2019/8/29
イベントレポート
8/3(土)
Hello New Economy! 『発酵のONE DAY STORES & TALK』を開催しました。
新しいモノの売り方・買い方・伝え方を行うゲストの方を迎え、一日限定の「Stores」と「Talk」で「あたらしい経済」について考えるイベントです。当イベントの企画と進行、物販に「Re:Standard =あたらしいふつうを提案する」編集プロダクション「Re:S(りす)」に協力いただき、ゲストの考える経済から「あたらしいふつう」を一緒に紐解いていきます。
第2回の今回は「発酵」をテーマに、タルマーリ―、ameen’s oven、Re:S、amasora、大盛食堂×NEIGHBOR FOOD、minarusuy、muku、MONTO TABLE、TAOCA COFFEE、コウベボーダーズ、といった兵庫県内のさまざまな発酵食品や発酵に関する書籍の販売をを行うOne day storesとタルマーリ―の渡辺格さんとameen’s ovenのミシマショウジさんのTalk session実施しました。
会場には、出店者さんの料理や商品を目的にたくさんの人でにぎわいます。
トークは『微生物からみる商売のはなし』と題して、Re:Sの藤本智士さんを進行に鳥取県智頭町のパン屋『タルマーリ―』店主の渡邉格さんと、兵庫県西宮市のパン屋『ameen’s oven』店主のミシマショウジさんに登壇いただき「経済」をテーマにお話を伺います。
「発酵カルチャー」
今回のトークイベントは60名の定員募集でしたが、当日100名を超える方が参加しました。参加の動機を聞くと「発酵や微生物」のキーワードに興味を持った人が約1/3。「経済や商売」に興味を持ち参加したという人が1/3程度、その他「パンやビール、出店者が目当て」といった方が残りを占めると言った内訳です。藤本さんより「発酵」という言葉や存在がいま小さなブームになっているというところから今回のトークイベントはスタートします。
そもそも「発酵」に対するブームはどこからはじまったのでしょうか。キーワードは「腸内細菌の活性化」であると渡邊さんよりお話をはじめます。
「ヨーグルトを食べる事で抗がん剤と同じようにラットの生命力があがったという研究があるんです。それから研究が進んで人間の免疫力も菌によってあがるという研究がでています。」
渡邊さんの言葉を経て、ミシマさんより「今日の結論になるんですけどね。」と開始15分にして次のように話しになりました。
「植物の根にたくさんの微生物がくっついていて、土の中の栄養を“分解”していく。それを養分に植物が成長している。光合成で生んだ栄養を土の中の微生物が分解していく。人間の腸内でも同じように、微生物による分解によって栄養が身体中に巡っているんです。パンも“微生物”に小麦やナッツを混ぜて焼くことで人が食べやすいようにしているもので、発酵食品は分解の要素をたくさん持っています。今日のテーマは「経済」ですよね。でも消費じゃなくて植物や人間が当たり前にしている「分解」がキーワードだと思うんです。お金もただただ消費していくのではなくて、分解する。消費と生産を分けるのではなく、その間にある分解を実感してサイクルにいれることが重要だと思うんです。」
「いや、ガチの結論じゃないですか」と藤本さんからツッコミが入り、会場で笑いがおきます。
そして、藤本さんはこう続けます。
「最近の若い人って、多拠点生活にあこがれる人ってすごく多いんです。それって、都会にいると消費者でしかないという意識があるんですかね。田舎にいると生産者が周りにいて、都会で長くいると自分で生み出さずに消費していくことに対する不安がでてくる。消費と生産だけじゃなくて、その間にある分解が本当にキーワードになるのではないかと思うんです。」
分解と腐敗の違い
「有機栽培・オーガニックっていいものという印象」があるけど実際どうなんですか?という藤本さんからの質問に対して渡辺さんこう答えます。
「ちゃんとした作り方をしていないものってすぐに腐るんです。肥料を挙げたものが一番腐っていく。有機農業のものもすぐに腐っていく。分解する物が何なのか。ということもキーワードになると思うんです。」「化学肥料をたくさん入れたものは腐ります。しかも化学肥料で作ったものはめちゃくちゃ安く売られていきます。だから、みんな化学肥料を使わなくなってきて有機栽培へと移行しているんです。でも糞尿をどんどん入れて、たくさん作物を作ろうという動くと、そうしてできた作物は窒素過多になるんですね。本当にそれがいい作物なのかは疑問が残ります。」
「そんな中で、正しい食べ物とは?正しい働き方とは?正しい社会とは?っていうことえお見つめ直していかないといけないと思うんです。」と渡邊さんは話を締めます。
お2人がパン屋を始めた理由は何ですか?
