わが家の近くの公園(宝島池公園)には、阪神・淡路大震災の慰霊碑があり、その碑にはこの地域で亡くなられた95名の方々のお名前が刻まれています。あの日が近づくと花がたむけられますが、私にとっても決して忘れない1月17日。毎年その日の午前5時46分には必ずこの碑の前に立ち祈り続けてきました。
神戸市東灘区の自宅で被災した私は、被災者だからこそ、その経験・教訓を自分の心の中にとどめておくことだけではなく、それを何かの形で伝えなければという強い思いで過ごしてきた30年でした。
絵を描くことが好きな私は、その経験・教訓を絵で伝えたいと、折々に芦屋市展、兵庫ふれあい美術展、兵庫県展などの公募展に作品を発表してきました。そのご縁もあり、昨年1月には西宮市のギャラリーで6日間にわたり「絵で伝える震災の記憶」というテーマで企画展を開催していただくこともできました。
作品は、今まで描きためていた分と合わせて展示。激しく倒壊した家、原形をとどめずくずれ落ちた木造住宅、散乱した品々からは奪われた日常、犠牲者の出た門前にたむけられた花、救助活動をするレスキュー作業員の姿、水のかたち、飼い主を探し求めるようにさまよう悲しい犬の姿などなど、記憶に残るさまざまな場面を油彩、アクリル、水彩絵の具で表現し、多くの方々にご覧いただきました。来所者からは「震災の恐ろしさ、悲惨さを改めて思い出しました」「一人ひとりが自分のいのちは自分で守るという意識をもつとともに、日常の安全・安心を考え、防災意識が高まることを願っています」「このような形で震災の記憶を残していただくことに感謝します」などと感想をいただき、多くの方々と改めて震災を共有、共感する機会になりました。遠方からの方も「来てよかった」と言ってもらえた時は、この上ない喜びでした。絵には絵の力、絵だからこそ伝えられるものがあると信じています。
昭和13年1月1日生まれの私はまもなく87歳。太平洋戦争、大震災、大病(急性大動脈解離)を乗り越え、今生きていることが信じられないような気持ちです。かけがえのないいのちの尊さ、大切さを身をもって感じ、日々元気で生活できるしあわせに深く感謝しています。今後も記憶とともに、震災の経験と教訓を絵と文で次の世代へ伝えていきたいと思っています。
タイトル
絵で伝える震災の記憶
投稿者
貴島裕
年齢
86歳
1995年の居住地
神戸市東灘区
手記を書いた理由
今、世界では自然災害や戦争で多くのいのちが失われています。一人ひとりのかけがえのない尊いいのちを奪っても奪われてもなりません。
あの大災害を経験しましたので、心の中にとどめておくだけではなく、何かの形で伝えなければという強い思いがありました。
この地球から災害や戦争をなくして、日々穏やかな平和な日常を築いていきたいものです。