NEWS NEWS

2016/4/27

イベントレポート

+クリエイティブ・ラボ キックオフ連続トークセッション 「新しいパンのはなし」第3回レポート

2016年3月22日(火)

新しいパンのはなしキックオフ連続レクチャー、最終回となる第3回を開催しました。ゲストは、この企画の発案者でもあるIDEO Tokyoの石川俊祐さんとAny Tokyoの田中雅人さんです。Any Tokyoについて、そして来年度に向け、新しいパンの考え方についてお話していただきました。

 
きっかけ|石川俊祐(IDEO Tokyo)
以前、永田さんとKIITOで何か教育をしたいと話している中で、何のための教育か、人が共感するものがあって、やさしい力があって、というキーワードがでました。何かをつくるプロセスを通して、育てることができないか、私たちも成長している過程なので、一緒に育っていけないかということで、パンの日常的な役割を再構築し、人の生活をより豊かに、幸せにすることをテーマに掲げました。
今日は、何ができたらいいのか、私たちが普段考えていること、Any Tokyoとは、どんな人たちがどんな思いでデザインをしているか話します。最後には、皆さんがあまり知らない、世の中の事例、こんなこととをしている人がいる、こんなにやさしいのにビジネスとして成り立っている人がいるなど紹介したいと思います。

Any Tokyoとは|田中雅人(Any Tokyo)
私は東京を中心に仕事をしていて、さまざまなデザインが集まるイベントを徳川家康の菩提寺である増上寺というところで行っています。デザインは、日本の文脈ではまだ家具や雑貨など装飾の意味として使われています。コミュニケーション自体をデザインする、社会をデザインするなどデザインの役割が変化している中で、まずは展覧会を入口にしてみようという試みです。いくつか展示した作品を紹介します。

1.職人の腕を重んじて、職人の技術を最新のテクノロジーでつくれないか、そんなことを先駆けて行っている人がいます。手でつくるのではなく、テクノロジーでつくる。手と同じ、またそれ以上に美しいものをつくっています。そのマシーンはすべて太陽光のエネルギーで動いており、職人の手仕事とは異なる美しい造形を生み出しています。彼らは、太陽エネルギーや職人技をリスペクトしながら、最新技術と合わせて新しい価値を家具に落とし込むことをしています。

2.世界を変えたデザインという本でも紹介されているパソコンです。勉強をしたくてもできない子どもに向けてつくられたデバイスで、アフリカの学校などで配られました。このパソコンは、「あなたの夢は何ですか?」「やりたい職業は何ですか?」というアプリケーションが入っており、自分のなりたいものをイメージしてからしかこのインターフェイスを使うことができません。何かゲームをやりたいとかではなく、自分が何になりたいかを考えてからスタートする仕掛けになっています。例えば医者になりたい場合は、数学が必要で、そのアプリが出てきます。子どもを自然に必要なアプリケーションに誘導し、自動にダウンロードもできます。これをデザインしたのはサンフランシスコのデザイナーです。

3.オランダのファッションデザイナーが3Dプリンターで300万円するオートクチュールドレスをつくりました。5年前ぐらい前です。パリコレでこのドレスがデビューしました。3Dプリンターでつくったドレスには、建築家が協力しています。ファッションのデザイナーではなく、建築的に物事を考えることが興味深いところです。1着300万円ぐらいするオートクチュールドレスをほぼ同じ値段で3Dプリンターでつくる新しい考え方です。このファッションはデータをUSBメモリーに入れることもでき、そのデータがあればどの国でも3Dプリンターでつくることができます。いろいろなジャンルの価値観が合わさって、建築もファッションも垣根がなくなってきています。

4.清涼飲料水のレッドブルが、一人の日本人をおったドキュメンタリーを作りました。彼は自分のつくったマイクで録音した自然の音だけで音楽をつくるミュージシャンで、世界で活躍しています。レッドブルは彼をDJとして注目しました。自分でつくったマイクで、誰も行ったことがないようなアフリカの大地や誰も聞いたことがない虫の音などを録り、それをミックスして音にします。ミュージシャンとして注目されていますが、もともとは建築家です。楽器のデザインもしている表現者です。彼のコンセプトを聞くと、聞く人が主役になる音楽をつくりたいと。音楽は自己表現ではないと思っているようです。

