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2018/3/28

REPORT

「言葉の宇宙船がやってくる~KIITO BOOK CLUB」レポート

「言葉の宇宙船がやってくる~KIITO BOOK CLUB」を開催しました。

2016年に「言葉の宇宙船 わたしたちの本のつくり方」(ABI+P3共同出版プロジェクト)というプロジェクトブックが発行されました。自分たちなりの本のつくり方を実践し、本そのものや本にまつわることの可能性を拡張するような、非常に興味深い試みです。
本の副題があらわす通り、本とは何か、本を作ることとはどういうことなのか、をいちから検討し、また、クラウドファンディングで未来の読者を巻き込みながら、一般的に書店に並んでいる本とは異なる流れで作られた本です。「本のつくり方」を起点に、これからものを作ること、伝えること、さまざまなことを考えさせられます。本企画の中で行われたトークの中でも話が出ましたが、読んだ後には、何かしたくなる。というわけで、「宇宙船」の神戸への寄港をお誘いし、『言葉の宇宙船』を制作したABI+P3共同出版プロジェクトと一緒にKIITOのライブラリでできることを考え、会期中の選書の設置と、3つのトークイベントを行うことにしました。

2017年11月7日(火)~2018年1月14日(日)
KIITO BOOK CLUBの本棚

『言葉の宇宙船』制作メンバーの6人と、第3回のトークイベントに関わった神戸市内の古本屋によるユニット・コウベボーダーズ6店舗の店主、KIITOスタッフ9人で、「こんな本を読んできた」をキーワードにした選書を行い、ライブラリ内に設置して自由に読めるようにしました。『言葉の宇宙船』内で挙がっていた書籍たちはじめ、マンガあり、雑誌あり、同人誌ありと多彩なセレクトになりました。会期中はこれらの本をライブラリに設置し、自由に読めるようにしました。選者本人に借りた本も多く、線が引いてあったり、付箋がたくさん貼られていたり、持ち主の気持ちも一緒にそこにあるかのようです。Art Bridge Institute特製の栞も配布し、そこにメモを残したり、読み途中の本に挟んでおけるようにしました。来館者が、ほかの読者の存在を感じ、本の感想を共有できるような試みです。

2017年11月25日(土)
KIITO BOOK CLUB 1:本を「編む」わたしたちの本のつくり方

トークイベント第1回目は、「言葉の宇宙船」の編集を担当した川村庸子さんとデザインを担当した尾中俊介さんに、本書制作時のエピソードを中心にお話しいただきました。
川村さんは19歳のころにたまたま出会ったフリーペーパーに衝撃を受け、それを作っていた企画会社にアプローチしてアルバイトをはじめ、そのまま働き、数年前に独立。独立後は編集の仕事だけでなく友人とオルタナティブスペースの運営も行っていたそうです。尾中さんもデザイン業をやりながら、普段の仕事では作れない本を自分で出版したり、オルタナティブスペースをやっていたこともあったり、お二人とも「編集者」「デザイナー」と聞いてイメージする人とはちょっと異なる経歴と活動のようです。
そんな二人が携わった『言葉の宇宙船』は、いかに目立つか・流通時に汚れないかが一番に意識されている書店売りの本とはまったく異なり、クラウドファンディングで本を作ることに対して投資を受けて作ったものなので、投資者の顔を浮かべながら、その人に直接渡すようなイメージで考えられたとのこと。一般的な本では採用されていないであろうアイデア(読者の履歴が書き込める表紙、破れやすい金色の帯、「間取りのような」目次、タイムラインのノンブル、制作に関わった人すべての名前が入った奥付、等々)がたくさん盛り込まれています。
川村さんが『言葉の宇宙船』の中でとりわけ秀逸だったのではと振り返るのは、対談ページの下に入れた、その言葉が発された日付と時間のタイムライン。これは尾中さんからのアイデアなのだそうです。時間の流れを意識させ、話した速度や雰囲気を汲み、この会話に参加しているという主体的な読者として参加してほしいという思いで考えたとのこと。トークに参加していない人は、この時間に自分の居た場所のことを考えるかもしれないし、本の外に流れている無数の時間や人生ともリンクする、と。近しい試みがなされている、尾中さんが2017年に手がけた『[記録集] はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす』(発行:武蔵野市立吉祥寺美術館)のケースを参照しながら、このアイデアの背景についてお聞きできました。「読んでいる人たちの中でなにか起こってほしい、一読して終わり、みたいな本の消費の仕方じゃないのを、デザインの時点から考えている感じ」といった言葉があり、そういった意識がさまざまな試みの中に通底しているようです。

