NEWS NEWS

2015/12/8

イベントレポート

+クリエイティブゼミ vol.18 まちづくり編 これからの公園のあり方について考える part.2「公園×健康」 第3回レポート

2015年12月1日(火)

+クリエイティブゼミ vol.18 まちづくり編 これからの公園のあり方について考える part.2「公園×健康」第3回目は、公益財団法人 日本レクリエーション協会より佐藤健氏を講師としてお招きし、レクチャーを行いました。
高齢化に伴い、健康であることの重要性がこれまで以上に認識され、スポーツが果たす役割に期待が高まっています。そんな背景にあって、スポーツ習慣の普及や、スポーツを通じたいきがいやコミュニティ形成に向けて取り組まれている様々な事例についてお話していただきました。

佐藤氏の講義は、まず拍手から始まりました。
講師が「せーの」と言ったら一度拍手をします。せーの、パン、せーの、パン。これは簡単。
次は「せーの」の後の拍手の数を増やしていく。せーの、パン、せーの、パンパン、せーの、パンパンパン…。
高齢の方を相手によくこのゲームをしていますが、手拍子をするだけでも運動になる。今、数を数えること、手を叩くことを同時にやりましたが、同時に複数の動作をすることが脳にもよく、認知機能の向上にも繋がると言われています。

次に、膨らませた風船を2個用意。風船を落とさないように、ポンポンと上にトスしてみます。次に簡単な足し算をしながら、その動作を続けます。講師が出した問題に答えながら風船をトスし続けます。
「4+2は?」「3+1は?」「12+3は?」…
問題を少しずつ難しくしていきます。「7-2は」「15-7」「13+19」…
ボールを突きながら計算をする、というような2つ以上の動作を同時に行うことを「デュアルタスク」といい、こういったゲームをすることで、楽しみながら認知症の方の機能向上につながると言われています。

 
夢中になる瞬間「フロー」状態
人が何かのタスクを遂行する時、簡単過ぎると退屈してしまい、難し過ぎても不安を感じたり、投げ出したくなってしまう。その人にとって簡単過ぎず、難し過ぎない状態だと夢中になって楽しめる。そのちょうどいい中間地点のことを「フロー」状態という。
何かに夢中になっている時、人は思い煩っていたことから解放される。同じ事をずっと考え続けるのではなく、思い出す「対象」にしてしまい、忘れた後にもう一度思い出すことで、ポジティブな効果があるといわれている。
「夢中になる瞬間」であるフロー状態ををどうやって作りだすかがとても重要で、それを意図的に作り出すのにスポーツは適している。
「運動」といえば、野球やサッカーなど、勝つために激しいトレーニングを積むスポーツを思い浮かべるかもしれないが、自ら体を動かし、楽しむことが重要なレクリエーションとしてのスポーツについて、今日はお話したい。

日本レクリエーション協会とは
日本レクリエーション協会は、1947年に誕生、約70年の歴史を持っている。各?都道府県や市町村にもレクリエーション協会がある。日本に新しく入ってきたニュースポーツの種目団体も加盟し、行政や国と連携しながらレクリエーションの普及に取り組んでいる。

1985年頃から子供の体力低下が指摘されている。TVゲームが普及し、集団遊びが減少した。それが今の20・30代に当たり、現在の成人の中で一番運動をしていない世代と言われている。協会では、スポーツを通じた街コンなど、若年世代への啓発事業を行っている。
一般に65歳を過ぎると「高齢者」と呼ばれるが、今の65歳は高齢者と呼べないくらい若い。「高齢者の新人類」という意味で「ニューエルダー」と呼んでいるが、これまでのイメージとは違い、年齢にかかわらず自由に格好よくありたいという意識を持つ人が多い。ニューエルダーを対象に、夫婦で一緒に健康づくりをするプログラムなどを開催している。
スポーツを通じて、体だけでなく、頭と心の健康づくりを推進している。

スポーツを通じた健康づくりの必要性と背景
高齢者の割合が人口の7%で「高齢化社会」、14%で「高齢社会」と呼ばれるが、日本は2015年で65歳以上が26.8%の超高齢社会となっている。2055年には4割になると予測されている。我々は、いわば世界の最先端の高齢社会に生きていて、その中でどう生きるかを考えなければいけない。
日本は世界に名立たる長寿国だが、平均寿命と自立して生きられる期間「健康寿命」の差が男女とも約10歳の開きがある。いかにこの差を縮めていくかが重要になる。

医療費は増加しており、国家予算の一般会計の歳出の約4割を占める。そのうち約半数が70歳以上の医療費に使われている。
一人暮らしの高齢者が増え続けており、1980年と比較して2010年には女性で約2倍、男性では約3倍に増えている。最近、孤独死が問題になっているが、地域との繋がりがどんどん減ってしまっているのではないか。
16~64歳の生産年齢人口(高齢者を支える世代の人数)は現在では約2.7人で1人の高齢者を支えているが、2050年には1.3人で1人を支えないといけない。高齢者は支えられるだけでなく、自分で自分を支えなければいけなくなり、そのためには健康で元気であることが大切になる。

