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2023/3/16

イベントレポート

オープンKIITO2023特別企画 トークイベント「おまえの仕事をおしえてくれ」レポート

2023年3月5日(日)

オープンKIITO2023の特別企画として、トークイベント「おまえの仕事をおしえてくれ」を開催しました。オープンKIITOはデザイン事務所や設計事務所など、KIITO入居するクリエイティブな仕事に関わる仕事場(クリエイティブラボ)を特別公開し、ラボの見学やワークショップなどを通して、クリエイティブな活動・仕事を紹介するプログラムです。今回、クリエイティブラボ入居者の編集会社Re:Sの代表藤本智士さん、長野を拠点に日本中のローカルを取材し続ける編集者の徳谷柿次郎さんをゲストに迎えて、編集の仕事の価値や役割について話ます。進行役は同じくRe:Sの竹内厚さん。まずは、それぞれゲストの活動紹介からイベントがスタートです。

徳谷柿次郎
株式会社Huuuuという編集会社でコンテンツ制作やプロジェクトづくりをしています。32歳の時にジモコロというウェブメディアがスタートして、地域を巡っていく行く中で、ローカルの面白さや課題に触れて会社を設立しました。普段の活動でも「現地に行って関係性をつくる」ということを特に大切にしています。今は、長野に移住してSuuHaaという移住総合メディアや、老舗おやき屋さんのネーミングやコンセプトづくり、地元の若い子が大人と出会える場づくりとしてスナック夜風など、コンテンツづくりだけはなく、お店づくりなど、編集の視点で様々な活動をしています。そして、40歳の節目に「おまえの俺をおしえてくれ」という本を出版しました。

藤本智士
屋号にもあるRe:Sは、Re standardの略で「あたらしい普通を提案する」というのを会社の旗印にしています。元々Re:Sという雑誌をつくっていて、それが終わったタイミングで会社の名前にしました。自著には『魔法をかける編集』、共著で出版した『アルバムのチカラ』などがあります。編集に関わってきたもので言うと『ニッポンの嵐』や『みやぎから、』など様々。新しい普通を掲げていて「大衆性」みたいなこともキーワードであります。知る人ぞ知るというものではなく、おかんとか「よかったわぁ」って言ってくれるようなものをつくりたいと思っています。他にも、秋田では2016年まで『のんびり』というフリーペーパーをつくっていました。改めて見ると、宮城や秋田など地方の名前がつく仕事が多いです。
柿次郎と重なるところがたくさんあって、誌面の編集に留まらず様々な編集の仕事をしています。例えば僕も商品や場づくりの企画、イベントや展示などもつくります。大切にしていることは「ムーブメントではなく、カルチャーをつくっていきたい」ということ。その場で終わるのではなく、しっかりと続くものをつくりたいと思っています。

 

取材の現場には、その現場で偶然におもしろいことが起きている

二人の自己紹介を終え、竹内さんから徳谷さんに「藤本さんのことをはじめに意識したのはどのタイミングでしたか?」と質問がはいります。徳谷さんからは「そもそもインターネットの人間で、あまりつながる所はなかったんです。でも、自分がやろうと思っていたことは、すでに藤本さんがやられていたり。知り合ってみるとかなり通じるところは多かったです」と答えます。徳谷さんからの回答に答えるように、藤本さんから雑誌のRe:Sのエピソードを交えながら、こう話します。

「Re:Sの誌面には、編集者の自分がよくでてくるんです。他のメディアとかには中々、編集者の名前って出てこないじゃないですか。最初は先輩の編集者の人に非難されることもあったんですが。Re:Sをつくる時に感じていたのが、取材の現場には、その現場で偶然におもしろいことが起きているということ。そして、それを発信したかったんですよね。地域の人の面白さを引き出すためには自分のパーソナルな部分を伝えないと無理だなと思っていたんです。だから自分が前に出るような編集のスタイルを取っていました」「はじめジモコロを見た時に、インタビュアーがアイコンで出て、対話しているのを見て衝撃を受けました。自分以外にもそういった見せ方をしている人がいるんだって。でも今やyoutuberもそうですが、個が前にでてくることが珍しくなくなってきたから、時代も変わってきているんだなって。それがある種ロジックを持ってやっていこうとしている人にはやりにくくなってしまうところかもしれませんが」