興味深かったのは、『言葉の宇宙船』制作時に川村さんと尾中さんの立場が逆転することが結構あった、というエピソード。
川村さんは、編集の仕事を説明する時、「暗号みたいなものを埋め込んでる」感覚があって、「構造とテクスチャーと作っている」仕事だとよく言うそうです。構造は、やっぱりその案件ごとにあるべきかたちがあるので、その構造を考えること。テクスチャーは最後に大事な部分で、その文字をひらがなで書くかカタカナで書くか、紙質は、とか、デザイン寄りのことをけっこう考えているそうです。
尾中さんは詩人でもあることから、詩を契機に考えているとのこと。詩は物語ではなく、ただの言葉だけど、読んだ人でまったく解釈が変わり、その都度、読みは変わるもので、読みが変わることは詩のすばらしさ。「詩のようにしたいというのがどこかであるのかもしれない」とも。一般的なデザインは、すべて機能させるようにするところがあるだろうが、尾中さんは、「なんとなくそこに雰囲気があったらいい、という感じ」。そうすると、あるタイミングで機能するかもしれない。詩も本も、小さい頃は分からなかったけど、大人になって初めてわかる、というような、何か一体化するタイミングがある。「デザインは皮膚みたいに考えている。本の内容が内臓だったり肉だったりすれば、デザインは外と接する場所。接する場所との距離感を常に考えているかも」という印象的な表現も聞けました。
川村さんは「尾中さんはこの本自体がどういう風にあるべきか、ということからしっかり考えている」とのこと。これは編集的な視点と言えそうです。
立場が逆転するような場面があった、というのは、お二人の編集やデザインに対する考え方が影響しているように思えます。

普段は裏方の人間なので、を川村さんもおっしゃっていましたが、なかなかトークに出演するということがないお二人に、それぞれの仕事紹介から、『言葉の宇宙船』がどのように作られたのか、制作時のお互いの思い、本/デザイン/編集に対する考え方まで、貴重なお話を伺うことができました。

2017年11月30日(木)
KIITO BOOK CLUB 2:本の外縁をめぐる旅

第2回は、『言葉の宇宙船』が動き出すきっかけを投じた、ABI代表の港千尋さんから、『言葉の宇宙船』の中で提示された「本の外縁」という考え方に基づき、美術家、著述家、キュレーターとさまざまな立場で見た、本の面白さや「今、本がどんなところでとんでいるのか」をお話しいただきました。

ガルシア・マルケス、2010年に仙台で行ってドイツ・ハイデルベルグに派生した「栞プロジェクト」、ドクメンタやミュンスター彫刻プロジェクトで展示されていた本が扱われている作品について、今回KIITO BOOK CLUBで作った栞に写真が使われた、バンクーバーの書店のウインドウを見つけたときのエピソード、ヴァルター・ベンヤミンの短いテキスト「蔵書の荷解きをする」など、さまざまにお話しいただきました。

「本の外縁」について。本の境界はけっこうはっきりしていなくて、書棚や本屋では隣にある本の影響を受け合う。どんどん広がっていくものなんじゃないか。書店のウインドウまでつながっているんじゃないか。外縁の「ふち」は「えん」でもあって、本は人間と人間をある特殊な仕方で巡りあわせ結びつける縁作りの何かなんだと思う、さらには、本の境界は、鏡やウインドウに反射した空まで広がっていて、ひいては我々が生きている世界そのものにつながっているんじゃないか、と、本に対するイメージが広がるお話をしていただきました。

質疑応答の時間では、過去に港さんが発行した特殊な造本の書籍「ひょうたん美術館」の制作に携わったという方が、通常は関わることのない本の制作過程に携わったときの思いを話してくださるという場面もありました。