今日はなんども、「さまざま」や「いろいろ」といった言葉を使っていますが、Any Tokyoをなぜつくったのか、まとめとしてお話します。いろいろなプロダクトが、いろいろな要素を持って、いろいろな思考でつくられています。「家具だから家具の思考」ではなく、エネルギーの思考だったり、旧石器時代の思考だったり、社会問題などさまざまなアプローチから、人のためにつくられているものに興味があってAny Tokyoをつくりました。“Any”は「誰かのため」、「何かのため」、”Anything“、”Anyone“の「何か」、「誰か」のキーワードを共通の言葉としています。それ以外は何もありません。そこが特徴になっています。AnyはSomeだけでなく、”x”のような不思議な数値も含みます。ジャンルを定めず、またそれを超えていく…自分の考えるすべてをもって、誰かのため、何かのために生み出しているものであれば、それはきっと美しいと思う。その美しさを感じていただき、美しさから物事を考えて欲しいと思っています。

 
デザイン思考について|石川俊介(IDEO Tokyo)
私と永田さん、田中さんと雑談をする中で、何か気が合うと思ったことがきっかけで、ここにいます(笑)。ここからは実際に「新しいパンをつくる」プロジェクトに向け、具体的な話をしていきます。
IDEOの中で使っているツールの「DESIGN FOR LIFE」という考え方があります。私たちがデザインするものは、世の中に何かしらのインパクトを与えています。これを置いた時の周りのインパクト、次に生まれてくるものにインパクトがあったり、何かその中で志向性をもってデザインをしていかなければいけない。生き物から学ぶなどの考え方も大切です。例えば、文化人類学や人間学を専門とする人が、IDEOの社内でつくったツールを紹介すると、ここにはラッコの話が出てきます。ラッコはウニが大好きで、お腹でウニを割って食べています。そのことでウニの数のバランスがとれているが、ウニの数が多いと海の藻を食べすぎてしまい、魚の数が減ってしまう。私たちが何か新しいものをデザインするときも、どの範囲までインパクトを考えてデザインできるだろうか。より良いことが起きるところまで思考できているだろうか。やさしいイノベーターなどと言いましたが、デザインするときに何か美しい、おいしい、最高、最強…そのときにもう一歩進み、もしこれを出したらこういうことが起きるかもしれない、もしくは起きた方が良いかもしれない、そこまで考えるような人たちが増えると良いのではないか、というところからスタートします。

我々は「新しいパン」を考えていきます。どんなメソッドで行うのか、何かをつくる、何かを生み出すこと、つくる過程、失敗する過程が学びです。そこで何を学んだかを振り返ります。その中でデザイン思考のプロセスをきちんと使っていくのが良いと思います。このようなテクニックがある、このようにできる、このようにものを売っている、このように売り続けるなど。人は変わり続けているので、ニーズ、欲望なども変わり続けます。最近の人は、ものを待てない人に変化してきています。待ち時間が苦手、なぜならば全てのものが待たなくてもできるようになっているからです。昔に比べると忍耐力があまりありません。そこを捉えたうえで、どのように実現するか、人間のことをきちんと理解したところから始まらなければいけません。デザイン思考は人間から考える、いつも人を中心に考えるということです。改善というよりは、どちらかというと今ないものに重きを置き、生み出すアプローチです。例えば、馬がいる時代にお客さんにどんな馬が欲しいですかと尋ねると、速い馬が欲しい、乗りやすい馬が欲しいなどと答えます。それは自分の願望をあまり捉えきれていない回答です。「速い馬」とはどういうことかというと、A地点からB地点へできるだけ早く行けたらいいという表層的な洞察です。観察する力が今回の中では重要になります。何が大切なのか、本当にこの人は何がしたいのかを思考することです。馬ではなく車でいい、飛べるといい、もしくは行かなくてもいいこともあるかもしれません。そのような思考をすることは、1→100ではなく、0→1を生み出すことです。

デザインリサーチは、自分で幅広いリサーチを行い、データを集めていきます。そこから何かを集約することを「結晶化」といいます。結晶化とまとめることは異なるものです。そこで出たテーマに対して、アイデアを出し、考え、プロトタイプをつくります。その中でキーとなるツールで大事なポイントがあります。まずは観察する力です。人はインタビューされた時に、自分の無意識な行動を理解していないために、嘘をつくつもりがなくても嘘をついてしまいます。グループインタビューをすると、自分を少しいい風に見せようと思ってしまいます。そうなるとなかなか真実が見えてきません。自分が思っていることもきちんと説明できず、感じていることを言葉にできなかったりします。誰かがそれを見て、観察してあげることが必要です。共感することも大切で、相手の身になってみることで発見があります。

