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2023/11/24

イベントレポート

Hello New Economy! Talk 「リノベか新築か、買うか借りるか、それが問題だ ~住まいを軽やかにアップデートする90分~」レポート

10/15(日)

Hello New Economy! Talk 「リノベか新築か、買うか借りるか、それが問題だ ~住まいを軽やかにアップデートする90分~」を開催しました。KIITOでは2019年より「Hello New Economy! 」と題し、新しいモノの売り方、買い方、伝え方を試みるゲストのお話から、あたらしい時代のお金のつかい方について考えを深めていく機会をつくってきました。「衣・食」ときて第三回となる今回のテーマは「住まい」。ゲストは兵庫県で設計を続ける建築家の和田純さんと奥田達郎さんのお2人です。早速、インタビュアーでもあり、今回の企画の立案者でもある、有限会社りすの藤本智士さんにマイクが渡りトークイベントがスタートです。

藤本:今回、コロナ禍を経て4年ぶりに開催ができることとなり、衣・食と続いて、「住まい」のこともすごく考えたいなと思っていました。お2人の話に入る前に少しだけ僕の自己紹介と、今回の企画の経緯をお話させてください。僕はりすという屋号で編集の会社をしています。2006年に『Re:S』という雑誌をつくっていて、この雑誌を終える時に旗印として社名にしました。和田さんとの出会いは、当時HP制作の依頼があって初めてお家にお伺いした時で、その時全面木でできた自邸がすごく気持ちよくて、2008年には「木からしる」という特集を組みました。
それ以降はしばらくお会いしていなかったんですが、取材で『サステイナブルに暮らしたい』の著者である、服部雄一郎さんのお家に伺った時に、「このお家、和田純さんという方に建ててもらったんですけど。藤本さん、和田さんとは面識ありますか?」と言われて、そこで和田さんのお名前を聞いて久しぶりに和田さんとお会いすることになりました。そこで、和田さんと話をしていたことがすごく響いてそのことをお伝えしたいということもあり、今回のイベントがうまれました。

 

そして、ゲストのお2人の自己紹介にうつります。

奥田達郎
宝塚の清荒神という街で、「居場所を育てる建築家」という肩書で設計をしています。元々は文化人類学の学問を専攻して研究をしていたんですけど、研究をするだけではなく、実際に設計をしたいなと思い、設計事務所に入って勉強し独立しました。文化人類学がルーツなので、街のことや風土のこと、そこに住む人や使う人が気持ちいいと思ってもらえるような設計を心がけています。また、お施主さんや仲間たちと一緒に場をつくることを大切にしていて、一緒に手を動かしたり、ディスカッションをしてアイデアを出し合って居場所をつくっていきます。主にリノベーションや人が集まる場所、店舗の設計が多いんですが、今回は住まいがテーマなので、僕が思っている住まいの価値観をシェアして行ければと思っています。
僕が前に住んでいたのは、27歳の時に購入したコンパクトな古い家で、自分でDIYをしながらリノベーションをしました。つくっている過程をSNSにあげていたら「来たい」って言ってくれる人も増えてきて、お家でカフェやイベントをするようになりました。そこで出会った友人と話をしていくと「私も場を持ちたい」「お店をやってみたい」という声も出てきて、段々と街の中にお店が増えていきました。その後、食に関するシェアハウス「awai」をオープンすることになります。6人で住めるシェアハウスなんですが、台所がすごく広くて、ホームパティ―やワークショップなど仲間たちとやるようになりました。はじめは自分の居場所をつくる思いでやっていたんですが、開いていくことで段々と街全体が居場所になっていく感覚があって、そういったことも伝えていきたいなと思っています。

和田純
春摘という屋号で20年近く建築設計の仕事をしています。23歳の時に設計事務所に入って5年後に独立。新築、リノベーション併せて40プロジェクトにかかわりました。建物をつくる仕事をしていますが、そもそも「暮らしを紡ぐ」ということが大事だなと感じています。朝の空気を吸って、その時の旬な食べ物を丁寧にいただく。お家のこともオイルを塗ったりメンテナンスをしながら暮らすことが大切だなと思います。「人生を豊かにする住まい」とは何かということを常に考えていて、家族や好きな人たちとの暮らし。エネルギーのことなど根源的なところに興味あります。特に林業については興味があって、山と林業、住まいとの関係性をもっと知ってもらいたいし、風土に馴染む家をつくりたいと思っています。

 

