2018/3/8
イベントレポート
2018年2月17日(土)、18日(日)
セルフ・ビルド・ワークショップ 「あそび」のための「大きな家具/小さな建築」第3回を開催しました。
第3回目のゲスト講師は、過去のセルフ・ビルド・ワークショップでも講師を務めていただいたことがある、NO ARCHITECTSの西山広志さんです。
冒頭のミニレクチャーは、「あそび」をベースに組み立ててくれたとのこと。
具体的な事例紹介の前に、「手を加える前の何にもない状態を想像して聞いてほしい。空間に対して手の加えた範囲は、少しだけのものも、大胆なものもある。大きな空間に対してほんの小さなものだったとしても、もともとは何にもなかった状態の空間に対して、全体を想定しながらものを作れば、全体を作ったことになる。そういう考え方で今日は見てもらえたら。」とのコメントがありました。
最初は、「久々にデータを掘り返した」という、2年間くらいかけて、大学院の修了制作で行ったツリーハウスプロジェクトの紹介です。
西山さんの母校・神戸芸術工科大学は、もともと山で、切り開いてニュータウンにしたエリアにあり、キャンパス内にも、設計の時点で計画され、一部残されているもともとの森がある。その残存林が好きで、山を研究するところからスタート。山の中の木の種類を調べ、どの木にツリーハウスを作るかを決め、次に木の上の空間、周辺の植生環境をリサーチ。山の入口を定めて、看板を立てて、活動をあげたブログのリンクを書き、腐った木を掃除して、ツリーハウスまでの道を整備する、周りの環境を整えて、行きやすくする。ダンボールでモックアップの床を作り、モックアップを載せては外して工房に持って帰ってを繰り返し。ずっと載せておくと、木はそれに反発して上に幹を伸ばそうとするので、かなり木に負荷をかけるということが制作の過程でわかり、そこに設置するというよりは毎日持っていくものにしたとのこと。屋根をかけて完成。山自体の環境も整って、木の上の空間を体感できる。小さい計画だけど、山全体を変えていることになっている。
次は現在に飛び、空き家が増えてきていた大阪市此花区梅香四貫島で事務所・自宅を構えて、少しずつ改修しながらまち全体のライフスタイルをつくるような活動をしているお話に。その地域の地主さんの思いから始まった「此花アーツファーム構想」からできたつながりから事務所をそこに移すことになり、此花のギャラリー、カフェ、シェアハウスなどの改修を手掛けている。ほとんどはまるまる改修ではなく、一部だけ。「モトタバコヤ」は、角地に立っている物件の、手前の狭い一部屋+看板だけを改修。手を入れた範囲は一部だが、角地だからまちを背負っているようで、地域全体の見え方も変わる。これらは職人さんに発注して終わり、ではなくてみんなで作ることに意味がある。どういう仕組みを作ればみんなで作れるかを考えながら設計する。お店自体にも極力たくさんの人が関われるようにしているとのこと。
今では自宅も此花に移しているし、空地活用のプロジェクトなどもしている。1個1個は小さい手の施しだが、小さなエリアの中に増やしていきながら、まち全体の暮らし方を提案していくような活動。まち自体も全部つくるのはすごい大変だけど、小さい点を打つだけでもまちはすごく変わる。
今回のワークショップではそれを体感できるものとして設計してくれたとのこと。
そのほか、展示や、イベントの会場構成、美術館でのワークショップ、KIITO内の什器制作など、多岐にわたる事例を紹介いただき、最後に「今日、頭に置いておいてほしいこと」としてのまとめです。
・みんなのものをみんなで作る仕組みを考える:みんなで使うものは極力みんなで作る仕組みを作ったほうがみんなで使いやすい。面倒くさいことでもあるが、そのほうが結果長く使われることが多いので、計画段階からそういう仕組みを考えたほうがよい。
・もともとあるものを最大限肯定して利用する:元々ある状況を否定するような提案は、もともと使っていた人のそこに流れてきた時間みたいなものを全部否定してしまうことになる。できるだけ良さを肯定的にとらえて利用することが大事。
