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2023/10/12

イベントレポート

【レポート③】+クリエイティブゼミvol.39 リサーチャー養成編「リサーチ・リテラシーを学ぶ」 例題4:商店街の空き家をみんなで考える。

はじめに

2023年6月20日から空き家問題を考える+クリエイティブゼミが始まりました。大阪大学COデザインセンターの山崎吾郎さんと協働し、フィールドワークに重点を置く「文化人類学」の観点より「リサーチ」にフォーカスしたゼミを実施します。
今回は、ゲストの神戸市長田区地域協働課の渡辺さんより長田区の空き家の現状や取り組みについて伺い、永田、山崎先生より前回のレクチャーの補足、グループワークの進捗共有を受けてのコメントを受けました。

   

長田区の空き家について

神戸市で建築職として働いており、今は、長田区役所で地域の活性化やまちづくり協議会の支援、空家の相談などを行っています。
これまで2棟の空家を改修し、大工さんができるところは大工さんが、自分たちでできるところは自分たちで実施しました。空家が問題だと言われていましたが、実態がどうなっているか知りたかったのも空家改修をした理由の一つです。
ひとつめの建物は、路地に面した塩屋に建てられています。塩屋のまちがおもしろく、グッゲンハイム邸などの洋館や素敵なカフェがあり、もう一つ面白いテナントができることで、まちに回遊性が生まれ、多くの人に遊びに来てほしいと考え、改修を行いました。当初、テナントの当てはなく、9か月間工事をしながらテナントを探し、友達の友達(シオヤチョコレート)が入ってくれました。シオヤチョコレートができることで、車が入らない狭い路地の建物にも多くの人が来ることがわかりました。リノベの可能性を感じ、空家は人を巻き込む余地があると認識しました。

■ 長田について/まちの変遷
長田区は、人口は96,919人、面積は11.36㎢の小さい街にたくさんの人が集まっています。現在の人口は一番多かった頃よりも半数になっており、今後2、30年でさらに30%以上減ることが予想されています。出生率も下がっており高齢化率は非常に高く、年々外国人の移住も増えていて特にベトナム人の割合が増加しているなどの特徴があります。
明治時代から産業が発展し、ビーチサンダルは長田の街から生まれました。阪神淡路大震災では被害が大きく、再開発事業や区画整理事業など新しく開発されたエリアと、昔からの建物が残っているエリアがあります。長田の魅力は、たくさんありますが、人との距離が近く、人がおせっかいなところ、大正時代からある築100年以上の長屋や狭い路地、粉もんや、銭湯などの下町文化が残っているところです。

■ 長田区の空き家事情
神戸市内の空家率は13%程度です。市場流通されておらず放置されている空家が個人的に問題だと感じています。放っておくと雨漏りにより建物がすぐに劣化します。劣化が進みすぎると改修が困難になるケースも多く、建物は普段から使っていくことが大切です。
長田区の空家は、北部へ行けば行くほど、JRの駅から離れれば離れるほど、空家が増えている傾向にあります。また、道路が狭く車が入れないところも空家になりやすいです。
放置されている空家の所有者と話していると、「信用できる人に使ってもらいたい」「家財道具があり片付けができない」などのさまざまな意見があります。これから、人口減少に伴い空家は増え続け、安く手に入れられるようになっていくと思います。空家所有者にとっては、どうしていいかわからない建物でも、何かしたい人には宝物ものになる可能性があります。捉え方次第で空家の見え方が変わると思います。

■ 長田区の取り組み
「空家所有者の要望を聞いて、活用したい人に繋げる」ことにも取り組んでいます。空家所有者と活用したい人の両方が満足し、さらに地域にとってもメリットがあればと考えて、繋いでいます。また、「価値のないと思われているところに価値を見出すこと」も大事だと考えています。
空家は可能性の塊です。空家がチャレンジの場となり、地域が変わるきっかけになることを期待しながら空家活用の促進に取り組んでいます。

   

ミニレクチャー(山﨑さん)

■ 協働でリサーチする仕組み
「協働で何かをする」ということが注目されています。市民が(研究に)加わることで起こる一番の変化は、研究者が一人では見ることのできない大量のデータや領域をいろんな人の目で見られるようになることです。また、研究テーマに関心のある人のコミュニティができ、新しい課題や生態の変化等の発見につながるしくみにもなります。さらに、学生は自分が勉強したいことをリサーチしますが、複数人いることでより多くのことを調べることができます。そしてそこに地域の人が入って学生と共に自分たちの地域について調べ始めることで、大学でリサーチをするよりもより広い範囲でのリサーチが可能になります。
空き家の場合、一つの家に限定してしまいその家の周りの人だけにリサーチをかけると問題解決の枠も限定されてしまいますが、少し地域や集落を超えてリサーチができるようになるとまた違う角度から問題が見えてきます。例えば、「空き家をどうにかしてほしい」からスタートしたリサーチが、空き家対策の視点ではなく、手伝ってほしいという願いや行政への不満などが見えてくることがあります。地域に適した提案の仕方が実は何層もあります。対象を決めてアプローチしていくと答えが絞られてしまいます。答え方にはいろんな可能性があるので、特定の誰かが全てを解決する形に持っていくのではなく、周辺にいる関係や関心のある人が関われるデザインをどこに入れ込めるかによって「空き家対策」の考え方が変わってくるのです。リサーチを通じて人との関係性ができる、リサーチをすることによってその地域の人を知ることができる、みんながリサーチャーになることができれば、その地域に関心を持つ人が増えていくと思います。