買うか、借りるか。
2人の自己紹介が終わり藤本さんが話はじめます。
藤本:お2人の共通点でいうと、アプローチは違うけれど暮らす人や使う人の幸せや豊かさを考えているところだなと感じました。まずは、奥田くんに聞きたいんだけど、いきなり家を買ってリノベーションするってかなりジャンプしたイメージがあるけど、なんでその選択肢を取ったんですか?
奥田:住まいと事務所一緒がいいと思っていました。そのうえで事務所を構えるのであれば自分で手を加えていけるところがいいなと思ったんです。でも、賃貸だと全然いいところがなかったんです。それに、自分で手を加えることでこれからの仕事やお施主さんの気持ちがわかるようになるだろうと思って購入を選びました。
藤本:僕たちにとって賃貸が当たり前で家を買うっていうことが大きなことだというイメージがあるので、それを縮めていく会にできればいいなと思っています。僕だったらお2人みたいな建築家さんと出会う機会も多いから聞くことができるけど、だれにどうやって聞いたらいいかわからない。という人も多いと思います。これまでのお施主さんとはどのように出会う事が多いんですか?
和田:知り合いから紹介を受けることも多いです。確かに家を買うってすごくハードルの高いことだと思うんですけれど、若い時に家を買ってリノベーションして暮らすと賃貸でずっと暮らすのと変わらない金額になりますよね。
奥田:いろんな人がもっと暮らしや住まいに興味を持てるようになるといいですよね。昔は、建てている家の大工さんと話すことがあったり、家がどういう風につくられているかを知る機会も多かったと思います。
藤本:僕も自分の家を建てる時に、使っている素材とかを調べてびっくりした思い出があります。
奥田:でも実際家を建てるか賃貸で暮らすか、得意・不得意はあると思います。賃貸だと気軽に移り住むこともできるし、実際に購入するとなると、土地の建物の状況も考えなくてはいけない。住みたい街があって自分で居場所をつくっていきたい人はすぐに購入という選択肢もあるけど、色々見てみたいという人は賃貸で暮らしていくという選択肢もあると思います。
藤本:住まいって大きな買い物だから気軽に選べないところもあるけれど、色々な選択肢があることが世の中的に見えてくるといいですよね。でも、その住みたい街とか建物ってどうすれば決めることができるんですか?
和田:駅から家までの帰り道や雰囲気を見ますが、最終的には勘に頼る所も多いです。あと、建物で言えば住んでいる人が愛着を持って暮らしていたかどうかということもポイントだと思います。
藤本:和田さんが以前住んでいた中津のマンションが印象に残っていて、住めば住むほどよくなっているマンションだと感じていました。いいマンションだと手放すときも価値が0にならない。でも、そういう発想も中々できないですよね。

人が家をつくるけど、家が人をつくる
買うか、借りるか、リノベか新築か。自分の暮らし方によって向き・不向きがあるという話の中でリノベーションについて話が変わります。
藤本:和田さんがリノベーションに関わる時は、どういった物件が多いですか?
和田:築年数でいうと30~40年くらい。1981年に施行された新耐震基準というのがあり、物件を売る時もネックになることがあるというのはお施主さんには伝えるようにしています。また、古い戸建ての場合は結構中を見てみないとわからないものも多く、構造からやり直さなくてはいけない物件もあり、むずかしいなと思います。リノベをするにも予算ありきなので、どうしてもそのあたりの計算はしなくてはいけない。
奥田:最終的な金額を見て、色々と諦めていくということも多いですよね…。そこに向き合えるかどうかというのも賃貸か新築かを選ぶ向き・不向きだと思います。カスタムした家を買うという選択でなければ、暮らしのことをすごく考えないといけないので体力を使います。
和田:どんな家に暮らすかによって、家族の関係も変わってきますよね。私も「人が家をつくるけど、家が人をつくるんやで」という言葉をとても大切にしています。
藤本:今回のイベント前に、お2人がされていたインスタライブで、現場の大工さんが昼寝をしているところや、風がどういう風に抜けているかを見ているって聞いて。そういうところまで見ているんだと思ってびっくりしたのを覚えてます。
奥田:オーダーメイドで建てる時に「どういうところを大切にしたいか?」ということを意識しています。「この日差しがいいから活かそう」とか。賃貸だと平均的でどこにおいても80点みたいなことが多いと思うんですけど、僕が関わる時は、コスト的ここは削るけど、ここの部分に関しては100点です。というような考え方です。

 

小さな新築という選択
イベントも終わりが近づいてきたころ、今回のきっかけにもなった「和田さんが設計に向き合う中で見えてきたひとつの選択肢」についての話になります。
藤本:僕もはじめはリノベをしようかと考えていたんです。でも、和田さんが進めてくれたのは新築だったじゃないですか。最後に改めてその話を聞きたいなと思っています。
和田:服部さんのお家に関わると同時期に自分の古い家に向き合っていた時期があったのですが、古い家っていくら直しても、コストをかけても追いつかないところがたくさんあるんです。これだったら小さくて性能がいい新築を建てることができたらどれだれいい事だろうって。ちゃんと未来に残るしっかりとしたものをつくる方が環境にもいい。大きなサイズの家だとコストもかかるから小さくていいものをつくる。そしてきちんと使うこと、受け継いでいくこと。というところにいきつきました。
藤本:その選択肢はなかったな。それこそ30代で知りたかったなと感じたんですよね。長く住んでも価値がなくならない、きちんとした家。これは和田さんからの1つの提案ではあるんですけど、こういう風に選択肢が見えてきたら、色々な暮らし方にあう住まいの形が生まれるのではないのかなと思います。

あっという間に予定をしていた90分が過ぎイベントは終了となりました。暮らしの数だけある住まいのかたち。その選択肢が広がる機会になったのではないでしょうか。

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