・小さなものを考える時も、大きな視点で考える:人の目線は通常のスケール感覚で考えることができるが、さらに猫の目線~下から見上げることに近いが、どんどん走りまわって、上に乗ってみるとか、ふだんの使い方ではないこと~、を意識する、さらに、鳥の目線で上から俯瞰で見ること。3つくらいの視点で考えて設計すれば、いろんな人にとって使いやすかったり愛してもらえるものになる。
続いて、課題の発表です。今回作るものは「空間を仕切る装置」、簡単に言うと屏風。設置予定場所にすでにある楕円のテーブルに刃向かわず、ならったかたちで、と西山さんが考えた基本の設計案をもとに、楕円の大きさ、組み合わせ、配色、金具をつける位置などを参加者が考えていきます。
設置予定場所の現場チェックをして、西山さん作成の図面を見つつ、人・猫・鳥の目線/なかった状態、ある状態/置かれる場所、使われる場面を想像して、デザインを考えます。他にも、決められた板の枚数の範囲内で作る/色は指定の3色を全部使い、それぞれの色が占めるバランスも決められた範囲内で考える/丁番は金銀2種類を決められた数の中で配置する、などいろいろなルールが設定されており、参加者の頭を悩ませます。
随時、アドバイスを西山さんやコーディネーターの川勝真一(RAD)さんから受けつつ、なんとか組み合わせや配色をチームごとに決定します。アドバイスは、設置予定場所は主に仕事の打合せで使われる場所なので、ポップになりすぎないようにとか、もともとが比較的無機質な空間なので、そこに調和するように、といった、個性を爆発させる方向よりは、調和と個性の両立を目指していくような考え方であるのが「建築家ならでは」のように感じました。
デザインや材料の取り方が決まったら、下書きをした上で木材をおおまかに丸ノコでカットし、その後ジグソーで丸くする部分をカット。カットした小口にやすり掛けして滑らかに。やすりは4回!丁寧にかけます。滑らかにしたら塗装。木地の色を残す部分は、ワックスを塗布。小口の塗装は刷毛、面の塗装はローラー、ワックスはふきんで拭き取るように。
塗料が十分乾燥するまで待って、その後はそれぞれを金具でつなぐ作業です。使う金具は丁番、合釘、かすがい。どこに何本必要かという構造的な検討と、見た目の検討の両方が必要です。
丁番を付けてみたら、表裏が逆だった!といったんはずして付け直す場面もありましたが、時間内で、統一性を感じつつも、3チームそれぞれ個性があるものができあがりました。
板材の背が高いところと低いところがあることで、仕切った向こうが見え隠れするようになり、向こうで人の姿がちらりと見えるのもかわいらしいし、仕切った向こう側でお茶やミーティングをする人にとっても、囲って閉塞感が出る感じもなく、見えすぎて気が散ってしまうということもなく、良いバランスを保ちつつ空間を分けてくれる機能を持った装置になっているようです。
設置予定の4Fプロジェクトスペース4Cに3つとも設置して、最後に全参加者から、ひとこと感想を言ってもらいました。「安い材料なのにこれだけ空間が変わるんだと勉強になった」「課題の作り方がすごい。制約が大きくて、ざっくりしてると思ったけど、なんとなく統制がとれたものできあがるのがすごい」「工具はある程度知っていたが、丁番、釘といった細かい道具のセレクトが、手に入れやすそうだけど知らなかったもので、勉強になった」などといったコメントが聞かれました。
西山さんからも「今回の参加者は意気込みが強くて、丁寧な作りで完成度が高いものができている、想像以上に良いものが生まれている。みなさんの成果です!」と太鼓判をいただきました。
今回で全3回の「あそび」をキーワードにしたセルフ・ビルド・ワークショップはいったん終了です。3つの成果物はKIITOの4階に設置しています。お出かけの際はぜひご覧ください!
セルフ・ビルド・ワークショップ 「あそび」のための「大きな家具/小さな建築」
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