   

グループワーク、進捗共有と講師、ゲストによるコメント

40分間、班ごとにグループワークを行いました。A班から順番に進捗状況を共有します。
■ 班ごとの発表
班ごとにグループワークを行った後、各班進捗状況を共有します。
A班:
周辺に高校が多いことから高校生に視点を当て、「高校生はどこに行っているのだろう」という話から、長田に新しく場所を作れば繫華街に流れている高校生が集まってくるんじゃないかという話をしていました。また、商店街にある空き店舗を使って、1Fのシャッターを開けて通りに椅子を並べてみんなのリビングにするのもいいねというアイディアを出し合いました。商店街の目の前に幼稚園があるので、送り迎えをする親御さんたちがちょっと早めに家を出て集まれる場など、街とのグラデーションになるようなところを作れたらいいなと思っています。

B班:
子どもが集まれる場所がほしいという話からこどものサードプレイスがあったらいいよねと話していました。商店街が坂の上にあることをあえて活かし、子どもが配達員をするのもいいと思います。中学生や高校生向けの自習室やカフェのアイディアや、子どもも大人も集まれる場所があればいいんじゃないかという話もしました。商店街には屋根があるので、部活動の夜練習ができる場所をつくるアイディアや、地元の中学生や高校生に商店街の存在や建付けを説明したうえでどういう風に使いたいか聞き方を工夫して聞いてみるなど、単発的な意見出しを楽しんでいました。

C班:
行きたくなる、ワクワクする商店街にするにはどうすればいいか、普段行くスーパーにはないようなマルシェが開催されていると楽しいのではないかという話から農業の話をしていました。室内で農業をするのも面白いのではという意見が出たり、小学生の子どもたちが商店街に紛れ込んで野菜のお世話をしたり、高齢になると土が触りたくなるというので近場で土に触れる場所があれば人が集まってくるんじゃないかと話していました。

D班:
まずこどもたちが作戦会議をしたり、モノづくりをしたり、課題解決ができるスペースをひらきたいという話が出ました。こどもたちが自由に問いを持ち、地域をどうしたいかを勝手に作戦会議して、地域の方々にも関わってもらいたいと思います。二つ目が「まちライブラリー」という事例を参考に、地域からモノや野菜などを持ち寄ったおすそわけや物々交換ができるシステムがあれば面白いねと話していました。その中から「フラっと立ち寄れる地域のよりどころ」という案が出て、自分が作ったものを発表する場や、美味しいレシピの共有、そのレシピで料理を小学生に教えてあげるなど、フラっと参加できるしくみがあれば面白いねと話していました。気になる人を巻き込みながら、やりたいと思ったことのタネをその場で握ることで地域のニーズを地域で解決できたら面白いと考えます。経済的な問題についても考えていきたいです。

E班:
「子ども思い出リノベイベント」というものを考えていました。空き家の写真を見ていて、空き家とは建物だけじゃなく粗大ごみや家具も関係していることに気づき、それらを全てアーケードに出してしまって、子どもたちが好きなようにリノベーションをしてリビングを作るというイベントを思いつきました。アーケード全体が子どもの遊び場になります。自分たちで居場所をつくって遊び場にしていく、周辺の地域の方々も思い出のモノを持ち寄って、次世代が遊ぶ場所になるにつれて人が集まってくると思うので、人が集まる最初をつくれたらいいねという話をしていました。

   

■ 永田によるコメント
KIITOで今までやってきたコンテンツにみなさんの考えるアイディアが引っ張られていないのがとてもいいと思います。新しいことにチャレンジすることで新しい可能性があると捉えています。一方、現状で気になっていることとしては、地域のニーズやお困りごとをもう少し知りたいということです。地域の人はそう簡単には悩みを伝えないと思うので、アクションそのものが課題解決につながるだけではなく、課題を聞き出すための活動が必要かもしれません。やってみたら後から結果がついてくるという時間軸を意識してみるといいかもしれません。

■ 山崎さんによるコメント
イメージの具体的なものと抽象的なものの振れ幅がある印象です。色んなことを一言で表すことのできる「コンセプト」に当たるものはどこかのタイミングで必要ですが、一方でコンセプトと、より具体性のある手段の間にはギャップがかなりあります。やりたいことの実現は一筋縄ではいきません。コンセプトを実現するまでのプロセスやストーリーがビジョンとして見えていると説得力が増します。段階的にいくつかのアイディアを組み合わせて一つのやりたいこと(コンセプト)に到達させていくことで大きな絵が描けるようになるのではないでしょうか。

   

おわりに

第4回は7/11(火)に実施しました。山﨑さんよりレクチャーを受け、グループワークをメインに最終発表に向けてアイディアを固めていきます。

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