要支援・要介護の状態にある人も2000年に比べ、2倍以上に増加している。
高齢になると身体能力が低下するが、特に下肢の筋力は低下しやすい。要介護の状態になる原因として、骨・筋肉・関節などの運動器疾患も多い。
現在の介護予防の考え方では、健康でもなく、要介護でもない虚弱な状態「フレイル」から健康な状態に戻ることが目指されている。フレイル状態にあると、健康な高齢者に比べ、軽度の疾患が要介護状態へと繋がりやすく、回復にも時間がかかるからだ。

高血糖、高血圧・脂質異常のうち、2つ以上併せ持った状態を「メタボリックシンドローム」というが、運動することでメタボリックドミノ(徐々に深刻な状態に進行していくプロセス)の進行を抑制することができる。
また、運動によって認知機能の向上や気分の改善、自尊心の向上、ストレスからの気晴らしなど様々な効果が見込める。要介護状態の多くが運動で予防可能だと言える。
 

 
「ニューエルダー」施策の課題
国の「スポーツ基本計画」の中ではライフステージに応じたスポーツ活動が推進され、製作目標としてスポーツ実施率の目標値が定められている。
「競う」よりも楽しく交流するスポーツが求められている。社会参加と要介護状態には因果関係があるが、スポーツをする人ほど近所づきあいも多いという調査報告がある。スポーツを通じた生きがいづくりが我々の課題である。

日本レクリエーション協会は、普段スポーツに縁のない方々に来てほしいとイベントを開催しているが、実際に参加されるのは普段からスポーツをしている人がほとんど。そして女性に比べ、男性の参加者は圧倒的に少ない。
まず自分の体に関心を持ってもらうことが重要。「体重増えましたか?」「姿勢が悪くなっていませんか?」など、身近な、人々の関心の高い話題から入り、肺機能や筋力などのチェックを行う。ストローで何秒ティッシュを吸い続けられるかなど、楽しみながらできる方法で測定してもらっている。

公園を活用した健康づくりの取組み
身近に、定期的・継続的にスポーツ・レクリエーションを楽しむ場が必要。いわゆるスポーツ施設ではなくても、公園や学校、お寺など、身近にある場所を使うこともできる。楽しくてためになる、新しい交流のための開かれた場所、ライフスタイルの創出が必要。
その点で公園は、①オープンエアーである(誰でも入れる、目につく)、②太陽の下で気持ちよく過ごせる、③身近である、などの条件を備えており、レクリエーションに適している。

我々は「スポーツピクニック」をキーワードに、「公園スポーツ」という高齢者の新しい新ライフスタイルを提案している。
公園スポーツの象徴的なスマートスポーツは、薪を投げ合って遊ぶ「KUBB(クッブ)」というスウェーデン生まれのスポーツ。KUBBは身体感度を高め、人々のコミュニケーションを深める。
また、公園という身近な場所を使って過ごすライフスタイルの提案も行っている。
 

 
質疑応答
Q.閉じこもりがちな、あまり活動的でない方に参加してもらうために、イベントのことを知ってもらう方法は?
完全に閉じこもってしまっている人に参加してもらうのは難しいので、まずは以前から興味があったがきっかけがなかった、というような比較的活動しやすい人を対象にしている。
また、「誰から誘われたか」ということも重要な要素なので、主催する側は様々なネットワークを張り巡らせることが大事。
あとはメッセージの出し方。それぞれの人の生活スタイルや行動習慣を考え、アピールする方法を考える。

Q.世代を通じたレクリエーションにはどんな形があるのか?
料理や伝承遊びなど、高齢者のもつ知識が蔑ろにされがちな現代において、高齢者に講師になってもらい、子ども達に教えるという高齢者がいきいきするような場を設定したり、家族で地域の文化や歴史を学ぶウォークラリーなど、いろんな形が考えられるのではないか。
ただ、世代が違えば生活スタイルの違いもあり、定期的な継続は難しく、月一回程度開催しているものが多いように思う。

Q.(スポーツピクニックの映像を見て)公園の基礎的なインフラとしては芝生だけでいいのではないかと思うくらいだが、その他に何か必要なものは。
環境が「アフォードする」というが、環境が何かを「やりたくさせる」ことがある。「芝生」も「スポーツ」もその一要因となると思う。大きな設備だけでなく、ちょっとした工夫で環境を作ることができるのではないか。

Q.今までスポーツになじみのなかった人にとって、まず必要なのは「仲間」ではないか。仲間を作るノウハウを伝えたり、仕掛けをすることが必要なのでは。
仲間がおらず、情報が不足していることがスポーツをしない理由の上位にくる。我々の役割として、情報を収集することと、それを届ける中間的な役割の2つがある。

質問は止まず、手が挙がり続けました。
幅広い世代の交流を生み出すには何が必要か、いかに関心のなかった人々を巻き込んでいくかなど、今回のゼミの対象公園でのアクションプランに繋がる、具体的かつ普遍的な問いが発されていたように思います。

レクチャー後の10分程度、各班でそれぞれがリサーチした内容を共有し、3回目のゼミは終了しました。
我々に切実に迫る「健康」問題の背景を共有し、それに対する取り組み事例について知ることで、ゼミのテーマに対する思考が深まったのではないでしょうか。

初回から知識や考え方などインプットの回が続きましたが、次回からいよいよ、本格的にディスカッションがスタートします。
 
+クリエイティブゼミ vol.18 まちづくり編 これからの公園のあり方について考える part.2「公園×健康」
http://kiito.jp/schedule/seminar/article/14882/