実施団体について

Sui(水藝)

場所や温度によって、流れや形を変える「水」をイメージして名付けられた団体、Sui。代表である陳映璇氏が別の企業で働いているとき、やりたいと考えていた高齢者のためのプロジェクトに対し、周りからあまり価値を感じてもらえなかったことをきっかけに、陳映璇氏自身で起業。現在Sui主導の主なプロジェクトは食憶のみだが、そのほか広告・PR等の事業も受託で行っている。

実施までの流れ

話さなくても、
味で伝えられる想いがある。

「食憶」とは、読んで字の如く、食べ物にまつわる記憶のことです。高齢者が腕をふるい、若者がそれを食べる。世代間を越えた交流とともに、料理を通じて故郷の味や伝統の味などが継承され、料理の物語が共有されることを狙いとしています。

そんな食憶の考え方を中心に据えたレストランがオープンしたのは、2018年。ポップアップストアの形態で、高齢者シェフが料理を披露。訪れた大勢のお客さんと一緒に、食事を楽しむイベントを開催しました。料理をみんなで楽しむことはもちろん、シェアエコノミーや体験型レストラン、世代間交流など、様々な要素が相互に作用し、イベントは大成功でした。プロジェクトは継続し、2019年には、民家風の店舗をオープン。シェフの人数も20名を越え、料理の楽しみをシェアするという概念はますます広まりつつあります。その場でつくって食べる料理とともに、真空パック商品の開発や異業種協力など、様々な発展も。食憶のプロジェクトを通じて、「台湾の味」「故郷の味」やそこに付随する物語が受け継がれています。

実施のポイント

point1

食×記憶の、
無限の拡張。

食憶のコンセプトは、様々な方向への発展が可能なものです。たとえば民家を店舗としたことは、食事に伴って想起される物語や家庭での記憶、それを伝えたくなる人々の気持ちに強く働きかけました。体験型レストランであることで、高齢者シェフたちは、そのままお店で仲間と交流の機会を得ることもできる。このように、食憶のコンセプトを軸に、様々な要素の有機的な拡張が可能となりました。

point2

食憶は、
レストランに縛られない。

食憶は、体験型レストランを中心としながらも、様々に発展を遂げています。現在行っているのは、真空パック商品を通じて、その美味しさと物語を伝えていくこと。あるいは、料理教室の開催や他業種とのコラボレーションにも積極的です。様々な考え方や技術のぶつかり合いで、思いもよらなかった化学反応を期待できると考えています。

参加者の声

呉さん

呉さん

高齢者シェフ

おいしい!の声に、
やる気が満ちる。

リタイア後は、日々が退屈でした。そんな中このプロジェクトに参加したとき、みんなが私の料理を「おいしい!」と言ってくれる様には大きな充実感があったんです。シェフとして、毎日がやる気に満ちています。

戴さん

戴さん

高齢者シェフ

料理好き同士の
インスピレーション

食憶には、まだまだ発展の可能性を感じています。元々料理が好きだった私としては、同じ料理で人と繋がれることは本当に嬉しいこと。日々多くの人に話しかけ、インスピレーションを得ています。

Jimmyさん

Jimmyさん

厨房ディレクター

高齢者から、
コミュニケーションを学ぶ。

高齢者シェフのみなさんはプロでない人もいるため、レシピの調整が必要な場面ももちろんあります。しかしそのやりとりを通じて、私はコミュニケーションの多くを学べたようにも感じています。

Weiyaさん

Weiyaさん

食事客

誰かの思い出を
味わえる場所。

ここで味わえるのは、思い出です。まるで誰かの家で、誰かの思い入れある料理を食べているかのような気持ち。より多くの人がここで活躍し、より多くの人がここで思い出を味わえればいいなと思います。

Aiaiさん

Aiaiさん

食事客

無名なシェフの、
感動料理。

このレストランで料理をつくるのは、無名のシェフです。しかし料理はいつも特色を持ったもので、愛情がこもっている。ときにはシェフがレシピを教えに来てくれることもあります。ここは、料理の味だけでなく、物語を伝えてもらえる場所なのです。

次への課題

食憶は、より多様に。

ここでは料理の味を楽しむだけでなく、料理の背景にある物語を味わうことができ、シェフ同士、あるいはシェフと食事客との間に交流が生まれる。これが食憶の、真ん中にある価値なのだと、改めて気づくことができました。お店で食べた料理のレシピをその場で習い、帰宅後自分でもつくってみた人。お店で新しい友人を見つけて、一緒に買物へ出かけるようになった人。「これは祖母が昔作ってくれた料理と同じ味だ!」と感動する人。人それぞれに生まれ、受け継がれる物語を大切に、食憶の価値を、これからも伝えていかなければなりません。

レストランとしての
運用は、未だ課題。

運用面では、アマチュアである高齢者シェフたちの生産性と生産価値を一定のレベルに維持することの難しさがあります。食憶として物語を伝えていくことはもちろんですが、レストランゆえ、料理に一定のクオリティは求められるということを軽視はできません。また、一般的なレストランに比べて、運営に高いコストがかかることも大きな課題です。本来の価値を保持しながら、利益を確保するモデルを確立させていくことが求められています。シェフの人材確保が安定的になれば、レシピブックの発売や、店舗数の増加なども検討できると考えられています。