当日は書評サイト「シミルボン」のライター、高槻さんが参加してくださり、当日の様子を詳しくレポートしてくださいましたので、そちらもぜひご覧ください(芹沢・港インタビューおよび第3回ルポもあり)。
https://shimirubon.jp/columns/1686760

2018年1月14日(日)
KIITO BOOK CLUB 3:わたしたちの本の届け方とその先

企画の最終日に3回目のイベントを開催しました。KIITOセンター長でP3 art and environmentディレクターの芹沢高志、P3 art and environmentの坂田太郎さん、コウベボーダーズからは古本屋ワールドエンズ・ガーデンの小沢悠介さん、honeycombbooks*の佐伯京子さんにお話しいただきました。また、トークに加えてコウベボーダーズによるミニ古本市を開催しました。

ミニ古本市では、6店舗が今回のためにセレクトした古本たちがライブラリに並びました。また、「言葉の宇宙船」制作メンバーとコウベボーダーズが、それぞれお勧めの本をピックアップして直筆でお勧めコメントや本にまつわるエピソードを書いた帯付きの本コーナーも設置しました。

「本の届け方」にフォーカスした今回、「言葉の宇宙船」制作チームからは、本を発行してから展開しているプログラムについて紹介いただきました。本のつくり手にとっては、本が出来上がることが大きなゴールでしょうから、その後を追ったり考えることはそれほどないのではないかと考えてしまいますが、「言葉の宇宙船」では「100の読書、100の経験」というウェブプログラムで読書体験を共有するなどの試みを展開しています。

コウベボーダーズからは、6店舗の紹介とコウベボーダーズとして開催してきた企画の紹介をしていただきました。主力としているジャンルはもちろんさまざまで、古本だけでなく新刊やリトルプレス、雑貨を扱うお店、コーヒーやビールが飲めるお店、自宅の一部を本屋としているお店、展示スペースもあるお店など、それぞれ個性があり、異なる面白みがあります。
ユニットといっても定期的な活動をしているわけではなく、「古本屋お遍路巡り」「ロマンブック街道周遊6か国」「よこしま学園」など、スタンプラリー的な形式で、よくあるものかもしれないけれど、少し遊び心を加えて、楽しく各店舗を回れるようなイベントを開催してきたとのこと。

後半では、「古本屋の世界」に興味津々な「言葉の宇宙船」制作チームが、コウベボーダーズにあれこれと質問を投げかけるかたちになりました。
新刊書店と古本屋を比べて考えがちですが、どうやら反対のもの、というわけでもないようです。扱う側としても、新刊と古本はいちおう分けてはいるが、あまり意識していない、その人にとって必要かどうかを基準にしているとのこと。ある意味図書館司書かも。
また、物理的に本屋は忙しくて、古本屋は忙しくないから、お客さん一人にかけられる時間が普通の本屋より長くて、お客さんとの会話も仕事の中に入ってくるのだそう。会場では、古本屋=単に本を売り買いする場、にとどまらず、何かを伝えたり受け取ったり、キャッチボールする場なんじゃないか、という思いに至りました。

書き込みや挟まっているレシートなど、古本に残る痕跡から、元の持ち主を想像するのも古本の面白みのひとつと言えます。小沢さんは、古本屋が最後のページに書き込む値段の筆跡でどこの書店かが分かったりするのだそうです。中身の書き込みはお店によって、次に手にする人が1から楽しめるように、消せるものは消す(佐伯さん)/その人の読み方が残るのはいとおしいこと。それごと楽しんでほしいので、そのまま売る(小沢さん)と、対応はさまざまなようです。

コウベボーダーズの今後の展望については、「組織として何かやろうという感覚はなくて、それぞれが個性を持ったお店であることがベースになっている。雑談しながら、やりたいことがでてきたらやれれば」とのことでした。

「言葉の宇宙船」制作チームも、プロジェクトをやっていくうちに、個人という単位の重要性を強く認識するようなったとのこと。目の届く範囲の小さな経済で、一人一人が考え、発信する世界について考える機会となった企画でした。

「言葉の宇宙船がやってくる~KIITO BOOK CLUB」
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