2015/10/25
イベントレポート
2015年10月18日(日)
誠光社(元恵文社一乗寺店店長)の堀部篤史さんをお招きし、シニアをテーマにした本を題材に、トークイベントを開催しました。トークでは、実際に本を手にしながら、物語の中でのシニアの描かれ方やライフスタイルなどを、写真や映像をまじえながら紹介。一冊の本からその他の文化へと広がる、読書の愉しみを知る時間を、参加者のみなさまと共有しました。
今回、堀部さんにご紹介いただいた本は、トーク会場となったLIFE IS CREATIVE展のシニアメディアラボ内、「プロの書店員が選ぶ65歳からの一冊」で堀部さんに選書いただき、展示していた本です。
選書には、今回のトークの講師である誠光社の堀部さんをはじめ、他にも京都から、ホホホ座の山下賢一さん、善行堂の山本善行さん、大阪からスタンダードブックストアの中川和彦さん、そして地元神戸から、ジュンク堂三宮店の朝野道則さん、ポレポレ書舗の今野雅彦さん、Fabulous OLD BOOKの村田智さんにご協力いただき、魅力的なシニアが登場する本や、晩年に魅力を増した作家の本など、さまざまな切り口で5冊ずつ本を選び、ご紹介いただきました。(各書店員さんの選書内容はこちら)
今回、堀部さんには選書していただいた5冊の他にも、たくさんの本を、さまざまなエピソードとともに紹介していただきました。小説や文学の話はもちろん、芸術やアール・ブリュット、漫画や映画など、さまざまな切り口でシニアに関する本の紹介をしていただく中、堀部さんからは「老人力」という表現が頻繁に出てきていました。
「老人力」とは、もともとは現代美術家の赤瀬川原平氏の著書で、90年代後半にベストセラーとなった本のタイトルであり、物忘れやため息、独り言など、年をとるに連れ増えてくることを、普通は減退、低下と捉えますが、赤瀬川氏はそれに「老人力」と名付け、些細な事を気にせず、大らかであるという一つの魅力に置き換えたのだといいます。
メディアは、若々しさや美しい青春といったイメージを頻繁にとりあげ、シニアに焦点があてられたものはあまり多くは見られないが、歳を取り、感覚が鈍くなっていくということは、消して悲観することではなく、とても重要なことだといえるのではないか。
若い頃は、繊細で傷つきやすく、恋愛や自己実現にとらわれ殻に閉じこもったり、自分自身が家庭や地域のコミュニティの一員であることがつまらなく感じたりする。
それは、年を取り敏感さを摩耗していかなくては、辛いことなのかもしれない。鈍くなるということは、家庭や暮らしを守るためのコツであり、大切な能力なのではないかとお話していただきました。
また、その鈍さを持つことに寄って、脇目もふらず自分の趣味に没頭できたり、作為の無い純粋な作品を生み出すことができたり、人生に新たな広がりをもたらすことが多くあるのではないかとのことでした。
今回、堀部さんが紹介してくださった、高齢を迎えて新たにジャズ音楽に目覚めた植草甚一氏のお話や、ミステリー小説に登場する若者の暴力に対峙する老人の姿、ロンドンから一歩も外に出たことのない1人の高齢男性の日常を追った写真集など、多様なシニアの生き方、描かれ方を、本を通して覗き見ることで、自分自身がなりたいシニア像や、これからの年の重ね方を考える、一つのきっかけとなるイベントとなったのではないでしょうか。
LIFE IS CREATIVE展 「トーク・アラウンド・ザ・ブックス」
http://kiito.jp/schedule/lecture/article/14338/
LIFE IS CREATIVE展 高齢社会における、人生のつくり方。
http://kiito.jp/schedule/exhibition/article/13681/