きちんと話をする姿勢を取ること

話題は取材の際のインタビューの仕方やインタビュイーとの関係性の話に移り、2人はこう答えます。
徳谷「当時はジモコロの柿次郎ですって言っても誰も知らなかったですし、ネット記事で大きなテレビ局や新聞社ではなかったので苦戦しました。安心感を持ってもらうために新聞とかを読んで、専門的な知識をきちんと知ってから挑む。知っている人が聞いているということ、そして聞いた情報を素直に受け取るということは意識しています。具体的な技術で言うと、人の呼吸を意識していますね。話を切り替えたり終わらせるタイミングは息継ぎの時に相槌をうつこと。」
藤本「逆に僕は一切調べないということも大切だと思っていて、ネットに乗っている情報ってすでに誰かが調べていたり、みんなが知っている情報じゃないですか。そういうことをわざわざ発信する必要はないなと思っていて、その場で聞いたおもしろさを何より大切にするようにしています。あと、地域でストイックに取り組んでいる人は中々話をできる人が少ないのできちんと話をする姿勢を取る事、編集者の技術は話を合わせられるかどうかもあると思っています。人の懐にはいっていける口調とかは関西人ならではの得しているところだと思います。あと知らない人がする質問って意外と大切で、大切なことを聞ける時があるんですよね。知っている人同士の会話って面白さがないので、取材に行くときにはカメラマンとか自分以外の人には取材先の勉強はしないでおくように伝えます。」
竹内「柿次郎さんは、どんな感じで取材にいきますか?」
徳谷「変な話ですが、ジモコロの取材に友達を連れていくことがありますね。編集部だけの会話よりおもしろくなる可能性がある。めっちゃ若い子とか連れて行くと予想しなかった回答があったりとか盛り上がったりするので」

 

編集者のよいところって、まさに風のようにその土地にいくところ

今回のイベントはオープンKIITOの関連企画ということで、主題の編集について話を深めていきます。進行の竹内さんより「藤本さんと徳谷さんそれぞれ、編集スタイルで違いはありますか?」と質問がはいります。
藤本「根本としてちがうのは、柿次郎は大阪から東京に行った人、僕はこの街で仕事をすると決めた人というところかなと思いますね。どちらがいい悪いではなくて。そして、きちんと東京の人たちと切磋琢磨してきたのはすごいと思います。」
徳谷「そうですね、東京での経験は今もかなり影響を受けています。長野を拠点に選んだのも東京に近いからというのもあります。長野の土地に移住したのはすごく大きいです。今は長野県信濃町という2m雪が積もるようなところに住んでいて、雪かきをしないと家が崩れたりするんですけど、なんか普段生きているとどうにかなることが多い中で、自然ってどうにもならない。頭を使う仕事と、自然に触れるプライベートでバランスを取っている気がします。」

トークの内容が拠点の話に移り、竹内さんからの「柿次郎さんの仕事を見ると、長野での仕事が多いですよね。逆に藤本さんは神戸の仕事がないように思うのですが」という質問がはいります。
藤本「神戸は好きだし、神戸の仕事はしたいと思っているんだけど、ずっとジレンマがあります。編集者のよいところって、まさに風のようにその土地にいくので、あまり地域の人間関係とかを気にせずに入っていけるところだと思うんです。自分が住んでいる土地で何ができるかっていうのは考えますね。」
竹内「よく、ローカルで何かをする時にデザイナーや建築家も名前が出てきますが、編集者との違いはありますか?」
藤本「ぼくは編集というものをもっと広義に捉えたいなと思っているんです。僕の中でデザインってもっと職人的で世間の人と接点をつくる人。全体を考える人だと、編集者の方がニュアンス合うなと思っていたんです。やっぱり、地域で活動をしている人、建築家さんやデザイナーさんは編集の視点を持っている。特に建築の人、不動産が起点で街やことが動くことがたくさんありますからね。」

原稿に赤をいれることが編集者の仕事じゃない

その後、編集者像について話が戻ります。藤本さんより「編集者の仕事は何でもできる仕事だと」話、徳谷さんが答えます。
徳谷「僕も初めから編集者になりたいと思っていなかったです。ジモコロの仕事をし始めて編集者っておもしろいなと思って始めました。その土地、その土地に行くための理由ができますし。ぼくも都合がいいから編集者を名乗っているかもしれないです。」
竹内「編集講座をお願いされたら、どんな講座をしますか?」
徳谷「ジモコロをベースに企画の探し方やキーマンの見つけ方、タイトルの付け方とかですかね。でもここ最近は断っています。人に何かを教える心境じゃなくなってしまって。本をつくることに力を注いでいたので」
藤本「僕の編集のスタイルはかなり特殊だと思います。その現場で起きていることを大切にするので、あまり講座とかはやらないです。原稿に赤をいれることが編集者の仕事じゃないとも思っていますし。」

トークの終了が近づき参加者からの質疑応答の時間。「編集者にはどんなリーダーシップが必要か?」という質問にこう答えます。
藤本「チームとして編集者ってリーダーになりがちですよね。地元の人に任せたいと思ってやった結果、リーダー不在で場が動かなかったみたいなこともあるし、むずかしいなと思っています。」
徳谷「昔は大声を出して引っ張るみたいなことも大切だなと思っていました。今は若い子に任せることやその場から身を引くことも大切だと思っています。」
藤本「僕は昔から黒白はっきりさせることは苦手で、ほんといろんなことがあるけど、例えば誰かにムカついたとかそういそのがあっても、その一面だけを見て何かを決めたりしないようにはしているんだよね。理想のリーダー像や編集者像も、その時の立場とか環境とか時代によって変わってくるものだよね。」

 

参加者の質疑を終えてイベントは終了。インタビューのコツやローカルでの仕事のことなど実質的な仕事の内容もふくめながら、改めて編集者の仕事について、考えさせられるようなイベントになりました。

写真:いとう写真
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