまうほど美味しい料理だった。
あくまで味覚は人それぞれ、美味しいという紹介は野暮で、事実のすいているというところを紹介したコンドウセンパイに改めて敬意を表しつつ、山盛りの酢豚をオダキ君と2人でつついていた。

 

〇12月2日金曜日 ※展覧会初日

朝、コロネを買ってKIITOに到着。いよいよ初日の朝である。すっかり明るくなったKIITOホールで、昼間と夜のどっちを優先した照明にするべきか、オープンギリギリまでhesoのストちゃんと悩んでいると、オオイズミさんがバッサリ「そしたら昼と夜で照明をかえましょう!」と英断をしてくれた。そして、「何時に切り替えるか、今日の夕方の陽を見て判断しましょう!」と、照明話はどんどん解決していった。
すると、hesoの観察眼ショウコが「あそこ、、ワイヤーが切れて傘が1本バランスをくずしている!」とトラブル発生。すると、いるはずのないスクエアフォーのオダキ君がシティハンターさながらに向こうから現れる。裏の搬出口で返却サイン中の高所作業車にちょっと待った!として、傘の吊り直し作業が間一髪で行われた。
11時00分。さっきまでバタバタとしていたのはうそのように、無事にオープン。急なひと仕事を終えたスクエアフォーのオダキ君はいよいよ帰京に向けて出発。「次回の翳す展までに、ワイヤーの改良しときますね。」と、さりげなく傘の鳥が未来に羽ばたいていく事を示唆させた。hesoにも聞いてみると「またやりたい!」と言ってくれた。スパイラルからスタートした「翳す」展の「傘の鳥」はKIITOにつながり、海の向こうのどこかに飛んでいく。仕事は縁と深い関わりがあると信じている僕は、なんてすばらしい日々だったんだと、KIITOホールの傘の鳥をずっとずっと見上げていた。

 

写真:原祥子