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2019/11/12

イベントレポート

「LIFE IS CREATIVE展 2019」高齢化が進む台湾の先進事例から学ぶ、連続トークセッション③レポート

去る10月20日(日)、「LIFE IS CREATIVE展 2019」の関連催事として、台湾から「好好園館」のプロジェクトを手がける紀金山さん、神戸からは「はっぴーの家ろっけん」を運営する首藤義敬さんを招いて、「〈高齢化が進む台湾の先進事例から学ぶ、連続トークセッション〉③「高齢社会の新しい社会参画のカタチと暮らし方」」を開催しました。双方ともに、ケアサービス付き高齢者住宅が関わる試みで、なおかつ住宅以外の役割や機能も備え、広く注目をあつめています。本トークセッションでは、高齢者の社会参画と、その際のコミュニティの役割に着目しながら、これまでの実績、これからの展開や可能性についてお聞きしました。

      


好好園館
紀さんが手がける「好好園館」は台中市郊外で展開され、「有本股份有限公司」という会社組織によって運営されています。紀さんは「有本股份有限公司」の代表で、台中市にある靜宜大学ソーシャルワーク・児童福祉学部の教授でもあります。実践の場を求めて、2006年に会社を設立し、プロジェクトをスタートさせたということです。「有本股份有限公司」の出資には、靜宜大学と近傍の光田総合医院も加わっていて、大学がこうした形で出資を行うのは台湾では初めてのことだそうです。この出資構成が、高齢者へ質の高い教育サービスを提供したり、手厚い医療サービスを近くで受けられたりすることにもつながっています。「好好園館」は、日本のケアサービス付き高齢者住宅に範を求めた「好好住宅」、多世代の交流の場である「好好小館」、高齢者の活躍の場であり、若い人も含めた多様で多世代な集客を目指す商業施設「好好聚落」から成っているプロジェクトで、現在、「好好住宅」が建設の途上にあり、「好好聚落」では改修工事が行われています。

紀さんは、これから登場する「好好住宅」について、高齢者にとって住みたいところか、自由で豊かな暮らしを送れるのか、あるいはサービスが受けやすい状況にあるか、余生が長くなった現代では、生活を楽しめるか、それを支える体制があるかどうかが重要だと述べます。さらに、ユニバーサルデザインの考え方のもと、あらゆる人が混ざり合う活気ある場ともしたいのと述べます。そこでは、垣根のある「施設」というよりも、高齢者を含めて、多くの様々な人が参加し、何らかの活動をしたり、何かを作ったり、提供したりする、動的な「コミュニティ」が目指されているとも言えます。

近傍には大学があり、何かを学ぶ機会を得ることができ、「好好園館」では高齢者が活躍する工房もあります。高齢者が積極的に何かをできる仕組みが施設内には整えられています。「好好園館」のプロジェクトでは、高齢者は、健康な生活を送り、多世代と連携し、その「コミュニティ」に参加する中で、継続的に何かを生み出したり、生産できたりする可能性を持つようになり、「好好園館」の中で生活しながら、今後の生活豊かにする原資を作り、老後に向けた準備もします。


はっぴーの家ろっけん
「はっぴーの家ろっけん」はJR新長田駅近くのある古くからの商店街、六軒道商店街の中にあります。高齢者住宅であると同時に、1階のスペースは地域に開かれたリビングルームのような場所で、住んでいる高齢者にとっては、自分の家のリビングのような場所に、いつも誰かが集まっているという状況です。こうした「多世代型介護つきシェアハウス」を実現させたのは「はっぴーの家ろっけん」が初めてとのことです。

「好好園館」は郊外に新たに立地されていますが、「はっぴーの家ろっけん」は古くからある商店街の中に立地されています。長く住んでいる人も多い地域に位置しており、その地域の中で、新たに高齢者住宅としての役割を果たしています。首藤さん自身が紹介したように、この地域は神戸市の他の地域に比べて厳しい状況に置かれています。区内人口のピークは1960年代で、それ以降、急速に人口が減っていきました。そこに震災がさらなる打撃となり、人口が減少していく傾向には歯止めがかかってはいない状況にあります。近くの商店街も活気があるというわけではありません。高齢化率は2016年で32%と神戸市内で1位、若い人が少なく、高齢者の街と言える状況下で「はっぴーの家ろっけん」は登場しました。それをきっかけに少しずつ周囲に変化が起きているといいます。