藤本さんからの質問にお2人こう答えます。
ミシマさん
「ヒッピーコミューンの名残です。天然酵母って社会批判の要素が含まれていたんです。食物の作り方に疑問を持った人が始めたんです。そういったヒッピーの文化、カウンターカルチャーに影響を受けて18歳の頃、パン屋になろうと決めました。」
渡邊さん
「死んだおじいちゃんが夢にでてきて「パンをやれ」って言われたから始めた。最初のきっかけはそんなものでした。」
そもそもイーストと天然酵母の違いってなんなのでしょうか。そんな疑問にお2人はこう答えます。
「イーストは発酵がきっちりしているから、規則的に大量生産でパンをつくることができる。天然酵母は本当にわからないんです。環境や酵母の様子を見ながらパンをつくらなくてはいけない。イーストがいいとか悪いとか安全であるか、そうでないかということよりかも「保存料」を使ってまで流通させなくてはいけないという現状の方が問題ではないのかと思うんです。」「イーストが開発された1894年くらい、品質の安定のためにつくられたもの。うまく使えば大量に作れる、労働時間も縮小できる。イーストは美味しくするためにつくられたものでは無くて効率化のために作られたものなんです。」
今回の出店で『ameen’s oven』さんのパンを詩と交換して買うことができます。その意図についてこう話を続けます。
「商品の値段ってどう決まるのかをもう一回考えてみたかったんです。元々は物々交換じゃないですか。お金っていうものが間にはいることでその価値を均一にすることができるからこそきちんと考えないといけないと思ったんです。」
お金をちゃんと使って流通をつくらないといけない
お金の価値・労働の価値の話になり、渡邊さんがこう話をはじめます。
「労働価値の意味は、お給料を払うという意味以上に市場にお金を流通させるという意味もあるんです。良いモノをつくって、きちんとした値段売る。そうすることで月20万円の収入だった人が、月50万の収入になる。そうすることで市場に50万円のお金を使える人が増える。ここがポイントなんです。」
「きちんと労働価値としてお金を払わないと、市場にお金をまわすというルールが守れなくなる。デフレがおこり、売る側も安く売ろう、作る側も安く作ろうとすることで給料もどんどん下がっていく。そうすると、外国から物価が安い国だと人が入ってくる。労働者の給料が安くなると買う力が弱くなるということが問題なんです。」
「人口減少で労働者も減っています。普通だと人手が不足すると労働賃金はあがるのですが、より賃金の安い移民を雇用することで、現在いる労働者の賃金は安いままで同じ安い商品を大量に生産できるようになっています。企業にとっては労働賃金が安く徳になるが、暮らす人は厳しい現状が続いてしまうのが現状です。」
「イーストは効率のために開発された、その効率は何のため?それは労働者より経営者のためではないか。」と話をまとめます。
資本主義からは抜ける事はできない。もう、オーガニックも市場で希望ではなくなっている。
カウンターカルチャーとしてパン作りを行うお2人だからこそ経済について考えることは多様にあります。
美味しいパンをつくることときちんと経済がまわること。この関係について渡辺さんはこう話します。
「昔はお金を持っている人がきちんといた、だから高くてもこだわってつくったモノもそれなりに売れて経済が回っていたんです。でも今はそう簡単ではないんです。みんなが「美味しくて安いモノ」を求めていったが故、大量生産の均一した味がつくられていった。そして、画一化された商品を求める人が増えていった。不味いモノが市場に出てこなくなり、多様な味に触れなくなった今、食品に対しての創造性もどんどん欠けていっているんです。」
「食べ物も人が作るもの、美味しいもの・美味しくないもの。その時の環境によって変わるのが普通だと思うんです。価値というものを作り手だけがつくるものじゃなくて、買う側も一緒につくっていくもの。消費者がいつでも画一した価値を求めると、画一化されたものしか市場にはでまわらなくなるんです。価値を認めてその商品を買う人が市場をつくっていきます。」
7月にも同様にHello New Economy!の企画として「ALLYOURS」という、クラウドファンディングを活用しながら服の販売を行う木村さんをお招きしイベントを開催ました。(詳細はこちら:http://kiito.jp/schedule/event/articles/35765/)その時に木村さんは「お金の価値は、<ステータス>から<ステートメント>になってきている。ブランド物を買うことより、応援したい人のために使うようになってきている。最近の若者は特にそうなってきている。」とお話をされました。何を買うかがその意思を示すことが経済復活の鍵になるのではないかと藤本さんがまとめます。
「「企業がお金をだすと、みんながお金を使う。そうすると価値の多様性が生まれる。」それが理想の社会だと思うんです。でも、今は企業が「画一化された安くていいとされるもの」をつくっていくことで、小売業やこだわってモノをつくっているところはどんどんと無くなっていく。給料もあがらず、物価も下がり、画一化された商品の中で何がいいものなのか、自分の価値基準を見いだせなくなる社会になってしまうかもしれない。」渡辺さんは今の状況をこう危惧しています。
ヒッピーのおじさんとパンクのおじさん
talkも終盤となり、「お金が「絶対の価値」であることに疑問を持つことから始めるべきである」と渡邊さんが話を始めます。
「お金を正しく見るには価値と価値の交換券であると認識すること。その価値をつくるのは労働者だと思うんです。“美味しい“にも色々あるように、自分の価値観をきちんと養って、多様化させていくこと。そしてモノを買うときに心がけることが大切です。」
市場の中にありつつも、発酵という手法でそれぞれの経済を考え・作っていくお2人だからこその話でした。
経済を考える時、生産と消費は切り離せるものではありません。ただ、何を選んで自分の価値として取り込んでいくか、一人一人がそれを考えていくことで社会もよくなっていくのではないでしょうか。
イベントの詳細はこちら:http://kiito.jp/schedule/lecture/articles/35775/