3/28 Sun
LECTURE
今回の「未来のかけらラボ」では、2013年の第1回で取り上げたバックミンスター・フラーを再度取りあげます。
1995年にノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェンは、人類の活動の痕跡が地球表面を覆い尽くした地質学的年代として、現在を「人新世(ひとしんせい)」と名づけました。そして確かに、地球温暖化などを見ればわかるように、今、私たちの活動が地球の未来に対して大きな影響を及ぼし始めています。私たちの決心が、地球の未来を左右する大変な時代に来ているとも言えるでしょう。バックミンスター・フラー(1895-1983)は、思想家・デザイナー・構造家・エンジニア・建築家・発明家・詩人など、さまざまな分野で才能を発揮し、半世紀前には「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と称された人物です。
同時に半世紀も前から、私たち人類の活動のあるべき姿を熱心に説いてきました。その思想のエッセンスこそ、『宇宙船地球号操縦マニュアル』でした。50年前に比べてテクノロジーは大きく変わりましたが、ここに述べられたことの本質に変わりはありません。
本講座では、フラーの代表的著作『宇宙船地球号操縦マニュアル』の翻訳者である芹沢高志を講師に迎え、変わりゆく今の社会においてこの本を読むことで、フラーの語ったことの再解釈を試みます。地球を一つの宇宙船と捉える発想や、フラーが提唱した知見や問題意識などに注目しながら、現代に通ずるフラーのメッセージを通して、未来を見据えるためにいかにグローバルな問題意識を持って行動ができるのかを考えてみます。
現在、地球温暖化や熱帯雨林の大規模伐採、マイクロプラスティックスによる海洋汚染など、私たちの文明が地球の営みに破滅的なまでの影響を与え始めています。また、極端な地球規模での経済格差や政治的分断など、人類社会も数々の困難に喘いでいます。
しかしこうした問題はすべてが絡み合っており、バラバラに対処しようとしても、問題を深刻化させていくだけです。フラーはずっと、行き過ぎた専門分化をやめて総合的に考えよと言い続けてきました。そしてこれからの地球社会の行く末について、何が大切なのかということを、半世紀も前から的確に指摘してきました。当時からその忠告に耳を傾けていれば、状況もここまで酷くはならなかったでしょう。しかしここまで来てしまった以上、フラーが語った変革だけでは、状況を変えることはできなくなっているようにも思えます。
我々の文明のどこがおかしいのか、もう一度フラーの指摘に戻って耳を傾け、50年後の現在にその考えをバージョンアップしていく必要があると思うのです。
人類社会が新型コロナウイルス感染症パンデミックに直撃されている今こそ、バックミンスター・フラーを見直す好機と言えるのではないでしょうか?
― 芹沢高志
※「未来のかけらラボ」とは:現代社会はさまざまな意味で混迷を深めています。未来が見えにくくなっており、そのために、希望を感じにくくなっているとも言えるでしょう。このラボはセンター長・芹沢高志をモデレーターに、身近に散らばる多様な未来のかけら、つまり可能性の芽を拾い集め、草の根的に自分たちの未来を思い描こうとしていく試みです。
P3 art and environment
https://p3.org/
1951年東京生まれ。神戸大学理学部数学科、横浜国立大学工学部建築学科を卒業後、(株)リジオナル・プランニング・チームで生態学的土地利用計画の研究に従事。その後、東京・四谷の禅寺、東長寺の新伽藍建設計…(続きを表示)