「好好園館」が自由でより良い暮らしが送ることを重要視しているように、「はっぴーの家ろっけん」も「はっぴーな暮らしを問い続ける」ことを掲げています。ひとりでは実現が難しい「こんなことがあったらいい」、あるいは「こういう生き方がしたい」という希望の実現をソフト面で支援し、ひとりひとりで異なるものであっても実現させるのを目指すということです。

実現が難しそうなことについては、「当たり前をリノベーションする」という姿勢で臨みます。例えば、核家族化、小家族化が進む中で、介護や世話の担い手の確保が難しくなる一方で、血縁に基づいた大家族を都市の中では成立させることも難しくなっています。それに対して、「大家族神話をリノベーション」していきます。血縁はなくても、そこに集まった人たちがお互いをフォローしあいながら、家族のような親しい関係──「遠くの親戚より近くの他人」──になることで、ひとりひとりの「したい」を実現させたり、子育てや介護のような、ひとりでは手が足りないことを補いあったり、支えあったりしつつ、より良く生きる環境ができあがっていきます。生きづらかったり、悩みを抱えたり、困ったことがあったりするときに、頼れる場ともなります。

「建物」が出来上がるプロセス自体も、周囲の多くの人と意見を出し合いって、どんな建物ができると良いか、ここで何がしたいかを事前に考えることだったといいます。結果として、周囲の人たちの「こうしたい」を共有する場であるとともに、それを実現する場ともなっています。今では事前に集約したニーズのうちの9割近くを実現できており、当初は実感がわかなかった「セーフティネット」としての役割も果たすようになっているそうです。こうしたプロセスを経て、今では周辺の地域に若い人が増えていて、ベビーブームが起こっている状況にあります。単に「コミュニティ」が漠然とあったのではなく、この地域の中で、こうしたい、こういう生き方がしたい、それを集まって共有し、人どうしの関係性を通じて実現させていく──「エゴを社会化する」──中で「コミュニティ」が、何かをする機会や手段にもなっています。

      


地域に根ざした「高齢社会」
「好好園館」、「はっぴーの家ろっけん」の双方のプロジェクトから見えるのは、活動的な高齢者の姿、あるいは自身の可能性を新たに発見して今後の人生に臨もうという高齢者の姿、高齢者を中心としながら、若い人も高齢者もともに、それぞれの良い暮らしを、支えあいながら実現しようとするコミュニティの姿でした。

首藤さんのお話の中で、周囲と円滑にできなかった高齢者が、コミュニティの中で「役職」を与えられて活躍し、周りの人たちに慕われて楽しい人生を送る姿が紹介されていました。この例に見られるように、高齢社会に対する展望がなかなか見えない状況ではあっても、高齢者を積極的に地域に包摂し、活力を与え、高齢者のコミュニティに関わる人たちも、お互いに助け合いながらよりよく生きるという、明るい可能性が見えてくるようにも思えます。

高齢者の在り方が変わり、社会保障・福祉制度も変わり、人口減少社会と言われる状況の中でこそ、高齢者の何かをしたいというニーズをつぶさに聞き取る機会、その実現を通じて活躍する機会を得て、より良い人生の後押しをする継続的な支援、さらに高齢者どうしの連携をはかり、新たな活躍の場へ引き寄せる活動が、ますます重要になっていると印象づけられた講演でした。

LIFE IS CREATIVE 展 2019〈高齢化が進む台湾の先進事例から学ぶ、連続トークセッション〉①についてはこちら
LIFE IS CREATIVE 展 2019〈高齢化が進む台湾の先進事例から学ぶ、連続トークセッション〉②についてはこちら
LIFE IS CREATIVE 展 2019〈高齢化が進む台湾の先進事例から学ぶ、連続トークセッション〉④についてはこちら
LIFE IS CREATIVE展2019についてはこちら
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photo:片山俊樹