パンであれば、いつもパンを食べている人に聞くのではなく、全くパンを食べない人やパンが好きすぎて週に4-5回も食べる人など、エクストリームな人たちに聞く方が新しい学びがあります。また例になりますが、緊急治療の手術室について考えるときに、似て非なる環境みたいなところを探します。車のレースのピットに医者を連れて見学に行くなどします。1秒を争う環境の中でみんなが何をしているのかを単純に観察します。そうすることで面白い発見があります。道具を誤って落としてしまっても、無駄な時間がかからないように2本ずつ道具をもっているので、リカバリーが早いことや、ドライバーに話しかけるだけの人などもいます。異なるところへリサーチに行くことも大切だったりします。
最近ニュースにもなりましたが、世の中の食べ物がどれくらいゴミになっているか知っていますか。だいたい1/3がゴミとして捨てられていると言われています。そこで、世界ではじめて賞味期限切れの食べ物を安く買い取って販売するスーパーマーケットがデンマークでつくられました。彼らだけが行うのではなく、それに参加するスーパーマーケットなどと提携し、ネットワークが広がっています。販売価格は通常の1/3程度です。賞味期限が切れているだけなので、問題なくおいしく食べることができる仕組みです。無駄がなくてお店も繁盛しています。

KIITOで行っている「神戸PANPO」という企画はとてもおもしろいです。パン屋さんをめぐるアイデアやマップづくりなどはつくるのはどこでもできそうであるが、いろいろなパン屋さんを回れるように、食べ歩きしやすい小さいパンをつくっているところが特に良いと思います。開発の部分まで少し踏み込んでいることがなかなかできないことだと思います。
私が大切にしていることですが、しゃべらずにつくってしまう、考えて思いついたら、完璧ではなくてもつくってしまう。外に出てアイデアを人に聞いてみよう、失敗してもいい、そんな場にしたいです。

 
質疑応答
会場:観察をして、真の課題は何かを見つけるフェーズと、その課題からアイデアを発散、収束させるのは、どちらに時間がかかりますか。
石川:悩む時間がかかるのは収束です。1人で収束することはないですが、チームの場合、4人いたら4人で収束するので、それが大切です。多様性のある人たちの視点が、収束されていく際に、一人よがりではない、世の中のためになるものになります。収束していくなかで重要なのことは、共感できるかです。リサーチを行ったチームは、数字とか関係なく、共感ができています。私たちは自分の中に情報を溜めることはなく、みんなの目に入るように壁に全部張り出します。そうすることで、自然と頭の中に重要なポイントが入ってきます。リサーチを行ってすぐに大事だと思ったことを3つだけ共有します。すぐなので直観で覚えていることしか言いません。時間が経ってからだとたくさん出てしまい、何が重要なのか分かなくなってしまいます。

会場:私は大学でまちづくりを学んでいます。そこで悩んでいるのが、地域らしさをどう出すのかです。
地域らしさを探る中で、フィールドワークをどのように進めたらいいのでしょうか。収束の仕方も知りたいです。
永田:地域にあるリソースを観察して、どうとらえていくかが大切です。地場のモノだけでなく、そこにいる料理人などとつながって見えてくる地域らしさもあります。それらをどのように感じ取るかが重要だと思います。私の感覚では、地域らしさというものはたくさんあると思います。すべてを扱うのではなく、どこをくみ取って、生かしていくのかが重要です。

会場:全体のプロセスの流れの中で、重要な所、神経を使うところはどこですか、またその理由も知りたいです。
石川:統計でも出ていますが、重要なのは、プロジェクトの最初の週だったりします。面白いアイデアは1週目、2週目あたりに出ます。学べば学ぶほど、頭がクリエイティブではなくなっていきます(笑)。制約とか、これが大切かもしれない、マーケットってこうなのかもしれない、人ってこうなのかもしれない、学ぶほどに発想力と反比例していきます。1週目に出たアイデアを壁に貼ることにしています。それをサクリファイスコンセプトといい、犠牲になっても良いアイデアを出します。大きな割合で、それが生き残るケースが多いです。そして神経を使うのは、収束の部分です。何が重要で、解くべき問なのかを決めなければいけないので、大変です。通常3カ月間のプロジェクトの中で2週間をそこに費やします。みんなで壁に向かって考えるだけの時間です。

まとめ|永田宏和(デザイン・クリエイティブセンター神戸)
3回シリーズはとても刺激的で、頭がはち切れそうです。石川さんからもご案内いただきましたが、これで終わりではありません。ここからが本格的なスタートになります。次年度には「(仮)新しいパンをつくる」ラボを始めます。ゲストの皆さんにもご協力いただき、考えるだけでなく、実際につくるところまでトライアルしたいと思います。KIITOとしても初めての試みですが、とても楽しみにしているプロジェクトです。神戸から新しい何かを生み出していきたいと思います。

+クリエイティブ・ラボ キックオフ連続トークセッション 「新しいパンのはなし」
開催概要はこちら